餡蜜(あんみつ)
カンナとでっち
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
カナヅチ愛でるイケメン見習い大工あらわる!!! しかも今日から同居!? ――カンナの家は工務店で、父は町の大工さん。ある日、カンナと同い年の見習い大工・勝仁(かつひと)が、父のもとで大工修業することになって!? 知らない男の子といっしょに住むなんて……この先どうしたらいいの!!? イケメン職人男子とのドキドキ同居ラブストーリー!
簡潔完結感想文
- 同居モノ × 職業男子という別冊フレンド最強のシチュエーションで開幕。
- 読切 → 短期連載だったからか、葛藤もなく一分の一で恋の相手を選んでいる。
- 互いのルーツとなる家を訪問し、早くも結婚エンドの気配が漂い始める。
長期連載になったことでヒーローが見事に一人前になれた作品の 1巻。
本書は雑誌「別冊フレンド(別フレ)」で読切短編が掲載され、好評につき短期 → 定期連載と白泉社作品のような出世魚の流れを掴み取った作品である。「別フレ」らしい同居モノ × 職業男子という最高のシチュエーション重視の作品に仕上がっている。雑誌読者の琴線に触れるのは当然と言えよう。この連載の設定は大工の父を持つ作者の背景を知った編集者の お手柄である。
そして結果的に全7巻の長期連載になり、その分 作中時間が流れ一人前の大工を目指すヒーロー・勝仁(かつひと)の成長が描ける余裕が生まれた。勝仁こと「かっちゃん」を一人前にしたのは読者の お陰とも言えるのではないか。
ただし読切短編の後も短期連載の予定だったみたいで、その後の展開は手探り状態で停滞しているとも言える。明言されていないが、短期連載は「別フレ」の恒例から言えば+8話分であろう。実際8話(話数で言えば9話)で一度話が終わっているように見える。
そこからは若い男女のカップルと、それを監視する父親とのコメディ色が強い内容になっていて、厳しい言葉を使えば、読者に飽きられるまで同じ展開が こすられ続ける。恋愛の距離感も変わらないし、若い彼らの成長を丹念に追っている訳でもない。特にヒロイン・カンナ側の将来設計や自己実現などは一切 語られることがなかった。恋愛から視野を広げた話が少ないのが残念だ。
これは どこまで描けるか作者自身にも見通せない連載の継続だったのが原因であろう。本書では登場人物たちの描き込まれていない部分が多く、ヒロインたちの行動が一直線で全く葛藤が無く見えてしまうのが惜しい部分となる。
例えばヒロインのカンナは自分の親の仕事(大工)に対する意見を表明しない。自分が この家を継ぐことに関しても考えは明かされず、大工になろうと考えたことがあるのかないのか、なぜ最初から彼女は大工を目指さないように描かれているのか、など気になる部分が たくさんある。そして新参者である勝仁にも自分の跡取りとしての立場が奪われる恐れなどが全くなく、ただ恋の相手としてしか見ていない。後半に進むほどカンナは ちょっと恋愛脳が過ぎて、2人の将来設計に甘さを感じる。
また1人っ子のカンナが同じ年の男性が家にいる違和感なども描かれてない。3人家族だった この家に人が1人増え、それも男慣れしていないカンナにとっては未知の生物である同年代の男性というシチュエーションも あっという間に受け入れているように見える。勝仁自身への戸惑いはあるものの、あっという間に ずっと暮らしていた姉弟または兄妹のような空気を醸し出していて、もう少しシチュエーションを大事にした展開にして欲しかったところ。あまり同じ家にいる感覚が感じられない。
恋愛面においても、普通科に通うカンナの学校には男子生徒もいるはずだが誰一人登場することなく、カンナの周囲の同年代の男は勝仁だけである。この辺は恋愛が始まるという結論ありきの設定で世界の狭さを感じる。読切で ある程度の方向性を示さなければならないのだから駆け足になってしまうのは分かるが、父と同じ大工という職業に惹かれているだけにも見えてしまった。最初から相思相愛で、あっという間に惹かれ合って読者の方が彼らの気持ちに追いつけないような状況となる。両想いになるまでを丁寧に描くよりも、交際 即 親バレ必至なドキドキの恋愛模様が重視される。この辺は読者が どの要素を少女漫画に求めるか、という部分である。「別フレ」読者は設定重視だから それに即しているのだろう。
そして勝仁も親方の娘であるカンナに近づくことへ躊躇がない。人懐っこく誰にも愛される性格だとは思うが、身寄りのない彼が10年来の夢を叶えに この家に来たのに、遠慮が無さすぎるように思う。また彼には空白の人生があり、どうして このタイミングで大工になったのか、どうして施設を出る必要があったのか、どうして通っていた定時制高校の寮を出たのか、など疑問が多い。おそらく1話はカンナたちが高校2年生の夏頃であるのだが、その中途半端さが気になる。
それもこれも「同居モノ」を成立させるためなのは明白だが、連載も継続したのなら彼の人生に厚みを加えて欲しかった。明るいコメディで安心して読めるのだが、何だか能天気にも見えて、若さゆえの一直線な生き方が危うく見える。
ただ勝仁にナルシストな所が ほとんどないのは好感が持てる。人生の目標があって、先を目指している男性は、少女漫画ヒーローの作られた格好つけ とは無縁なのだろう。描写がなくても、同じ年の男子生徒たちに比べて一足先に自分の夢の実現のために社会の中で揉まれる勝仁は特別に見えるのも分かる。
大きな設定はシチュエーション重視だが、胸キュンのために突然キスをしたり、キザな言葉を吐いたりしないで、ただただ真っ直ぐな言葉を使う勝仁は内面からの輝きを感じた。
小田原(おだわら)工務店の1人娘・小田原カンナの家に、同じ年の相場 勝仁(あいば かつひと)が住み込みで大工修業を始めることになった。
大工の仕事が好きで、大工道具たちを溺愛する勝仁はカンナとの距離をグイグイ縮める。といっても恋愛的に手が早いのではなく、彼は人との距離感の取り方が抜群に上手い。
そんな明るい勝仁が厳しい世界でも踏ん張って一人前になろうとする姿にカンナは目を奪われ始める。結局、カンナはファザコンな部分もあるんだろう。自分の育った環境と同じ匂いを漂わす彼に惹かれるのは必定といえる。勝仁の次に またイケメン男性が住み込みで働き共同生活になったりしたらカンナは またトキメくのではないだろうか…(そんな展開はないが)。
勝仁は幼い頃に出会ったカンナの父の大工仕事に憧れ、そのまま大工を目指し、彼の下で修業することを選んだ。高校生になった勝仁がカンナの父親を探し出し、同居することになるまでを描いたエピソードゼロ的な話も描いて欲しかったなぁ。上述の通り、勝仁の人生は色々とすっ飛ばしている部分があるから、そこを埋めるべく疑問を解消していけば話も一本調子にならなかったのではないか。
ある日、突然、降ってきた雨にカンナは勝仁に傘を持っていくことを決めた。この時、なぜか親方は勝仁と一緒にいない。同じ家から出発し、同じ現場に行き、別々に帰る理由は描かれない。全ては設定が優先されるのが「別フレ」である。
愛する道具を自分の服で雨から守って、勝仁は濡れていた。そんな仕事にかける情熱もカンナは眩しい。手の塞がった勝仁のためにカンナは自分の傘で相合傘をして帰宅する。
だが翌日の夜から勝仁は高熱を出してしまう。その人の体調の悪さを気づくのは、その人の様子を一番に見ている人で、親方ではなく、カンナの役割となる。これは2人の愛情の質の違いか。
それでも現場に出ようとする勝仁をカンナは看病する。施設で育った勝仁は風邪の時、隔離されて孤独と寂しさを深めたことを知り、カンナは彼が眠るまでずっと傍にいる。そしてカンナも寝てしまい、翌朝 寝ぼけた勝仁に抱かれるような状態を父に見られてしまい大ピンチという お決まりの展開になる。話のオチにカンナの父が使われるのは今後も たびたび(飽きるほど)見られる展開で、2話目にして その雛型が完成したと言える。
小田原工務店で勝仁が育った施設の遊具を作ることになった。カンナは、寝坊した母の頼みで お弁当を届けることになる(母が責任とれよ)。
ここでは勝仁を育てた施設の職員たちがいて、彼の身内のような存在の人々へカンナは挨拶する。ここで勝仁以外から彼の過去を聞かせてもらい、彼にとって本当に大工が自分の人生の支えだということがカンナにも分かった。少女漫画的には彼の家族への挨拶 ≒ 婚約であり、それが早くも3話で成立したと言える。
そして勝仁が大事にする幼い頃にカンナの父から贈られた積み木を重ねたような家には そんな彼の大工になる夢が詰まっていた。その由来も想いも知らないままカンナは その家をバカにしたことを泣いて謝る。そういう素直な性格のカンナに勝仁は惹かれていくのだろう。
この回で、扱いの難しい大工道具の鉋(かんな)は使いこなせるまで2~3年はかかるという話が出てくるが、これは恋の方も同じだろうか。連載の継続が決定した後はリアルタイムに時間が進んで、2年後に勝仁が一人前になるような展開も面白かったかもしれない。
だが完成した遊具で施設の子が怪我をしてしまう。設計が甘かったために自分の後輩である子供に怪我をさせたことを勝仁は落ち込む。そんな勝仁をカンナは励ます。早くも夫婦のような二人三脚の動きが見られる。
年の瀬になり、カンナは例年通り大工だった祖父の家に行く。そこに勝仁も同行するが、祖父から開口一番「だらしのない髪」を注意される。人に愛される勝仁が第一印象が悪かったのは祖父ぐらいではないか。
立腹の祖父は勝仁の坊主をかけ、玄関のスロープ作りを命じる。だが祖父は道具を提供する際、勝仁の大工道具へのリスペクトの気持ちを感じ取り、早くも彼への態度を軟化させる。
勝仁が作業をする横で、カンナも この家の飼い猫のために日曜大工を始める。これが2人の共同作業となり、手取り足取り指導されることで勝仁と身体が密着する。カンナは作者と同じように大工の父の仕事に興味がなく、簡単な大工仕事もやったことがないようだ。その割に ここのところ ずっと父の作業現場(=勝仁の居る所)に顔を出すのは、勝仁が気になって仕方がないからだろうか。
勝仁の丁寧な仕事っぷりは祖父も認める所になり、彼は坊主を免れる。
色々あった その夜、12月の寒空の中、縁側で眠るカンナ(死んでしまう…)。そこに寄り添った勝仁だったが、飼い猫のイタズラで体勢を崩した2人はキスをしてしまい…⁉