《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

5人のイケメンを選別するのはヒロインではなく作者。お気に入り以外は不遇。

めるぷり メルヘン☆プリンス 4 (花とゆめコミックス)
樋野 まつり(ひの まつり)
めるぷり メルヘン☆プリンス
第04巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

アラムの愛理への想い&記憶を取り戻すために、愛理は『廃屋』と呼ばれる城館に乗り込む!! そんな彼女が気にかかり救出に向かうアラム…果たして愛理はラズの妨害をはね除けて、二人の絆を回復できるのか!? 描き下ろしも満載の最終巻!!

簡潔完結感想文

  • 奪われた記憶を取り戻す最終回のような展開。メルヘンは結婚がゴール。
  • 魔法学院&花嫁修業編。魔法学院の劣等生だが王子が専属エスコート。
  • 現実世界との折り合いなど細かいことは割愛。作者が好きなもので編む世界。

も「虚しい事の意味… 初めてわかったのよ」、の 最終4巻。

絵は うっとりするほど華美、1ページは目に痛いほど美しいもので溢れている。
だが、中身が伴わない。
舞台の一つである魔法王国の必要のない設定ばかりを考える暇があったら、
作者には連載を面白く続けるプロットを磨き上げて欲しかった。

『2巻』から ずっと、結婚、結婚、結婚、それだけ。

『前作』もそうであったが、一見 カッコいいが、基本的に出オチ漫画だし、
読者の感情に訴えかけるところが全くない作品だと思い知った。

最後までヒロインはヒーローに支えてもらうしか能がなく、
そしてヒーローは7歳だから説得力がない。

私には どうしても このカップルが周囲に迷惑をかけているとしか思えなかった。

愛のために魔法王国を去ったヒロイン・愛理(あいり)の先祖同様、
今度は その子孫が魔法王国の中枢に入り込むために、魔法王国の秩序を乱す。

愛に生きることは この一族に共通するところだが、
愛する人がいれば自分が引き起こす問題は考慮しないというのも、どうしようない一族の方向性だ。


して彼らの恋愛が奪略愛であることも気になる。

現実世界の適齢期の人間に即して考えるのならば、
出張中に出会った年上の女性に魅了されて、結婚を約束して、
地元に残してきた婚約者には一方的に婚約の破棄をさせている。

私が最も不快なのは、彼らが その事態に対して向き合わないことだ。
7歳の少年・アラムの一途な情熱として物事をすり替えているが、
愛理は15歳で、彼女は7歳の少女から最愛の人を奪った。

本書には その非礼に対する謝罪も贖罪も全くない。
徹頭徹尾、彼らは愛に生きた、読者が憧れるべき人だとして描かれる。

作者は これが真実の愛だと疑わないのだろう。
キャラも作者も近視眼的な物の見方で、自分の好きを追及しているだけなのに。
どちらにも もう少し広い視野を持って生きて欲しい。

ヒロインが幾多の困難を乗り越えるのが少女漫画の醍醐味だが、
本書の愛理は自分で何かを開拓したことの方が少ない。

だから7歳の少年が慣例や約束を無視して、
それらの上に新しい誓約を塗り替えているだけに見えてしまう。

作品的にはアラムの兄・ジェイルこそ迷惑の根源として描かれているが、
どちらかというと甘やかされて育った次男のアラムの方が、
ワガママ放題に自分のしたいことだけをしているように見える。

少し視点を変えるだけでキャラと作品と欠点ばかりが目立つ。
それを無視して、綺麗な世界を創り上げようとするから、世界が薄っぺらくなるのではないか。

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最後まで成長しない愛理は7歳の少年に すがるしか出来ない。内弁慶丸出しで恥ずかしい。

盤で乙女ゲームかと見間違えるほど5人のイケメンが1か所に集合した本書。
だが、5人のイケメンの扱いには濃淡がある。

作者のお気に入りは兄・ジェイルだろう。
序盤はトラブルメーカーで話が膨らませやすかったのだろうが、
中盤以降は、出てこないでいい場面にまで出番があり、最後には権力を握るという恩寵まで受けている。

ヒロイン・愛理が結婚してもいいと思った仲央路(なかおうじ)は、
作品の舞台が学校から遠ざかったら冷遇される。
私は彼に登場する場面をもっと見たかったので、これは悲しかった。
学校に5人の王子様が集合したなら、5人の個人回で話を作れば良かったのに。
この辺から作者は あまり長期連載を望んでいないのかな、と推測するが、
連載は展開ばかりが急で、誰にも愛着が湧かなかった。

愛理と因縁のあるラズは役目を終えたら自分から物語の外に出ていった。
登場した時には愛理が婚姻の誓約を結んでいたからか、
彼がアラムと恋愛バトルをする心意気もなく、恋心は使い捨てられた。
仲央路といい、恋愛問題が一直線すぎて単調になってしまった。

レイは幽霊のような扱い。
時に愛理の身代わりとして現実世界に拘束され、
時にアラムのためだとかいって彼の記憶を奪う手伝いをする。
彼に双子の姉がいるとか、彼には想い人がいるとか、
後付けのような設定にまみれた。
彼が暴走するカップルに毒舌を浴びせ続けてくれれば、
物語に もう少し正しい倫理観が持てたかもしれない。


ラムの記憶の奪還がクライマックスです。
『2巻』の婚姻の成立と同じく最終回と勘違いする内容です。
作者は結婚によるハッピーエンドを最終回に持っていきたかったようだが、
その前にクライマックスがあるから、熱狂の度合いは下降線をたどっている。

ここでも愛理は、アラムの記憶の箱が安置されている塔に入っただけで何もしない。
アラム(そして作者のお気に入りジェイル)を活躍させてしまって、
愛理が自分で何かを達成する場面を奪ってしまった。
この後に愛理本人も言っているが、彼女の取り得って「空回りの根性」ぐらいしかない。

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後半のジェイルは無駄に活躍。そしてアラム。一度ぐらい勝手な婚約破棄を謝ろうか。

ピークアウトしても物語は続き、魔法学院編に突入する。
これは愛理の花嫁修業も兼ねているのだろう。

そこで愛理は「魔法学院の劣等生」となる。
愛理が ここで学ぶのは後学のため。
これはアラムが愛理の学校に編入したのとは逆ですね。
この国の王子って暇なの?
ってか、アラムも学ぶことはないの?とツッコみたくなる。

どうやら この学校は「魔法を代々受け継ぐ貴族だけ」しか通う資格がない。
白泉社特有の特権階級漫画が始まったようです。
そしてヒロインだけが その資格から少し外れているのも白泉社の様式美ですね。

ただ、現実の学校といい魔法学院といい、
愛理がアラムに守られるだけのワンパターンしか描けないので、
魔法学院編も さっさと終わる。

舞台がコロコロと移り変わり、
現実世界でのアラムの勉強も中途半端に投げ出しているように見えてしまう。

展開の早さと、読者の満足度は別の基準である。
その展開の早さが味気なさに変換されてしまう。

作者にとっては愛理の経験全てが結婚に繋がっているのかもしれないが、
その結婚に何の説得力も感じられないのが本書の欠点だろう。
もう少し愛理の心理を深掘りして、
彼女の意識の変化を如実に表す数々のエピソードを描き込むべきだったのではないか。


書の全ては結婚を成立するためにあるようで、その準備を整える。

愛理が再び大衆の前に立つ。

しかし愛理人々に向かって自分の口から、この国では嫌われている祖先の名を出したはいいが、
その名を聞いて非難の言葉を耳にすると、愛理は恐怖で身がすくむ。
それを優しく包容するのはアラム。
本当に独力で何もしませんね、愛理という人は。
いつから こんな弱い人になってしまったのでしょうか。

そこで2人は結婚の宣誓をする。
が、大衆の前に出るのは2回目で、1回目と ほぼ同じ舞台設定だから既視感しかない。
どちらも式典の内容を変更させているし、
アラムの独断で王族の未来は決まってしまった。
つくづくヒーローが7歳という設定が邪魔にしかなっていない。
王族が尊敬されていたとしても7歳の少年のワガママを周囲が許容する状況は異常だ。
最初にも書いたが、こういう常識的な観点が本書には欠けている。


うして正式な結婚という運びになって出てくるのが、義母。
一風変わった恋の邪魔者としての登場でしょうか。

彼女が愛理に与える試練も、恋愛脳の愛理の祖先が呼応して あっけなく終了。

「大好きな人を追いかけたかった必死な気持ちに後悔なんて無い!」
うん、周囲の迷惑を一切考えない君たち一族なら、そう思えるだろうね…。

祖先にとって愛する人を追うことは、自分も辿ってきた道だが、
子孫が魔法王国に戻る祖先の気持ちはどうなんだろうか。
精神論(主に恋愛脳)ばかりで、異文化・異世界に踏み出す勇気や恐怖は一切 語られない。


終回の1回前は、連載内で収まりきらなかった設定を大放出したオムニバス形式。
これは連載が終わってしまうから急いで描きたかったことを描いたのか、
それとも作者は長期連載をするつもりが最初から なかったのか全く分からない。

この時点で高校1年生だったはずの愛理が、卒業式の日を迎えている。
色々と不遇なキャラ仲央路くんは東大に進学するらしい(せめてものフォローか)。
ちなみに描きおろしでは、仲央路家の秘密が明らかになります。

そして最終話。
最終話は1話の時点からは約10年が経過している。

果たして この10年後の愛理がどういう生活をしているのか、
現実と魔法王国と行き来しているか、など不明な点が多い。
どうしても作者は結婚させたかったので、そういう ややこしい話は一切しない。

10年というのは、アラムが暗闇の魔法なし大人の体格まで育つ年月でもあった。
計算してみると愛理は25歳。
その25歳の女性が17歳の男性のヘソ下に指を運ぶ、というエロ描写。
年下男性を好きになったばかりに25歳まで純潔を守って、彼女も欲求不満だったのだろうか。

アラムの婚約者であるマリアベルは、アラムに対して恨みの言葉一つない。
そして最後までアラムや愛理から彼女に対する謝罪はなかった。
泥棒猫が侵入して王族に入るんだから、世間の反応は少ないだろう。

そういえば なぜ愛理が魔法王国に行くことが既定路線なのだろうか。
世間の反発の大きい結婚ならば2021年の日本の場合ように、彼らが外に出ればいい。
王族であるアラムが現実世界に来れば、愛理を誹謗中傷から守れ、心身を健やかに過ごせる。

まぁ作者が魔法王国という設定に心酔しているだろうから、
それを手放すなんて、作品の根幹を揺るがしてしまうのだろう。

ちなみに この10年で代替わりをしてジェイルが国王になったらしい(妻子持ち)。
やはり最も作者の愛を受けたのはジェイルであろう。

絵は綺麗だが、長編作品として いまいち。
2作続けて同じ感想を持たざるを得ない。