ななじ 眺(ななじ ながむ)
パフェちっく!
第22巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
中国へ行くことになった大也。自分の気持ちを抑え、明るく送り出そうとする風呼。風呼を見続ける壱…。別れの時が近づくなか、3人の想いの行く末は――!? 大ヒット作品、ついに最終巻!! 【同時収録】パフェちっく!番外編 素敵矛盾
簡潔完結感想文
- 中国に行く大也を優しく送り出すために精一杯の努力をする風呼。
- 出発間際の彼を呼び止める王道展開。空港ではなく電車なのがミソ。
- 男性の成長もないまま、ぬるりと終わるのでカタルシスが全くない。
一応の結末はあるものの、三角関係(モテモテ王国)は不滅です、の 最終22巻。
いきなりネタバレですが、本書のヒーローは大也でした。
作品内では1年と2か月余りの時間が流れている。
そして、本書のヒーロー的存在・壱(いち)と大也(だいや)を月と太陽に例える作者は、
彼ら それぞれにヒロインの心を独占する時間を与えていた。
その独占期間は夜と昼との時間の長さに関係する。
ヒロイン・風呼(ふうこ)が最初に好きになったのは大也で、
彼への気持ちが極大となり、告白したのが1年生の夏至付近だと推測される。
それは1年で1番 長く太陽が地上に出ている日であり、風呼の心も大也で占められた。
しかし大也に失恋したため、次に動き出すのは壱。
夏至を頂点に昼は短くなり、壱が支配する夜のターンとなる。
そうして風呼の心は壱に染まっていくのだが、
再び昼の勢力が増す冬至前後を境にして、壱との関係は消滅していく。
そこから大也との交際を始めるが、
彼の、イトコである壱への執着心が顕在化し、風呼は別れを告げられる。
その状態まま、大也が日出ずる処(日本)から、日没する処(中国)への引越しが決まり、
自分の未来の道を進む大也を止められないまま、風呼は彼を送り出すしかなかった…。
というのが前巻『21巻』までの流れ。
そして最終回では2回目の夏至が訪れると推測される(作中は夏至に なっていない気も重々するが…)。
ここで風呼の大也への気持ちは またも極大となり、
自分からは言えずに封印していた言葉を伝えて、
大也と再び想いを重ねることが出来て、ハッピーエンドを迎える。
めでたしめでたし、である。
…が、夏至を過ぎたら夜のターンである。
最初の失恋から半年の間で別の人を好きになって、その後 半年は大也とくっついたり別れたりする風呼である。
彼女が男の事情に振り回されたのは確かだが、
こうやって風呼の遍歴を書き連ねていくと、やはり簡単に人を好きになり過ぎている。
しかも手近な男を代わる代わる好きになるからトラブルばかり起きるのだ。
そして何より私が実質的な最終回だと思っている『16巻』中ほど以降に起きたことが、
何にも解決しないままなのが気になった。
壱を忘れさせるためと交際を迫って、弱っている風呼を丸め込んだ大也が、
結局、自分の都合、しかも大也自身が壱という人間を忘却できなかったという理由で風呼を振った。
その大也の心の問題に対して何の解決もないまま、
彼は最終回付近で風呼に告白されたから、それを受け入れてしまっている。
男性のトラウマ解消ばかりの少女漫画にも辟易しているが、
ここまで何の成長も見せないまま、なし崩しに問題を解決する姿勢も疑問である。
これはヒット作を延長させようという出版社側の事情を疑わずにはいられない。
以前も書いたが、丁寧にゆっくりと主要キャラ3人の良い所を引き出した序盤に対して、
終盤は3人の悪い所ばかりが目についた。
キャラの人数を限定しているのは好感を持つが、
それによりライバルキャラの出現なども制限されて、
恋愛の問題は過去の亡霊と戦うばかりになってしまった。
壱の元カノ的存在が終わったと思ったら、風呼の元カレ的存在を大也が気にし出した。
糠に釘を打つような手応えのない展開が連続しているのも残念だった。
大也に人間的成長が見られる場面を少しでも作ってくれれば印象は違ったと思うのに。
問題に対して解決策を用意しないまま、物語の継続を決めたように感じられた。
繰り返しになるが『16巻』で終わらせていたら良かったと、つくづく思う。
今回の表紙は結末を予測させないようにという配慮だろうか。
まぁ 壱は永遠に風呼を想うらしいので、実質的な結末はイケメン2人を両手に花で間違いない。
物語のヒーローは最終的には大也しか いないよね、という展開。
壱からのアプローチは最後まで続いたが、
大也と別れて以降の風呼は少しも壱に揺らいではいない。
そして壱とくっついたら、お互いに一度は他の異性に走った者同士がくっつくという結末になって、
少女漫画としてはカタルシスを感じにくい結末になってしまう。
大也とならば、お互いに真剣に初めて人を好きになった者同士で、純愛となる。
ただし 上述の通り、この2人には最終回以降の遠距離恋愛に耐えられるだけの確証を感じられない。
一度 交際が簡単に壊れているのが気になってしまう。
大也を中国に向かわせるのが確定事項なら、
もっともっと彼らの絆を感じられるようなクライマックスを用意する必要があったのではないか。
大也はクラスメイトにも中国行きを発表し、大也との お別れに向けて事態が動き出す。
クラスではお別れ会を開いて、その実行委員に風呼と壱が指名される。
風呼はご近所のよしみで、彼らの引越しの手伝いもする。
そういえばクラスのお別れ会といっても、
まだクラス替えを経た2年生になったばかりで、
大也と同じクラスになって日の浅い人もいるだろうに。
まぁ そこは学校の人気者、カリスマ性のある大也だから問題ないか。
そして早くも、大也が出発する日。
風呼は最後に自宅に挨拶に来た大也を泣かずに見送って、
気を紛らわすために部屋の整理をする。
そういえば風呼は壱と関係が消滅した時も部屋を片付けていた気がする。
部屋の乱れは心の乱れ、なのだろうか。
すると『19巻』で失くしたチャームが自室の中から出てくる。
灯台下暗しなのでしょうか。
この日に発見するのは劇的だが、見つかる場所が陳腐すぎやしないか。
(風呼が それを失くすのも貰ってから間もなくて唖然としたが)
アクセサリー関連のエピソードは ちょっと捻りが足りない。
私の場合、どうしても、アクセサリーを失くす展開は
矢沢あい さん『天使なんかじゃない』が念頭に浮かび、
あれ以上の、失くし方、見つけ方はないんだと思ってしまった。
大也がくれた彼のハートを再発見し、彼への恋情も再炎上する。
そうして大也を追いかける風呼。
こういう場合、空港が最後の場面になるのが定番だが、本書では空港に行くために乗る電車のホームだった。
これは その後の壱の行動を取らせるためでしょう。
そして風呼が空港に行っても大也は中国行きを止める訳ではないから、
空港で出発を呼び止めても意味はないのだろう。
風呼からの告白は『4巻』以来ですね。
そして その日から おそらく1年後であり、そして夏至付近の告白のはず。
電車のホームでの告白は、なかなか面白い場面になったと思う。
心情の描写は不足していると思うが、舞台設定は とても面白い。
最後なんで色んな人に恋人が出来る。
大団円に向けて、どのキャラにも駆け込みでカップルを成立させるのは少女漫画の悪癖か。
仲良し3人組で唯一のシングルだった風呼の友達の大林(おおばやし)、
そして壱の妹・古都(こと)にまで気になる異性を登場させている。
壱が街で見かけた、かつて好きだった人・伊織(いおり)は妊娠している様子でお腹が大きい。
って、今は6月ぐらいでしょ?
なのに、こんなに目立つぐらいお腹が大きいなんて妊娠後期なのではないか。
ってことは、伊織が壱に泣きついて連れ出していた頃も、
彼氏とは よろしくやっていた、可能性がある。
その光景を目撃しても、壱に苦い気持ちは湧き上がらない様子。
壱にとって伊織がしっかり過去になった証だ。
けれど伊織の存在があるから、壱はヒーローになりそこねたとも言える。
そう考えると どこまでも壱は間の悪い男ですね。
それでいて自分でダメにした恋愛なのに、
「この先も お前しか いねー」とか言い出しても説得力がない。
(状況的には)浮気したくせに、と言われかねない。
本当、本書は長編の割に、恋愛に説得力がない。
前半は、そりゃ2人のイケメン どちらも魅力的だから好きになるのも分かる、と思ったものだが、
長編化して以降は、3者3様に気持ちがフラフラしていて落ち着きがない。
そして秋桜は磯っちと情を交わす。
結局、秋桜の二面性は封印されたまま。
このカップルは面白くなりそうで、話題転換や箸休めにしかならなかったなぁ。
最終回での2年後の描写では驚きの展開を見せる。
磯っちは秋桜先輩の家から追放されるのではないでしょうか。
人生設計、それでいいのか秋桜先輩。
「番外編 素敵矛盾」…
本編では小学校1年生だった壱の妹・古都が高校生になった時の話。
10年後ぐらいなので、風呼たちも26歳前後。
風呼は大也と結婚を予定しているらしい。
やはり女性は愛される方が幸せ、というのが本書の結論だろうか。