ななじ 眺(ななじ ながむ)
パフェちっく!
第21巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
大也か壱が中国に行っちゃう!? 恋にふりまわされず、美容師への夢に向かって歩き始めた風呼に、衝撃的な話が…。自分には関係ないと言いきかせる風呼。大也と壱が出した結論は…!?
簡潔完結感想文
- 壱と大也、どちらかが中国へ左遷 or 栄転。1年で息子の教育方針を変える親。
- 現地視察して2人が出した結論は…。ってか現地に行かないでも結論出たよね?
- クラスからも風呼の家の天井からも存在を消してしまう あの人。涙の修学旅行。
恋の謎解きの材料は すべて揃いました 21巻。
『21巻』は最終巻の1つ前。
いよいよ次巻で三角関係の結論が出る。
逆を言えば『21巻』では何の結論も出ません。
主人公の風呼(ふうこ)は身動きが取れずに泣いてばかりだし、
ヒーロー候補の壱(いち)と大也(だいや)も最後のアプローチをするだけ。
『21巻』までの描写で三角関係の結末の伏線は全て出揃ったと言える。
もし最終巻を読んでいないなら、ここまでの描写を推理材料にして自分なりの推論を構築するのも面白いかもしれない。
ただミステリと違って、男と女はロジックじゃないから、どちらの結末も等しく あり得る。
ここが本書、というか三角関係モノの一番の弱点かな、と思う。
2人のイケメンに言い寄られることで、通常の漫画以上に読者をドキドキさせられるが、
読者を完全に納得させるような結末には絶対にならない。
これまで私が呼んできた三角関係モノの最終巻のamazonレビューは ほぼ荒れている。
甲乙つけがたい2人のイケメンを用意する必要があるから、どちらにも読者ファンがつく。
でも最終的に選ばれるのは1人だから、もう一方のファンは荒れに荒れる。
これまでの熱心なファンがアンチ化するamazonレビューは読んでいられない。
だからこそ私は構成など一歩 視点を引いた感想文を書きたいと思っている。
そして幸運なことに、本書においては私はどちらのファンでもない。
2人とも素敵だと思う一方で、2人とも自分本位だとも思う。
そして彼らと恋愛する宿命のように描かれる風呼にも疑問を持つ。
風呼が どちらを選んでも説得力がないのが、本書で一番残念な所である。
降って湧いたような壱か大也の中国行きの話。
少女漫画のクライマックスは、事故や病気か、転校などの2つの「別れ」と相場が決まっている。
本書の場合は、私は最終巻で良いと思っている『16巻』で事故を使ってしまっているから、
必然的に、転校による遠距離恋愛騒動がクライマックスとなった。
といっても、恋の結論は出ていないので、
風呼と両想いになる方が日本に残り、失恋した方は中国に左遷、というシビアな現実になるかもしれない。
同じアパートの上下階、2年生からは同じクラスに3人を配置したのに、
ラストで その全部にカタストロフィを迎えさせるという大胆な話の壊し方である。
彼らのどちらかが中国に行くのは、彼らが経営者の息子だからである。
物語の開幕ではイトコ同士の同棲(というと語弊があるが)のための彼らの金持ち設定だったが、
最終盤で、その舞台を壊すために再度 設定が用いられた形となる。
どうやら彼らの新保(しんぽ)家は中国に工場を2軒構えていて、
近々もう1件増やすことになって、いずれは大也か壱に任せたいという話が出た。
そのために少しでも早く中国で勉強してもらおうと呼び寄せるらしい。
こう見ると新保家は完全に親族経営なんですね。
そして重要な役職を血縁関係で固めるために、まだ16歳の子に工場管理の勉強をさせるらしい。
なんだか旧態依然とした社風だし、息子の人生を縛る親たちである。
中国進出が上手くいくか分からなかったからなのだろうが、
それぞれの息子たちに中国ではなく、日本の教育を受けさせようとした父親たちが、
僅か1年で方針を変えるのは、経営者として先が読めなさすぎではないか。
そして このことに関して、悩むのは風呼であって、当事者の彼らではない。
本来なら1年間 新しい環境で人間関係を構築してきた彼らが、
親の都合で呼び戻されることへの反発があって当然だ。
しかし それらは全く無い。
ここで新保クンたちが葛藤するのは本書の本旨とはズレるから割愛したとも言えるが、
彼らが親の指示に唯々諾々と従っているだけなのが気になる。
まるで意思のない人形ではないか。
確かに壱も大也も風呼と交際している訳ではないし、
風呼もまた自分には「行かないで」の5文字を言う権利や立場がないから、
ただ涙するしか出来ないのだろう。
もしくは このところ自分も将来を考えているから、
将来に向かって歩き出す人を止めることは難しいことを知ったからだろうか。
けれど全員が、ただ黙って運命を受け入れるだけの展開で、
彼らの意思や動きが全く感じられない。
ハッピーエンドの準備段階なのは分かるが、
余りにも物分かりよく、誰も彼もが他者に泣きごとを言わないのは不自然に思えた。
風呼にしても ただ泣いている人に成り果てている。
意外だったのは中国行きの人物。
わざわざ現地を視察して2人で出した結論は、大也の中国行きというものだった。
これは壱には生徒会長としての責務があるからという理由もある。
なら視察前に結論は出てるじゃん、と思わなくもないが…。
しかし大也は中国に行ったら、学校にも通わずに働かされるのだろうか。
これもクライマックスの別れの演出のためとは分かっているが、
大学、いや高校を出てからでも遅くはないと思う。
そんなに同族経営の足場を早く固めたいのだろうか。
そして作者は風呼の気持ちとしては大也、だけど近くにいるのは壱という状況を創り出したかったのかな。
確かに これによって恋の結論がますます分からなくなった。
もしくは読者のミスリーディングを狙ったのかもしれない。
これは壱派の皆さんに無駄な期待をさせるだけのような気もするが…。
そんな状況で始まる、高校生活最大のイベント修学旅行。
何もかも最後だと思いながら風呼は残された大也との時間を慈しむ。
宿泊先での教師の見回りから逃れる、という少女漫画あるある のノルマをこなしつつ、
大也と非常階段で2人きりになる風呼。
そこで2人で最後の抱擁をして、別々の部屋に帰り、それぞれに泣く。
大也の心理的な問題で破綻した交際は、
彼の家庭の事情で再交際も望めない状態になってしまった。
巻き込まれるだけの風呼にどうやって幸せが訪れるのか、が最終回の見どころか。
そして これだけの長期連載なので 2人のうち、その人を選んだという説得力も欲しい。
『16巻』以上のラストシーンを望みます。
さて、ちょこちょこ出てくる秋桜(あきお)先輩と磯っち(いそっち)の恋。
このカップルが、あまり上手く機能していないことが気になる。
交際が始まるタイミングも、抱える問題も風呼と同じようなことばかりで目立たない。
同じ悩みだからこそ、風呼と相談しあえるのかもしれないが、
もっと風呼とは違う問題を採り上げても良かったのではないか。
秋桜先輩の二面性とか、このカップルならではの問題は採り上げず、
進路問題や別れの危機など、風呼と足並みをそろえてしまっているのが残念。
違う問題を扱って作品世界を広げられたら良かったのに。