ななじ 眺(ななじ ながむ)
パフェちっく!
第13巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
クリスマスイブに、大也と壱の祖父母の家で、A組F組の合同パーティーを開催。バクロ大会も大盛り上がり!! 楽しかったけれど、風呼も壱も大也も、それぞれがせつなさを感じて…。
簡潔完結感想文
もはやゴールを見失っているような気がする 13巻。
本書におけるハッピーエンドは何を想定しているのだろうか。
両想いになること?
それなら この『13巻』で終わらせても良かったのではないか。
その上で過去を清算すること?
過去は絶対に消去できないから、もはや当人の心の問題である。
ヒロインの風呼(ふうこ)は1週間前まで好きだった壱(いち)の過去を気にしていた。
1年前に出会った女性のことが忘れられないでいる壱。
あろうことか壱は、その過去を現在の問題として扱うことを決めた。
これによって元カノ問題の様相だったものが、二股疑惑、
それどころか その二股でヒロインが選ばれないという前代未聞の展開を見せる。
この行為によって壱は少女漫画界の伝説的な存在(ダークヒーロー部門)になったような気がする。
壱の行動を精一杯 擁護するならば
問題の時制を過去から現在に移したことで、解決可能な問題に移行させたと言える。
実際『13巻』の中で、この問題は解決されて、壱にとって全てが過去になった。
勿論、そうなったからといって風呼のもとに戻る資格は既に彼にないのだが、
彼と風呼の両想いを阻害するものも同時になくなった。
もし壱のターンが もう一度 くるとしたら、彼は風呼を愛しぬくだけである。
が、問題は大也(だいや)である。
おそらく『14巻』の問題になるので、『13巻』の感想文で書くのも気が早いが、
彼の場合の過去とは不特定多数の女性との遊びなのであって、
壱のように具体的な解決策を講じることの出来ない過去なのである。
高校1年生の彼女に割り切れ、というのも酷な話であるが、
この問題で 物語に暗雲を立ちこませても、彼女にとっても作品・読者にとっても良いことはない。
作品全体が、幸せで有頂天にならないのに、不幸は底なし沼なのが気になる。
そして その脱出方法も、物語を締めるに相応しいハッピーエンドも思いつかない。
三角関係モノは両想いになることをゴールとする、
私の提唱する「少女漫画4分類」の中での「恋愛成就型」で終わらせることが多いのに、
本書は男女交際編にまで手を広げだした。
完結後から考察すると残り9巻もあるのだが、
作者は この時点で最後まで構想を練っていたのか大いに疑問である。
物語序盤より着実に作品は売れている頃らしいが、編集者側も終わらせたくない気持ちが働いたのか。
登場人物も作品も作者も、スッキリと物事を断ち切る力が必要だったのではないか。
そして風呼もまた、過去がある女性なのである。
大也には高校1年生4月からの自分の心の動きを全て見られている。
自分が付き合うことになった女性は、つい10日前まで他の男性を好きだった人なのだ。
しかも その男性が同居するイトコとなれば気にならずには いられない。
男女3人の距離が近すぎるから気になってしまうこと。
少女漫画として今更 別の人を好きになることは許されないのだろうが、
そういう制約・世界の狭さを感じて息苦しさを覚えてしまう。
登場人物を いたずらに増やさないで、あからさまな当て馬・後発キャラを出したりしないのが本書の良い所だが、
3人だけで物語を進めるのには限界がある。
やはり何をゴールとしているのかが見えなくなっていく。
そして そもそも なんでずっと恋愛をしていなければならないのか、という根本的な疑問を持つ。
もうちょっと冷却期間を設けても良かったのではないか。
全体から見ると物語の中盤で交際を始めたのは 悪手だった気がしてならない。
壱が5巻~12巻までの8巻を彼のターンにしていたため、
平等の観点からいえば、大也には残り4巻の時間が与えられる計算である。
その4巻分、もしくは3学期は男女3人が「ひとり」であっても良かったのに。
私の読み方だと、風呼は夜が短くなる転換点の冬至で 壱への思いが全て消え去った。
なのに そこから10日余で次の恋を始めている。
この性急さの理由は私には分かりかねる。
2学期の終わりに あれだけ泣いていたのはなんだったのか。
いくら大也との恋は、自分が振られた恋で、彼のことを嫌いになった訳じゃないと言い訳しても、
これでは 風呼は そばに男がいなければ生きていけない人みたいじゃないか。
そういう生き方って、風呼が嫌う伊織と同じことではないだろうか。
大也がダメなら壱と遊んで、壱がダメなら大也と遊ぶ、
ここのところの風呼は そうやって男を渡り歩いているようにも見えてしまう。
ちょっと展開についていけない。
壱が自分のタイムリミットを理解していなかったのが辛い。
彼の優位が確定していたのは、夏至~冬至の夜が昼より長い間だけ。
もしかしたら、たとえ同じように伊織との関係がダメになっても、
2週間前に この行動に出ていれば、風呼との関係は修復できたかもしれない。
なぜならタイムリミットの冬至がやってきてないから。
でも彼が伊織に再挑戦すると決めたのが冬至付近であり、そこから動いても遅きに失している。
壱にとって辛い現実を目の当たりにする伊織との別れでしたが、
性格の悪い私は伊織の狡猾さが浮き彫りになって、ちょっとスッキリした。
確かに伊織から壱に恋愛感情はないので、風呼に対して やましい気持ちは無かったかもしれない。
だが伊織は壱の恋愛感情を見て見ぬふりをして、彼を利用し続けた。
自分にとって都合の良い役割を壱に押し付けて、その役だけを演じさせていた。
そうして壱は過去をキッパリと清算できた。
壱は風呼の過去を含めて風呼のことを貰い受ける覚悟が出来ている。
だから 今の壱は何の問題もなく、今の壱こそ風呼に相応しい人物はいない。
ただ最大の問題は、既に壱のターンは終わっていたことだった…。
大晦日の夜の風呼の交際宣言を物陰で聞くハメになってしまった壱。
これまでの所業を考えると自業自得でしかないのだが、タイミングの悪い男である。
伊織に対しても風呼に対しても当て馬体質を全開にした大晦日であった。
1日に2回振られるなんて 二股男ではあるが、可哀想すぎる。
これでまた男女3人は男1-男女2に分かれてしまった。
しかも寂しいときに寂しいと言える大也と違って、
また 泣いたり、他の男が慰めてくれる風呼よりも、壱の方が精神的にズタボロだろうと推測される。
彼は その現実を自分への罰だと思い唯々諾々と受け入れるしかないだろう。
明けて新年、1月1日は彼の誕生日だが、地球上で最も孤独な おめでたい日を迎えただろう。
なのに次巻は大也の過去に風呼が苛まれる予感がする。
三角関係モノだから仕方ないけど、幸せな時間が短い作品だなぁ…。