ななじ 眺(ななじ ながむ)
パフェちっく!
第04巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
「風呼は磯っちが好き」と大也が勝手に勘違い!! それどころか、2人の仲をとりもとうとする大也。でも、風呼は誤解だと言えずにとまどうばかり…。その上、壱の様子もどこか変で…!?
簡潔完結感想文
- 各関係のどこも少し険悪で少し気まずい。それは誰の恋も不調だから。
- 不甲斐なさと焦りで、告白をする風呼。だが結果は想像以上の破壊力。
- 風呼を様々な形で支える面々。忘れたい過去から目を背けるのは終わり。
やっぱり4は不吉な数字で恋を死滅させる、の 4巻。
『4巻』までに3つか4つの恋が出てくるが、そのどれもが上手くいかない。
私の読書法は全22巻を揃えてから読んでいるので、
物語もまだ序盤で、ここで上手くいくとは思っていなかったが、
リアルタイム読者にとっては、この『4巻』は驚愕の展開だったのではないか。
満を持しての風呼の告白だと思ったら、あっけなく お断りされたのだから。
主人公の風呼(ふうこ)は本気の恋愛をしない大也(だいや)への難しい恋を抱えていた。
自分よりも全てが優れているテニス部の先輩・秋桜(あきお)ですら大也に告白を断られた。
そのことが風呼の心を一層 硬直させるが、
勇気を見せた秋桜の他、自分へ好意を見せてくれた磯っち(いそっち)の存在が、
風呼の心境を変化させた。
自分なら奇跡が起きるかもしれない。
そして告白しなければ その奇跡も起こらない。
だから風呼は隠し続けた大也への恋情を彼に伝えるのだが…。
前半は告白へと気持ちが盛り上がり、
後半は失恋の涙が物語に雨を降らせている。
こんなに感情が大きく揺れ動く巻も珍しい。
意外だったのは風呼にとっての失恋の大きさ。
元気印の人だったんで立ち直りの早いタイプだと踏んでいたが、
その逆で、自分の視界に大也が入るだけで感情が揺らいでしまうらしい。
そんな風呼を これまで彼女が築いてきた関係が支えている。
失恋した風呼を ただ慰めるだけではなくて、
その際も彼女に対して客観的な意見を言っている登場人物たちを好ましく思った。
物語全体が失恋した風呼を甘やかしていない。
ここに作者と作品の適切な距離を見た。
より年齢層の低い少女誌だと、主人公の失恋に際して、
友人まで涙して、友情の甘い雰囲気を過剰に出しがちですから。
今回、徹底的に失恋しているが、同時に希望も覗かせている。
暗くなるばかりでなく、カーテンを開くことで、次の光を見せている構成が素敵だった。
自分よりも勇気を持っていた秋桜の告白を断った大也。
彼にしても女性からの告白を断るのはエネルギーを要するらしい。
その回復のために風呼は大也から海に誘われた。
風呼もまた秋桜のことを考えてしまう。
秋桜は自分よりも勇気を持った人であり、そして秋桜の 震える背中は自分の未来の姿かもしれない。
大也が秋桜になびかなかったのは朗報だが、秋桜でも断る大也の姿勢は鉄壁である。
そんな折、風呼は手帳に忍ばせておいた自分と大也が一緒に映っている写真を、大也に見られてしまう。
(写真を購入したのは『2巻』なので かなり前の出来事を伏線にしている)
だが、大也は その手前に大きく映っている男子を風呼の好きな人と勘違いする。
それが磯っちで、彼の初登場となる。
まさか後半では磯っちもレギュラーメンバーになるとは思いもしなかった。
風呼は大也の勘違いを正せない。
磯っちのことを否定すれば、写真を持っている意味を問い質されてしまうし、
大也に好意を伝えても100%否定されることは秋桜の告白を見て身に染みている。
明るいラブコメに見えて、身動きの取れない絶望的な展望である。
そんな風呼の状況を知った壱は、またもや風呼のブレーンとなり、彼女に状況打開の知恵を授ける。
とことん恋愛応援団なのだ。
ただし、そんな自分の状況に彼自身は苛立っているみたいだが。
大也への誤解は解けたが、磯っちは、風呼に告白をしてきた。
例え最初は人違いであっても、意識し出したら止まらない。
こういう恋愛の始まりの少女漫画にはよくある。
彼の告白を断るため風呼は正直に経緯を磯っちに伝える。
まさか大也に振られることに怯えていた彼女が、人を振ることになるとは…。
大也は秋桜を振り、風呼は磯っちを振った。
誰の恋愛も上手くいかない。
そして壱の複雑な心境を風呼は理解しない。
自分の窮地を助けてくれる壱を頼る風呼だが、壱にとってそれは嬉しくも悲しい信頼感であった。
磯っちが例の写真を見れば、風呼の好きな人がバレてしまうことは必至ということに気づいた風呼。
そこで風呂上りに一目散に新保家に出向いて、磯っちの電話番号を知ろうとするが、彼と同じクラスの大也は不在。
壱に状況を説明して冷静さを取り戻した風呼は、壱のことを”親”のようだと彼を評する。
この言葉で壱が激昂したのは、異性の前で平気で濡れた髪を見せる風呼の隙の多さではなくて、
壱の好きを理解しないまま、彼を異性として見ない風呼に対してだろう。
「おまえ忘れてねえ? オレだって男だろ」
この言葉は、恋愛対象として見ろ、という怒りが込められている。
そして この後の場面では壱が風呼に
「あんた女だから 俺ん中では ちゃんと女だから」
と言うが、これは逆に風呼を恋愛対象として見ているという言葉。
これまで風呼の中の良心(または両親)や知性だった壱が、異性として立ち上がってきた。
ただし それは、大也への失恋に対しての事前準備であっただろう。
物語としては振られることは必定であった。
風呼にとって嬉しくも悲しい人物配置なのだ。
壱の我慢もピークとなり、大也との関係性が悪化していく。
これは壱の嫉妬の気持ちが入り交じっているからだろう。
ダメもとであっても風呼が告白したように、
壱もまた自分の気持ちを明け透けに伝える日がくるのかもしれない。
風呼の頭の中に壱が重要な位置を占めるのと同じように、
最初から女生徒に人気のあった大也より随分と遅れてはいるが、
高校生活が始まって3ヶ月、壱の人気も高まってくる。
学校的にも2大イケメン体制が確立されていく。
磯っちから好意を断るのに、自分は好意すら隠して、平穏な期間を出来るだけ長くしようとしている。
そんなモヤモヤを相談しようと思った秋桜には、今の状態は「ぬるま湯」で卑怯だと暗に諭される。
彼らと同じ土俵に立つためにも風呼は告白すた。
しかし結果は秋桜の時と全く同じ。
ヒロイン補正もなく、大也は女性の本気を拒否するだけであった。
その告白を聞いていた壱は風呼の隣に腰を掛ける。
風呼は周囲が自分を告白へと追い詰めたと逆ギレしかけるが、
隣で黙って座っている壱の前では、自分を誤魔化せない。
自分が今 悲しいのは、大也の心に居場所がなかったことだ。
風呼の失恋を知った秋桜と磯っちは風呼と遊び繰り出す。
秋桜と磯っちが本格的に交流を持ったのは この時が初めてですかね。
同病相憐れむではないが、直近に振られた経験を持つ3人には同じ空気が流れていた。
クラスメイトの小森(こもり)と大林(おおばやし)も風呼に寄り添う。
上述した通り、彼女たちが冷静に風呼を受け止めている点に感心した。
壱といい、自分のことを悲劇のヒロインと考えてしまいがちな風呼に、
客観的な視点を与えて、頭を冷やさせている点が良い。
彼らがいるから風呼は間違えないし、読者からも嫌われにくい人になれている。
そして壱も彼女の気分を転換させるために、わざわざ店に寄りヘアピンを買ってくれた。
風呼と言えばヘアアレンジと言うのが男性たちの共通見解なのだろう。
しかし立ち直ろうとあがく風呼の前に現れる大也は、
常に女性と遊んでいる時であった。
しかし同居人の壱からの情報によると、
風呼との一件以来、大也は家事を放棄しているらしい。
大也なりに風呼を振ったことの「重さ」がある。
そのことを知った風呼は大也を見ないようにするために閉めていた教室のカーテンを開け、
振られた後の大也との新しい関係の第一歩を踏み出す。
失恋が起きた同じ巻で立ち直って良かった。
これ以上 続くと風呼にウジウジとした印象を持ってしまう所だが、
ちゃんと立ち直る理由を用意して、前を向き始めた。
それに大也の方にも気になる変化が起きている。
友人の磯っちの視点では大也は無理して遊んでいるように見える。
そして実際に女性と遊びはするものの、大也はキスをしようとしない。
振られても希望を見せる。
これからの展開が実に楽しみだ。