ななじ 眺(ななじ ながむ)
パフェちっく!
第03巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
大也を好きだと自覚した風呼。でも、大也は少しも、気づいてくれない…。もっと大也に近づきたい風呼は、同じテニス部に入部したけれど、そこには美人でやさしい秋桜先輩がいて…!?
簡潔完結感想文
- 恋愛成就を目論んで入部したテニス部。そこで始まる お蝶夫人との恋愛バトル⁉
- やはり壱は風呼の中の天使と悪魔。冷たい態度も優しい態度も全ては彼女のため。
- 女性として遙か高みにいる先輩による大也攻略法。彼女でもダメなら風呼なんて…。
2歩進んで 3歩下がる 新保くんとの恋に進歩なし!の 3巻。
ハッキリ言って、恋愛は何も進展していない。
好きな人・大也(だいや)に自分の気持ちを伝えてもいないし、
もう一人の男性、大也のイトコ・壱(いち)も恋愛に参戦してこない。
それなのに面白い。
告白をする前から失恋の予感ばかりだけど、
風呼(ふうこ)を想う人も予感されたり、
風呼が出来ないことを、(表面上は)軽々とやってのける人がいたりと、
関係性が動かない中でも、気持ちだけは常に動いている。
そこから目を離せない。
また 風呼にとって耳が痛い意見を言ってくれる人がいるのも良いスパイスになっている。
例えば『3巻』では風呼が大也を追ってテニス部に入部する。
1年生の新入学の季節は越え、6月も中旬になろうかという頃に入部したのは恋のため。
少女漫画としては恋のために出来る限りのことをするヒロインらしくて良いが、
客観的に見たら、好きな人を追って、好きでもないことに挑戦する痛い子にも見える。
もし風呼以外の女子生徒が大也目当てで入部してきたら読者の中は快く思わない人もいるだろう。
そんな風呼の行動を壱がちゃんと軽薄だと言ってくれることで、
風呼に己の行動の恥ずかしさを自覚させている。
続かないと高をくくっている壱を見返すために、風呼は燃え、
プライベートでどんなことがあろうとも、物語の最後まで部活をやり切ることが出来たと言える。
そして壱が指摘することのメリットは、
これによってテニス部員や女子生徒からの陰口が割愛できた所にもある。
誰もが感じる風呼の入部の時期の違和感や大也との距離の近さだが、
そのことに関して女性に陰口を叩かせない。
そうすると物語の雰囲気が悪くなるし、恋愛模様も陰湿になってしまう。
それを回避するために、最初から憎まれ役が多かった壱にいわせているのだろう。
『3巻』から新キャラとして登場する女子テニス部の先輩・藤 秋桜(ふじ あきお)。
彼女もまた風呼にとって遠慮のない発言をする一人となる。
実は彼女は大也を巡っての新たな三角関係の一角になるのだが、その決着は意外なほど早かった。
もし女1男2の三角関係を想定してなければ、もっと引き延ばしたと思われるが、
きっと秋桜先輩の役割は三角関係ではなく、良き相談者なのだろう。
予想される壱の恋愛参戦を前に、
彼に代わる、風呼の耳が痛くなるような意見を言える人物として秋桜が配置されたと思われる。
壱や秋桜みたいな人がいるから、
恋愛だけでなく全てにおいて暴走しがちな風呼の手綱が握れる。
元気印のヒロインだけでは、うるさがられてしまう作風を一旦 落ち着かせる人が必要なのだ。
こういう巧みな人物配置があるから本書はずっと面白いのだと思う。
超長編作品なのに、登場人物を最小限にしながら話が続くのも、それぞれの個性が確立されているからだろう。
季節は移ろい6月となり夏服に衣替え。
高校最初のテストが赤点ギリギリだったが、それは教師による採点ミスでの点。
葛藤の末、素直に申告して赤点になってしまう風呼。
風呼の性格を表すようなエピソードを挟みつつ、次の展開に繋げている点が上手い。
ちなみに この中間考査の成績1番は壱。
ただし『3巻』では苦手なことも幾つか判明する。
同じ巻でその人の長短をバランス良く描いている点も素晴らしい。
風呼は補習を受けることになったが、そこには大也もいた。
その補習で、大也は 留年組の男子生徒のウザい絡みから風呼を助けてくれる。
大也がどんなに本気の恋愛に興味なくても、風呼は本気になってしまう。
こういう葛藤の生み出し方も本当に舌を巻く。
更には その補習で大也から家で映画を一緒に見ないかと誘われる。
家に上がると、壱はバイトで不在。
2人きりだということが判明する。
家で2人きりになるのは『1巻』2話の風邪回以来ですかね。
そして好意を抱いてからは初めて。
意識しすぎる風呼だったが、大也は平常心。
嬉しくも悲しい一時が過ぎ、2人は壱のバイト先に向かうことに。
その前に風呼の親に夜間の外出の許可を取る大也。
その姿にまた風呼は感動する。
この辺は育ちがいいからなのだろうか。
本当に女癖と恋愛拒絶の姿勢さえなければ完璧なんですけどね。
壱のバイト先はお好み焼き屋。
なぜそこを選んだのかは分からない。
不器用なのはもちろん、食や接客に興味があるように見えないが。
もしかして彼なりの自己改革の一つだったりするんだろうか。
しかし この夜、夕食食べてませんでした風呼。
そして9時半過ぎに お好み焼きか。
風呼のドジで火傷の危機。
それから守ってくれたのは大也。
直接的なナイトは いつも大也で、壱は守る機会が少ない(この巻の美術の授業で1回あったが)。
会社の経営者の息子である壱がバイトをするのは、
親が必要最低限の生活費しか仕送りしないからと、自分が遊ぶお金は自分で稼ぐという信念から。
親も子供も偉すぎるッ!
風呼は大也と同じ土俵ならぬ同じコートに立つためにテニス部に入部する。
1学期も終わろうかというこの時期に入っても、部員たちは親切。
中でも2年生の女子部員・秋桜。
容姿端麗で、女子部員に大人気の大也を前にしても落ち着いた雰囲気を崩さない大人の女性として描かれる。
テニス部員など、風呼が関わっていく人は多いが、物語はいつも最少人数で進む。
秋桜以外の部員は存在感を消しています。
初心者である風呼は大也と一緒にいる目論見もありテニスシューズを選ぶのを彼に頼むが、
大也は秋桜に呼びかけ、3人で買い物に行くことになってしまった。
大也と出掛けるということで気合の入った服装をするが、
テニスシューズを選ぶのにブーツを履いてしまったため、
脱着に時間が掛かり、その間 大也と秋桜を2人きりにさせる時間を作ってしまう。
策士策に溺れる、で こういう風呼が惨めになる状況を作るのが上手い。
買い物の後は、流れで大也が自宅で料理を振る舞ってくれることになったのだが、
風呼の目が離れた隙に、良い感じの雰囲気を見せる2人を目撃し、彼女はその場から逃げ出す。
自分の受け入れがたい現実を前にして逃げるのは少女漫画のヒロインっぽいですね。
風呼もいよいよ恋する乙女になってきた。
だが敵前逃亡した風呼は帰宅途中の壱と鉢合わせ、壱が逃亡を許さなかった。
彼女の手を引き、もう一度 恋愛のリングに上がらせる。
ここは完全に壱は風呼の味方ですね。
大事なイトコも風呼になら託せる、という感じでしょうか。
ただし秋桜は壱にとっては第三者で邪魔者でしかない。
いつもの3人+1で、彼は秋桜が場の中心に居ることを許さないといった態度を取る。
秋桜の完全無欠の大和撫子モードも壱には通用しないということか。
翌日、風呼は秋桜の二面性をハッキリと目撃する。
秋桜は全て計算で自分を演じていたことが発覚する。
2人(特に秋桜)は腹を割って話し、秋桜は大也を狙っていると宣言する。
大也への変わらぬ態度も、他の部員との差異を出すための彼女の手法だという。
風呼への親切さえも彼女の計略の一つ。
確かに秋桜は風呼に近づくことで、大也と一緒に出掛けられ、彼の家にまで上がり込むことが出来たのだから計算通りだ。
そんな彼女の雰囲気を感じたから壱は攻撃的だったのかもしれない。
風呼はライバルの出現に焦り、自分を成長させようとする。
明後日の方向の努力をし始める。
秋桜に張り合うために彼女の表の顔を憑依させるが、壱には滑稽さを笑われ、
そして大也には風呼らしくないことを見抜かれる。
しかし秋桜もまた風呼の存在に焦っていた。
手練手管を駆使してもなびかない大也に告白をすることまで決める。
大也の恋愛観を知らないということもあるが、
風呼よりも勇気をもっているから秋桜は告白が出来るのだ。
恋のライバルであり、そして風呼にとって秋桜は恋の先輩で先駆者となった。
自分にはない強さを持っている人に、風呼は惹かれ始める。
三角関係を描いているようで、実は風呼と秋桜の友情の始まりの物語でもある。
この後の秋桜は読者人気も高いと思われるほど、気持ちのいい人になっていく。
秋桜もまた壱と同じように自分を律することの出来る人である。
ここがくっついても良かったのになぁ。
秋桜の告白に対する大也の返事は風呼の想定通りで、安堵と共に絶望を感じさせる。
秋桜ほどの素敵な女性でも、大也は女性の好意を、その人が好きでい続けることも許さない。
これには非常に冷たいものを感じる。
彼が変化する日なんて、永遠に来ないんじゃないかというほどに。
風呼が大也に告白する日が また遠くなった。