杉山 美和子(すぎやま みわこ)
花にけだもの(はなにけだもの)
第05巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
楽しい楽しい沖縄の修学旅行にやってきたキューたち。
しかし、なんと問題児の豹は「全日程、先生の監視付き」
落ち込むキューだけど、もちろん、豹は先生の目をかいくぐってキューのもとへ。
修学旅行は波乱とラブがいっぱい。
そんな時、キューの知らないところで、豹の過去が明らかに・・・!?
キューはこの豹の過去を乗り越えられるのか?
キューが真実を知るとき、恋の嵐が巻き起こる!
苦しくても、切なくても、大事なこの恋をキューは手放すことなくいられるの?
愛するのも愛されるのも、簡単ではないの?
簡潔完結感想文
- 恋人と親友の過去の交際を知り呆然とする久実。別の男に寄り掛かろうとするが…。
- 現実逃避からの迷子を助けてくれるのは また別の男。姫を助けるのが臣下の役目。
- うっかりドジの発動を助けるのは本物の王子。満天の星空の下の懺悔が始まる。
そして バトンは渡されたり、渡されなかったり、の 5巻。
『5巻』は好意的に見れば、恋のリレーとなっている。
ヒロインの久実(くみ)がヒーロー・豹(ひょう)の過去を知り走るのを止めてしまいそうになった時、
助けてくれたのは彼女を想う同級生・千隼(ちはや)。
千隼は自分の想いをひた隠して、久実と その恋人・豹の応援団で あり続ける。
自分はそのリレーに不参加を表明し、久実がまた走れるようにエールを送り、彼女の足を進ませる。
そんな久実の態度を見て感化されたのが、竜生(たつき)。
彼は自分の親友と好きな人が交際していた過去に打ちのめされそうになっていた。
実はこの親友が豹で、好きな人が久実の親友・カンナであった。
互いに過去と向き合う勇気が出ず、身動きが取れなくなった久実と竜生だったが、
竜生が一足早く恋のリレーへの参加を決めた。
そんな竜生の姿を見て、久実はまた走り出し、
カンナに再び恋をしてほしいと、バトンを渡す。
そうしてカンナが動き出したことで、彼女は竜生の好意を受け入れることになった。
残されたのは久実と豹。
いつも彼に背を向けてしまいそうになる久実を助けてくれる豹。
そして久実のミスから2人きりにならざるを得ない一夜がやってきて、恋のレースは最終コーナーを曲がる…。
話の流れは非常にスムーズである。
…が、『5巻』の久実は何もしていないことも分かる。
逃げ込んだ先で男たちに助けられて、逃げられなくなるまで逃げ続けただけ。
知り合ってから好きになるまで早かったが、すれ違いで1巻分消費、
付き合ってから問題が起こるまでも早く、すれ違いで1巻分消費します。
すれ違いは少女漫画の醍醐味。
問題は、その2巻分全てが対話と勇気の欠如からきているだけだということ。
永遠の愛を誓おうとしている割に、悪いことが起きると逃げるヒロインに共感も好感もない。
「Sho-Comi」ってヒロインが泣けばドラマチックだとでも思っている節がある。
幸福でも不幸でも泣く久実の涙は どんどんと価値が失われていく。
今回の問題は一言で言うと、元カノ問題。
ただし本書においては、豹は久実との恋愛が「はじめての 恋」で、たった一つの真実の愛としている。
今の愛を「True Love」にするために、過去の愛を踏みにじるのは少女漫画で散見される手法。
でも、今回は久実にとって親友の恋を汚しかねないのが問題だ。
久実にとって、豹が過去を悪く語ることは、
親友・カンナの惨めさを知ることにもなりはしないか。
全てを知った後の方が、カンナとの付き合いが難しくなりそうだ。
だって この恋愛においては自分が勝者で彼女は敗者になるんだもの。
でも、そんな副作用も考えないまま、豹の独り善がりの自分語りが始まるらしい…。
『6巻』を読むのが今から憂鬱だ。
この2人は どちらも生きるのが下手なタイプだから、傷口を広げ、関係性にヒビを入れそうである。
作者は沖縄に恨みでもあるのかというぐらい、沖縄で良いことがない修学旅行が始まる。
そもそもシーズンオフである12月に沖縄に行くって、とても東京青山の有名校には似つかわしくない。
物語の構成上、大きなイベントを用意したかったのだろうが、それにしても高校1年生12月の沖縄への修旅は謎である。
この学校も、本書と同じで華美な外見だけで実体のない、平凡な学校だったのだろうか。
作者は有名校設定も忘れているんじゃなかろうか…。
カンナは久実と豹が付き合っていることを知らず、豹は久実とカンナが親友であることを知らない。
さすが電話番号も交友関係も把握しない内から、直感で好きになった恋愛である。
作者はここまで豹とカンナを絶対に出会わないように心血を注いでいた。
もしかしたら一番 力が入っているんじゃないか、と思うぐらい。
班が一緒になったクラスメイト狐坂(こさか)と猿渡(さるわたり)が初登場する。
2人ともケモノの名を関する「けものフレンズ」である。
が、久実からクマのぬいぐるみは貰えない。
久実は友達になる価値がある者にしか、それを渡さない厳しいお方なのだ。
狐坂はやや棘があるものの、これまでのモブ生徒のように敵意は向けてこない。
そして久実は、彼女たちにも特段、警戒心は見せない。
ホント、何だったんでしょう久実の人間不信設定は。
修学旅行でもジンクスが登場。
水族館の大水槽の前で告白すると両想いになれる、という。
でも本書において、恋のジンクスは破られるためにあるようなものなのです…。
これが久実にとって2回目の豹とのスクールリング交換のチャンスとなる。
だが久実は、その前に豹とカンナの交際を知らされ、目の前が真っ暗になる。
久実は事の真相を知ろうと同じ中学だった千隼を頼る。
当事者には何も聞けないが、男には簡単に寄り掛かれる久実なのです。
なぜか久実と豹の応援団になっている千隼にまた元気をもらう。
だが千隼も限界。
恋愛相談は最後にして欲しいと訴える。
その言葉通り、千隼は恋愛戦線からも応援団からもフェードアウトしていく。
更に、豹との抱擁中にカンナが現れるが、
カンナは久実が自分たちの過去を知らないと踏んで、豹に過去はなかったかのように挨拶する。
それに合わせる豹。
この嘘の理由は後に豹の口から語られる。
曰く、カンナに気を遣ったらしい。
それで久実を傷つけてるんだから、豹の優しさなんてそんなものである。
恋人と親友、2人に嘘をつかれる形になった久実は、2人と向き合うことが出来なくなる…。
カンナの前から逃亡し、いつの間にかに鍾乳洞に入って迷子になる。
心配事で頭を支配されているのか、この後でも久実は自分が何をしているのか分からなります。
ドジ設定だとハプニング発生させやすいのだろう。
突然、鍾乳洞の電気が消え、パニックになる久実。
閉鎖された空間の暗闇は母の死を思い出すトラウマのトリガーであった。
ここで助けてくれるのは竜生。
おーおー、男が次から次へと現れては、お姫様を助けますな。
今は豹や千隼とは会いにくい状況なので、空いてる第3の男が現れる。
カンナたちの過去に同じくショックを受けていた竜生だが、
これまで久実の真っ直ぐな姿勢を見習って、自分も信じて告白するだけと覚悟を決めたようだ。
まぁ、その久実が今、全てから逃げ回ってますけどね。
久実もまた竜生の姿勢に感化されて、前を向くという良い相互作用を生んだようだ。
だが、水族館は入り口から暗くて狭い。
そんな久実を助けに来るのはヒーロー。
暗闇も豹と一緒なら怖くないらしい。
しかし久実は、交換したかった自分のリングを置いてくるという大失態。
久実のアホさに唖然とするが、本当の両想いは、まだ先ということか。
まぁ、今回の久実と豹のの大水槽前のイチャイチャは、竜生の告白のオマケみたいなもんでしょう。
豹との関係を少しだけ修復した後はカンナ。
久実は間違って(!)飲酒したことで、言葉がスラスラと出て、
カンナへの感謝と、彼女が次の恋をすることを願う。
そんな久実の言葉に感化され、カンナは一度は拒絶した竜生のリングを受け取る。
ただし、これは久実が豹と付き合っている現実からのカンナの逃避かもしれない。
千隼といい、カンナといい、また問題が再燃しそうで怖い。
ちなみに、カンナはスクールリングを購入していないという設定らしい。
ということは、久実が転校するまえまでは全校女子は200人でも、スクールリングは199個しか存在せず、
豹はその全てを持っていたから「コンプリート」したと言えるのか。
『1巻』の感想文で、言葉の誤用を指摘したが、作者の頭の中では整合性が取れていたらしい。
ま、そんなの読者には分かりっこないことなんですが。
新キャラ・猿渡に、大水槽の前での豹と久実のキスが発見される。
まぁ、あれだけ公衆の面前で、風紀を乱すようなことしてるんだもの、公開してるも同然。
ここで猿渡も豹に指輪を渡していたことが明かされる。
だが、彼女に恨みや つらみ はない。
豹のモテ設定って虚飾に過ぎないのか。
本書の前半、特に1話の設定ってなかったことになってないか???
修旅最後に大ハプニング。何と久実が、船を降りるタイミングを間違える!
そんなバカな、というドジっ子っぷり。
そんなピンチの久実を助けるのは、やはり豹。
客船から海にダイブ。
この作者は何かと登場人物を濡らしたいらしい。
豹が「キューちゃんが無事で よかった」と安堵するが、彼女は一滴も濡れず陸にいましたけど…??
どうやら明日の朝に島を移動すれば、皆と一緒の飛行機に乗れるらしい。
そうして始まる2回目のお泊り回です。
この日が修旅最終日なのに、と思ったら、
明日の飛行機で帰る、って どういうこと??
今日が最終日で明日は移動日ってこと なのかな。
所々で作者の脳内設定が先走って、説明が足りていない。
2回目のお泊りは、真面目に勉強をした初回とは大きく意味が違う。
豹も清い交際を証明するために、部屋を2つ取るとかいう考えはないのかしら。
そして まだ濡れてる豹が買い物に行き、その間に久実がシャワーを浴びるのは どうかと思う。
久実が買い物に行き、自分のために濡れた豹を先に温めるべきだ。
本当に『5巻』の久実は気が利かないし、何もしなくなりましたね。
作品に長所をどんどん奪われていっている。
お泊り回では、ヒーローが部屋に帰ると、ヒロインが寝てしまっているのが少女漫画お決まりの展開。
そこでヒーローが普段は言えない(豹は普段から言ってるけど)甘い言葉を囁くのも お決まり。
だが寝ていると思いきや 久実は起きていた。
なんだ、この高等テクニックは。
身体の関係を怖がる久実に豹は温かい言葉をかける。
「一番はじめに心をもらった
愛し方も恋も知らないオレに キューちゃん(久実)は心をくれたよ」
んーーー、どこで??
こういう甘いだけの台詞に説得力がまるでない。
夜の海に出た2人。
満天の星空の下、愛を語る。
(1話では東京青山で天の川が見えたのに、ここでは見えない…)
久実に忘れられない思い出がまた出来た。
しかし、何度この日を忘れない、と言っているんだろう。
豹の愛の言葉といい、使いすぎて言葉が陳腐になっている。
2人で暗い海を前にして、豹が自分の過去、カンナとの交際を話し出したところで以下、次巻。
でも こういう話は明るい場所でしないとダメだよ…。