《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

200個中の199個で「コンプリート」した、とか言ってる時点で incomplete な作品だお★

花にけだもの(1) (フラワーコミックス)
杉山 美和子(すぎやま みわこ)
花にけだもの(はなにけだもの)
第01巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★(4点)
 

キミはけだもの。いまだ恋を知らない…。
名門・蓮高に転校してきたキューちゃんこと久実。初めての学校で初めて出会った男子はすごく優しい王子様みたいな豹くん。
友達になりたい!って思ったのに、豹くんの口から出たのは「友達じゃ足りない」って言葉と熱いキス。
初めての彼氏って思っていたのに、なんと豹くんは学校中の女の子を彼女にしちゃうぐらいの最低最悪の「たらし」でした。
王子の皮をかぶったけだものに、ファーストキスをささげてしまったキューちゃん。
本当に豹くんと恋ができるのか???
キューちゃんの初恋は「難しいにもほどがある!」

簡潔完結感想文

  • ヒーローに選ばれる特別な主人公のようで、実は友達も恋人も選ぶのはヒロイン側。
  • 東京 青山の有名校の全女生徒の199/200がヒーローが好きという設定。クソダサい!
  • キスや身体を許してから相手の本性を知って逆ギレするのは「Sho-Comi」の伝統⁉

が華美だからこそ、かえって内容の無さが目立つ 1巻。

例えば、国語の授業で本書が扱われることになって、
作者は何が この作品を通じて描きたいものは何か、と問われたら本気で悩む。

イケメンからモテる夢のような物語、だろうか。
というかそれしかない。
それしかないから空虚なのだ。

田舎から出てきた冴えないヒロインが、
出会って数時間でヒーローに見初(みそ)められて、溺愛され続けるシンデレラ漫画。

それだけでも読者の年若い少女の自尊心を満たすが、
それ以上に狡猾なのは、実際は主人公が人を選んでいる点である。

恋人も友人も選択権はヒロインに与えられており、
彼女から選ばれた者は拒否権なく、彼女に付き従うことが宿命となる。

転校したての学校の、成績や容姿に優れる上位5人の生徒をヒロインは間違えることなく選んでいる。
まるで彼らが かけがえのない友人候補が初めから分かっているように。

友達を信用しないはずの彼女が実は厳しい目で人を選別しているのは差別的に映る。
彼女が友達の証として渡す「クマのぬいぐるみ」も、
渡す相手が男子高校生であっても何の疑問もなく受け入れてくれる。

少女趣味、おバカ、ドジ、名前をかむ、幼女体型、
そんなコンプレックスが見事に美点や特徴に変換されていく。
そうして完成した主人公だけに優しい世界。
現実逃避にはもってこいの漫画だが、その世界は少し虚しい。

ヒロイン自身と彼女が選ぶ4人の仲間の名前の中に動物が入っているから、この書名なのだろう。
だけど「花」が何だか分からない。
ヒロインという可憐な花と、4人の「けものフレンズ」という意味だろうか。
表紙や書名から、実際に読むまで華道部の漫画かと思ってましたよ。


書最大の失敗は1話ではないだろうか。
1話の終わりに2人はキスをするのだが、彼らは互いにどこに惹かれたのか分からないままで、唐突さだけが印象に残った。
インパクトのある1話を作ろうとして、好きになる過程をすっ飛ばしたことが残念で仕方がない。

主人公の熊倉 久実(くまくら くみ)は身長などのスタイル、そして思考回路が中学生、いや小学生のような人。
それでいてスカートが極端に短かったり、男性誌のロリ系女性キャラと見間違う格好をしている。
久実のデザインや知性は雑誌の読者層に合わせて、彼らの共感を得ようとしたのだろう。

そんな久実が転校によって、東京の一等地にある有名高校に入ることから巻き起こる きらびやか高校生活、というのが本書の売りなのだろう。
ただし過剰に装飾のし過ぎて下品に映る。

「学生なら みんな知ってる 憧れ夢見る そんな高校」
「東京のオシャレな街 青山にある 超名門校 蓮高(はすこう)」だそうだ。

ブランドで身を固め、ネームバリューで他者を跪かせようとする高慢さを感じる。
これは人物についても同じで、どうにか彼らに価値を出そうとして必死だ。

なぜ久実が そんな名門校に通うことになったのか、経緯も理由も編入試験をどうパスしたのかも全く語られない。
そして複雑な家庭事情が見え隠れする割には、彼女は早々に東京ライフを満喫している。

久実が転校までに制服や教科書が事前に準備できてないのかも謎のまま。
それだけ急な転校だったのだろうか。
しかし何も語られない。

こういう浅はかさに私は苦々しさを感じる。
でも嫌味なことを言えば、このキラキラ感でメイン読者たちを、一瞬でも幻惑させられれば それでいいのだろう。


実は理由があって転校前日に学校内を見学するために初めて学校に足を踏み入れた。
そんな折、とある校舎の一角を隠れ家のようにしている生徒と久実は出会う。
それが本書のヒーロー・柿木園 豹(かきぞの ひょう)である。

f:id:best_lilium222:20211120061210p:plainf:id:best_lilium222:20211120061202p:plain
謎の濡れ半裸で初登場するヒーロー・豹。説明は一切ない。本書に論理など無い!

初登場シーンの豹は なぜか びしょ濡れで半裸。
これにも理由はない。
読者の心拍数を早めるインパクト重視だろう。

そんな意味不明な姿に驚いた久実が よろけて棚にぶつかり、物が落下してしまう。
それを庇う豹。
ヒロインのピンチを救ったから豹はヒーローになる資格を得る。
これが久実が豹を好きになる唯一のポイントではなかろうか。
他に好きになる要素は彼の容姿か裸体ぐらいしかない。

久実の性格を特徴づける事として考えられたのが、前日の学校見学。
転入生である自分が先に学校内を把握していれば
「みんなに学校案内とか迷惑かけないで すむ」と考えたから。

こういう先々のこと、そして他者のことを思い遣れる点が、ブルジョア学校の中では素朴に映り、豹の気を引いた。
というか、豹が久実を好きになるポイントは ここしか見当たらない。

ただし久実の考えでは、自分で何でも出来れば他者と関わらずに済むという自己防衛の意味もあっただろう。
どうやら複雑な家庭の事情から同情に疲れた彼女は、友達を拒絶し、他者に頼ることをしないと決めているらしい。
(2話目から忘れられる設定だが…)


実は学校案内をしてくれた豹と別れる際に、
大事にしていたクマのぬいぐるみがないことに気づいても豹を頼ることをしなかった。
彼女にとって何でも一人でやることが、自分が傷つかない唯一の方法なのだ(1話だけは…)。

そんな久実の小さな異変を感知していた豹は、学校中を捜索する久実の前に時間差で現れる。
この金持ち学校、セキュリティはどうなってんのかしら。

実は失くしたクマは亡き母が遺してくれた5つのクマの内の1つで、久実にとって かけがえのないものだった。

豹の真摯な優しさを信じようと、久実は頑なな心を溶かす。
それと共に涙が彼女の頬を伝う。

ヒロインが泣けば助けてくれるのがヒーローである。
クマは上述の隠れ家で豹が既に拾っていたから見当たらなかったのだ。
なぜ彼が、その時に言い出さないのかは謎。

これ、豹が久実を「落とす」ための演出とも考えられますね。
久実に自分を信用させるために、自作自演をするジゴロの手法なのではないか。
実際に久実は、この豹の優しさに心を許しているし。

f:id:best_lilium222:20211120061250p:plainf:id:best_lilium222:20211120061246p:plain
話が通じない サイコパスっ! むしろキスだけで済んだことに感謝し、さっさと転校しな。

謝の代わりに豹に1つ目のクマを「友達のしるし」として渡す。
だが豹は「でもごめんね やっぱりもう友達には戻れないかも」と前置きをし、
「キスしたい」と言い出して、東京 青山の夜空に天の川が輝くイメージ映像の下、キスをする。

うーん、意味不明。
「やっぱりもう」とは何なのか。豹は既に友達になっていたつもりなのか。
そしてキスも謎。
読者へのインパクト以外に この行動に意味を見出せない。

作者も そう思ったからか、2話でキスについて豹に語らせている。
あのキスは豹にとって本気だったようで
「やわらかくて小さくて 真っ赤になってふるえて すっごいかわいくて
 ホントはもう食べちゃいたくてたまらなかった」からキスをしたらしい。

えっと、全部 見た目と自分の欲望の話ですよね。
何度も言うが、豹は久実を これしか好きになる根拠がないから、残念な漫画である。


もっと謎なのは それを嬉しいこととして受け入れる久実。
他生徒との違いを出すなら、豹にキスをされても嬉しくないと、この場面で怒るべきだと思うが、
猫を被った豹に、彼女も簡単に恋に落ちてしまっていることが残念である。

出会って数時間。
恋に落ちた。
そして これが この恋の全てである。
紆余曲折や両想いまでの経緯はないまま、恋愛は進む。うーん。


して翌日に久実の転校初日を迎える。
まず表面上の友達を信じていない彼女がクラスメイトに自分から話しかけているのが謎である。
重要人物とのファーストコンタクトとして描いたのだろうけど、一貫性の無さに呆れる。

そして遅刻して学校に現れた豹は前日と別人のよう。
まさに「豹変」である。

女子生徒の説明台詞によると、豹は有名人。
「ウチの学校 スクールリングあってさ 好きな人に送るってジンクスあるんだけど
 全校女子200人に対して 豹は199個のリングコンプリートしたんだよね」、だそうだ。

ここで疑問が2つ。
ジンクスとは何か。
こういう場合のジンクスは何か見返りがあるから まじないの様にするのだと思うが、
この学校のジンクスはリングを送ったら何が起きるのか謎のままである。

そして2つ目の疑問。
199/200はコンプリートとは言わない。
作品を久実の知性に合わせているのだろうか。

そして何よりも、こうやって数字で豹の価値を上げようという精神性が気持ち悪い。

また この時点で199人の女生徒はモブだと言っているようなものだ。
転校生の久実と、残った1人だけが特別で、しばらく女性キャラはモブばかりとなる。

さらに問題なのは、物語の中盤から そのモブの中から久実の友達が出来るのだが、
199人に当然入っているはずの彼女たちは豹に関してノーコメントである。
久実に対して嫉妬の感情もない。
物語がその場限りの言葉で出来ているかのように全てにおいて一貫性が無い。

こうして久実は昨日の王子様が「王子の皮かぶった けだもの!!」だということを思い知らされた。
よく知らない人と恋に落ちた自分を棚に上げて、「その男は最悪の男だったのです」「豹なんか大っ嫌い」と罵倒して1話が終わる。

うん、2人とも意味不明なことを口走る漫画だということは分かった。
1話の段階で、こんなに頭の中を「?」でいっぱいにしてくれる漫画も珍しい。

f:id:best_lilium222:20211120061306p:plainf:id:best_lilium222:20211120061302p:plain
客観的に見れば、久実は既に豹に捕食されている。彼女が怒るのは自分のプライドの問題。

に嫌いといったことで、2/201のマイノリティになった久実。
早速 モブの女子生徒から反感を買い、嫌がらせをされてしまう。

そのことに落ち込む久実に手を差し伸べるのは豹の友達の日吉 竜生(ひよし たつき)。
2人目のイケメンである。

久実は竜生の「きっとさ 超仲良くなれる」との言葉を信じて、竜生と「はじめての男の子の友達」になる。
ねぇ、久実が人を頼らない設定はどこいったの??

竜生が久実のクラスメイトを好きだということが判明し、
久実は その恋を応援する意味で2つ目のクマのぬいぐるみを竜生に渡す。
竜生と出会って たった2日目の出来事である
豹の一件で よく知らないうちからクマを渡すとロクなことにならないって学ばなかったのかな??

そのクマを久実が豹に返却を申し出るのは残念すぎる展開だった。
他人を信じて渡した自分の責任なんて、考えもしないだろう。

まぁ 「Sho-Comi」の先輩で 1話で出会ったばかりの男性に身体まで許しちゃう『うわさの翠くん!!』よりは まだましか。

そういえばアチラも純潔を捧げた男の本性を知って逆ギレしてましたね。
雰囲気に流されて、ひと夏の経験をしてから、自分の愚かさを棚に上げて逆上する。
Sho-Comi」のヒロインの精神年齢の低さを表す2つの事象である。


実が豹の友人である竜生と知り合うことで豹の過去を垣間見ることが出来た。
なぜ豹が女性にいい加減な「けだもの」になったのかの説明がある。
どうやら それは豹の「さみしがりの延長」らしい。
昔から「豹ん家 少しゴタゴタしててよ」と、豹の孤独な一面が語られる。

これに関しても、それなりの理由は出てきますが、深く掘り下げることはありません。
何なんでしょう、久実も豹も設定を拝借しただけの浅はかさは。
舞台となる高校の設定と同じで、登場人物の背景もハリボテなんですよね。
折角、繊細な線を描くのに、世界観の浅さを絵で誤魔化しているように思えてしまう。
作中の言葉を借りるなら、漫画の「表面に騙され」たりしません。
ってか、本書こそ表面だけで深さなんてありませんから。

豹の「けだもの」っぷりは、てっきり私が「少女漫画あるある」として提唱してる
「少女漫画の俺様ヒーロー、母親の愛を十分に浴びてない説」で証明できると思ったのに、
それを証明する材料も十分に用意されることはなかった。
きっと作者にとって欲しかったのは豹の家柄だけでしょう。
本書においては、何事も深く捉えてはいけません。
作者自身も きっと何も考えてない。


生が好きな女性というのが、久実のクラスメイトで、
後に彼女から選ばれし3人目の人物となる 大神(おおがみ)カンナ。

初登場時から「私と一緒にいないほうがいいよ じゃないと熊倉さん本当にいじめられることになる」と訳ありな台詞を言っているが、このカンナの設定も どこかに忘れ去られる。
後半で彼女に まつわる過去は語られるが、別に久実がカンナと一緒にいてもいじめられることはなかった。
まるで伏線が機能しない残念漫画である。

久実たちは たった1回の昼食で あっという間に下の名前で呼び合う関係になり、
互いに辛い過去があるはずなのに、人に対しての不信感など全く見せない。

そうして会話をして2日目で、これまで友達が出来なかった久実は、
カンナを遊びに誘うことにまで成功する。
意味あり気に排他的な雰囲気を出していた2人なのにね…。

本当に本書の中における伝説のアイテム・クマのぬいぐるみを持つ選ばれし者のための漫画である。

本書では物が大きな役割を果たす。
例えば豹が女性との愛を寡占状態のスクールリング。
そして久実のクマのぬいぐるみ。
スクールリングは愛の証、クマのぬいぐるみは友情の証となる。
『1巻』の中でクマに選ばれる5人の勇者たちは集い、彼らのハイクオリティ高校生ライフが始まるのだった…。


者を遠ざけてきたはずの久実は転校して4日目で友達とWデートをするリア充っぷり。
出会って4日で友情は深まり、愛情はピークに達しようとしている…。

久実が他の男性とデートをすることを許せない豹が、久実をさらいデート回が始まる。
本来の久実のデート相手、クマに集いし5人目の和泉 千隼(いずみ ちはや)は集合に5分遅れてやってきたため、豹に久実を奪われてしまった。
千隼は その後 この遅刻をずっと悔やむことになるのだが、それは別の お話。

遊園地デートでは まず久実がヒーローになる。
実は絶叫系の乗り物が苦手な豹は、無理を重ねていたが、久実は彼の異変を感じて休ませてあげる。
こういう小さな変化を見逃さないのは、その人のことをよく観察しているからである。
この時点で、久実は豹への想いを否定できませんね。

同時にここは、豹が更に恋に落ちる場面でもある。
他の女性の前では演技がバレなかったのに、久実は特別らしく、彼の弱さに気づき、認めてくれた。
そして気持ちが重なってきたところで、少女漫画ではカップル製造機ともいえる観覧車に2人で乗り込む。

だが、閉鎖空間が久実のトラウマを誘発する。
どうやら久実の母はエレベーターの火災で事故死したらしく、それを思い出してパニックになる久実。
今度は久実が流す冷や汗と涙。
それをクマのぬいぐるみを見せることで治めるのは本来のヒーロー・豹。

でも、どこからだしてきたのそのクマ?
服のどこにも入っているようには見えませんでしたが??

そんな彼の優しさに触れて、久実はもう自分の気持ちに反抗できなくなる。
豹君が好き。

…うん、もう完結でいいね。
10巻あっても キャラが動いているのが楽しいだけで、恋愛面では成長はない。
両想いまでの経緯がない、ただただ溺愛される漫画は、退屈さと紙一重である。


が豹を受け入れられないのは、そのフェミニンさにある。
顔が綺麗すぎるからなのか、男装の麗人、もしくはオネエっぽく見えてしまう。
(特に後半の新バージョンの豹は、言動も柔らかくなってオネエ感が増している)

豹の溺愛については、作者が何度も豹にとって久実が特別だということを繰り返し、愛情を補強しようとしている。

「めずらしいよな お前の外見にキャーキャー言わねー子」
「だからかな だから気になるのかな」

そして豹にとって特別なのは「オレの表面に騙されてくれない」からだそうだ。

ここで残念なのが、出会った日、1話の久実の行動。
久実もまた他の女生徒と同じように、あっという間に豹に恋に落ちている。
その日にキスを受け入れてるし、手も繋いでる。
だから彼女だけが身持ちが固いというほどでもない。
数時間で彼を受け入れるのは、久実もまた豹の表面に騙されてるとしか思えない。

実際、久実が豹に歯向かったのは、自分の理想の王子様じゃなかったからであって、
突然にキスや手を繋いだことに怒っている訳ではない。
ここの問題を作者が取り違えてしまっているのが残念で仕方がない。
久実が少しでも抵抗すれば、話は違ってきたのに…。

「~Prologue~」…
作者自身が あとがきで書いているように、
「キューと豹のもう一つの出会い」「アナザーワールド」らしいので正史ではないのだろう。

久実を更にピンチにさせるためだろうが、
豹が電車の扉にスカートが挟まった女性に気づいているのに、
車内でケータイが鳴ったから、それに応答するために遠ざかるのはいいのか?
もがき続けた久実も悪いのだろうが、中途半端な優しさに感じられる。