杉山 美和子(すぎやま みわこ)
花にけだもの(はなにけだもの)
第09巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
累計150万部を誇る大人気少女まんが「花にけだもの」9巻、いよいよ発売! 豹と千隼の間で揺れ動くキューちゃん。千隼は、いつも女の子の好きなものを、大切に大切にしてくれる。一方、豹は、いつも不器用で上手に言葉にはできないけど、キューちゃんに対する愛が溢れている。 答えを保留にしたまま2年生になったキューちゃん。このままでは、前に進めない豹と千隼。そしてキューちゃんの出した答えは・・・?いったいどちらを選ぶの・・・? 女の子だったらみんなわかるはず。人を好きになるって理屈じゃないってこと。男の子に幸せにしてもらうんじゃなくて、自分で幸せになる。だから、自然とこの人を選んでしまう。きっとキューちゃんは、これで永遠の幸せを手に入れられるはず――。感動の第9巻、必見です。
簡潔完結感想文
- けんかをやめて 二人をとめて 私のために 争わないで もうこれ以上♪ の世界。
- 性的暴行予告をするヒーロー。彼にそうさせる自分を責めるヒロイン。謎。
- 何も変わっちゃいない気がするが、恋の結論が出たそうな。なぜ別れたのか?
私をその あだ名で呼んでいいのは ただ1人だけ、のキューちゃんの 9巻。
『8巻』後半の千隼(ちはや)のデート回に引き続き、
『9巻』では豹(ひょう)との2人きりの時間が設けられ、
そして遂にはヒロイン・久実(くみ)を想う2人の男性が直接対決が実現する。
三角関係、ここに極まるといった感じです。
ここで それぞれのアピールタイムは終わり、恋の選択権は久実に委ねられる。
しばらくは久実のターンで、彼女が悩む場面が続くのかと思ったが、
作中内の時間は経過しているものの、紙面としては素早く結論が出た印象だ。
ただ、この結論に関しては疑問や不満も残る。
ネタバレにもならないネタバレだが、久実は豹を選ぶ。
そうなると そもそも別れの原因が抽象的過ぎるため、元サヤに戻る理由がよく分からない。
『7巻』で これまでの前提を全部 壊すような展開を用意したのだから、
そこからは これまで以上に恋心を丁寧に積み上げていかなくてはならなかった。
だけど作者は かなり雑に久実の心を好きで溢れさせてしまった。
これでは最初に恋に落ちた時と同じである。
一度 別れた人をもう一度好きになる時の慎重さや気持ちの変化に もっと寄り添って欲しかった。
久実が豹を厳しい目でチェックするのかと思ったら、
結局、ただ愛されていることに満足しているだけに見えた。
なので中盤の波乱は作者側の都合(人気作だから引き延ばしなど)以外に別れる必要があったのか疑問が残る。
そして私の中で印象深い言葉が、豹と別れた後の久実の、
「私は今 恋じゃない形で みんなをしあわせにしたい」という抽象的で壮大な言葉なのですが、
これが どういうことだったのかが謎のままである。
巻数やページ数ではなく、もっと彼らの心境の変化を具体的なエピソードで分かりやすく提示できなかったか。
豹は久実と別れてから その原因を咀嚼して、改善する必要があった。
が、彼に髪型以外で明らかな変化を見つけることは難しい。
変わらずに久実を溺愛しているばかりなので、久実はその言葉に のぼせているだけ。
しかも豹は『9巻』では再び暴力的なところを見せているから、
結局、彼を受け入れるか受け入れないかは、久実の感情次第ではないかという疑惑が湧き出てくる。
別れるという衝撃展開からの三角関係は2巻分の巻数を稼ぐノルマように思えてしまう。
絵が繊細な割に、心理描写の方は繊細さに欠けるのが残念なところです。
千隼との1日デートは楽しく終わる。
最後に千隼は久実にキスしようとするが、ほっぺが限界。
ヒーローの豹は出会って数時間でキスできるのに、
千隼は出会って8か月以上経過しても絶対にキスはできないようだ。
クマのぬいぐるみで友達を選別している久実だが、
同じクマ保持者である豹と千隼の間にも明確な格差はある。
学校でも久実と千隼に関する噂が広がっている。
そういえば久実と千隼はリング交換式で交際を宣言しているのに、その後、久実は豹と交際。
そして豹を別れたら、ご褒美とはいえ千隼とデートする久実がいる。
もちろん紆余曲折も事情もあるが、これは反感を買っても仕方がない尻軽感がある。
が、モブ女子生徒たちは噂だけで、久実への当てつけも封印している。
前半(といっても主に2話ぐらいまで)は久実に攻撃的な行動に出ていたモブたちだが、
もう この段階にきては、モブは久実に近づくことさえ許されないのかもしれません。
本書において1軍がクマのぬいぐるみの4人、2軍が「けものフレンズ」のクラスメイト2人、それ以下は全員 モブ。
恋愛も友情も格付けする側にいるのは久実です。
千隼のデートのターンが終わったら、次は豹のターン。
久実と豹、マラソン大会(『8巻』)の棄権者2人による罰掃除が始まる。
なぜ豹は棄権者扱いなのでしょうか。
久実をおんぶしてゴールしなかったのかな?
そして怪我をしても棄権者(病院の診断書もあるだろう)で、
罰を受けさせるなんて青山の有名校は旧態依然とした校風だなぁ。
2人で図書室の掃除をしている際に、千隼から久実に電話が。
それを出ないでとバックハグで懇願する豹。
千隼とのデートの話を聞いて、豹の頭はおかしくなりそうな様子。
さすが男ヒロインは嫉妬深い。
そして慎み深いから自分が嫉妬している顔を好きな人に見られたくない。
「見ないで」と、赤面してるのは完璧にヒロインだ。
イケメンに惚れていたはずが、イケメンがヒロインに夢中というのは少女漫画ではよくある逆転現象。
力関係の逆転も同様。
ただ本書の場合は「けだもの」だった豹が牙を抜かれて、彼だけ弱くなった印象だ。
相対的に久実が強くなったように見えるが、豹が乙女化しているだけ。
などと真のヒロインを考察していたら、君子は豹変。
乙女化からのキス。
したいからする。
『1巻』の頃と全く変わっていない、無断かつ欲望全開のキス。
んー、これ髪を切った「成長後」でしょ。
何の成長も感じられない。
あと この場面、バランスが悪くないだろうか
豹の顔が小さくて手が大きくて、腰の幅が大きいように思えて違和感がある。
キスで頭が沸騰した豹は、その暴力性を目覚めさせてしまったようだ。
久実が千隼から贈られたネックレスを引きちぎる。
贈った千隼の気持ちなど考えずに一方的に破壊する豹。
この時点で、折角 上がり始めた豹の価値は地の底に落ちた。
(ただし これを付けて元カレの前に現れるのは久実にデリカシーがないように思う。
というか、そもそも どういう気持ちで身に着けていたのか)
そして豹は、今から抱く宣言をして。
「泣いても 嫌がっても やめない。それが嫌なら 今すぐオレの前から逃げて」
うん、コイツやっぱり頭がおかしい。
性的暴行を宣言して、自分は服を脱ぎ実行しようとする。
久実を守るためなら、彼女の親友を傷つけることに躊躇はない、といって久実の心に疑問を芽生えさせた豹ですが、
今度は自分の欲望に忠実になるために、久実を傷つけても構わないと言い出す始末。
ダメだ、コイツ。
そしてダメだ、この作品。
前半の豹の狂気や偏執は、その後の変化を如実にするための布石だったと思ったら、
後半の豹も前半とちっとも変っていないことを証明してしまった。
私の予想以上に入念に練られた構成かと思いましたが、
このことによって、別れの理由も必要性も急造されたものであって、
連載継続のための方便のように思えてしまう。
しかし久実がここで感じたのは、彼のやさしさ。
友達に戻るという体裁で久実が切り出した別れ話に、豹は反対しなかった。
それは豹が自分を思ってくれてたから「やさしさ」で、別れを甘んじて受け入れたと久実は理解する。
自分が暴行されそうになっている場面で、
豹を全肯定して、自己を否定して自罰的な思考する久実。
豹の思考は別れる前と変わってないし、怖いほどに極端なままなのに。
豹の行動も、久実の思考回路も ちっとも分らない。
感想文を書くことで、少しずつ手繰り寄せられたと思った彼らの思考が、
この場面で再び パッと離れてしまった。
「好き」のハードルを上げて豹というモンスターを生んだことを反省した久実だったが、
今度はモンスターから離れようとした自分を責めている。
こうしてモンスターは このまま許容される。
どうも話が堂々巡りしてはいないだろうか。
久実の服や身体に手を出していないとはいえ、
性的暴行も辞さない豹を作品も久実も認めてはならなかったのではないか。
そこに現れたのは千隼(常識人)。
服をはだけてる豹と、散らばったネックレスをみて激昂する千隼。
そして始まる殴り合いの直接対決かつ最終決戦。
だが 久実は女王として2人に停戦を命じる。
自分の気持ちを最終的に確定させ、2人へ返答することを宣言して事態を収める。
現段階では豹がまだ心にいるらしいので、一歩リードか。
直前の暴行未遂も久実にとってはマイナスにならないんだろうな…。
やっぱり千隼みたいな常識人には入り込めない世界が構築されている。
ここから少し時間は移ろい、2年生になった久実たち。
カンナが髪をバッサリ切っている。
クマのぬいぐるみを持つ選ばれし5人は新入生の中でも有名。
この場面、同じ「Sho-Comi」連載の星森ゆきも さん『ういらぶ。』に近い匂いを感じる。
自分は無自覚で、周囲に騒がれるほど注目されるヒロインが読者の承認欲求に刺さるのだろうか。
そんな中、1年生の女子生徒が豹に告白し、そして久実にも接近してくる。
久実を「キューちゃん先輩」と呼ぶ、その人は特別の証であるクマのぬいぐるみを欲しがる。
久実が嫌だったのは その名前もないモブ後輩の図々しさではなく、彼女の自分への呼び方。
クマのぬいぐるみと引き換えに久実は「キューちゃん」と呼ばないでと願う。
クマのピンチを救うのは豹。
そんな いつだってヒーローの豹を久実はやはり好きだと思う。
なんか また愛の言葉を囁き続けられたら、コロッと陥落したように思えるなー。
あと、そもそも久実を「キューちゃん」と呼ぶのは豹だけで、
1年生が久実がキューちゃんと呼ばれていることを知る機会があるのか、という疑問はある。
(その1年生の告白時に、豹がキューちゃんと呼んではいるが)
自分の気持ちを再確認した久実は、千隼とは恋はできないと告白を断る。
久実は千隼と恋はできないけど「お友達」でいるようだ。
何か、都合が良くないか?
千隼が『5巻』で一度距離を置いた以上に、距離を取っておかしくないが、
「みんなに会えて よかった」と久実が思っているから、勝手に離れることも出来ない。
ある意味でクマのぬいぐるみは呪いのようになっている。
千隼にはクマのぬいぐるみを力いっぱい引きちぎって、海に捨てて欲しかったなぁ…(笑)
好意を再確認したから今度は久実が豹に想いを告げる番。
だがその頃 豹はアパートを引き払って、行方をくらましていた。
少女漫画特有のクライマックス直前のお別れ危機イベントですね。
久実が自分から動く(もしかしたら最初で最後の)成長の機会かもしれません。
しかし久実が豹をもう一度受け入れる理由がハッキリしない。
別れの理由として、久実を溺愛するあまり、他のもの全てを否定する豹との価値観の違いがあった。
その時、名指しして排除しようとしていたカンナと、
豹は関係にちゃんと けりをつけたことで排他的なところは直ったかもしれない。
ただ それを久実がどう察知したのかが分からない。
結局、新1年生によって嫉妬や取り逃がした気持ちが生まれて、
今でも自分が変わらずに豹から大事にされることに満足しているように見えてしまう。
最後の最後まで本書における「好き」が私には理解できないものであった。