アサダニッキ
青春しょんぼりクラブ(せいしゅんしょんぼりくらぶ)
第04巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★☆(7点)
8年ぶりの母との再会に心震える依子。予期せぬ悪意に晒され、危機に陥る隠岐島――。青年心理研究会の転機となる出来事が頻発するなか、にまは自分の本当の想いに気づき…!? 新世代ざんねんラブコメディー、青・天・霹・靂の第4巻!!
簡潔完結感想文
- 8年ぶりに母と再会した依子。自分にも母にも大切な人がいることを再確認。
- ネット上で盗まれた隠岐島の顔。なりすまし犯は捕獲されたが事件の裏には…。
- 2つの事件で犯人が見ていたのは表向きの顔。心まで覗かせるのが真の友情。
有望な友情っていいね Three, two, one for all !の 4巻。
この『4巻』で青心研(青年心理研究会)の友情はMAXに達したのではないでしょうか。
表紙のように誰が欠けても不完全な、完璧なカルテットとなった。
(なぜ隠岐島(おきのしま)が女装バージョンなのか謎である)
読み返すと、人に興味のなさそうなアニオタ・簸川(ひかわ)の気遣いが散見されて、
彼のことがこれまで以上に好きになりました。
そして最後には主人公・にま が見ないふりをしていた恋心が自覚される。
いよいよ しょんぼり漫画から少女漫画への転換になるのだろうか。
毎度のことながら、次巻への引きが完璧である。
今回のテーマは「顔」だろうか。
外見的な意味だけでなく、その人が他者に見せる表向きの顔が事件を連鎖させていた。
1つの事件の裏に2人の犯人がいた今回の事件。
彼らは どちらもその人の表面しか見ていなかった。
実像以上に他者の中の その人が奇妙に培養された結果 起きた事件と言える。
そういえば『3巻』で にま が隠岐島から過分な言葉をもらって戸惑う場面があったが、
あれもまた自他の中で評価が食い違っている事例の一つなのだろうか。
他人には本当の自分を知ってほしいが、本当の自分が何者なのか自分でも分からないのも青春時代の若者の悩みである。
容姿端麗で、性格も人が良すぎるほど温厚な隠岐島が、
これほどまでに傷つくのも本書ならではの しょんぼり展開。
ただ 犯人や事件を起こす元凶となった人たちも、
好きが高じて こじらせてしまった人たちばかりだから、それほど気分を害さない。
こういう不器用な面倒臭さもまた青春の匂いとも言えるだろう。
前の巻で気になるところで紙面が尽きて、次の巻では意外なほど内容が淡白なのが本書の特徴。
冒頭の依子(よりこ)の再会、母よ も同じように湿度が調整されていたように思う。
あれだけ8年ぶりに母と再会をするかどうか思い悩み、
当日も苦労して全校集会を脱出したのに、再会自体は割と あっさりと終わっている。
これは互いに緩衝材を持ち合わせていたのが功を奏したと思われる。
それがなければ、依子は生真面目だから、
途中から感情に任せて自分が納得いくまで母を問い詰めてしまったのではないか。
今回のように いざとなると自分の心の内にある渦巻く感情を上手に表現できなくて、
図太くなった母のペースに巻き込まれるのは依子っぽいですね。
再会に同席したのは、母が出ていってから再婚した男性との間に設けた2人の娘たち。
依子にとって異父妹になる彼女たちを母が連れてきたのは、
小さい子の前では罵倒されないだろうと打算から防御壁として利用したとも考えられる。
ただし、母は この異父妹たちに ちゃんと姉の存在を知らせており、これを母の誠実さの表れと捉えることも出来る。
そして依子には、間接的にフリップへの落書きで場を和ませてくれた簸川、
そして ここまで届けてくれた にま がいた。
にま の会談場所への参入は予想外だったが、
結果的に依子が素直に言葉に出来ない思いを汲み取って話してくれたことはプラスだったはず。
そして母にとっても、そんな友達が娘のそばにいてくれることは安心材料になっただろう。
「8年って長いです 依ちゃんには今日まで生きてきた ちょうど半分の時間です」
は その内容も、それを言う にま の心の正しさにもグッときた。
この言葉に、依子の寂しさや孤独が詰まっているように思う。
一件落着で、学校に戻った にま はアニ研に顔を出す。
そこで にまが見たのは、『3巻』で一度話題に出ていた、ネットに上がる隠岐島のコスプレ写真。
この、隠岐島への執着心が見え隠れする犯人捜しが夏休み中の青心研の活動となる。
何だかんだ理由を付けて、夏休み中も お馴染みのメンバーと会えるのが嬉しい。
手掛かりを求めるのはコスプレ衣装から連想される手芸部。
そこで宍道(しんじ)という2年生男子部員の名前が上がるが…。
この日、手芸部員として呼び出された津和野(つわの)は、にま と遊ぶ約束を取り付ける。
彼が誘ったのは2人きりではなく、青心研が揃って歩いている途中。
当然、隠岐島も聞いている。
これは『3巻』で隠岐島が誰にも恋をしないことを にま が聞いてしまった逆パターンだろうか。
間接的に、その人の恋の現状を知ってしまう 何とも言えないモヤモヤが胸に残る。
その場面の後、にま に帰り道に頼みごとをするのが簸川。
簸川が乙女向けのアニメ誌を買うのを躊躇したのは意外な事実。
だが これは彼の言い訳。
本当は にま と2人きりで話す機会が欲しかったのだろう。
まさか簸川に こんな気遣いが出来るとは思わなかった。
前髪で隠れている両目で、実は物事の本質を見抜いているのかもしれない。
そこで語られるのは核心をつく話。
簸川が珍しく他者の恋バナに触れるのは、自分が曲がりなりにも恋をしたからか。
そして彼も恋を通して成長したのだろう。
もしかして彼は少しずつ三次元への興味を持ち始めているのだろうか…?
御本人登場となれば、なりすまし犯が沈黙すると踏んだ隠岐島は、自らコスプレ写真を撮る。
日常的な女装を止めても、女装が隠岐島を逃しません。
何よりも彼の怒りに火をつけたのは、犯人のスネ毛の処理が甘かったこと。
隠岐島のプライドは これを許せないらしい。
…ってことは、女装の際は処理してるんですね、先輩。
彼氏に脱毛知識があるって、彼女側は嫌だろうなぁ…。
こうしてネット上ではなく、物理的におびき出されたのは、琴引(ことびき)という2年生男子。
琴引は「女装した隠岐島の容姿が好きなだけ」という、
今の隠岐島の心をえぐるような単純な「顔ファン」心理で行動していた。
そして琴引に衣装を提供したのが手芸部員の宍道ということが判明する。
そして対面した彼は棘のある物言いで隠岐島に接する。
この際、宍道に代わって津和野は隠岐島に謝罪をする場面が良い。
一連の事件を気にしていないようで気にしている隠岐島に、
「考え方とか優しさとか …そういうのを好きな人だっている」と伝える。
こういうところが津和野の優しさであって、
隠岐島が彼が にま に相応しいと考えちゃうところだろう。
まだ隠岐島の気持ちは分からないが、2人とも互いにライバルというほどの敵対心を持てないほど互いの良さを知っている。
一連の事件では悪意はないが、隠岐島の顔を無断使用していた琴引。
そして その裏で自分の顔は隠して、隠岐島への復讐を計画していた宍道がいたのだった…。
宍道の隠岐島への敵意は香菜(かな)が絡んでいた。
ゲーム感覚で宍道と交際していた香菜が、その次に標的にしたのが隠岐島。
彼はそこから起きた香菜への暴力事件を勘違いして隠岐島を恨んでいた。
まさか『2巻』の内容が蒸し返されて、しかも歪んだ視点から語られるとこう再構築されるとは思わなかった。
女性同士で暴力事件は起こさないというバイアスも隠岐島への逆恨みを助長させたか。
まず香菜が宍道に近づいたのは、津和野と同じ部活でかわいがられていたから。
香菜は津和野周辺の男を徹底的に排除することで、
最終的にこの世界で男が津和野しかいない状況を作りたいのだろうか。
彼女が自分から好きとは言わず、両想い(またはアダムとイブ)になるには、この方法しかなかったのか。
こういう派生事件に触れると、香菜は つくづく とんでもない女である。
そうして復讐の手段として使われた隠岐島は、宍道によって土砂ぶりの中、屋上に締め出されてしまう。
隠岐島の窮状を知らずに、突然の雨に雨宿りをする青心研+アニ研一行。
浴衣デートをする生徒会副会長を気遣い、傘を確保しようとする簸川の優しさに惚れてしまう。
また 隠岐島を見つけるため学校に戻る際、同行する にま にシャツを渡すも良い。
いつもシャツの下にアニメTシャツを着ているから出来ることだ。
そして家が近いから走って傘を取りに行く津和野もまた自己犠牲を厭わない。
そこで彼は隣の家に住む香菜が宍道と対峙している場面に遭遇する。
津和野によって事件の全貌が明らかになり、隠岐島は救出される。
事件の解決は、傘を取りに行った津和野の優しさが一因と言える。
津和野は宍道の話を聞いて、香菜の自分への想いを察したようだ。
それでも香菜の非道を再度 指摘する津和野は どこまでも正しい。
宍道を真に更生させたのは生徒会長の長い説教ではなく、津和野の正しさだろう。
香菜を更生させたのは にまで、その流れがあるから読者も香菜の過去を水に流した感があったが、
ここでもう一度 香菜の悪行を前面に打ち出したのは意外だった。
少女漫画の当て馬はヒーローと肩を並べる魅力があることが面白い漫画の条件だが、
津和野は非の打ち所がないほどの当て馬である。
そして ラストで彼は本当に当て馬になることが確定してしまう…。
ここで津和野が先に香菜の想いを知るのは、
今後、にま の件でしょんぼり確定の彼のダメージを少なくしようとする作者の優しさだろうか。
長い一日となった この日の帰り道、少しだけギクシャクしていた簸川と隠岐島の関係が完全に元に戻ったように思う。
青心研が隠岐島と一緒にいるのは、その不器用な優しい心を持つからなのである。
合成写真のように顔だけ抜き取られて評価されてきた隠岐島の優れた容姿。
そんな彼の分離しそうな心と身体を一致させたのは仲間の存在。
一連の事件と隠岐島の内面問題が一致した素晴らしい巻ではないだろうか。
「大切なのは そう 魂ではなくて?」