アサダニッキ
青春しょんぼりクラブ(せいしゅんしょんぼりくらぶ)
第05巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
夏休みのおわり。隠岐島に告白する決意をしたにま。はたしてその結果は! ? さまざま想いが交錯するなか、波瀾万丈な新学期が幕を開け…。新世代ざんねんラブコメディー、急・転・直・下の第5巻!
簡潔完結感想文
新しい朝が来た 希望の朝なのか絶望の朝なのか分からない朝が来た、の 5巻。
『5巻』は引き続き夏休みと、新学期を結ぶ巻です。
この学校が3学期制なのか分からないですが、その前提で話しますと、
『5巻』は1学期に起きたことの総決算と、それぞれのリスタートが夏休み中に行われ、
2人の新キャラが物語をかき乱すのが2学期の始まりとなっている。
2学期のことは これから時間をかけて判明する部分も多いですので割愛しまして、
主に夏休み中の出来事について感想文を書いていきたいと思います。
サブタイトルをつけるとすれば『5巻』の前半は、ステキな恋の忘れ方だろうか。
いや、忘れなくてもいいか。
失われた恋に対して、自分の中でどう消化するのかが描かれる。
新しい目標が青春の道標(みちしるべ)となる。
冒頭からの2話で3つの失恋に方が付けられる。
1人目の失恋者は なんと主人公の にま。
『4巻』ラストから続く告白場面は、意外なほど簡単に言葉が出ていた。
ここでも巻をまたぐ話題は あっさり描写の法則が活きる。
にま の告白があっさりならば、隠岐島(おきのしま)の お断りも あっさり。
少女漫画としては とても重要な場面だが劇的には描かない。
『4巻』冒頭での依子(よりこ)と8年ぶりの母との再会場面でもそうだったが、
物語が湿っぽくなる前に、除湿機能が働く。
前回は にまをはじめとした緊張感のない青心研のメンバーたちが役割を担ったが、
今回は にま自身が除湿機能を働かせたように思う。
失恋しても涙を流さない。
断られた言葉も、相手の目を見て受け入れる。
そして振られても相手に感謝の言葉を述べる。
だから2人は これまで通りの関係に(少しの努力で)戻ることが出来た。
「オレは にま ちゃんの そういうところに 憧れるよ」とは振った側の隠岐島の言葉。
彼の方が言うのは少しだけ腹が立つが、私の気持ちを的確に表す言葉である。
にま は お人好しだから個性の強い面々に振り回されている印象があるが、
その反面、自分のこととなると一切ブレない芯があることが分かる。
彼女が失恋して、にま のことをもっともっと好きになった。
これまで失恋経験だけは豊富な にま。
だが隠岐島への恋に関しては、どうやら通常とは違うルートに入っていることが分かる。
何と言っても告白までたどり着けたことが前代未聞の出来事なのだ。
隠岐島に告白しても、彼に好きな人/彼を好きな人は現れなかったし、彼が両想いになることもなかった。
これまでは好きな人が目の前で両想いになっていたから、あきらめざるを得ない恋だったが、
不毛ではあるが、自分からは あきらめる必要はない恋に踏みとどまっている。
ただし意外なところで青心研のメンバーにヒビが入る。
簸川(ひかわ)は にま の想いに気づいていたが、依子にとっては驚天動地。
彼女は にま と津和野との仲を取り持とうとしていたから、意外な展開に頭が追いつかない。
頭に血の上った依子は、にま を突き放してしまう。
でも下げてから上げるのは胸キュンの基本で、この後の依子の行動にはキュンとしてしまった。
依子は以前 失恋の対処法を にま から伝授されており、それを実行しに にま のもとに帰ってきた。
いいなぁ、友情。
意外なところ(『1巻』の依子の失恋)から言葉を持ち出すのも面白い。
「おまけのしょんぼり」でもアニ研部長から高級アイスもらってるし、
友人・香菜(カナ)にもアイスの予約を している。
にまが失恋で痩せ細る心配は なさそうだ(笑)
にまが実に にま らしくて好感が持てるのは、津和野(つわの)との対面場面。
男女ともに意識的に宙ぶらりんにしていた関係性を清算する時が来た。
ここで にま は人生初の交際の お断りをする。
自分が振られた直後なのに、文字通り好意に甘えれば上手くいく恋愛を断ち切るとは何たる勇気。
膝から崩れ落ちそうな心境だろうに、異性にもたれかからず、
自分の足で立つことを決めた にまに改めて憧れてしまう。
そして津和野も本書最強の当て馬の役割をこれでもかというぐらい誠実に担ってくれる。
何と彼は自分が失恋したと知った後に、告白してくる。
この時も2人は しっかりと目を合わせている。
気恥ずかしいなど自分の都合で下を向くのではなく、気持ちを託すように目を合わせる。
2人目の失恋者・津和野もまた私は憧れる。
潔く告白して、潔く食い下がっている。
まだ期待している自分の胸の内まで明け透けに明かした彼は未練が少ないと思われる。
彼は間違っても宍道(しんじ・下記で言及)みたいにはならないだろう。
津和野の隣に住む幼なじみの香菜は、幼なじみだから津和野に好意を持つのかと思ったが、
きっと異性に厳しい目を向ける香菜から見ても、
贔屓目なしに津和野という男は正しく、魅力的な人間なのだろう。
そして交際してきた数多の男性の中で、津和野を超える人がいないのも彼女をより苦しめたか。
表だってモテる描写があるのは隠岐島だが、津和野も相当 女生徒からモテるはずである。
にま にとっては生まれて初めての される方の告白である。
あんなにも焦がれていた状況なのに、世の中は上手くいかないものだ。
告白した当日に告白される、何とも密度の濃い夏の日なのか。
そして失恋者3人目、宍道もまた自分の中で恋に決着をつける夏休みとなった。
再起不能かと思われた彼を立ち直らせるのは手芸部の かわいい後輩・津和野。
香菜の表面上の顔に騙されて、逆恨みによって第三者を巻き込んだ宍道だったが、
津和野は ちゃんと彼の本質や美質を分かってくれていた。
そして腐りかけている自分に声をかけ続け、外に連れ出してくれることによって、
日中や室内では味わえない涼しい夜風で頭を冷やさせてくれた。
津和野は本当、にま と同じ立ち位置にいるなぁ。
一方、にま によって更生し、津和野の失恋を知った香菜もまた リスタートを切る。
津和野に自分の悪いところを聞き、8割がた直すことを今後の目標とする。
宍道は その場にいることで間接的に彼女の再出発を知り、
そして自分には見せてくれなかった彼女本人の素顔に触れられた。
これによって宍道にとっての香菜の思い出にピリオドが打たれることになった。
そうして宍道の決着が形となって表れたのが香菜に着て欲しかったワンピース。
一人では有り余る夏休みの時間を彼は服の制作に没頭していた。
その服を華麗に着こなすのは、隠岐島。
少なからず心を傷つけてきた宍道が相手であっても、頼まれれば女装をするのは相変わらず。
でも そうやって、暖簾に腕押しとまではいかなくても、
低反発素材のように、自分の嫌悪も好意も反省も謝罪も、
全て受け入れてくれると見込んだから隠岐島にモデルを頼んだのだろう。
香菜に対する にま のように、宍道にとっては 隠岐島が頭の上がらない好意を持つ人間に代わったはずだ。
そして2人を優しく見守るのは津和野という存在。
津和野最強説はしばらく崩れないと思われる。
にま や津和野にとって、やることの詰まった夏休みは、
頭を空っぽにして、身体を動かすことが出来て、彼らもまた風になでられて冷静になったと思われる。
例え口うるさい生徒会長のオカンによる罰ゲームであっても、
単純にやることがあることが、時間の消費になったはず。
もしかして簸川が校庭の隅で、失恋直後の津和野に出会い、
バイトに誘ったのも、簸川なりの励まし、そして恋の整理法の伝授だったかもしれない。
なんせ『4巻』で口実を作って にま と話し合う機会を設けた完璧男子・簸川だもの、
津和野にも そのぐらいのアフターフォローがあっても おかしくない。
バイトの届け出用紙も最初から2枚用意しているのも その補強材料となる。
意外にも、校内で起こることの全貌が見えているのは簸川なのではないか。
簸川最強説も まだまだ続く。
その点、隠岐島は最強とは言えないなぁ。
「おいたわしい」ほど人の役に立とうとしてくれるし、
人々の駆け込み寺としては役に立っている気がするが、自発的な優しさという点では彼らに劣るか。
正ヒーローは大器晩成で、今後 成長するのだろうか。
そして残りの長い夏休みを挟んで、仕切り直しの2学期が始まる。
アニ研と青心研に入部希望者が1名ずつ現れた。
アニ研は女子生徒の入部に舞い上がり接待をするが、
彼女、1年生の さおりん は、やっぱり癖のある人のようで…。
そして青心研へ入部希望用紙を出すのは2年生の日御崎 世里(ひのみさき せり)。
彼は香菜ばりの情報網を持つ人物で、
人の本質を冷徹に見抜く力を持っている。
そんな厄介な2人の新キャラに振り回されるのは もちろん主人公の にま。
さおりん の過去を知って いつの間にかに恋を応援する側に回っていたり、
日御崎のスキンシップで いつの間にかに2年生女生徒の反感を買ってたり、
2学期も息をつく暇のない学園生活が待っている様子である。