アサダニッキ
青春しょんぼりクラブ(せいしゅんしょんぼりくらぶ)
第06巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
新世代ざんねんラブコメディー、青・春・疾・走の第6巻! ! にまに代わって日御崎に好意を持つ先輩女子に目をつけられてしまった香菜。不穏な空気が漂うなか、文化部対抗マラソンが開催。なし崩しに「優勝したら隠岐島がなんでも言うことをきいてくれる」ことが決定して…! ? 友情と恋、どっちを取る、にま! ?
簡潔完結感想文
文化系部活動オールスター体育祭、の 6巻。
全15+1巻の作品なので、まだまだ中間地点にも差し掛かっていませんが、
『6巻』は これまで登場してきた人物たちが勢揃いする巻となっている。
既存キャラで、今回 登場してこなかった人は いないんじゃないかなぁ。
『6巻』時点で登場人物紹介には15人のキャラクタがいるが、
その各人が1つの学校内で それぞれ動き回って、それぞれに青春している様子が見て取れる。
これだけの人数を動かしているだけでも凄いことだ。
じっくり読んでいることもあり、それぞれのキャラクタが更に深く分かってくるのは再読の喜び。
読者も2回目は俯瞰で学校全体を見られるので、人と人との関係が より見えてくる。
中でも再読で評価を上げたのは簸川(ひかわ)。
彼は前髪で隠れた目で、何もかも見通しているのではないかという気になる。
三次元の他者などには無関心かと思いきや、
人間関係のバランスを一番 取っているように見える。
やっぱり初読時は、主役たちに目が奪われているんだなぁ。
今回は ほぼ体育祭と その前日譚で、その中でも1つの競技に過ぎない文化系マラソンが話題の中心。
なので体育祭に関わる必要性の薄い生徒会副会長などは、冒頭でササっと登場するだけ(可愛いけど)。
これは『6巻』で全キャラ登場を果たすためなの措置なのかと邪推してしまう。
イベントとしては体育祭、マラソン競技を中心に据えているが、
校内の台風の目となるのは表紙に並んでいる、影響力のある2人の男子生徒。
もはや隠岐島(おきのしま・右)と日御崎(ひのみさき・左)は存在が罪。
彼らを巡る思惑と陰謀に、主人公たちは賑やかに巻き込まれていく。
本書の前半は各部のマラソン代表選手の選出を巡る大騒ぎが描かれ、
そして後半は体育祭当日なのだが、
日の当たらない競技と、日の当たらない場所で事件は起こっていた。
学校イベントに乗じた胸キュン場面は本書では ほぼない。
なにせ主人公が振られたばっかだしね…。
当日も、借り物の競争での胸キュンとか、
転んでしまったヒロインを お姫さま抱っこで保健室に運ぶなどの、
少女漫画あるある が一切ない。
描写は地味を極め、華やかさはない。
だけど ずっと あちらこちらで事件が起きる、本番までの高揚感、
そして本番の日のトラブルなど、ハレの日の心地良い騒がしさに溢れている。
体育祭当日まで2つのことが並行して描かれていく。
1つがメインとなるマラソン出場者の選考と その本番。
この文化部対抗マラソンは優勝団体には特別枠の予算が出ることから、
文化系部活が張り切ってしまう競技となっている。
青心研、アニ研、手芸部、これまで登場した部活の それぞれの代表者決定までの紆余曲折が語られる。
優勝候補は手芸部の津和野(つわの)。
1学期途中まで野球部で、今も走り込みを続けている強者。
しかし1学期途中まで体育会系部活(野球部)に所属していた津和野は出場禁止となる。
この裁定を下したのは生徒会。
生徒会長・オカンの仕事量は並じゃない。
そこで手芸部は残る男子生徒・宍道(しんじ)を担ぎ出す。
運動に縁がない宍道は拒絶するが、かわいい後輩・津和野には弱く、
彼が立てた練習計画をこなす日々が始まる。
青心研は運動神経を無駄遣いスペックとする簸川の擁立を目論むが、彼はアニ研が確保済み。
簸川はアニ研から出場することも満更でもないことが、隠岐島には それが不愉快。
どうも隠岐島は独占欲が強いらしく、自分の周辺の者が自分から遠ざかるのを嫌う傾向にあるらしい。
愛が重いタイプなのね。
そんな彼の性格を知って動く青心研部員が2人。
簸川はアニ研を断り、青心研からの出場を決めた。
アニ研の勧誘の誘惑を自分で断ち切るために、先に自分で聖地巡礼の旅をしてきたらしい。
自分の弱さは自分で克服して、仁義を貫く。
更には次の展開への布石を打つ簸川がイケメンすぎる。
このために夏休みの簸川のバイトと収入はあったのか。
話の種をまくのが上手だなぁ。
だが簸川は青心研代表に交換条件を提示する。
「隠岐島 優勝したら オレの頼みを なんでもひとつ聞いてくれ」
この話は噂となり失敗した伝言ゲームの結果のように内容が改変される。
文化部系の中では「マラソンの勝者には もれなく隠岐島がついてくる」として定着した。
なんだよ、ついてくるって…(笑)
しかし これが女子生徒と一部の男子生徒に熱烈な やる気の渦を生み出させた。
この噂は隠岐島自身にダメージを与えるが、にま の焦燥も増す。
隠岐島の前に自分以外の女性が現れることを阻止できないのなら、自分で優勝を狙うのが にまだ。
簸川もそうだが、にま も誰かに頼ったりせずに、
自分の足で歩こうという意思が見えるのが良いですね。
というか簸川は にまが取るべき進路を、まず自分の行動を手本とさせている気がする。
迷いを断ち切るのは自分自身しかいない。
そんな簸川の背中を見て、にま も自分の足で踏みだした。
もはや にま にとって簸川は先輩ではなく師匠である。
そのぐらい 彼の行動は先を見据えている。
そして誰かの甘言にそそのかされると、それが日御崎がいう所の「カード」となって、
知らず知らずに他人の影響下に置かれてしまうが、
自分の行動だけで、自分の意思を貫こうとすれば その しがらみから逃れられる。
時に空回ったりしてしまうが、日御崎にとって にまが特別に見えるのは、
彼女が自分の行動を自分でコントロールしているところにあるのではないか。
にま が隠岐島に願うことは…。
告白後の にま の日々は、彼女にとっての隠岐島がどれだけ特別かを表している。
隠岐島は にま の好意があっという間に次の対象に移行すると踏んでいたみたい。
これは彼が告白を断った理由の一つだろう。
にまが これほどまでに真剣に想っていることで、
彼もまた自分で歩みを進める 自発的な行動に出ることが出来るのだろうか。
誰にでも優しい隠岐島だから好きになったのだが、
恋をすると自分にだけ優しい彼を欲してしまう。
これは巻末の「番外編」に通じるテーマである。
そんな心の動きから にま はアニ研に電撃的に入部して、そこで選手となった。
その報告を聞いて唖然とする青心研メンバー。
ただし、簸川は口角を上げている。
これが簸川が隠岐島を副賞として担ぎ上げた理由か。
もはや学校中が簸川というお釈迦様の手のひらで踊っているのではないか、と思うぐらいだ。
津和野が直球の言葉で人を前向きにさせる一方、簸川は変化球でやる気を出させている。
ヒーローよりも賢く したたかなフィクサーだなぁ。
眼鏡クールキャラじゃないのが不思議なぐらいだ。
だが 本番当日ではアクシデントが続出。
それが もう一つの渦、日御崎を巡る女子生徒たちの暗躍。
2学期の開始とともに にま の周辺に現れるようになった日御崎。
それが気に入らないのが彼を気に入っている主に2年生の女子生徒たち。
最初は にま に向けられていた敵意だったが、
にま への嫌がらせ計画を知った香菜が、にま の防波堤となり、
彼女に類が及ぶ前に、自分を標的に すり替えさせた。
にまがマラソンの代表問題に振り回されている頃、
香菜への嫌がらせはエスカレートしており、主に彼女の物品を中心に危害を加えられていた。
その最大の嫌がらせが体育祭当日の体育倉庫への呼び出し。
(当日は体育祭での使用で最も出入りが激しい場所のような気がするが…)
マラソンのスタート直前に香菜が女生徒に囲まれて倉庫に入っていく場面を目撃した にま は動揺する。
そして事情を把握している日御崎はノータッチを宣言するが…。
この場面は、にま にとっての究極の選択と言える。いや、それは言い過ぎか。
マラソンへ出場すれば、万が一ではあるが、隠岐島の独占に繋がる。
だが香菜を選べば、隠岐島は誰かの言うことを聞いてしまう。
自分より近くに隠岐島のそばに女性がいること、それは 当て馬体質の にまが最も恐れることなのだが…。
彼女が選んだのは体育倉庫。
単純に言えば、自分の恋よりも友情を取った。
親友の窮地を知って、それでも見て見ぬふりをして自分の事情を優先させるなど、彼女に出来る訳がない。
にま の視野は時に少し狭いけど、目に見える範囲の人とは誠実に向き合う。
それは自分も含めてだろう。
そして こういう行動が日御崎の にまへの興味を更に強めるのだろう。
彼らしくないトラブルへの直接介入をして、事を穏便に済ませる。
この場面もヒロインのピンチなのだから、通常の少女漫画ならヒーローが登場するところだ。
しかし現れたのは日御崎。
ヒーローの隠岐島がピンチを知るのは全てが終わった後。
ここでヒーロー代行したことが、日御崎の恋愛参入の伏線なのかな。
ちなみに にま は競技棄権扱いだが、
日御崎は ちゃんとマラソンの代役を立ててから体育倉庫に来ていて 抜け目がない。
結局、手芸部の走者は宍道になった。
彼にとっては、周囲に迷惑をかけた禊ぎのランとなるのだろうか。
そして最後の出演っぽい気もする。
この競技の優勝者と優勝団体は意外なところから出る。
欲望の強さと、備わっていた強靭な持久力が勝因か。
ただの お笑い担当かと思っていたのに。
隠岐島にとって一番厄介な人が優勝したともいえる。
にま にとっては、敵愾心を剥き出しにしなくても済む人かな。
いや やっぱり男女は関係なく、隠岐島が希望に応えること自体が、苦しいか。
ちなみに その人を擁した珠算部は物語の後半で出番がある。
こうして2人の男子生徒の周囲で渦巻く欲望と陰謀は消滅した。
しかし今度は、彼ら自身が渦の中に巻き込まれていくようで…。
「番外編」…
いかにもネタの記憶喪失になった にま の夢の世界。
これは読者は まだまだ見られそうもない、2人の交際を先出ししてくれたのか。
にまが言う隠岐島の好きなところが読めて良かった。
いい子たちだなぁ…。