《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

両想いになっても秘密厳守 かつ 手を出さない展開は、教師と生徒の恋愛に似ている。

世界の端っことあんずジャム(3) (デザートコミックス)
桐島 りら(きりしま りら)
世界の端っことあんずジャム(せかいのはしっことあんずじゃむ)
第03巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

ツアー中の杏子(あんず)を追っかけて、徳島まで来てしまったひな。他のメンバーにも内緒で、ついにホテルの部屋に2人っきり。ベッドに押し倒されちゃって…!? 杏子の本当の気持ちが知りたい…でも、もう「好き」って気持ちは止められないっ。 <ベッドン>に、<2回目>に、<背中にキスぅ!?> スイッチ入っちゃった杏子が怒涛のスイート攻撃…。イチャラブにもほどがあるっ。大人気の音速ラブ、熱愛バージョンに突入です!

簡潔完結感想文

  • 告白をスルーからの両想い。泣いてると助けてくれるシステムが興を削ぐ。
  • 修旅は遠距離恋愛の始まり。責任を負いたくないバンドマンは夜逃げ(嘘)
  • 愛を なかなか育めない2人。蜜月は短いが 不幸も短い。展開の早さが興を削ぐ。

ンドの方向性に意見の違いが全くない 3巻。

主人公・ひな の3泊4日の修学旅行中にヒーロー・杏子(あんず)のバンドのメジャーデビューが決まる。
そうして彼がスターへの階段を一歩ずつ上がる度に、2人の距離は広がってしまう、
という すれ違い展開のために用意されたであろうメジャー移籍。

確かに恋愛面では狙い通りの不安が主人公の心に湧きあがったし(一時的だったが)、
彼が一層 世間的に特別な存在になることで、この恋は価値が上がったように感じられるだろう。

…が、この急展開によって失われたものがある。
それが、バンド描写のリアリティ。

これまで汗臭いバンド活動をしてきた彼らが、急に ただのアイドルと変わらなくなってしまった。
また以前にも書いたが、バンドメンバーが全員 仲良しグループなのも残念。
同じバンドメンバーでも互いに少なからず不満を抱えて、
新しい道に進む時には衝突があってしかるべきなのに、何もない。
というか、彼らの話し合いの描写が一切ない。

せっかく始動した自分たちの新プロジェクトを台無しにするような爆弾(女子高生との交際)を、
杏子が抱えているのに、他のメンバーたちは不平不満を述べるどころか応援する始末。

これでは「皆さんのお陰で 僕たちは今 ここに立てています! ありがとーー!!」と
爽やかな声でファンに感謝を述べる男性アイドルアニメと綺麗事の度合いでは変わらない。
本書は年齢層高めの読者を狙っているようで、甘ーい夢物語でしかないことがチグハグに感じる。


愛の障害として彼らをメジャーに引き上げたプロデューサーを用意して、
彼が恋愛禁止令を出し、杏子の行動を牽制する。

ここで疑問なのは、彼らのバンドが なぜ このバンドをアイドル売りするプロデューサーと組んだのか、ということ。
そして そもそも彼らはメジャーデビューが目標だったのかも疑問だ。
本書で最も大事なバンドの輪郭が どんどんボヤけていく。

杏子と離れるという、ひな の青天の霹靂の悲しみのためだけに、
バンドの決断が全てカットされていて、バンドの成長物語としても中途半端になってしまった。

ともすると そこそこの活動歴があり、いい年をした彼らが、
生活のためにメジャーに移籍し、その手段として方向性の違うプロデューサーを招き入れたように見えてしまう。


想より早かった『2巻』での杏子の過去の暴露。
そのトラウマというべく経験を払拭しないまま、恋愛が解禁されたのも予想外だった。
トラウマ解消前に恋愛解禁なんて、少女漫画的にはルール違反だ。

押しかけるようにバンドに同行し、もう行く当てのない ひなを杏子は拾った。
自分のホテルの部屋に連れ込み、ベッドの上で向かい合うが…。

ひな は杏子に想いを伝えたが、彼は応えてはくれなかった。
翌朝、ひな がホテルを出るまで2人は明るく接する。
杏子の顔にメガネはなく素顔なのに、その距離はマンションの管理人と住人という関係のまま。

これは ひなが望む関係ではなかった。
杏子とエレベーターホールで別れた後、エレベーター内で恋の終わりに涙を濡らす ひなだったが、
彼女の涙に いつも現れてくれるのがヒーロー。

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主人公が不安に押しつぶされる描写が2話以上 続かないのは良いことなのか悪いことなのか。

想いです。
下げて上げるのが胸キュンの基本構造ですから、
キュンとしない訳じゃないし、良い場面なんだけど、
心情的には2人の心の動きが あんまり理解が出来ない。

この前後もそうですが、ひなが いつの間にか泣きキャラになっているのが残念。
こうも毎回泣かれると、泣けばいいと思ってない?と冷ややかに見てしまう。
そんなに心の弱い子に描かれていなかっただけに違和感がつきまとう。

『3巻』でも そのパターンがあったが、
毎度毎度ライブハウス周辺に現れるのも、ちょっと怖い。
ストーカーか恋愛幽霊か、執着心が強すぎる。

そして胸キュンシーンのパターンが少ないのも気になる。
ひなが泣くか、一人ぼっちでいると、杏子が都合よく表れるパターンは何度 見たことか。
杏子は ひな にGPSでも仕込んでいるの?というぐらい、彼女の前にどこへでも現れる。

肉食系の行動力で彼の周辺に付きまとう割に、
最終的に彼女は正統派ヒロインとして守られてるだけなのも気になる。

あれだけ勤しんでいたマンションの管理人の仕事も、恋愛してから放棄してるし。


ンションの管理人として疑問なのが、
交際してからというもの、杏子が また適切な距離を保っていることに怒った ひなが、
管理人のマスターキーを使って部屋に侵入すること。

これって、仕事しても男女関係としてもマナー違反なんじゃないだろうか。
バンドマンが未成年の女子高生に手を出すのも引くが、管理人としてのルールを守らないのも引く。

ひなって もうちょっと精神年齢高めの設定じゃなかったっけ?
見た目と行動と性格の齟齬が どんどんと加速していくようで楽しめない。


杏子が距離を取っていたのは節度ある関係を保とうとしていたから。
ここら辺は(犯罪的な)年の差カップルの年上の男によく見られる、一方的な自制である。
やはり本書は構造的には、教師モノのカップルに近い。
交際してからの方が、世間の目を意識し、なかなか気軽に会えなくなってしまう。


して突然に『近キョリ恋愛』©みきもと凜 から遠距離恋愛に移行する。

ひな の修学旅行中に、杏子がマンションを出て行ってしまったのだ。

その修旅中、ひなが両想いになって初めて、元同級生・睦(むつ)が登場する。
別の2校が同時に修旅の場所も日程も被るのは少女漫画あるある ですね。

相変わらず睦は、大人の言いそうな常識を振り回してきた。
初登場時や中学時代は こんな頭でっかちなキャラじゃなかったと思うが…。
『2巻』で自分のアプローチの仕方の悪手を自覚したのかと思っていたが、嫉妬からまだ頭に血が上っているみたいだ。

当て馬って同情票から人気を得るもんだと思いますが、睦の人気は低そうですね。

修旅から帰ると、304号室は空き室になっていた…。
なるほど修旅は ひなをマンションから遠ざけ、引っ越しを気付かれない唯一の手法だったのか。


こからすれ違いが始まるが、本書の場合、長く持たない。

相変わらずライブ会場周辺をうろつく ひな。
彼女が独りでいると杏子が見つけてくれるのも もはやパターン化している。

好きなのは、『2巻』で ひなが裸足で乗っていたバンから、
今度は、杏子が裸足で飛び出すところ。
2人の必死さが裸足によく表れていると思う。

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これを機にメンバーに2人の恋愛が知れ渡っても波風は立たない。バンドマンに悪い人はいません!

ただし、すれ違うことに対して杏子は誠心誠意をもって説明しようとしているのに、
別れを言い渡されるかもという自分の不安に負けて、電話に出ない ひな の態度には幻滅。
ひな に2人の交際を2人で進めようという気がないのが気になる。

高校2年生の幼さ や恋愛初心者の表現なのかもしれないが、
そうすると杏子がなぜ彼女に惹かれたのかが、ますます分からなくなる。

杏子がひなを確保することで、
メジャーデビューしても変わらない交際が保証された。
だが、秘密の恋は秘密のままで、次は杏子が仕事か愛かを試されるのでしょうか。

ちなみに女性を死ぬほど抱いてきたヒーロー、ヒロインは なかなか抱けない説、は少女漫画あるある ですね。

彼女の純潔を守ることが純愛に繋がると考えているからなのか、
それとも漫画として切り札として取っといた方が便利だからなのか。

特に男女に年齢差があると、やはり教師モノと同じく、最後の一線を越えてしまうと、
途端に犯罪臭が出してしまうのだろう。

法律的にも清い関係のままでいることが、美しい恋愛を保つ秘訣かもしれない。