《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

一緒に夜空を眺めた君と同じ地平に立つために、今一度 足場を固める年度末。

きみと青い春のはじまり(2) (デザートコミックス)
アサダニッキ
きみと青い春のはじまり(きみとあおいはるのはじまり)
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

誰かに恋をすることが あるなんて――――!!!
誰とも話さず静かに過ごしてきたぼっち女子・末広しろはある日クラス一の人気者・高砂に罰ゲームで告白されたことをきっかけに本気でお付き合いがスタート! 最初は怖がっていたしろだけど、一緒に過ごし、高砂の優しさを知るうちに本気で好きになってしまい…!?
ぼっち女子×オレ様イケメンのジェットコースターラブコメ第2巻!

簡潔完結感想文

  • 真っ白になったように見えるカーテンにも汚れが残り、平和な毎日の足元は危うい。
  • どこへ逃げ隠れても高砂は いつも しろを捜し当て、同じ地平で話をしてくれる。
  • 彼の優しさに甘えた上で成立する交際や関係ではなく、もう一度 出会い直す選択。

中の段階をすべてショートカットしてしまった関係をリセットする 2巻。

ヒロイン・しろ と高砂(たかさご)の2人の関係は、『2巻』中盤で訪れた江ノ島での取材旅行での彼らが辿ったルートと似ている。通常のルートから離れて、高砂が勘で登り始めた道で頂上を目指してしまった彼らは、他の人たちが どんな景色を見て どんな苦労をして ここに辿り着いたのかを知らない。結果的に近道だったから良かったものの先行きが分からないまま とにかく前進するばかりの無計画な行動であった。そして自分の荷物を自分で引き受けず 人に助けを借りながら ただ頂上という目標だけを目指した。そもそも江ノ島に来たのも しろが この時点では書く予定もなかった小説の題材探しという名目で、あやふやな目的だった。

正規のルートで交際という頂上を目指していたら きっと感じることのない胸の痛みが しろ を襲う。

それと同じように彼らは交際というゴールから関係が始まっていて、名ばかりの交際の日々を重ねていく内に相手の良いところ、自分の弱い所を知り、意外な感情に自分が揺さぶられ続ける。
よく知らない相手と過ごす毎日は刺激的とも言えるが、本来なら一緒にいることのないはずの人と一緒に過ごすことは格差を感じ続けるストレスも生まれる。この時点での彼らはスクールカーストの最上位と最下位にいる身分の差があり、本来の恋愛では その関係性や心理的障壁を埋められるという確信を経てから交際に発展する。

だが彼らは罰ゲームによって引くに引けなくなった経緯があり、一般の人が経験すべきことを何も経験しないまま交際が開始されてしまった。だから江ノ島高砂が選んだ道が幸運にも近道だったように、彼らの「交際」も その後に相手を好ましく思うことが出来た。だが、同時に彼ら(特に しろ)は上述の通り、この日々が高砂の気分の上で成立することを痛感する。

高砂は優しいし、しろ は無自覚だろうが、彼もまた毎日しろ の良さを発見していて好きを積もらせている。だから一方的に しろ の手を振り払ったりはしないが、それでも高砂は いつも しろ の立つ地平まで降りてきているという実感が しろ から消えない。

だから彼女は全てを一度リセットする。

高砂との関係を友達から始めることで、今度は恋の喜びも苦しみも受け入れつつ、恋愛成就という頂上を目指すことにした。

しろ が それを決断したのが正規ルートでの帰り道というのも象徴的なような気がする。行きのような誰も通らない、本来は一般人の通行が禁止されている道路によるショートカットではなく、通常ルートで帰ることで2人は当たり前の男女に戻っていくのではないか。

そうして身分の差や視点の差を無くして、初めて同じ高さの地平から互いを見つめ直す。ただし しろ が気づかないだけで、高砂は これまでも しろ と同じ視点を持とうとしている。すべり台の上で籠城をする しろ に下りて来いと同じ高さに立たせたりするのも高砂なりの目線の合わせ方だろう。

『2巻』のラストでは むしろ しろ の方が高砂を神聖視するあまり、彼を高い位置に置いていることが匂わされる。2人が自然に その人の隣に立つ自分で居られるようになった時、彼らの交際は再始動するのだろう。

だが既に両片想い状態の恋愛とは違って、彼らに重要なのは自己の意識改革だろう。同じ地点に立つというのは自分の足場を固めることでもある。内気な自分や隠している自分と改めて向き合う必要が出てくる。既に はじまりかけている青い春とは何も恋愛のことを指す訳ではないのである。


砂への恋を自覚した しろ は髪型を工夫したりと人の目を意識した行動を取り始める。ただし変えた髪型を高砂はスルー。しかし それは少女漫画の王道で、実は高砂は髪型の変化に気が付いていたのだが「変に緊張して言いそびれた」だけ。彼は自分がなぜ緊張するか気づいているだろうか。きっと それはクラスメイトに言う挨拶程度のお世辞や上辺だけの褒め言葉ではない、本心からの言葉だからだろう。本当に照れると彼は語彙力が少なくなる。そして大切なことをほど上手く言えないのが人で、そんな気持ちを代弁してくれるから小説や漫画に価値があるのだろう。

文芸部にも変化があり、クラスメイトの八千代 文彬(やちよ ふみあき)が新入部員として入部する。しっかり者の彼に書類をチェックしてもらうと活動計画も予算書も雑という評価を受ける。そして彼は部の活動内容にも言及し、八千代は しろ に文章を書くことを勧める。

恋を自覚した しろ にとって八千代の存在は安心材料。高砂と2人なら緊張してしまうが、八千代がいる お陰で部として何らかの活動をすることになる。

そんな八千代から しろ は直接、友達になろうと提案され、初めての友達が出来る。
しろ は高砂との交流の成果もあり、八千代とは自然に喋れる。八千代との会話で、誰かと仲良くなることを勝手にあきらめていた自分に、いつまでも手を差し伸べてくれたから変われた、と高砂に感謝する。

だが八千代はそんな しろ の感傷を破壊する。それは罰ゲームに過ぎなかったこと。そして今も しろと高砂は対等じゃないと彼女に現実を見るようなことを言い出す。このメガネ、実はドS!?

一般人は足を踏み入れない近道をしたことが 2人の関係に漂泊しても落ちない汚れのように影を落とす。

千代に事実を改めて突きつけられて しろ は高砂と距離を取る。そんな時に しろ に近づいてきたのが高砂一派の一人、鶴原(つるはら)だった。彼女は美人で明るくクラス内で一目置かれる存在。

鶴原は しろの何もしていない髪型を見て、自分のヘアゴムを貸して、彼女の髪型を整えてあげる。優しいのだが何か目論見を感じてしまうのは少女漫画の美人キャラへの偏見か。ただし しろ の髪をセットした後、手を洗う様子は不穏なものを感じる。

だが しろ は鶴原の友達の女子生徒から、そのヘアゴムが高砂から鶴原に贈られたプレゼントであり、ハンドメイドの一点物だということを知る。2人の仲は そこまで近いもので、自分こそ彼らの関係を邪魔していたと思い知った。

だから高砂から逃亡するのではなく、明日からは高砂と適切な距離をもって接しようと決める。それは高砂への恋を諦めるということでもある。いちクラスメイトとして相応しい行動を取ることが自分の身を引くということだと考える。


砂の勘は鋭い。近道も見抜くし、全てを用事という理由で高砂を遠ざける しろ に対し、その裏には八千代の存在があるのではと探りを入れる。八千代は忠告を認め、そして高砂に しろを裏切るなと念を押す。

そして しろ を追う高砂。滑り台の上にいる彼女を発見するが、しろ は高砂に線引きをした。そのことに高砂はブチ切れる。

それでも自分の恋心を語るわけにはいかない しろ は恋愛感情ではない別の理由をでっち上げる。それが小説の創作だった。それに思い悩むあまり、ついつい高砂を遠ざけたというのが しろ の弁解。その答えに一応 納得した高砂は、しろ と視線を同じにする。

対等な立ち位置となった高砂は、鶴原のヘアゴムは連名で買ったものだという話をしてくれ、しろ の悩みの一つは解消された。勝手に線引きをせず、向き合えば事実は意外にもシンプルなものかもしれないという一例であろう。

こうして世界が違うはずの高砂は しろ と同じ目線に立ち続ける。その度に しろ は高砂の優しさを好意に変換してしまう。


芸部は春休みに取材旅行を敢行する。目的は しろ の小説の題材探しと、新入部員・八千代と部長・高砂の親睦を深めることである。

だが旅行では高砂と八千代は常に言い争っている状態。その2人の親睦を何とか深めさせようと、しろ は自分がこの日を楽しみにしていたことを正直に話す。それは2人も同じ。気の合う部活仲間だ。

上述の通り、高砂の勘で正規ルートではなく頂上までショートカットしたのは、彼らの恋愛にも似ている。好きになって告白して、交際している訳ではないから、カップルが鳴らすという鐘を一緒にならそうと提案されても、しろ は嬉しいのに苦しくなる。

高砂が引くに引けなくて交際を継続しているのに、しろ は自分の願望も込めて それに乗っかっている。そして この関係の継続を願っている。そんな自分の卑怯さや、歪んだ関係性を感じずにはいられないからだろう。

帰り道は正規のルートで帰るのだが人混みが多くて しろ は2人と はぐれる。久し振りに ひとりぼっちになった恐怖に身がすくむが、高砂の名前を大声で呼ぶ。そんな しろ を高砂は犬のように撫でまわし褒めるが、それは恋人の それとは違う。

だから しろ は高砂と友達になることを願う。

それは交際を止めるということであった。
この関係は不健全で、高砂の優しさの上に成立している。そこに甘えることで しろ には負い目が消えない。だから もう一度 最初からリセットすることで、ショートカットではない対等な目線から始めようとする。

ただ「友達から! よろしくお願いします!!」という言葉は恋人を目指す第一歩。高砂は しろ にフラれながらも、告白されたような状態である。


2年生になり、彼らの友達関係が始まる。恋人ではないので迎えに来ないはずの高砂は玄関前にいた。友達でも一緒に学校に行くことは出来る、というのが高砂の言い分。

2年生のクラスは1年生の持ちあがりで、顔ぶれは一緒。だからこそクラスメイトたちは高砂の罰ゲームが終了したという噂でもちきり。だが表面上は2人の関係は あまり変わっていないように見える。

しろ は自分が変革の一環として本気で小説に挑むことにした。嘘から出た実である。

そして お昼休みには初めて しろ から高砂をご飯に誘う。別れたことで友達になった2人だから、クラスメイトたちも合同で食事をすることになる。しろの世界はまた広がり始めた。

その後、しろ は高砂を小説の登場人物のモデルにするため彼に取材を始める。そして高砂の周囲の人にも彼のことを取材し、高砂の人柄や人気・人脈に感心する。

そのことを書き込んだノートを文芸部の部室で確認していると高砂がやってきた。自分の小説の内容について高砂からの追及を逃れるために、咄嗟に眠ったふりをした しろ。
しろ の手から床に落ちたノートを見て、高砂は しろの自分への過大評価を知る。だが「高砂君のことは 信じられる。」という彼女の一文を見て、心を揺さぶられる。

立ち上がった高砂は、しろ の おでこにキスをして立ち去った! 友達として対等な関係にリセットされたはずが、早くも恋の嵐が吹き荒れる!?

高砂の心理としては『1巻』での しろの「高砂君 いなくならないで…」という言葉同様に、自分を信じてくれる しろ に感謝するべき場面なのだろう。教室の中で独りでいる しろを高砂が見つけたように、教室で大勢の中にいる高砂を しろ はたった一人の高砂として見てくれている。自分をしっかりと必要としてくれることが彼には嬉しいのではないか。