《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

前橋に続いて徳島のライブ会場にも現れる熱心な女子高生ファンが少し怖いんですけど…。

世界の端っことあんずジャム(2) (デザートコミックス)
桐島 りら(きりしま りら)
世界の端っことあんずジャム(せかいのはしっことあんずじゃむ)
第02巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

バンドマンの杏子(あんず)と急接近したひな。だけど、かつての想い人・むっちゃんとの再会に三人の関係はビミョーに……。それでも杏子の温かい素顔に接するたびに、ひなは恋心を募らせていく。一方、杏子は過去の恋のトラウマからそっと身を引こうとしていて……。熱い思いを伝えたいひなは、ついに大胆な行動に出ちゃったんだけど!? 甘すぎてキケンな杏子の魅力で人気急上昇の音速ラブ! ベッドン……もあります!!

簡潔完結感想文

  • ヒロインの知らないところで男性たちが恋の鞘当て とデコチューと抱擁。
  • 秘密の恋で相談相手がいないから、当て馬がオカン的常識的見解を述べる。
  • 車の端っこに推定8時間 微動だにしないヒロインの若さよ。膀胱的にも…。

食系女子高生が獲物を追い詰める 2巻。

ちょっと優しくしたら勘違いして、部屋に勝手に入ってきたり、
車内で抱きついてきたり、行動がエスカレートする一方の、同じマンションの女子高生がいるんです。
彼女の行動が怖くなって、少し距離を置いたつもりなのに、
なぜか彼女は自分が活動するバンドのライブ会場に いつも立っているんです。
明らかに拒んでいるのに言うこと聞かなくて、僕、精神的に追い詰められているんです、刑事さん…。

…というのは全部 嘘だが、内容的にはそんな感じです。
大人のバンドボーカルの人と、どうやったら知り合いになれて、
どうやったら交際できるか という妄想を、女性側に都合よく描いたのが本書です。
多分、本書を一番楽しんでいるのは作者だと思う。
私は この作品と作者の距離の近さが ちょっと苦手です。
もうちょっと客観的に物語を俯瞰して欲しい。

例えば『2巻』で初めて明らかに設定が幾つかある。
ヒーロー・杏子(あんず)が傷を負った過去とか、舞台の設定などである。

前者は まだいい。
というか逆に、もう出してしまうの⁉と驚いたぐらいだ。

問題なのは後者。
主人公の ひな が実質 管理人になっているマンションの場所が東京だと明らかになる。
これは遅すぎる。
『1巻』で彼女は杏子を追って前橋のライブハウスに行ったのだが、
彼女の住むところが群馬県内なのか、東京なのかが分からないままだった。
ちゃんと距離に変換できないから彼女の行動の大胆さが具体的にイメージしづらかった。

そして ひなは高校1年生らしい。
16歳とは明示されていたものの『1巻』では1年生か2年生か分からなかった。
同級生との勉強風景での教科書が「古文Ⅰ」と読めるから そこから推測も出来るのだろうが、
年齢不詳設定の杏子はともかく、10代の1学年の差は大きいので最初に分からせて欲しかった。

やっぱり作者の頭の中に出来上がっている脳内設定と描かれている内容に齟齬が生じている。
初の長編作品の上に、自分が好きなジャンルだから全てが先走っているように感じられる。


れは恋愛描写も同じ。
作者の中で巻き起こっている感情の高まりや揺れが、全部紙面に落とし込まれているかというと疑問に思う。

その一方で話はグイグイと前へ前へ、作者の進ませたい方向に進むから、登場人物たちの心の動きがいまいち掴めない。
同じ題材でも、もっと上手く表現できる人がいるのでは、と思ってしまう。

ところどころ展開が雑なのも気になるところ。
特に胸キュン展開がわざとらしい。
主人公が泣いていると、どこへでもヒーローが現れるのが ご都合主義すぎる。

こういうのって講談社の少女漫画誌だったら「別冊フレンド」の範疇だと思ったが、
少し落ち着いた内容が多い2010年代の「デザート」でもこういうことするのかと意外に思った。

また、連載がどこまで続くか分からないから、
取り敢えず描きたい場面から描いているような、悪い意味でのアドリブ性を感じる。
前のめりすぎて、読者の心地良いテンポから少しずつズレているように思う。


巻のラストから、主人公・ひな の中学の同級生・睦(むつ・男)が登場。

彼は孤独だった ひな の手を握ってくれた人。
当時は睦に彼女がいたから上手くいかなかったが、今は別れてフリーとなり、1年ぶりに再会した。

睦は杏子を恋のライバルだと早期から認識し、
ひな の知らないところで何度か恋の鞘当てが繰り広げられる。
これは乙女がキュンキュンしちゃうシチュエーションですね。

そして睦は早々に杏子がひな が持っているCDのバンドのボーカルと同一人物と気づく。
オーラを消すはずの逆変身アイテムのメガネも、恋の匂いに敏感な当て馬には効果がないようだ。

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睦は杏子とベッドインもデコチューも抱擁もしている。ひな の良きライバルである(笑)

そんな三角関係とも言える ひな・杏子・睦の3人が、飲み会の後の夜に1つのベッドで眠る夢物語が語られる。

一応、こうなるまでの理由は用意しているのだが、無理矢理差が悪目立ちする。
ひな には自室があって、ひな の部屋で寝ているというウメちゃんも このマンションの住人なんだから、
寝る場所は確保できるのに、ひな たちが杏子の部屋のベッドを使うという強引な展開。

睦は登場した途端に怒涛の攻勢に出る。
本書の10代の恋愛は生き急いでいる感があって、情緒がない。
どの人も自分の都合でばかり動くことが、彼らを好きになれない原因となってしまっている。

睦は発熱しているのに ひなに会いに行き、彼女の目の前で倒れるのも自業自得で好きになれない。
その日、ひな は杏子とギターを楽器屋で一緒に見るつもりだったが、
ひな は優しさからその場を離れられない。

『1巻』でも書いたが、この睦と杏子のバトルは、アイドル VS バンドマンの代理戦争だと思っている。
アイドル担当の睦を、嘘はないが直情的で子供っぽくする一方で、
バンドマン担当の杏子は、経験豊富な大人で 暴走するライバルの睦をも温かく包容する大きな存在にしている。

ひなが応援する対象も、映像を見て黄色い歓声を上げる遠い存在から、
ライブハウスで生の声、生の音を聞いて実践的な恋愛対象としてのバンドマンに移行させている、ような気がする。

にしても、杏子と睦は急接近している。
ベッドでは隣同士に寝るし、翌朝はデコチューするし、
恋のアプローチの仕方を間違えていると思っても引き返せない睦を優しく抱きしめてるし…。
『2巻』のベストカップルは この2人なんじゃないだろうか(笑)


キャラが突然現れるのが『2巻』。
マンションの住人・ウメちゃんのバー(ゲイバー?)に現れた女性は ひなの母。

最初は てっきり『1巻』で杏子とキスして、ひなを牽制した女性かと思っちゃいましたよ。
白髪メガネキャラの杏子と中津といい、どうして似たようなタイプの人を出すのだろうか。
40歳を超えているであろう ひなの母と、20代であろう女性が同じように見えてしまうのも問題。
キャラ数を絞るか、もう少し分かりやすい描き分けを意識するかして欲しい。

自分の会話の相手が ひな の母だと悟ったからか、杏子は彼女に自分の過去を話す。

彼は兄の婚約者を奪(と)った。
それによって家を追い出され、更には彼女のことも幸せに出来なくて、自分だけ逃げた。

上記の通り、意外にも早い杏子の告白となりました。
なぜ会って2回目の謎の女性に杏子が全てを話すのかは謎です。
ひな と杏子の孤独な魂が共鳴したように、ひな母にも同じ匂いを嗅ぎ取ったからだろうか。

少女漫画は兄の恋人を好きになる人、多いですねぇ。
叶わぬ愛が悲劇性を高め、キャラを愛おしく思う読者が多いのかな。
ただ大半は横恋慕するだけだが、実際に奪ったケースはレアかもしれない。

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早めに語られる杏子のトラウマ。恋愛解禁は この問題を解決してからなのだろうか。

うして過去を思い出し、改めて自分は人を幸せに出来ないと思った杏子は、ひなと距離を取る。

少女漫画に登場する男って、勝手に自分のスタンスを決めて、勝手に距離を取る場合が多すぎる。
この場合は女性側に乗り越えさせて成長させる結末までが1セットです。

そしてヒールのある靴を履いて、足を痛めてしまうのは少女漫画あるある。
大人になりきれない少女性の象徴なんでしょうか。

睦は、自分の都合で ひなが杏子へ接近することを阻止しようとしている。
そのために、ずっと杏子を比較対象として挙げて、自分がいかに優良物件かをアピールする。

相手を蹴落とそうという悪いプレゼンだが、
これは彼女の周囲にはいない良識的な相談者の役割でもあるのかな、とフォローできる。

ひな にとっては友人にも話せない恋で、親もずっと疎遠だから、睦がその役割を担ってくれているのか。
彼は 一般的な常識的な観点から、バンドマンの危険性や将来の心配をしてくれているのだ。

だが、それでも、常識を振り切ってでも ひな は杏子を望むのだった…。


き放された杏子だが、彼女は独特の手段で杏子に縋り付く。

それがバンドメンバーと楽器を積んだ移動バンへの無断乗車。
ちなみに東京からだと徳島までの移動に要する時間は8時間以上みたいだ。
この間、彼女は身動き一つせず、トイレにも立たずに座っていたのだろうか…。

だが意を決した行動も、再び彼に放置されてしまう。

そんな彼女を助けてくれるのは、母。

彼女は自分の失敗から娘を説教は出来ない。
だから ひなが挑戦すること、そして失敗しても自分が受け止めることを彼女に伝える。
これまで世界から弾かれていた彼女が、精神的なセーフティーネットを手に入れた。

…と、描きたいことは分かるのだが、心の動きとしては何か大事なものをすっ飛ばした感じがする。

ずっと会わなかった2人が電話口でいきなり距離を埋め過ぎである。
せめて、母は杏子の言葉で勇気をもらって娘に会いに行くとかしないと話が繋がらない。

これは車に乗ったことも同じ。
健気で親の代わりに働く人が、全てを放り出したかのような行動に走るか謎。
本来、彼女の仕事でないことは分かるが、マンション管理のことなど考えもしない。
これは、家庭を捨てて飛び出した母と同じ行動を取ったということなのだろうか。

『1巻』でも前橋のライブハウス前でも泣いて、その後 目の前に杏子が現れたが、今回の徳島でも流れが全く同じ。
恋のため、という聞こえの良い理由はあるが、自分が勝手に行動して、
傷ついて途方に暮れていると、男性が慰めてくれるという自己満足の展開にしか見えない。

恋愛に関して ひな に健気な可愛さが全く感じられないのが残念である。