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咲坂作品で最長の交際描写を誇る俺たちの到達点は、彼女の家で家族とトランプ!(理央)

思い、思われ、ふり、ふられ 11 (マーガレットコミックスDIGITAL)
咲坂 伊緒(さきさか いお)
思い、思われ、ふり、ふられ(おもい、おもわれ、ふり、ふられ)
第11巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

和臣は、朱里に正面から向き合うため、両親に自分の夢を話しました。これで朱里に自分の思いを伝えられる――! 朱里に早く会いたいと気持ちがはやります。でもそのころ、朱里は亮介に告白の返事を迫られて…。2人の思いの行方は?

簡潔完結感想文

  • 物語が動く時は一気呵成に。未来を切り開いて、過去を振り切って 想いを一つに。
  • 有言実行で朱里もまた家族と話す。親友や同級生である弟の助力で家族が一つに。
  • 2組のカップルの お家デート。ラブラブ近キョリ恋愛に弊害が出てきたと思ったら…。

き出すための力が いつもより必要になるのは当たり前(『アオハライド』)、の 11巻。

最初の一歩を踏み出した、または元の場所から自分が移動している実感があれば、
その後は その達成感や自己肯定感が自分を動かしていく。

膠着していた朱里(あかり)と和臣(かずおみ)の両片想いは、彼らが自信を得ることで動き始めた。
だが考えてみれば、両想いになった時点では、彼らの問題は何も解決していない。

朱里は自分の母親に対して意見を言えていないままだし、
親に意見をした和臣も自分の願いが本当に届くかどうかは分からない。
でも、彼らには自分が変わったという確証が生まれた。
興奮でジッとしていられない程、感動で涙が止まらない程、自分の変革が嬉しい。

これからの彼らは、誰かに背中を押してもらわなくても、
過去の自分の成功や経験が、彼らの背中を押していくのだろう。
一度 動き始めたら、後は止まらないようにするだけだ。


れは「好き」という気持ちも同じだろう。
これまで色々な事情や言い訳で蓋をしてきた相手への好意。

それを自分が動き出した この日からは隠す理由や必要がなくなった。
もう封じなくても良い気持ちは、自分が思っている以上に大きく成長するだろう。

本書が良く出来ているのは、そうして日を追うごとに ますます大きくなる気持ちの問題点を描いていること。
先輩カップルである由奈(ゆな)と理央(りお)の2人の交際を通して、
これまでの2人の環境のアドバンテージが反転する様子も描く。

好きだから一緒にいたい、くっついていたいという際限のない気持ちも、
それをところ構わず表現していてはダメなのだ。
まさか同一マンション内恋愛の短所まで描くとは思わなかった。

もしかしたら これは子供であることで苦しめられてきた彼らの、
子供から大人側へと役割が変わっていく第一歩かもしれない。

親に、家族を維持する責任や子供の自由を認めることを訴えるだけでなく、
今度は家族の一員として家族が恥ずかしくない振る舞いをしなくてはならない。

ここからは自分が家族や社会の中で どうあるべきか、が問われる番となる。


書は印象的な一日の描写が長い。
例えば文化祭やクリスマス、バレンタインデーなどだが、その日は最大4視点で語られるから1冊以上の分量になる。

今回は『10巻』から続く、何でもない日だが、
朱里と和臣が それぞれの親に自分の気持ちを伝えると決意した一日は長い。

自分の将来像を親に話した和臣は、問答無用に殴られても、
善意を振りかざされても、背中を向けられても、彼の熱情は止まらなかった。

そして和臣は家族の在り方も問う。
将来云々の前に、この窒息しそうな家族関係を疑問に感じる。

和臣は両親にとって良い息子ではなくなり、親と同じ家族を構成する一員となったと言える。

父も、息子2人ともが同じことを言い出したことに対して思うところはあったようだ。
末っ子の、これまで何の反抗もしなかった和臣までが、1人の人間として成長しようとしている。
お前のため、という言葉で家族を縛ってきた加害者としての自分を意識する契機にはなっただろう。
今後の話し合いを約束して、この日の対話は終わる。

この乾(いぬい)家で、息子2人が それぞれ芸術関係(俳優と映画製作)に進みたいのは偶然なのか。
それとも、この両親が息子たちに そういう文化に触れさせた結果なのか気になる所。
親としては、そういう子供たちとの時間が彼らの血肉になったことは嬉しいことではないか。

父親と対等に話せる、父親が間違いを認める、それは和臣にとって大きな前進。
そして和臣には、その喜びと興奮を共有したい人がいる。


その頃、理央は自宅の最寄り駅で父親を待っていた。
彼もまた男同士の、対等に近い立場での対話を始める。

それは今まで指摘してこなかった父親側の欠点。
妻の苛立ちや頑固さに巻き込まれる自分、という弱者の立場に立つことで父は責任を放棄していると理央は考える。
そして夫婦や家族としての責務を放棄した皺寄せは、子供である自分や朱里に及ぶ。

これは理央が、男女交際に真剣に向き合った経験から発せられる言葉だろう。
交際が上手くいっている時だけでなく、喧嘩もしたことで、
人と人との関係は、お互いの歩み寄りが大切だと身をもって知った。

和臣と理央の家では、子供に委縮させる空気を作っていた。
そんな息苦しさの中にいることを、親に伝えたことが子供にとって大きな一歩で、
親たちは無自覚に彼らを苦しめていたことを大いに反省するところだろう。


じ頃、決着がつけられるのが朱里と元カレ・亮介(りょうすけ)の関係。

朱里は亮介の包容力に甘えるばかりの自分にはなれない。
交際時とは違う態度の亮介にドキリとしたことはあるが、亮介に想いが傾くことはなかった。

もしかしたら亮介は『8巻』で自分が挙げた朱里の特徴そのままに、
「自分が受け入れられ」た気がしたら「すぐ ほだされちゃうん」じゃないかと考えていたのではないか。
だから、彼女に全て寄り掛かればいいと、自分の受け入れ態勢を表明した。

だが、もう朱里はアップデートされていて、以前の攻略法は通用しなくなっていた。
亮介は自分の対応を変えてはみたが、朱里の成長を甘く見ていた。
そして同一人物のアプローチが、未だ過去の朱里に向いていることで、朱里の現在地との違いが明確になった。

これが朱里の過去の清算にもなる。
あの時とは違う恋愛観で、お互いの好意を探り合うような恋愛法ではなく、
身体ごと ぶつかるような恋愛に切り替わった。
だから、その日のうちに和臣に会いに行く。

亮介も、交際当初から自分が思っている以上に ちゃんと朱里に理解されていたことを知って満足する。
きっと自分が思っている以上に彼らの交際は「チョロ」くなかった。
彼は自分たちの交際が「空っぽ」だったことが心配だったのではないか。
弱っている朱里に付け込んだような自分を恥じていたのではないか。
だが、朱里は亮介の良い所をちゃんと見つけてくれていた。
それで心は満たされる。


分の成長を実感できた2人の集合場所は、あの見晴らし台。

この和臣の告白に対して、
朱里が最後まで気づかない鈍感なのは、
これまでのような恋のセンサーを駆使しない初めてのルートを開通するためだろう。
この恋は、これまでの方法論を一切 使わない、愚直な恋でなければならなかった。
お互いに ふられるかもしれない可能性があると知りながら、それでも告白しようという情熱がある。
これは由奈と理央の際と同じ心持ちだろう。

そして由奈と理央に引き続き、朱里と和臣も、
先に女性から告白し、その後に男性から告白されることになる。

その時まで女性たちは男性の自分への好意に気がつかない。
一度 ふられていることが、彼女たちから自惚れを奪っているから。

朱里は不完全燃焼だったとはいえ、これで誰もが1度ずつ自分から告白したことになる。
咲坂作品においては、告白することが1人前の証拠でもあるのです。

いつだって最終ランナーだった和臣が、ちゃんとゴールしてくれて一安心。
出来れば告白は、ズバッと単刀直入に言って欲しかった気もするが、
恋愛センサーが壊れた朱里の描写の必要性もあるから仕方ない。

可能性がゼロでも、両想いから一番遠くても、
それぞれが歩みを止めなかったからこそ、今がある。


れでも朱里には心配事が一つ。
それは、せっかく交際が始まるのに、遠距離になってしまう可能性が残っていること。

だから自分から動く。
和臣がくれた両想いの幸せを力に変えて。

ただし直接的な非難はしない。
帰宅途中にプリンを買って、家族全員の前で その目論見も明け透けに話して、自分の本心を初めて伝える。
そして いつまでも従順な母の味方ではない今の自分を訴える。

が、問題は既に解決しているに等しい。
そこには由奈の奮闘があった。
弟・理央の お節介があった。
父と母の反省があった。
そして朱里は初めて母に心から謝られる。

大団円である。
きっと この後 家族で笑いながらプリンを食べたであろう。


して ここからは2組のカップルの交際編である。
朱里たちの様子も見られるなんて嬉しい限り。

朱里と和臣の初デートは、和臣の家での、あの映画ソフトを一緒に見るというもの。
だが、その日は親もいないという和臣の言葉に朱里は緊張する。

大事な映画が前座に思えるほど、何だかんだでイチャイチャしている2人だが、
その前の ガツガツするなよ、という理央のアドバイスの和臣の解釈が面白すぎた。
天然ってアホの子なの(笑)??

理央が進化を続ける由奈にずっと惚れ続けていくように、
朱里は和臣の天然エピソードに際限のない好きが積もっていくのだろう。

いつぞやとは逆で朱里が理央の背中を押す。教室でずっと見つめてきた彼の背中を独り占め!

由奈と理央も自宅デートだが、両親を交えて4人でトランプというプラン。
理央は和臣に知られたくないと言っているが、
朱里を通して情報が伝わっているのが笑える。
お互いの恋人同士が親友で、距離が近すぎると何でもバレてしまう。

咲坂作品は性描写禁止なんでしょうか。
ここまでで交際半年余りが経過した由奈と理央では、初の試みとして描いて欲しかった気もする。

ただし両親にご挨拶したことで少女漫画的には婚約が内定したといって いいでしょう。
作者的には この顔合わせが『12巻』への布石なんでしょうが、
この時点で理央が相手の両親と会っていることは、幸せは確約されています。


して新学期、2年生への進級となる。

4人は誰も同じクラスにはならない。
だが、彼らは同じマンションに住んでいるという距離感があるので、案外 平気。

そんな中「近キョリ恋愛」だからこその問題が浮上する。
同じマンションの住人に、由奈と理央がイチャついているところを何度も目撃され、噂になってしまう。

近距離交際の難しさが議題かと思いきや、
なんと最後に とんでもない発言が飛び出す…。
実に最終回直前といった展開である。