桐島 りら(きりしま りら)
世界の端っことあんずジャム(せかいのはしっことあんずじゃむ)
第06巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
杏子(あんず)がファンの前で堂々の交際宣言をしてから時は過ぎ、ひなは19歳に。杏子のバンドは大ブレイクして全国ツアーが始まる。 その一方で2人とも、もっと大人でラブラブな関係になりたくて、毎日ドキドキ…! ある夜、「俺の部屋に泊まる?」と杏子に言われたひなは…! ついに2人にその時がきた!? 大人気の女子高生×年上バンドマンの音速LOVE、甘すぎキュンすぎなイチャラブ編で、堂々の完結! 初期作品2本も収録。
簡潔完結感想文
- 1年半後。高校卒業まで純潔を守るところも教師モノと同じ。脇役も全員登場。
- 偽装交際報道がでるのは、本編最終回の告白はなかったことになってるから⁉
- 過去の読切作品に本書の設定の片鱗が見える。好きを漫画にしているのかな。
本編の最終回との整合性はどうなっているのか、の 最終6巻。
作品としては『5巻』で終わっているので、
この『6巻』はボーナストラック集であり、抱き合わせ商法です。
全体の1/3は作者の過去の読切短編が同時収録されています。
半分以上を『あんずジャム』世界が占めているので、まぁまぁ良心的じゃないでしょうか。
内容は本編終了から1年半後、主人公の ひなは高校生から専門学校生(多分)になっている。
彼女を取り巻く環境も大きく変わり、彼女に心の傷を負わせた離婚した両親は再婚することに。
更には母のお腹には19歳下の妹がいるという設定。
背景の変化で時間経過を描きたかったのだろうが、
彼らがどういう形態で生活をしているのか、
マンションの管理人業は誰が担っているかなど詳細は分からない。
考えれば考えるほど身勝手な両親だが、彼らが自由に生きていることで、
この1年半で更に売れっ子バンドマンとなった杏子(あんず)との交際に、
口うるさく意見を言ってこないと、良い風に考えよう。
本編に登場していた友達たちも同窓会のように再集合している。
中でも『5巻』で一切出番のなかった睦(むつ)が復活してくれて嬉しい。
自分に思いを寄せていた中津(なかつ)・睦、
そしてバンドメンバーの達郎(たつろう)と気軽に連絡を取る ひな は やはり魔性の匂いがする。
何気に中津が大学デビューなのか服装が派手になっているのが笑える。
杏子がボーカルを務めるバンドは、メジャーシーンでも快調が続き、
より大きなステージを回る全区ツアーを開催し、
そして その最終目的地にはバンドマンの夢の舞台、武道館が待っているという状況。
杏子にとっては、公私の悩みはただ一つ。
ひな との交際が複数年に亘っているにもかかわらず、未だに清い関係だということ。
そういうムードから一度 遠ざかってしまうと、
どうアプローチしていいか分からなくなった熟年夫婦のようだ。
以前に、2人の秘密の関係は教師と生徒のようだと書きましたが、
本当に杏子も ひな の卒業まで手を出さずにいたらしい。
これは、未成年との性的関係を結ばないことで、バンドを守る意味もあるのだろうか。
ちょっと気になるのが、杏子の所属事務所が流す嘘の熱愛報道。
杏子はプロデューサーが ひな との交際を隠すカモフラージュとして流している、
と ひなをなだめるが、ここに疑問が湧く。
えっ、じゃあ『5巻』でメジャーデビューライブで歌った愛は終わったことになっての⁉
彼がバンドの成功を投げ出す覚悟でファンに告白し、歌い上げた あの名場面は記憶から抹消されたの⁉
ファンからしたらデビュー直後に公私混同をした挙句、
1年半以内に別れたという軽薄さの方が失望に繋がると思うのだが…。
最終回からの流れを断ち切るような展開にガッカリです。
『5巻』で作者の構成力や人の感情を無視した話の作りに疑問を持ったのですが、
それは今回も変わらなかった。
長編を作るのなら、もうちょっと考えを ちゃんと煮詰めた方が良い。
本書を読んで欠点ばかりが目についてしまった。
「ENCORE 1 バンドマンとつきあう方法」…
19歳になった ひな と、その彼氏・杏子のお話。
お気楽な ひな の両親といい、最低の扱いをした杏子の大切な人・美薗(みその)といい、
重い過去との対峙を予感させた伏線は、何もなかったことになった。
中盤、絵も話も雑になっていったのが気になる。
連載の長編化に上手く対応できなかったのだろうか。
「ENCORE 2 彼の部屋で」…
帰宅予定日より早く帰って来るって、以前もやったネタだよね…。
作者の引き出しの少なさが露呈した連載だったなぁ。
そして倦怠期がくると、嘘の帰宅予定日を教えて、空白の時間で現地の女性と仲良くなるんでしょうね。
「ENCORE 3 Apricot Jam Forever」…
引っ張りに引っ張った話ですが朝チュンで処理される。
武道館という夢の舞台を関係者席で見られる優越感。
更には舞台袖まで呼ばれて、特別な人の彼女だという承認欲求は無限に高まる。
『5巻』の音叉に続いて、「おつかいチケット」が『1巻』以来(?)の登場。
左手の薬指に指輪のように巻く、という使い方は良いが、
「いつも ライブの お守りにしてた」は以前にそんな描写がないから、完全に後付けでしかない。
恋愛もバンド活動も一番いい時期を切り取った作品となった。
もしこれから5年後、10年後、上手くいかなくなった2人が大丈夫かと心配になる。
この2人には信用が置けない。
バンド活動に燃え尽きた杏子が、ひな の父親のように日がな一日、寝て暮らす未来が見えるような…。
「SPECIAL TUNE 年の差彼女とつきあう方法」…
杏子の我慢の日々の話。それだけ。
「百年の初恋」…
姉の恋人だった年上の男性が、高校の授業の講師として目の前に現れた。
彼には仄かな初恋と、そして姉を傷つけたというアンビバレントな感情を抱いていて…。
おぉ、私が読んだ作者の作品で初めて音楽が出てこない作品だ。
モチーフもしっかりしていて 一番好きな作品かもしれない。
兄弟の恋人を好きになるとか、男側が悪者になって女性と距離を取るとか、中津(なかつ)とか(笑)、
作者の引き出しの少なさを痛感する作品でもありますが…。
「毒りんご姫」…
りんご の最近できた彼氏の樋口(ひぐち)くんは ヘタレで交際も淡白。
そこに最近 学校に来なかった上月(こうづき)が現われ、樋口と何かと勝負を挑むのだが…。
顔の描き方や性格から、そこはかとなく「いくえみ(綾)男子」の匂いがする樋口くんです。
音楽をしている姿を見れば、何でも解決しちゃうのが作者の作風。
最初からベースをやっていることは知っているから、ギャップという点では半減していて、
作中に2枚、別種のライブチケットが出てきて、無駄に読者を混乱させている。
コードが抜けたのに、マイクが生きているのも素人には分かりにくい。
初めて読んだ『世界の端っこ~』の経験で、作者への信頼感がまるでない私です。