《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

偽りの自分を捨てたら恋は振り出しに戻った。六巻まで続く双子の恋の双六(すごろく)。

ミントな僕ら 4 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
吉住 渉(よしずみ わたる)
ミントな僕ら(みんとなぼくら)
第04巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

未有とついにラブラブ状態になれたのえるは、超ハッピー! でも、交際をせまってくる果林に、女装で学園生活を送ってることがバレそうになり……。 【同時収録】ミントな僕ら 番外編―佐々のウィンター・メモリー

簡潔完結感想文

  • 恋の相手に見抜かれたのは自分の恥ずべき心持ち。お友達に戻りましょう×2。
  • 主役は遅れてやって来る。ミントな僕らの本当の主役はナルシストな僕さ!
  • 佐々龍至は双子の呪いにかかっている。5歳から彼らに振り回されるのは運命。

場人物の入退場が激しい時は、物語の停滞の証拠、の 4巻。

ここにきて双子の恋がどちらもリセットされてしまった。
2人とも交際相手の前で「自然体」の自分でいることが出来なくて、
友達に戻ることで恋に終止符が打たれてしまった。

これまでの失敗を踏まえて、どう反省し、どう成長するかが双子の課題だろう。

その反省期間を埋めるように登場するのが、本書で一番騒がしいキャラ・クリス(栗栖)。

彼ほどインパクトと癖のあるキャラはいないと思うが、
作品にとっての重要性は かなり低い。

正直言って、設定の奇抜さで乗り切れた時期が終わり、
嘘がバレる危機も連発しすぎて新鮮味が切れてきた頃合いである。
秘密も多くの人に共有され、しかも穏便に処理されるから興味が失せてきた。

そんな時のクリスの登場は作品のカンフル剤なのだろうが、効果は薄かった。
後年、この作品を思い出しても前半の記憶ばかり強く、後半の記憶は ぼんやりしているだろう。
(吉住作品では そんなケースが大半だろうが)

クリスは学園の王子様的存在だが、その実態は道化。
コメディ色は強くなったが、所詮、場繋ぎに過ぎない
作品の密度が薄くなる、分かりやすい間延びをしている。


人・果林(かりん)に女装がバレるという巻をまたいでの大事件も、
想像以上にあっけなく処理されてしまい、肩透かしを食らった。

自分の秘密を知られた果林に、主人公・のえる は彼女に洗いざらい全てを話してしまう。
この時、未有(みゆう)に対するトオルの件など話さなくてよい事項だと思うが、彼にそんな計算は出来ない。

弱みを握り、圧倒的な優位に立った果林は巧みに取引を考える。
当然、秘密と引き換えに未有との別離、そして自分との交際を申し出る。

…が、その辺は素直な中学2年生。
果林は好きな相手・のえるに軽蔑される恐怖に耐えられず、秘密を口外しないでいてくれた。
そうして果林はあっさりと引き下がり、物語からも退場する。

作中に悪人がいないのは良いことだが、それにしても波乱だけ起こすために存在した悲しいキャラである。
主要人物以外には冷淡なのが吉住作品の特徴ではないか。
ドラマとしては面白いが、作品に血が通っていないような冷たさも感じる。
どんな展開を用意されても作者の作品では一回も泣かない気がするなぁ。


の後も のえる の心配は絶えない。
彼女の未有の恋人と友人役、彼女を公私にわたって知り尽くしているが、
どんどんと罪悪感ばかりが積もっていく。

好きになればなるほど、恋が順調なほど、自分の汚さが際立っていく。

だが懺悔しようにも、未有は病的に嘘に拒否反応があり、
秘密をバラしてしまうことは、一巻の終わりを意味するらしい。

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ルームメイトの猟奇的な殺人現場を見てしまって動揺している場面、ではない。

間の悪いことに、そんな彼女の性格を知った途端、嘘はバレてしまう。
もはや本書においては秘密が秘密でなくなっていくような…。

嘘に対して怒り心頭に発した未有は、果林よりも行動力を見せる。
先生に事情を話し、のえる を退学処分してもらうというのだ。

そうすると物語が最終回になってしまう事情もあり、
未有は まりあ との部屋の交換で手を打つ。

この妥協点のためにも、未有はトオルを先に好きになり、
のえる に情を移さなければならなかったのだろう。

のえる としては天国から自業自得とはいえ地獄。
彼の初恋はどう選択をしたら問題なく成就したのだろうか。


…って のえる と まりあ の同室が最初から妥当な案なのか!

確かに、学校側に女子寮しか空きがなく、相部屋でなければならないのなら、
部屋替えをして双子で同室にすれば問題はなかったのだ。
当然、姉は弟の性別を知っているんだし。

でもそれだとドラマが起きないから、第三者と同室にする必要があったのだろう。
女装で学校潜入というインパクトで読者を煙に巻いていたのか…。
本当にここまで考えもしなかった。

作品も着地点が見えてきたから、作者自ら設定の穴を暴露したのかな。
色々と秘密が漏洩する巻である。


2人の間に出来てしまった決定的な溝を埋めようと腐心する まりあ と佐々(ささ)。
美しき姉弟愛と友情が のえるを救うことになるか?

しかし まりあ は当然として佐々まで秘密を先に知っているという種明かしをすることは、
全員で未有を騙していた過去が発覚するということでもあった。

のえる の罪は芋づる式に発覚してしまう。
余罪はかなりを多いので、量刑は かなり重くなるでしょう。


未有の態度を軟化させたは、佐々の功績が大きい。
未有とはイトコ同士の関係で、今回の秘密も彼の現在の父が騒動の一因でもある。

この辺は、前半で未有との共通点があることが功を奏している。
人の配置が巧みである。

同じ性別詐称の被害者ともいうべき佐々は、のえる に悪感情を全くもっておらず、
のえる の未有への純粋な感情は嘘偽りがないもの男性側の意見を伝える。


そして まりあ も自分がトオルという人格誕生を教唆したと弟を擁護する。
どちらの主張も、のえるが未有を好きでしてしたこと、という情状酌量を訴えていた。

そんな純粋な気持ちに未有の気持ちも動き始める…。

怒りを取り下げる代わりに未有は、
男バージョンの のえる とは彼氏ではなく友人として付き合うことを宣言する。

姉だけでなく、弟の方も初恋は終わってしまったようだ。


一方で まりあ も不運の重さりもあって、
交際し始めたばかりの大輔(だいすけ)と別れることになった。

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2巻と持たない まりあの交際。ということは6巻の あの結末の後、8巻(架空)では別れてるのか⁉

今回は愛情の不一致が原因か。

再度、擁護するならば まりあは交際中に自他の価値観を見極める人なのだろう。
片想いを募らせれば恋の純度が高まる訳でもないのだ。
この辺りは どの作品を通しても作者の恋愛観が見えるような気がする。

2連続で恋愛中の自分を好きになれなかった まりあ。
最初は不安に押しつぶされたし、今度は相手の気持ちの大きさに押しつぶされた。

過去に相手の不安に悩まされていた自分が、今は相手を不安にさせてしまった。
別れを切り出した自分が、今度は別れを切り出される。

まりあ の2回の失敗は鏡写しであり、この2回を経てこそ彼女は成長する。はず。
そして早くも3回目の恋のフラグが立ち始める。
なるほど、顔も漫画的に1流、人柄も長い時間一緒にいるから熟知している。
友人として等身大の自分でいられる相手。
灯台下暗しである。


のような騒動が終わって現れるのは新キャラ。
同じ学年の学校の有名人ながら、主要キャラ周辺だけは全く存在を知らないという、あからさまな後発キャラです。

彼に存在意義を見出すのなら、のえると未有の冷却期間を埋めてくれるということだけだろう。
双子の恋が成就するまでの地味な期間を派手に見せかけるヴィジュアルと奇抜な言動が彼の責務です。


「番外編 ー 佐々のウィンター・メモリー ー」…
佐々が女嫌いになった原因となった5歳ごろの冬のお話。

実は のえる たち双子と、子供の頃に会ったことのある佐々。
双子の入れ替えトリックを知らずに無駄に傷ついた思い出が語られる。

彼は この双子に振り回される運命なのかもしれない。
もしくは この短編のオチのように、彼の運命の人は のえる なのかもしれない(笑)

最終回は双子で佐々を巡って骨肉の争いをして欲しいなぁ…。

こういう主要キャラ同士が実は子供の頃に会っていたパターンを読むのは久々ですね。

21世紀では流行らないのかな。
思い返してみれば、そのパターンを持ち出す作家さんは20世紀から活躍している人が多いなぁ…。
小規模な前世からの縁、みたいな感じで受け取られてしまい、古臭く思われることを懸念しているのだろうか。