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少女漫画と小説の感想ブログです

頭上からの落下物に続いて、落下する君を守るのも俺の仕事さ。あまーーい!

ハチミツにはつこい(2) (フラワーコミックス)
水瀬 藍(みなせ あい)
ハチミツにはつこい
第02巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

幼なじみに恋をした。だけど、生まれた時からいつもそばにいたせいか、この「すき」が伝わらない。言葉にしても手をつないでも伝わんない。どうしたらこの好きが伝わるんだろう――
大人気作「なみだうさぎ」の水瀬藍が描くちょっぴり切ない幼なじみラブストーリー第2巻!!

簡潔完結感想文

  • 幼なじみもまた鈍感ピュア。彼が初恋に目覚めたのは私じゃない⁉
  • 両片想いだと思いきや、登場人物 総片想い状態。一筋縄じゃいかない。
  • この頃の作者は怪盗キッドに恋をしていたのだろうか。二次創作かよ!

瀬藍作品の序盤はやっぱり面白い、の 2巻。

前作『なみだうさぎ』の時もそうでしたが、序盤のプロットが本当に良く出来ている。

『なみだ』の時は、主人公のヒロインが反発しながらも彼に惹かれていきましたが、
今回はヒロインが近づこうとすると、彼の方が反発して遠ざかってしまった。
そして『2巻』のラストでは遠ざかる彼の背中にヒロインが…、
という これもまた巻末の予想外過ぎる行動で、次の巻に上手にバトンを渡している。

そう考えると『なみだ』はヒーローの鳴海(なるみ)くんが4巻まで毎回 巻末サプライズをしていたけど、
本書ではヒロイン・小春(こはる)が一歩前に踏み出す行動をしている対称性があるみたいだ。
(見返したら『3巻』巻末にもサプライズはあるのだが、小春ではなかったが…)

読者も、もしかしたら小春も99%上手くいくと思っていた幼なじみ同士の恋は、意外な方向に進んでいった。

心理描写はやや幼いながらも、登場人物たちの心の動きは巧みだ。
幼なじみにも家族にも友達にも恵まれている小春が陥った初めての苦境。

その苦しみをどう割り切るかが彼女の真の強さが発揮される場面であり、
この巻末で取った行動によって、読者の誰もが彼女を好ましく思うのではないか。

そうやって読者にこの恋を応援しようという気持ちにさせるプロットが秀逸だから、
『なみだ』に続いて本書も大ベストセラーになったのだと思う。

小春の ぶりっ子に辟易していたはずの私も、いつの間にかに彼女の肩を持っている。
そういう「巻き込み力」が半端ない作者先生なのであった。

ちょっと この『2巻』では自分の趣味を作品内に持ち込み過ぎだが…。


春の夏生(なつき)への一世一代の告白は、糠に釘、暖簾に腕押し。
華麗にスルーされてしまった。
『1巻』の続きを待ち望んだ読者は開始2ページで、ズッコケたことでしょう。
私たちは作者の手腕で『2巻』を読まされてしまったのだから仕方がない。

一緒に時を過ごして10年以上の関係。
小春は高校1年生になって ようやく夏生を「幼なじみ」ではなく、
1人の男性として意識し出したのだが、夏生にとって小春はまだまだ「幼なじみ」でしかなかった。

すれ違う意識の差に次の手を打てない小春。
そんな彼女が出来ることと言えば、夏生に近づく女性を牽制し、
彼が自分以外の誰かを好きになることを阻止すること。

だが彼女の奮闘虚しく、夏生は同じ学校の特進科の西園寺(さいおんじ)に接近してしまう。

そして夏生が西園寺に惹かれ始めていることに、
恋を自覚した小春は気づいてしまう。

生まれて間もなく死んでしまう小春の初恋。
夏生よりも先に小春に恋をさせたことが上手く機能している。

もし これが逆で夏生が西園寺に恋した後に、
小春がやっぱり彼は幼なじみなんかじゃない、と気づくパターンにしたら、
まるで小春が人のものを羨む人のようにも捉えられてしまう。

読者にそんな誤読をさせないためにも、小春が先に恋する必要があった。
そして彼女が失恋することで、自然と読者が彼女の応援団になっていくのだ。

話の流れとしてはベタなんだけど、
細かい配慮が行き届いているので、ヒロインに対する不必要な不快感を回避している。
やはり序盤のプロットは目を見張るものがある。

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誰もが驚く夏生の初恋の相手。南波あつこ さん『隣のあたし』との共通点が多いなぁ。

生への失恋を確定させながらも、まだまだ彼はヒーローの働きをする。

例えば少女漫画恒例の風邪回。

4人の子供を生みながら、自身の仕事に忙しいと、
子育てを長女である小春に任せる ちょっと無責任な両親。

売れない小説家の父、人気の料理研究家の2人が揃って取材旅行に出かけ、
1人で妹たちの面倒を見ていた小春だが、
彼女の恋の悩みが心身を弱らせたらしく、熱を出してしまう。

そんなヒロインのピンチに現れるのはヒーローの夏生。
お姫様抱っこで彼女をベッドまで運び、朝まで一緒にいることを誓う。


しかし小春の椎名(しいな)家はリカちゃんファミリーみたいな家族構成である。
小学生の憧れを詰め込むと、同じようなライフスタイルになるのかな?

夏生の父は冒険家で、母は離婚して家を出て行った。
もしかして幼い頃から、共に両親がいない時間が多かったのかもしれない。
こういう所も小春と夏生が当たり前のように一緒にいる背景だと思うが、
それがちゃんと描かれているかというと、残念ながら違う。

過去編も甘酸っぱい恋の自覚がない恋模様よりも、
もっと魂で寄り添う2人の姿を描いて欲しかった。
(暗めの話で読者需要がないのだろうけど)


春を追い詰める包囲網が徐々に完成していくのが『2巻』である。

彼女が上手くいかない恋に悩んでいる頃、友人・好花(このか)に彼氏が出来る。
それ以前から、小春をけしかけ、恋を指南してきた好花だが、
いよいよ恋愛マスターとしての道を歩み出した。
小春の恋愛面での先輩として、時にしつこいほど、アドバイスを繰り出します。

好花が幸せの絶頂にいるので、相談も出来ない小春。
夏生には聞きたいことも聞けないし、友人には相談できない八方塞がりの完成である。

でも はっきりと別の女性(西園寺)が好きだと夏生に言われたのに、
「たすけて なっちゃん あたしの恋が 死んじゃうよ」という精神構造には呆れてしまった。

死んだんだよ。

恋の息の根を止めた夏生に助けを求めても、手を振り払われて奈落の底に落ちるだけだ。
こういう過剰な乙女なところが、私を辟易させる。


生のヒーロー演出その2は、体育祭での騎馬戦。

そのピンチ演出のために、男子の競技である騎馬戦に出場する小春。
これ、絶対、女子生徒から嫌われるヤツですよね。

小春は夏生の態度には敏感になっているのに、周囲の空気は読めない。
もちろん平和なことしか起こらない本書においては、陰湿な描写はないですけど。

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ここから復帰できる夏生の体幹の強さ。もしかして これが彼に秘められたスポーツの才能なのか⁉

夏生の役割は騎馬から落ちそうになる小春を助けること。

『1巻』1話の入学式の落下物の件も同様だったが、夏生の救出方法に無理がある。
これだけ身体を傾けていたら絶対、夏生も落下すると思うのだけど…。
またも謎の力学(瞬間移動?)が働き、同じ騎馬に2人で乗って愛の共同作業となった。
(支える人の限界を超えている気がするが、物理法則など無視すればよい)

ここで落下しなかったことが、
小春に新たな心境をもたらし、そして幸福な結末に繋がったと考えられる。
大局的に見れば、夏生は自分の手で西園寺との未来を閉ざしてしまったのかもしれない。


育祭における少女漫画の定番シーンは、借り物競争での胸キュンである。
夏生のお題は「好きな人」。
いつもながら生徒のプライバシーなど無視した少女漫画的お題。

西園寺へ向かうことを逡巡する夏生の背中を押したのは、なんと小春。

これで彼女の恋は終わった…。
またも巻末は驚くべき展開となった。
この商売上手!

「番外編」…
中学時代の夏祭りでの一幕。

顔を赤らめて「大好き」とまで言っているのに、これで恋に気づかないとか ありえない。
過去に厚みを出すほど、高校1年生まで恋をしなかったこととの整合性が取れなくなっていく。

この回だけ見ると青山剛昌 先生の『まじっく快斗』の中の1話のようだと思った。
『2巻』でのコスプレといい、この頃の作者は怪盗キッドに心酔していたのでしょうか。

これは小春と夏生の物語ではなく、『まじっく快斗』の主役への当て書きにしか読めない。
どうにも二次創作を見せられているオタク臭がする。

水瀬藍 まじっく快斗」で検索したら、やっぱり そのキャラが好きみたいだ。
自分の嗅覚の鋭さにビックリする(苦笑)