ななじ 眺(ななじ ながむ)
パフェちっく!
第15巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
風呼は教室で転んだ拍子に壱とキス!! 事故とはいえ、一緒にいて楽しそうな大也を見て罪悪感が募る。大也を悲しませたくないと思った風呼は、キスのことは黙っておくことにしたが…? パフェちっく!番外編『ひらがなで「ばら」』も同時収録。
簡潔完結感想文
- 壱と事故チューしたことを言えない問題で1巻分。時間の流れが遅い。
- 生徒会役員選挙。聞く人が聞けば誰の言葉なのか分かる応援演説の内容。
- 初デート以降 ずっと上手くいかない2人。友人たちにも見放される展開。
他の男へのラブレターを間接的に聞かされる 15巻。
主要キャラの一人・壱(いち)が生徒会役員選挙に立候補した。
ヒロインの風呼(ふうこ)は 恋人・大也(だいや)の手前、壱を直接的に応援することは控える。
その代わり壱をよく知る者として応援演説の台本を練ることに協力する。
かつては壱のことを好きだった風呼だから、彼の良い所はスラスラと列挙できた。
本番当日は別の女生徒が壱の応援をするのだが、
風呼の恋愛遍歴を知る大也には、それが風呼の実感のこもった言葉だと分かる。
これが改めて風呼と壱との繋がりを大也に思い知らされる結果となった…。
『15巻』の風呼は、少しずつ間違えて、男性の心に傷をつけまくっている。
この「少しずつ」というのがミソで、彼女に悪意は全く無い。
しかし中途半端に臆病で、中途半端に優しくて、そして絶対的に優柔不断だから、
男性のナイーブな心を全く理解していない。
大也との交際は お試し期間のようなもので、
この間、風呼に求められるのは大也に操(みさお)を立てることだった。
それを証明するには自分が嫌な女に思えるほど壱を遠ざけることが最善だったが、
彼女は そういうバランス感覚を持ち合わせていないから、
自分の心地良い距離である「男友達」に壱を配置しようとしてしまった。
本来は選挙の演説も台本すら手伝ってはいけなかったのだ。
それなのに、中途半端な介入をして、結果的に大也の心に ささくれを作ってしまった。
このことさえ なければ、大也との仲直りは出来たかもしれない。
他の男を褒める言葉など恋人が聞きたいわけがない。
壱との「事故チュー」の件も同じ。
自分の都合と勇気の無さが原因で大也への報告が遅れ、
それによって大也が邪推する余地を生んでしまった。
あれだけ壱の時に、彼が気にする異性・伊織(いおり)の存在が頭を離れなかった風呼なのに、
自分の時は 異性の影を大也に見せてしまっている。
伊織が物語から姿を消しても、今度は風呼が伊織になっている。
大抵の人と仲良くなる風呼が、伊織と仲良くなれなかったのは、
2人がドッペルゲンガーというべき同じ存在だったからかもしれない。
恋人のいる伊織が、壱を「弟」という便利な言葉で定義して 都合よく使っていたように、
風呼は壱を恋愛感情のない「男友達」と再設定することで、彼との関わりを持ち続ける。
伊織という悪女がいなくなったのに、風呼が悪女となっている。
問題は、彼女が自分が伊織の位置に堕ちたことを理解していないことだ。
幸田もも子さん『ヒロイン失格』のように、悪役令嬢を演じるのならまだいいが、
風呼は正統派ヒロインのように立ち振る舞うから苛立ちが募る。
そりゃ、友達からも見限られるはずだわ…。
もちろん作品として完全に壱との恋愛フラグを折ることは出来ないのだろう。
どちらと恋愛が成立するか、が本書の醍醐味なのだから。
だが壱とのフラグを残すから、風呼が優柔不断な人にしか見えなくなる。
壱と事故チューも大也に報告するかどうかで悩む。
『15巻』は ほぼそれだけの内容だ。
大也に言えない罪悪感は、バレンタインデーの手編みの帽子になって編まれる。
完成に近づくほど罪悪感は積もっていくから、結果的に呪いの藁人形のようなアイテムに見える(笑)
そこに加えて、大也との交際を快く思わない女生徒たちからの嫌がらせが始まる。
だが それも大也に負担をかけたくないから黙っている。
大也の負担になることはしたくない、というのは良い心掛けかもしれないが、
逆に言えば、風呼が大也のことを信じきれてないということでもある。
2人の交際のことなのに、1人で抱え込むから物事が循環しないのだ。
壱は生徒会役員選挙。
風呼に女性代表との応援演説を求めるが断られる。
この時の壱は どういうつもりなのでしょうか。
風呼に応援してもらったら百人力なのか、
それとも本人が言うように自分を一番 知っている相手だから選んだのか。
でも大也を想っている風呼を想い続けた壱だから、
彼女が大也と付き合っても一途なのではないだろうか。
この辺がとっても当て馬っぽい心持ちである。
そういえば女性の当て馬って、他の男性キャラとくっついたりするけど、
男性の当て馬は、ずっとヒロインのことを想っている、という場合が多い気がする。
これは女性キャラを独りにさせるとヒロインによって幸せになれない人が出てくると作品に影を落とすことになるが、
逆の場合はヒロインがモテモテという自己承認欲求や満足感にプラスしかないからだろうか。
風呼は演説はしないが台本作成を手伝うという、微妙なラインの協力をする。
その台本作りで改めて壱の良い所を再確認する風呼。
事故ではあるが壱とキスをした。
ただし その事実は残るが、風呼の中で壱への気持ちは再燃しない様子。
この正直な気持ちの動きを、ちゃんと大也に説明すれば良かったのだ。
風呼にとっては 壱は また男友達に戻れたことになっている。
だから恋愛相談もするし、軽口だって言い合える。
やっぱり風呼は「男友達」がいないと、先に進めない体質のようだ。
ここ2巻ぐらい、男性に相談できないことが多くて 閉塞感が漂ってたもんなぁ。
だけど そうやって一方的に何もかもリセットしたつもりでいると楽でしょうね。
壱は一途で粘着質だということを風呼もよく分かってるでしょうに。
前述の通り、伊織にとって壱という存在がどうであれ、
風呼は彼女に対して暗い気持ちを抱き続けたのだ。
ならば、大也にとっての壱が 恋愛問題においては どれだけ快くないか分かるだろうに。
風呼、そして大也も、過去の経験から何も学んでないところが2人の交際編の残念な所である。
しかし「事故チュー」を大也に言えないまま時間は流れ、
話題を変えるために話した、壱の生徒会役員選挙の話を大也は知らなかった。
そのことを大也が壱に「きいた」と話しかけたところ、壱はキスの話だと早合点する。
大也は、よりにもよって壱から問題の一端を知ってしまった。
そして意を決して風呼が言った時は、タイミングとして最悪。
選挙の応援演説でクラスメイトが話した内容は、風呼の言葉だと大也は分かっただろう。
そして時間が経ち過ぎていた。
言えない罪悪感があることが、壱への消え去らない恋心だと大也は思い込んでしまった。
言い争ったら、言ってはいけないことまで言うのは前回の喧嘩と同じ経緯。
風呼の中に壱への想いがないことを証明するのは、悪魔の証明であって、
たとえ自分の唇を差し出しても、その問題は解消しない。
風呼が悪役令嬢から正統派ヒロインに戻る時は やって来るのだろうか…。
「パフェちっく! 番外編 ひらがなで「ばら」」…
感想文で存在を無視し続けていた秋桜(あきお)と磯っち(いそっち)の物語。
この2人の交際は、風呼が出来ない両想いや男女交際を先取りしてもらうためにあったのかな。
その割には 彼らと風呼と大也の交際時期に大差がないのが気になるが。
大也の交際をもう少し先延ばしにすれば、秋桜たちの交際に意味が出てきたのだが。
しかし、この2人 女性上司と新入社員といった感じだ。
秋桜がずっと気にする自分の二面性は結局、磯っちにはバレずに完結したような…。
長編の割に、描き切れなかった部分も多い本書である。