《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

学校内のルールは神である作者が恣意的に運用します。文句を言ったヤツは退学。

モノクロ少年少女 7 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
モノクロ少年少女(ものくろしょうねんしょうじょ)
第07巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

人間界へ脱走した浅葱先輩を見つけ出した呉羽たちは、そのまま姫菱の家で一泊して鍋パーティ! そこで呉羽は、姫菱から“最後の審判“の真相を聞かされる。先輩たちの運命を大きく左右する責任の重さに、呉羽は戸惑い、悩む…。そして3年生の卒業の日を迎えるが !?

簡潔完結感想文

  • 卒業を控えた3年生のギフトの行方。キングには絶対的な権力と責任があった。
  • 彼らの未来は2年後の自分たちの姿。恋からも現実からも逃げ回るウサギ一羽。
  • ルールは全て後出し。再読して考えてみると不自然さばかり目立つ。初読only.

した涙も引っ込みかねない 7巻。

ダメだ、どうしても再読しながらの感想文は設定への疑問点で埋まってしまう。
この世界のルールは『5巻』ぐらいで出きったかな、と思いましたが、
この『7巻』でも新たなルールが提示され、そしてそれがまたツッコミどころが多くて困る。

それが『7巻』で明かされる「ギフト」における『最後の審判』という制度。
舞台である「ケダ高をトップで卒業すると(ケモノが)人間になれる」のが「ギフト」。

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校長からキングに権限が移行した理由も一切なし。条件はただ与えられるだけ。

そして『最後の審判』とは、卒業する3年生の成績の総合結果が同点だった場合、
この学校のキング(生徒会長)が、その両者の内 どちらを人間にするのか、
つまり「ギフト」を与える者を決めるという制度。

何という重い責任。
生徒会長である主人公・呉羽(くれは)が苦しむこと請け合い。

だが安定の後出し設定。
もちろん、これはその事象が起こる直前に この問題を提示しないと、
ずーーーっとキングである呉羽の胃を痛めることになりかねないから、
作者も温めていた考えでも、その回の直前に出すしかないのだろう。

それは、分かる。
だが、私が疑問なのは「ギフト」が1人限定であるかのような前提である。

なぜ1人しか選ばれないのか、なぜ選ばなければならないのか、という問いに対する明確な答えが一切ないまま話は進む。

恋愛を含め、呉羽たちが苦しくなるような状況を作り上げる事前準備は欠かさないのに、
物語のルールに関しては、一切の説明がないのが本書なのだ。


り返しになるが、そもそもケモノにとっての人間社会への順応の意味と価値が分からない。
3年生を通した個人的な事情は説明しているが、根幹をなす制度の意義は説明されないまま。

ケダ高が「人間との共存を目指」すのであれば、
成績が同率の場合でも1人だけに限定する理由が全く分からない。
トップの2人は人間社会に順応できる可能性が等しいということで2人選べばいいじゃないか。

例えば ここでケモノを人間にするのは莫大なエネルギーが必要で、
その魔法を使うのは1人分とかいう説明があればいい。

「ギフト」の贈呈場面からは、これまでと同様の粉(パウダー)を使用しているように見える。

これまで右京(うきょう)たちを人間界に送るために使われたニンゲン粉(パウダー)。
しかし これはクシャミ一つで変身が解けてしまう代物。
卒業式で使用される粉は純度が高い代物なのだろうか。

その精製が1年で1人分しか出来ないというのなら分かる。
だが作者は とある理由から、そのような設定を作ることが出来なかったと推察される。

だから「ギフト」は1人限定、と有無を言わさずルールを押し付けるしかなかった。
全てはドラマ性のためだけに進められるばかり。

ここに作為性が生まれる。
この世界は主人公・呉羽を苦しめるためだけにあればいい、
そのための装置でしかない。

天涯孤独、被食者、黒の中の白。
与えられた環境の中で、苦しめ、悩め、泣き喚け。
読者は彼女の感動的な行動に涙を流せ、という声ばかりが聞こえる。

そして それが私を白けさせる。
私は黒に染まらない。


者サービスだとばかり思っていた裸の男女3人との同衾。

でも4人で並んで寝ていることに色々なメリットがあることに気づく。

寝る際の4人の並び順は決まっていないみたい。
なので、恋する相手が隣になって、眠っている横顔に一方が語り掛けたり、
悩みを抱えて眠れない人に、その隣の人が話を聞いてあげる という手法が よく使われる。

これは気持ちをリセットしたり、次への布石になったり、問題が明確になったりと大変 便利である。

しかし結構な頻度で誰かが起きていたり、寝不足だったりするのだが、
誰も気が付かないという便利な設定でもある。
肉食獣の彼らは誰からも襲われないから睡眠中も無防備なのか⁉

『7巻』でも『最後の審判』に悩み眠れない呉羽の話を聞いてくれる茅(ちがや)の姿があった。
だが、呉羽の異変に気づく彼も また眠れないのかもしれない。

本当に登場人物たちの細やかな心理描写が素晴らしい。
謎の学校ルール以外は本当に好きなんだけどなぁ…。

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私を肯定の言葉で温かく包み、安らかな眠りを与えてくれる人。でも好きにはならない。

分が『最後の審判』をする可能性を聞かされた呉羽は、
3年生の現トップ2である浅葱(アサツキ)と苦菜(ニガナ)、それぞれの事情を観察する。

好きな人に会うために人間になりたい浅葱、
そして好きな人から逃れるために人間になりたい苦菜。

彼らの事情に触れて、呉羽は大いに悩むことになる。

そして そんな卒業を間近に控える3年生に、2年後の自分たちの姿を重ねる。
いよいよ呉羽にとっても、この生活が、この恋が期間限定だということが鮮明になってきた。


この話で またまた気になったのは、
苦菜の未来の義姉が、私が勉強教えちゃう、と言っていたこと。

苦菜が勉強してるのは人間学でしょ?
王室に入ることを義務付けられた家系の義姉が、人間学を勉強していると思えないん。
成績は良かったというのも謎。
人間学勉強する必要のない(したことない)人が??
以前も書きましたが、世界の端々に作者の想像力が届いていない。
何度読んでも新しい発見があるタイプの良書とは逆なのです。


呉羽が逃げるために人間になることを選択し入れる苦菜に、
苦言を呈したのは、自分に言い聞かせるためでもあったはずだ。

その割に彼女も色々なことから、苦菜からも逃げているけどね。
少女漫画あるある の、ヒロインは走って逃げる、を何度も行っている。

最後の審判』を下した後も、呉羽は その結果から逃げている。
でも これは逃げて当然だろう。
自分がその人の未来を変えてしまったのだ。
自分が正しいと思いあがらない限り、対面できない。

先輩たちの別れは、印象に残る場面だった。
もう二度と会う可能性はないのに「またな」と別れる。
学校の校門は、2人の世界の境界線。
自由に生きているように見えるケモノたちも、
実はこの学園に囚われた、与えられた自由を恵まれているだけ。
それは動物園の動物に近いのかもしれない。
暮らしに何の不自由もないように見えて、故郷を未来を奪われた者たちなのだ。


浅葱と苦菜の場合は読者にも分かりやすい2つの例だった。
読者にも答えが出しやすい、共感を得やすい問題。

だけど複数のトップ卒業生が同じように人間を想っていたり、
もっと複雑な家庭の事情を抱えていたらどう選択するのが正解なのか、は本当に難しいことだ。

呉羽を苦しませることに悦びを覚えている作者だから(笑)、
来年はもっと難易度が上がってたりして…。

そして この選択もまた2年後の自分たちの姿かもしれないのだ。
現トップ3が同位で並ぶミラクルもあるはずだ。
その時、呉羽は親友の中から誰かを選ばなければならない。

今回の3年生はその前座。
呉羽はこれから2年間、悩みながら生きていくことになる。


んな一大イベントが終わった後は、2年生に進級しての修学旅行。
校内イベント → 校外イベントで物語に動きを付ける手法です。
『6巻』でも文化祭からいきなり新年が明けていたが、作中時間が一瞬にして流れている。

そういえば学年末のテストでは波乱が起きていた。
茅がまた本気を出して1位になった。

それを含めて右京が茅に劣等感を持つ場面が続く。
身長測定でも勝てたことがないし、成績も負けた。
そして好きな人への気遣いも、彼のようには上手く出来ない。

生徒会メンバー4人は4人が皆それぞれに互いの良いところを知っている。
だから負けたくない気持ちが出て、成長しようとしている。
ライバルって、自分に刺激を与えてくれる特別な存在なのだ。

残り2年、まだまだ彼らが成長する余地は残されている。

だが、ここで右京の義兄・黄苑(きおん)の支持が嫌がらせから犯罪へシフト。
学校も恋もプライベートも 2年生は波乱の予感。


にしても苦菜と右京のデザインの接近はどうにかならなかったのか。
そして右京の顔がどんどん険しくなっていくばかりで、目つきばかりが悪く、格好良さが消えている。
顔が極端になり過ぎて、カイジ的な直線を多用した顔に見える。
どうもケモノというよりも爬虫類的なデフォルメを感じる。

あと和風なトラ国出身の茅が、元ケモノ・姫菱(ひめびし)の日本家屋ではしゃいでるのは謎。