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少女漫画と小説の感想ブログです

シロとクロのオセロゲーム。君が好意を表せば、私は嘘で心を裏返そう。

モノクロ少年少女 10 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
モノクロ少年少女(ものくろしょうねんしょうじょ)
第10巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

ケダ高祭メインイベント発表の場で、蝶々直伝のメイクを施して舞台に立った呉羽。超美人に変身した呉羽の姿に会場の目が釘付けになるや、焦った右京が呉羽を隠して連れ去った!?ケダ高祭を通してそれぞれの想いが溢れだす待望の第10巻!!

簡潔完結感想文

  • 変身願望。今の自分がなりたいものに なってみる進路調査&文化祭回。
  • 先んじての最後の審判。他の2人に公平な自分であるために私情を捨てる。
  • 文化祭開幕。またも逃げ道に使われる当て馬。当て馬に手を咬まれる⁉

めぎ合う心が、いつしか嘘に逃げ込んでしまう 10巻。

校外イベントがちょくちょく挟まれるが、しっかりと学校イベントもこなす本書。
気付けば主人公・呉羽(くれは)たちの学園生活も2年生の2学期を迎え、折り返し地点を過ぎようとしている。

実は本書は現実の高校生活に則している部分があり、
これ以降の3年生はいわば受験生モードになる。
『10巻』で卒業後の進路を絡ませたのも、
いよいよ卒業を見据えて物語が動き出すからだろう。

そんな中で行われるのが学園祭と、それに絡んだ進路調査。
3日間に亘る学園祭のメインは、生徒のコスプレ。
最初の2日は、配布された衣装で楽しみ、
ラスト3日目は、各自が「人間界でなりたいもの」を身にまとうという内容。

ここで それぞれが卒業に際しての自分をイメージすることになる。
誰もが それを夢見て日々、勉学に励んでいるが、
通常なら99%の生徒が叶わない人間界への進出。
それを現時点で人間になれる可能性が最も高い成績トップ3が企画するのは、
一般生徒からの反感を買いかねないと思うが、モブの気持ちなど構っていられない。
生徒会メンバーが格好良ければ それでいいのです。

1巻丸ごと、いや それ以上のページを贅沢に使って2年生の文化祭が描かれる。


わゆるトラウマ編が終わったのに(義兄・黄苑(きおん)のトラウマだったが)、
それを恋愛解禁の合図としなかった右京(うきょう)。

…と思いきや『10巻』に突入したら、人が変わったように彼の頭は恋愛一色になっていた。
どうやら物語の都合で、ごん攻めの右京の前に、
茅(ちがや)と蝶々(ちょうちょう)のフラグを立てなければならなかったらしい。
『9巻』の後半でフラグが成立したからなのか、
逆に茅&蝶々の話は なかったかのような扱いで棚上げされている。

茅たちのフラグは、あそこが最終ラインだったとはいえテンポとしては間延びした。

そして、そこで一呼吸置いたことで、呉羽に新たなジレンマが生まれてしまった。
右京が早く素直にならないから。
彼女がキレイになったのを知って、そこで独占欲を発動させても遅いのだ。


羽がキレイになったことで、文化祭のテーマが決まる。

そのキッカケは、呉羽が右京に自分を見て欲しくて、蝶々に指南してもらった化粧だった。

そうして初めて化粧を施したら、誰もが振り返る美人になり、
生徒の人気が急上昇し、右京の焦りを招いた。

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アタシあなたのうさぎBlack ウインク合図で胸の谷間にダイブ『ユニバーサル・バニー』

にしても化粧だけなのに心なしかスタイルも良くなってる気がするが…。
とても151センチ(?)の人には思えない。
『悩殺』のナカちゃんが乗り移ってないか…?

この時、メイクを蝶々に頼んで人任せにするのではなく、
自分の手に覚えさせて呉羽らしいですね。
繋いだその手を、今度は自分の変革のために使う。
そして、このメイク技術が呉羽の将来の布石になっていると思われる。
これもまた一つの「なりたいもの」なのだろう。

キング就任も2年目を迎えて、何だか貫禄も出てきた。
もはや被食者ではなく、完全にボス猿、ではなくボスウサギである…。


…と思いきや、私人としての呉羽はまだ少し脆い。
特に恋に関しては乙女モードに入ってしまう。

ケダ高で逞しく生きながらも、呉羽は人に言われたことを気にするタイプなのは変わらない。
そうでなければ少女漫画のヒロインじゃないんだけど。
意地悪モードの伊織(いおり)の言葉ですっかり落ち込んでいたし、
今回、姫菱(ひめびし)に、好意に応えたらアカンと言われたら自分の気持ちに蓋をする。

ケモノも含めて とても人間らしいキャラクタだから、
自分の中で処理できないこと、羨ましいことを棘として他者にぶつけてしまう。
特に呉羽は異端の人間として、その攻撃を浴び続けている。
彼女の恋愛はいつも苦しさを伴っている。


姫菱から聞かされたのは、彼の卒業時のトップが人間になれる「ギフト」について。
彼の場合は、姫菱と当時のキング自身の同率1位での卒業。

その時、どちらを人間にするのかは『最後の審判』はキングに委ねられる。
キングが選んだのは、姫菱。
自分という存在が、人間に1人しかなれない権利をキングから奪ってしまったと悔やむ姫菱。

その辛さを知っている姫菱は、キングとトップ卒業生候補はフラットな関係でいるべきだと説く。


から、呉羽は右京の告白を受け入れることは出来なかった。

右京・茅・蝶々、3人の内、誰も選べないほど、3人が大好きになってしまったからこそ生まれる苦悩。
彼の想いを受け入れてしまったら、それは絶対に「ギフト」贈呈時に影響する。
だから呉羽は右京と一線を置く。
他の2人と同等の距離を保つために。

キングであることが、彼女の恋を踏みにじる。
キングとしての責任で、自分が恋愛に踏み出すことを許さない。
最後の審判』で私情を挟まないように、恋愛を遠ざける。

このジレンマが成立するのは、これまで じっくりと着実に4人の友情を描いてきたから。
友情が恋情と同等にあるからこそ、呉羽は悩む。

そして同時に呉羽が高潔な人間だからである。
最愛の人と人生を共に歩ける道が見えているのに、
それでも公人として生きることを選ぶなんて並の精神力じゃない。


あれだけ夢見ていた右京からの告白。
それが こんな悲しい両想いなんて。
あんなに右京から名前を呼んで欲しかったのに、今度は呼ばれるたびに苦しくなる。
どれだけ呉羽を苦しめればいいんだ、作者は。
でも彼女を苦しめるために この環境はあるんですけどね…。


ただし この感動、一回性のものなのが残念。
再読すると、本当に この時の呉羽を苦しめるための姫菱の不必要な言葉に思えるし、
それでなくとも、深く考察すると残念に思う部分がある。

それが『8巻』で述べた、誰もが人間になれる可能性。

これによって人間になれる卒業生は1人という感動の前提すら怪しくなる。
その場その場で呉羽を苦しめ続けた結果、整合性が怪しくなるのが本書の残念なところである。


かし、2人きりになりたくない時に2人きりなってしまう呉羽と右京。

月1回の帰省日と、一緒に裸で寝るシステムは本当に良く出来ている。
後者なんて、単なる読者サービスでしかなかったはずなのに、
長編化して各人に悩みが出来るとよい対面相談システムに変化していった。

そして今回は、右京の告白に対しての退路を断つために使われる。
もう好意を隠さない、我慢をしない新生・右京に問われ、呉羽は答えを出す。

ある意味で この一夜が恋愛における『最後の審判』なんですよね。

辛い。辛すぎる。
でも上述の通り、呉羽の在ろうとする自分の姿は理解できる。

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実家のトラウマ問題を解決して生まれ変わった右京は凄い。もう好意を隠すことはしない。

そうして気を抜くと涙があふれてきてしまう呉羽と、
気が抜けて呉羽を無視してしまう右京。

そんな右京の姿を見て、叱咤したのは彼にフラれた蝶々。
今回の蝶々は格好良すぎる。
彼女が望みがなくても体当たりし続けた人だからこそ言える言葉があった。

にしても蝶々と茅は本当に2人の仲人だなぁ。
自分が相手に恋をしていても、2人の仲を取り持とうとしてくれる優しいケモノたちです。


回、姫菱がケダ高に呼ばれたのは、人間界から衣装を調達するためと、
個々人の願いをキングに経由させないようにするためでしょうね。
あと、呉羽に余計なことを言って、まだ恋を成就させないため。

本当に1人で三役をこなす良い人物配置です。
人間の関係性の描写は上手いのに、学校のルールが…(以下略)

そういえば人間界にいる姫菱はケダ高に帰ってこれるんですね。

それなら人間とケモノに別れた浅葱(アサツキ)と苦菜(ニガナ)も、
苦菜がケダ高教師になれば人間とケモノとしてまた会える可能性があるのか。
会えない方がドラマ性は高いが、こう考えると救われる。


そしてラストは、こちらも嘘に逃げ込む当て馬が一頭、といった感じです。
どこまでも中途半端な男だなぁ…。
茅の株は落ちる一方じゃないか。

でも呉羽の茅の使い方は酷というもの。
明確に好意を示されたわけじゃないし、
完全なる友情だと思っているのだろうけど、
毎度、逃げ道に使われる男の気持ちを彼女は慮(おもんぱか)らない。

たとえ友情だとしても便利に使われすぎて男性側は男として情けなるのではないか。