《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

初めての出会いは7年も前のこと。まだ私たちは あのころ少年少女 でしたわ。

モノクロ少年少女 8 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
モノクロ少年少女(ものくろしょうねんしょうじょ)
第08巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

皆が想いを胸に抱えたまま、呉羽達は修学旅行でオオカミ国へ。右京にキスした後も現実から目を逸らし、呉羽を避ける蝶々だったが、茅に後押しされて、遂に右京に告白! それは、ひとつの想いの終わりと共に、新たな始まりを告げる合図となって!?

簡潔完結感想文

  • 4角関係から初の告白者。彼が優しいのは自分が誰かに恋をしているから…。
  • 修学旅行の夜といえば…。胸キュン特殊イベントなのに日常より平凡です。
  • 呉羽が盛られた謎の薬。毒薬として使用してるが、実は革命的な薬なのでは⁉

ベントが終わると時間がスキップするのが本書のお約束、の 8巻。

清々しいほどのイベント尽くしである。
イベントとイベントの間に日常回を挿んで、一呼吸 置いたりしない。
次へ次へ、前へ前へが本書の姿勢。

登場人物の気持ちが雁字搦めで動けない分、背景となる舞台を動かす。
設定上、舞台は幾つも用意できるから、学校内外を縦横無尽。
目まぐるしく動く背景のよって、止まっている人物でも動いているように見せている。

でも もしかして一呼吸置くと粗が見えちゃうからかな、とか意地悪なことを思う。
繰り返し書いていますが、私はどうしても世界観や設定に納得がいかない。
個人の心情はこんなに達者に描けているのに、
それを相殺するような浅はかな設定が気になってしまう。


回はヒーロー・右京(うきょう)に様々な気付きをもたらす巻でしょうか。

自分が長年ずっと誰かから慕われていたこと、
そして自分の存在が それと同じ期間、誰かを苦しめていたこと。

それが分かると見えてくるのが本書における特殊性が、
少女漫画あるある のトラウマがヒーローに設定されていないという点である。
この『8巻』でヒーローはむしろ他者にトラウマを与えた側だと判明する(無自覚とはいえ)。

よって、ヒーローのトラウマ解消が恋愛の解禁の合図とはならず、
ヒーローを含めた主人公2人が第3者のトラウマを解消させることが
恋愛の障壁を払いのける一つの手段となる。

そして右京は既に自分が加害者とも言えるトラウマに対峙する勇気と優しさを持っている。

それが2人の女性から貰った温かさと覚悟である。
1人は冷え切っていた少年時代の自分を、他人であるのにかかわらず温めてくれた この国の王妃。
そしてもう一人は他種族であるにもかかわらず、恋に落ちてしまった学校の王(キング)。

確かな帰る場所を持っている右京が、
自分の関わるトラウマにどう向き合い、どう解決を示すのかが今後の楽しみである。


年 秘していた恋情をキスに託した蝶々(ちょうちょう)。
そんな気まずさの中、始まるのが修学旅行編です。

顔を合わせづらい蝶々は右京から逃げ回る。
このところ右京は女性から逃げられてばっかりですね。
モテる男は可哀想でもある。

蝶々にとって右京は小学4年生で出会い、ずっと好きだった人。
彼と一緒に過ごす時間を出来るだけ確保するためだけに努力をして、
彼と離れることを未然に防いできた学校生活。

なのに別れの時(卒業)の2年近く前に、その恋に決着がついてしまった。

焦燥に駆られての行動ではあったが、タイミングは最悪ではない。

なぜなら右京は自分の経験により、本当に恋をする気持ちを知っているから。
例え結果が同じであっても、今回の右京の対応は、
恋を知る以前と以後では違うものであっただろう。

今の右京なら叶わぬ恋をし続けた蝶々の気持ちが どれ程苦しいか分かる。
だから彼女に謝罪ではなく感謝を伝える。
人から好かれることは とても温かなことだと右京は認識しているから。

男性側の成長で告白への対応が変わってくるのは、
渡辺あゆ さん『L♥DK』のヒーロー・柊聖(しゅうせい)を連想しました。
彼も本物の恋を知って、自分に対する行為への対応が軟化していった。
家庭環境が複雑だったからか、性格に難があるのも同じ。
少女漫画ヒロインは、彼の人生そのものを救わないと、
恋愛がスタートできない宿命なのです。

蝶々には悪いが、この一件で呉羽視点からでは恋の障害が1つなくなったと言える。
彼女に気を遣って、呉羽が自分の気持ちを右京に伝えられないという可能性は消滅した。
とはいえ、まだ呉羽は右京が伊織(いおり)を好きだと思っている訳ですが…。


学旅行のお約束、見回りの先生からどう逃げるか、は少女漫画の定形シーン。
ここでのアイデアが作者の腕の見せ所。

今回は一緒の布団にもぐって隠れるという王道パターン。
ただし毎日一緒に寝ていて、しかも裸という彼らだから、ドキドキ度は低い。
そして布団が無駄にデカい。

他種族たちは国内を自由に歩き回れないのがケモノ国家の掟らしい。
なので1年生の時のオリエンテーションでのオオカミ国も城内限定イベントだった(『2巻』)。
でもトラ国の城内観光は、城下町観光だと思うんだけど…。
城の定義を広くし過ぎではないか?

恋愛問題を抱えた蝶々は、呉羽から距離を取ろうとしてしまう。
逃げ回る、動きのある者を追いかけたくなるのはケモノの習性か、
自分も逃げ回ってばかりいるなのに呉羽は蝶々のことを追いかけ回す。
もはや すっかりケモノ側の人間である。

前半から右京との恋愛と同等程度に、蝶々と呉羽の友情がしっかり描写している。
蝶々の存在によって呉羽モテモテ漫画という感じが打ち消されている。
ただ、蝶々の存在が茅(ちがや)を一層 中途半端にしてしまった気がするが…。
それはまた別の話。


外イベントの後半は、別のイベントに繋がる。
これはオリエンテーションクロヒョウ国と同じですね。

ここまで暗躍していて黒蘭(こくらん)の悪事が右京にバレる。
黒蘭が登場して間もなく、右京は彼を疑いの目で見ていた節があるが、
今回は言い訳も通じないほど、呉羽への敵意を丸出しにしていた(髪を引っ張り上げている)。

そこから三度(みたび)の兄弟ゲンカ問題に突入します。
いい加減、飽きてきたのでこれで最後だといいのですが。

黒蘭によって、これまで66日間 人間に戻れなくなる薬を盛られていた呉羽。
これで双方とも、種族が同一になる可能性が妨げられた。

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ニンゲン粉(パウダー)と この薬で誰でも簡単に人間になれちゃう裏技なのではないか。作者さんよぉ…。

またも謎の新技術です。
もしかして卒業式の「ギフト」は、この固定化の効力を人間になるために使っているのか?
またまた曖昧な技術の設定が、物語の根幹を揺るがしかねない事態になっている。

これがあれば、例えばオオカミの蝶々が クロヒョウの変身粉(パウダー)をかければ、
一生、クロヒョウとして生きていくことが可能になってしまうのではないか。

これまで悩みの種であった他種族間の恋の障害が取り除かれる可能性があるのだ。
これは学校内の恋愛、いや ケモノ社会全体の恋愛を一気に解禁させるような技術の導入である。

そして最大の問題は、この粉と薬の組み合わせでニンゲンを量産できるということだ。
学年トップを狙うという意味さえ失いかねない いい加減な設定。

だが、そんなことに作者は構わない。
気付いていないのか、スルーしたのかは分からないが、
呉羽と右京が困難に陥れば それでいいのだ。
全ては思いつきでやっているのかもしれない。

そして そんなケモノ社会体系を変えかねない技術を、
黄苑(きおん)が自由自在に操れるということが不釣り合いである。

もしかしたら黄苑が持っていること自体が後々の展開への布石かもしれないが。
先んじて種族が固定できる可能性があるということを示したかったのかもしれない。
『11巻』において、この薬の危険性を設定しているが、
  在学中だけの期間限定の恋や「ギフト」の価値は相対的に下がる。)


うして舞台は修学旅行編から、クロヒョウ国 最終章へ移る。
ケダ高トップ3の それぞれの母国3連発です。

呉羽が意識を取り戻したのは、亡き両親の魂の導きか、
それとも現世でまだ右京に伝えていないことを思い出したからか。

そんな呉羽と別れではなく、帰ることを約束して、右京は決着をつけに兄のもとに向かう。


一大イベントが終わると、時間が飛ぶのが本書の特徴。
修学旅行が終わったら、3ヶ月が経過していた。
右京が帰らぬまま…。

ケダ高の月一の帰省日を過ごす呉羽。
右京がいないと、彼女は寮に独りっきり。
ちなみに誰もいなくても、彼女はウサギのままでいる。

そこへ呉羽を心配して早く帰宅する茅。
茅の役割って、遠距離恋愛で不安になった女性を慰める人そのものである。

この時、呉羽が茅に寄り掛かってくれれば良かったが、どうにも友情方面しか考えられていない様子。
最初から全力でアタックしていたら違ったかもしれないが、
茅が恋を自覚した時に、彼らは既に互いを思い遣っていたからなぁ…。
3周ぐらい周回遅れなのだ。


苑の策略は右京は伊織と、そして黄苑は呉羽との結婚するというもの。

これ もちろん絶望的な状況だけど、二度と(または長期間)会えない人と会えるのは、2人にとって僥倖でもあるような気がする。

そして ここにきて、伊織が黄苑の運命の人だということが分かる。
少女漫画のトラウマは聖母によって救われなければなりませんから。

だが黄苑にとって伊織は裏切る可能性のある人。
そして裏切られた時に、立ち直れないぐらいのトラウマになりそうな人。
だから先に手放す。
傷つきたくないから、傷つく前に。

それは右京が呉羽を、
黄苑から守るために、彼女に傷がつく前に無関心を装ったのと似ている。

自分を守るため、相手を守るため、
男たちの防衛本能は過剰に反応しているようだ。

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孤独を救えるのは孤独だけ。2組の男女は魂が呼応したから種の違いを超えて恋に落ちた。

弟たちが病から完治したことで、際立つのは黄苑の孤独。
彼らの母は弟は彼ら自身と認識しているのに、
黄苑だけは右京と認識している。

黄苑が右京から名前を奪ったのは、その前に右京が黄苑から名前を奪ったからだった。
王族によって与えられた温かな場所で、自分が誰かの温かな場所を奪ってしまった。

右京と伊織は初めて黄苑の悲しみに触れる。
これでトラウマの源泉が分かったから、あとは その水の流れを正すだけであってほしい。
いい加減、長いし。