《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

おバカだけど純粋で 笑顔は凶器。誰でも虜になっちゃう最強ヒロイン・トキオ(男)。

おバカちゃん、恋語りき 7 (マーガレットコミックスDIGITAL)
佐藤 ざくり(さとう ざくり)
おバカちゃん、恋語りき(おばかちゃん、こいかたりき)
第07巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

音色とトキオは、初お泊り旅行に出発…のハズなんだけど、そうは問屋が卸さないのがこの漫画。なぜか音色の実家(どうするトキオ!?)に行くことになってしまう。一方、深くんは音色に一言も告げずに留学に旅立つことになり…。音色の本能は、この恋愛の超難問をどう解決する!? 感動の最終巻!!

簡潔完結感想文

  • 拉致3回目。拉致られることで場面の展開を狙うが、3回とも同じ構図。
  • 宿泊なしでもデイユースで ことは致せる。走馬灯のように過去を見る。
  • 空港にて全てに けりをつける音色。こうして おバカちゃん、恋語りき。

者三様に、初恋にさよならを告げる 最終7巻。

総勢約20人が登場した白泉社集英社ブコメ漫画もこれにて終了です。

コミカルでバイオレンスな破格な作品ながら、
一般的な恋愛漫画よりも よっぽど胸に迫るものがあった。

物語は止まることを恐れているぐらいに動き続けていたし、
その中で、どの人物にも成長が見られた。

一風変わった恋愛であったものの、
最後まで目の離せない三角関係を しっかりと成立させていた。
意外な恋の逆転劇も最後まで楽しめた。

特に私は作者の台詞が好きですね。

本書は少女漫画の中でも破天荒な部類に入ると思いますが、
紡がれる言葉は少女漫画の中でも強く輝いていた。

恋愛が多い少女漫画でも、こういう少しの工夫で受け手の印象は変わる。
言葉が練られていると思うことが多く、作者からクレバーな印象を受けた。

やはり それは小説を読んだり、人と交流したり、
世界が広いことと関わっているのだと思う。

漫画なので絵の上手さも重要だが、それでも やはり
言葉で伝える部分が少なくないので、その言葉選びにセンスが出る。

絵も描けば描くほど上手くなる余地が残されているし、
話の運びも、長編化を念頭に置いて創作する時は また違ってくるだろう。
これからが楽しみな作家さんである。


ただし、本書に関しての話の運びは残念だった。
詳しくは後述するが、7巻の中で3回もある拉致と、
そこから始まる物語の展開が似通ってしまっているのだ。


めて熱い拳を交えたことで、
厚い友情ならぬ熱い恋情が燃え盛る、音色(ねいろ)とトキオの2人。

何だかんだで交際も8か月を越え、2人での一泊旅行を計画する。
いよいよ、この色気のない漫画も性交渉問題に差し掛かった。
勝負下着を買うのも定番の流れ。

そういえば2人が拳を交えたことで大破した特殊科=バ科が使っていた旧校舎、
これは物語の終焉の暗喩だったりするのだろうか。
連載の終了を告げられて破壊的な気持ちになった作者の心が旧校舎を壊させたのかもしれない。

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拳を交えた後は、情を交わそうとする本能的な2人。だが好事魔多し、再び舞台は西へ!

しかし そんな一泊旅行の出発直前に拉致される2人。
また このバトル漫画的な展開か!?と思いきや、拉致の首謀者は音色の実家の関係者。
彼らは音色の実家である広島まで連れていかれてしまう。

『1巻』の1話で少しだけ語られていた音色の実家に行く新展開。
かと思いきや、物語の構図は同じだったのには落胆した。
(そして『1巻』ではいる設定だったであろう音色の弟たちは出てこない)

今回は 音色の父親が道場トップであり、そのNo.2で頭脳派の冬真(とうま)が、
拉致の裏で自分の計画を静かに遂行しようとしていた。
このNo.2が画策する展開は『4巻』『5巻』に続いて3回目です…。

冬真は20前後の時(推定)、当時小学生の音色に助けられ、命の尊さを教わった。
そして一生ついていくと決めた人。
だから、彼女の人生を自分と重ねることだけを望んでいた。
そのために音色を実家の跡取りとして確保しておきたいらしい。


回、図らずもトキオが音色の実家に来たことで、
私独自の少女漫画あるある で言うところの、
親と会ったら結婚と思え、が成立しました。
これでこのカップルは将来安泰でございます。

きっと深の留学にも負けないことでしょう。


音色が知らないままの、深(しん)の留学を告げるのは友人の虹花(にじか)。

人づてに深の留学話を聞いた虹花は、夜の深の実家に潜入。
間もなく潜入が見つかった虹花は、深の出発日が明日だと知らされる…。

ここで虹花が深の両親と会ってたりしたら、意外なカップル誕生の伏線になるところでしたね…。


が出発するという大事な日の日中、音色は大事な局面を迎えていた。

トキオと地元を散策する中で見つけたラブホ。
場所は違えど目的を遂行せんと吸い込まれていく2人。

この大事な瞬間を前にして、音色は過去を回想する。
実力と名声と悪評を兼ね備えた彼女の人生は、男性から畏怖される人生でもあった。
中でもバレンタインチョコ事件が笑える。
音色に目を付けられたら一生が終わる。
彼女は悪霊か任侠団体か…。

そしていよいよ結ばれるという中で、虹花から深の留学を知らされる音色。
混乱し動けない彼女を後押しするのはトキオ。
据え膳を食わないで、自分から下げ、相手のために動こうとするトキオは素敵すぎます!

そして同時に、心から好きでも彼女の幸せのために相手の背中を押すトキオには
当て馬フラグが完璧に成立した瞬間でもある。

やっぱり私が勝手に思っているトキオ最強説は真実っぽいですね。
私心を持たずに、誰かのために動く度量の大きさがある。
彼の周囲は皆ハッピーになるはずだ。


この性交渉未遂は、深と同じ境遇にさせるためだったのかな。
深の時は ほぼ暴行ではあったものの、彼も直前で手を引いた。
交際・キス・性行為と、彼らの一進一退の攻防は最後の最後まで続いている。


色が地元・広島を離れるのを止めようとするのはNo.2の冬真。
これにはトキオが立ちふさがり、冬真との死闘を繰り広げる。

もしかしてトキオの修行はこの為にあったのか。
その戦いの最中に、走馬灯のように思い返される『1巻』sideトキオ。
やや弱かったトキオの恋心を補完するものとなっております。

走馬灯を見るほど トキオは本当に死にかけていたのかもしれません。
そして、この勝負に勝つことでトキオが道場のNo.2となった。
これで組織の席次が変わり、道場が冬真に操られる心配もなくなったのかな。
音色がどんな進路を取るにしろ、トキオは その同伴者の資格を得たのではないでしょうか。

初登場から強くて とても格好いいヒーロー(音色)と釣り合う自分でいるために、
常に努力し続けるトキオの姿は、少女漫画の王道ヒロインさながらであった。

同時に当て馬臭もするからトキオは万能。やはり彼は本書のMVPである。


終回まで、どちらに転ぶのか本当に分からない作品。
作者初の長編連載であって手の内が読めないし、特に本書では何が起きても不思議ではない。

ただし再読すると、音色が最後に深に傾くとはあまり考えられないけど。
それぐらいトキオは強かったのかな。

音色が空港に向かって深に 施したのはトラウマの解除だろうか。
その前の深の『1巻』と同じ言葉を使って音色を突き放す場面に痺れる。
同じ言葉でも冷たさの質が違うのが良い。

1回目は音色を徹底的に破壊するために彼女を突き放した。
でも今回は、敢えて冷たい言葉を使うことで、自分と彼女の距離を作るために突き放している。
前回が音色が遠くに行ったのに対し、今回は深の方が離れていっている。

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初恋を失った音色にとって、トラウマのトリガーになり得る深の冷徹な言葉。だが彼女は…。

しかし音色は最後に、深のトラウマを拭い去る呪文を唱えた。
それが深が傷ついてきた恋を救う。

2回続けて、2回同じ男に奪われた深の恋。

トラウマの呪縛は白泉社漫画ならば恋の始まりの合図。
だが本書は集英社漫画なので、結末は違う。

音色は深に恋との決別の仕方を教えた。
恨んだり諦めたりしないで、自分が自分のまま笑ってお別れできるように。

もちろん それは音色自身の初恋との決別でもある。
そして彼女は自分の居場所に帰っていく。
さよなら すべての初恋たち。

彼女の帰るべき場所には、唯一 初恋を成就させたトキオがいるのであった…。

ちなみにラストの旧校舎は、理事長の資産を使って修繕した新 旧校舎だが、
教室の外にバ科の表札(?)は変わらずにある。
変わらないものが今は嬉しい。


終回付近で変わったのはバ科の生徒2人。

虹花とケンイチは、これまでの奔放な恋愛から、真剣な恋愛へと立ち直っていった。

2人とも本気だったけど叶わなかった過去の恋愛から脱却して、
次の本気に取り組めるようにまでなった。

ここでは大阪の大人組(十吾(じゅうご)と影虎(かげとら))が
生徒たちのカウンセリング相手になっていた。
新キャラの中でも3回も登場の機会を与えられ、優遇された彼らの存在意義を感じた。


トキオのもとに駆ける音色の横で、登場人物たちの後日談が語られる仕掛けが秀逸です。

何気に出番の多かった熊は異種族の恋をしている模様…。

追放されたかと思った華弥(かや)も再登場。
紫(むらさき)も不器用な恋に目覚めている。
ただ、彼が この家の後継者を目指すとなると多難の道だろう。

ケンイチの現在の恋の相手は意外な人物。
てっきり生徒会の男子を押し倒すもんだと思ってみたが…。
そして意外にも お相手の彼は拒否していないことに驚く。

生徒会の面々は跳ねませんでしたね。
恋愛面に全く参戦してないこともあり、後半はお役御免状態でしたね。