佐藤 ざくり(さとう ざくり)
おバカちゃん、恋語りき(おばかちゃん、こいかたりき)
第03巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
ケンカは無敵・恋愛はカラッキシな音色のおバカな毎日を描く第3巻!! トキオの熱意におされ、付き合う事になった音色。でも簡単に深くんを忘れられるはずもなく…。初めてふれる恋愛の難解さに爆発寸前!? しかも恋愛は混戦状態のまま修学旅行に突入っ…!!
簡潔完結感想文
- 元カレ的な深が心にいるままトキオと初デート。深の罠は効果が持続中。
- デート中に生徒会と合流して異文化交流 合コン。無力さを感じる男たち。
- 学校最大イベント修学旅行。時差、半年の聞きたかった言葉に音色は…。
1+1が2にはならなかった1+2の、3巻。
イケメンエリートの深(しん)くん が音色(ねいろ)に心を奪われたことを告白し、
音色と、彼女が失恋した相手・深、現カレ・トキオとの三角関係が成立した。
私の中の「少女漫画あるある」である、
三角関係は3巻から始まる説を補強する内容となっております。
2人のイケメンが自分を争うという状況でも、
ヒロイン特有の自己中心的な甘さがなかったり、あんまり羨ましくないのは、
音色の性格と設定によるものが大きい。
彼女の恋は常に体当たりで、経験を重ねて自分の成長に繋げている。
なので物語が ウジウジと湿ったりせずに、カラっとした快適さを保っている。
うっかり西日本最強の女になってしまった破天荒さは、
バ科のクラスメイト・トキオとは馬が合う要因となり、
特進科の深とは真逆で、彼が音色に惹かれる要素となる。
恋愛だけでなく音色と出会った全ての人は多かれ少なかれ彼女に魅了されるであろう、
素直さや器の大きさを感じられる。
男性キャラへの人気が支える面のある少女漫画ですが、
同性読者からの音色の支持率は かなり高かったんじゃないでしょうか。
この『3巻』では白泉社漫画ではメインキャラとなるであろう、
生徒会の面々が本格的に参戦する。
出版社のイメージを体現した(?)バ科と生徒会の交流によって、
物語は これまで以上に加速度的に面白さを増すと思ったのだが、どうにも不快さが勝った。
特に生徒会長の美羅川 日記(みらかわ にっき)、彼女の存在が物語を減速させた。
これまで勝手に動いていた音色に対して、
あれやこれや世話を焼いて、恋愛イベントを起こそうとするのが生徒会長なのだが、
作品の長所を打ち消しているようにも思えた。
音色は誰からも、作者からも自由でいてこそ輝く。
純真であることが魅力なのに、不純な計算が混じると作品の色が濁る。
生徒会長のやること全てがエリートの特権意識の塊のようにも思えてしまう。
やはり同じ属性の者同士で集まってた方が余計なことを考えなくていいのかもしれない。
白泉社漫画でメインキャラとモブが扱いや住む世界がハッキリ分かれているのは正しいのかも。
このように短期間、物語を動かす新キャラが登場するのが本書だが、
彼らの言動の当たり外れによって、物語の出来が左右されていった。
外れが続くと新キャラはいいから、
メインキャラの活躍を見させてよ、という怒りが湧いてくる。
新キャラによって物語は延命していくが、新キャラによって命運を握られてもいった。
『3巻』のラストも新キャラの予告で終わっており、
彼らが当たりであることを願うばかりである。
本格参戦する生徒会メンバーと音色が出会ったのが、トキオとの初デート中。
トキメキ比率は7:3だが、トキオとカップルになりデートをすることに。
自分をこっぴどく振った男を忘れられずに他の男とデートをする、
これが正統派ヒロインだったら、苛立っているところだが、音色なので深くは考えない。
彼女の気持ちよりも、このデートでどんなトラブルが起きるかの方に期待している私がいた。
デート慣れしていない2人は、マニュアル通りのデートコースを歩むが、どれも上手くいかない。
そこで本能に従って、身体を動かさせる場所へ行くと楽しさが自然と溢れ、
音色の顔に笑顔が戻って来る。
自然体でいられる相手というのは少女漫画で非常に大事な要素だが、
しかし今も音色の心には深く深が根付いていた。
たとえどんなに傷ついても、それは音色の初恋には違いなかった。
そんなデート中に遭遇したのが、バ科メンバーと生徒会メンバー。
生徒会は集英社じゃなくて白泉社漫画だったら、主人公が属していたであろう集団。
確かに この生徒会メンバーで『フルーツバスケット』とか『彼氏彼女の事情』が出来そうだ。
学校屈指のエリートとバ科の異文化交流は見方によっては合コンっぽくも見えます。
何組かカップルが成立しそうだが、結局、交流が続いたのは あの人と あの人ぐらい?
合流したバ科メンバー・虹花(にじか)から、交際に際して、
深を忘れる努力ではなく、トキオを好きになる努力をすればいいと言われた音色。
その言葉で前を向けたのに、深本人からトキオとの交際に言及されると まだ涙が出てしまう。
笑いの部分だけじゃなくて、こういう恋する乙女の心理描写も上手いと感心する。
「さこつ のあたりがギュッてなる」のは咲坂伊緒さん『ストロボ・エッジ』の蓮(れん)くんと同じですね。
ヒューヒュー、お2人さん、付き合っちゃえよー(笑)
音色を泣かせる原因である深にトキオが本音を吐き出す場面の、
「園田(そのだ・音色の名字)ゆらすのは いつだって深なんだよ!」
「でも 笑わせるのは いつも トキオだろ」
この会話も痺れますねー。
少女漫画には展開のドキドキだけじゃなくて、心情を深く表現する言葉も必要なのです。
人気が獲得しやすいのか前者ばかりがものが目立ちますが。
トキオと深の友情に関しては、恋愛以上に複雑な心情が絡んでくる。
深の元カノ問題の時も、トキオは加害者ではなく被害者。
深が一方的に傷つき、そして恨んでいるだけ。
そのことについてトキオが深に対して屈託を持たないことが深を苛める。
トキオはおバカではあるが、純粋でもある。
だから音色に対しても純粋な行為を100%発揮する。
そのことが深には眩しく、羨ましいのでしょう。
そしてまた そこを妬みそうになる自分に自己嫌悪してしまう悪循環に陥る。
そんなデート&異文化交流の後は早いもので2年生に進級。
進級を機に深は特進科に復帰する。
結局、深と机を並べる学園ライフは最低限しかありませんでしたね。
まぁ深にとっても、音色にとっても、生き地獄で嬉しくない状況だったんでしょうが。
しかし深はバ科での授業中は何をしていたんでしょうか。自習?
学校での深は、音色が心変わりしたため、振られてしまった男という設定らしい。
本命に振られ続ける人を演じることで、他生徒に不憫さアピールをしたいのか。
(実際、その通りで女運があまりないが)
2年生に待ち受けているのは、高校生活 最大のイベント・修学旅行。
生徒会長は深くんと音色のカップリング派のようで、
会長から深は脈ありだと言われて、不必要な悩みが出来てしまう音色。
これも生徒会長の愉悦のための企みなのだが。
そんな会長に宿泊先のホテルを、深と同室に仕組まれてしまう。
そんな一夜、風呂上りタオルを巻いただけの深と音色は…。
仕組まれた舞台から自己性を回復するように 京都の街へ駆け出す音色。
そして『2巻』に続いて、音色のために汗を流しながら全力で駆け回る深。
ようやく見つけた音色に対して、深が今の想いを告白する。
だが乙女心を弄ばれた音色は、身構えてしまうばかり。
半年前の自分が欲しくてたまらなかった言葉。
でも今の自分はトキオの彼女。
そう答える音色に対しても、深は攻勢を止めないことを宣言。
これは深の確かな成長ですね。
恋愛に関する自分の不遇に対して、他者を恨むしかなかった彼が、
トキオの良さを認め、その上で戦おうとしている。
3人が等しく友情で結ばれてからが本当の勝負。
これは面白くなってきましたね。
どちらの男性とのエンドなのか全く分からないところもイイ。
ラストに新キャラ・新展開を予感させて終わる『3巻』。
この京都は西日本最強の女を作り上げた、日本の西側なのだった…。
そういえば修学旅行の夜にホテルを抜け出して京都の街に出て、
川で濡れるって、先日読んだばかりの 星森ゆきも さん『ういらぶ。』でも見た展開。
プチシンクロニティにテンションが少し上がった。