佐藤 ざくり（さとう ざくり）
おバカちゃん、恋語りき（おばかちゃん、こいかたりき）
第05巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★★（6点）
ケンカは最強・恋愛は超初心者な音色の究極恋愛歴史絵巻（嘘）の第5巻。 トキオとの初チュウでラブラブ全開な音色。しかーし、その前に大富豪の娘・華弥が登場！ トキオと結婚すると言い出した!! 強制的にトキオはさらわれ、挙式の準備が始まる…!?
簡潔完結感想文
- 邪魔をしようとする悪意のある助言は おバカには通用しない。キス問題解決。
- 大型台風は消滅したのに台風の目が学校に襲来。突如 執り行われる結婚式。
- 新キャラを投入しても物語と組織の構造は前巻と一緒。バカにしないでよッ！
お肉・魚介・野菜、材料は変えているけど全部 カレー味、の 5巻。
私が本書の感想文で比較している白泉社漫画は、
読切短編が好評を博して、そこから長編漫画になることが多い。
それで10数巻続く漫画もある一方、お話を膨らませられなかった漫画も それ以上にある。
そして例え10数巻続いても、それはコミカルな日常の描写に長けているからであって、
肝心の恋愛面においては1話目で決着がついており、波乱を起こせない漫画が多々ある。
本書の場合は読切短編でもなく、恋愛面は変則的な三角関係が充実していた。
だが この『5巻』で遂に恋愛面にも一区切りが ついた。
これ以降、また心変わりなどしたら不自然だし、読者から総スカンを くらうだろう。
ここで作品を終わらすのも美しい完結だったのではないか。
そんな恋愛面での決着の後に何を起こしても、焼け石に水。
しかも今回は構成にも限界が見え隠れしていた。
『5巻』のメインとなる話が ほぼ『4巻』の焼き直しに感じられたのだ。
男性が拉致られて、主人公が仲間の手助けを借りて追跡する点や、
組織のNo.2こそが その勢力の頭脳であり裏ボスであるという展開が似通っている。
流石にメインの事件が2巻続けて同じ構成なのは残念だった。
どのグループもトップに おバカを据えて、その周辺に賢い人を配置しているのだろうか。
なので冒頭の一文の通り、新キャラで素材は変えているが、
どうにも その素材を扱うメニューがカレー味で固定されているように思えた。
ただし『5巻』は『4巻』を踏まえた良い場面で終わっているので、
もしかしたら『6巻』が とても面白いものになる可能性は残されているが…。
正直、行き当たりばったりで描いている（らしい）アドリブ勝負の作品の限界が見え隠れする。
また、2つの組織の構造が似通ってしまうのなら、
もう一つの組織・生徒会も同じ構造にすれば良かったのにと思った。
今回のタイトル通り、生徒会も深（しん）が裏ボスという設定なら統一感が出たのに。
でも生徒会長は腕力も実行力もあるワンマンタイプなのが残念。
各組織のNo.2が組織を動かして頭脳戦・団体戦を繰り広げるのも見てみたかった。
（もはや おバカちゃんの話ではなくなってしまうが）
まぁ これは結果論の願望であり、似通ってしまったのは作者の意図するところではないはず。
冒頭は『4巻』から続く、キスの遂行を目的とする女性と それから逃げる男性の話。
主人公・音色（ねいろ）がキス問題の正解を導き出すキッカケが、
同じくトキオが好きなケンイチによる悪意ある誤誘導だったことが面白い。
さすが、おバカちゃんである。
ただし前述の通り、キスは恋愛に一つの結論を導いてしまった…。
にしても この回、太平洋上に突如として台風を出現させる意味はあったのでしょうか。
もしかしら、次回から本物の台風の目が到来するという天気予報なのか…？
そんな台風の目が、深（しん）の元カノ・華弥（かや）。
またまた新キャラの投入ではあるが、完全なる新キャラではなく、
名前だけは『2巻』から出ていた女性。
その頃から美貌は変わらないが、知性が だいぶ失われた。
彼女の場合は おバカというよりも、世間知らずといった方が適当だと思われる。
しかし台風の目たり得る彼女が自分の意思を持っていないのは残念 極まりない。
おバカ合戦を繰り広げたかったのかもしれないが、問題がぼやける気がしてならない。
今回も華弥を恋愛に関する知識が全くない おバカちゃんにしてしまったせいで、
深との交際すらも怪しくなり、トキオを逆恨みする理由も、100％ 深の勘違いへと変わった。
深は華弥の どこを好きになったのか、
どうして彼女の性格を見抜けなかったのか など深への疑問が増すばかりである。
そんな疑問が湧いてくる頃に挟まれる過去回想編。
深の視点で語られる華弥との遍歴、そして中学でのトキオとの出会い。
ちなみに深は航空会社の息子という設定が初めて（多分）明かされる。
だから華族の令嬢である華弥とも小学生の頃から交流があった。
華弥は社会勉強のために中学校から共学校である この学校にやってきた。
深は中学は名門進学校に進む予定だったが華弥の側にいるために進路を変更。
その時には既に深は華弥への恋心を芽生えさせていた。
深は初恋で、それは親が望む決められたレールだが充足感もあった。
そこへ現れたのがトキオだった。
トキオの純真さは誰をも魅了する力を持っていた。
たとえそれが友情であっても愛情であっても…。
本書における おバカとは邪心のない人で、誰をも魅了する人なのである。
華弥の心変わりは深を二重に傷つけた。
初恋の喪失、そして友情の崩壊。
だから深はトキオが次に接触する女性に狙いを定めて、
今度はトキオから最愛の人を奪おうとした。
でも華弥に関してトキオの恋愛感情の有無すら判別できない深の目は節穴で信用ならない。
初恋もまだのトキオの恋愛を先んじて阻止しようなんて無茶な話。
そしてタイミング的に音色に接近するのが やっぱり早い。
ただし結果的には、また一人の女性を巡ってトキオと争っているが…。
しかし今更なツッコミだが、公爵家の令嬢が社会勉強するために行くような この学校の高等部には、
音色たちが在籍するバ科が併設されていることが変である。
生徒数確保のために生徒の質を問わないという方針は、
学校の評判を上げてくれる賢い生徒を逃すような気がする。
物語の手綱を握る参謀が同級生の男子生徒を拉致して、
パーティー会場にご招待というのも『4巻』の展開と同じ。
あっちのボスを倒しても、即座に こっちのボスが現れる。
延々とバトルが終わらない少年漫画を読んでいる気分になる。
しかも少年漫画よりも短いサイクルで行われるのである。
しかし今回の裏ボスの紫（むらさき・男性）、
彼が華弥の願いに従順な訳は何だろうか。
単純に考えれば責任感だったり恋情だったりするのだろうが、
もしかしたら華弥の結婚相手に おバカを選ぶことによって華弥の家の転覆を狙っているのではないか。
自分の父親が海外での事業のために不在であるから、
華弥は このタイミングで学校に乗り込み、恋愛バトルに参戦してきた。
それもこれも紫の計画だったりして。
華弥の家の次期経営陣が2人揃って おバカならば、この家に未来はない。
そうするための紫の壮大な復讐劇なのだ…。
って、これじゃあ深の場合と似通っちゃいますね…。
今回の音色を待ち受けるパーティーはトキオと華弥の結婚式。
音色とのデートの約束と引き換えに、昔から出入りしている華弥の邸宅への潜入に協力する深。
猪突猛進しか出来ない音色なので、行き当たりばったりに問題を解決するハメになるが…。
しかし結婚式に華弥と並んで入場する（させられる）トキオに向かって、
「お相手の方 まるで外国の王室の方みたい きっと王子なんでしょう」は褒め言葉が過剰だ。
いくら彼が金髪とはいえ、無理があるような気がする。
誓いのキスの直前で式場に登場する音色。
このトキオのピンチになった時に音色が現れるのも修旅編で見たなぁ…。
ただし違うのは、今回は2人ともピンチになってしまうこと。
そんな時、現れたのが…。というところで今回は終わり。
やっぱりテンポは良いし、読んでいて単純に楽しい物語である。
だけど、読み返した時に「あれ？」と整合性や重複が気になってしまうのである。
