佐藤 ざくり（さとう ざくり）
おバカちゃん、恋語りき（おばかちゃん、こいかたりき）
第06巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★★（6点）
腕っぷし最強女子の恋愛を描く物語は怒涛の6巻に突入!! トキオの救出を手伝う代わりに1日デート。深くんと交わしてしまった約束を守るため、厳戒態勢でデートにのぞむ音色。でも、百戦錬磨の王子様・深くんの前では全く無力で…気づけば、ここ、ホ、ホテル!?
簡潔完結感想文
- 完璧なデート。彼女の好きなものを把握して心身ともに満足する一日。
- 素敵な一日を締めくくるのは大告白大会。留学？ 好き？ ホテルの部屋？
- あっちの男も こっちの男もトラブル発生。全身で ぶつかるしかない。
これが最後のターンだって、作者も深（しん）も分かってる 6巻。
『6巻』でメインとなるのが、音色（ねいろ）と1日デート権を行使する深の行動。
高校生ながら若手実業家のように、アイデアとお金を存分に使って彼女を喜ばす。
ホテルの上階にあるレストランから、手練手管を駆使して押さえてある部屋まで誘い込むことも成功。
あとは その部屋で性交⁉
これまで見せなかった必死な姿を晒してまで彼女を ものにしようとする深。
必死すぎて読者に嫌われかねない暴走を見せる。
が、それもこれも これが自分に残された最後のターンだと分かっているからだろう。
暴走によって嫌われても、万が一 事態が好転しても、どちらも自分には得しかない。
そんなイケメンエリートの計算高さを感じる。
嫌われることで彼女から飛び立つことが出来るのなら それも一つの節目になる。
そうやって終局から逆算したのが、今回の愚行であろう。
しかし そのぐらい深くん寄りに曲解しないと、理解不能な行動であった。
これはドＳの強引、ではなく暴力に近い。
そして上述の考え全ては、深くんの一方的な考えでしかない。
相手の女性のことを考えない、エリート特有の独善的な思考である…。
驚いたのは『5巻』から続く騒動の急激な幕引き。
史上最強だけど負傷してしまい音色史上最大のピンチに現れたのは影虎（かげとら）たち。
音色を取り囲む黒服の男たちを秒で処理して、問題解決。
巻を またいだ割に大立ち回りのない肩透かしな展開に目を丸くする。
確かに、主人公の音色が活躍できないのなら、乱闘する意味はないけど。
それでも音色を守るナイトたちとして深・トキオにお黒服を蹴散らして欲しかったなぁ。
まぁ この場面の影虎たちは顔見せで、彼らが関東に上陸したという布石かもしれないが。
そして もう一つ驚いたのは『6巻』では、
華弥（かや）や紫（むらさき）など今回の騒動の中心人物たちが1コマも出ないこと。
これも考えてみれば『5巻』のラストで彼らの歪みは音色によって一喝され、正された。
だから追撃の手などは ないのだろうが、
まさか後日談や その後の交流なども全くないとは思わなかった。
いよいよキャラの使い捨て感が酷いなぁ…。
華弥編自体があんまり読者に受け入れられなかったので リストラされた印象を受ける。
生徒会メンバーもそうだが、本書には登場したはいいけど扱い切れなかった人が多数いる。
紙面に出る人数の制限などもあるのだろうが、もっとお祭り騒ぎの百鬼夜行を見たかった。
複数の人物を同時進行で動かすのが上手いのが白泉社の漫画家さんたちの特徴ですね。
なので世界観が広がった感じよりも、ぶつ切りの印象ばかりが残る。
その中では影虎たちは優遇されているだろう。
まぁ優遇されているのは影虎だけで、
リーダーたる十吾（じゅうご）は完全に おまけ扱いですが。
どうせなら影虎に続き、紫なども味方につけ、音色の意思に関わらず、
どんどんと取り巻きの輪が大きくなって、やがて日本を統べる、天下統一編も面白かったかも。
結婚式からトキオの強奪に成功し、
彼を奪われたくなかった自分の気持ちに気づかされる音色。
そんな彼女の姿を見て、トキオは喜色を隠せない。
逆にトキオの満足そうな表情が眩しくて音色は また彼に惹かれていく。
本書において恋愛面においてはトキオが最強な気がする。
いつでも純真で、こちらに満面の笑顔を見せてくれる。
そうして女性たちは皆、陥落していくのだ。
無自覚な分、これからもトラブルが絶えなそう。
音色に好かれる喜びの一方、トキオは彼女に助けられた自分を情けなく思っているのだった…。
トキオの暗い顔で締められた この編の次は、深とのデート回。
華弥の屋敷を潜入する際の交換条件が果たされる。
そういえば『1巻』で早々に深と両想い状態（偽り）になっても、
邪魔されたりで ちゃんとしたデートはしてませんから初デートですね。
唯一、『3巻』で修学旅行で夜の京都の街を歩いたぐらいか。
そして深のスマートなデート自体が、
『3巻』における、トキオとの初デートとの比較になっている。
デート内容としては深の圧勝だろうけど、
共通点は2人とも音色を喜ばせようと しっかりと下調べをしているところだろう。
デートと言うのは相手と一緒にいたいという気持ちが
最高潮まで高まったからこそ するものなのである。
だから『1巻』の段階では深とデートが出来なかったのかも。
デートはキスと同じぐらい大事なシグナルなのです。
…あっ でも深は 好きでもなかった音色とキスしてたな。前言撤回！
トキオの彼女として彼に操を立てるために、デートの禁則事項を掲げる音色。
だが深は その盲点を突いて攻撃してくる。
胸キュンしつつ、コミカルで可愛い深が見られる ご褒美タイム。
順調なデートの最後に、自分の留学を告げる深。
これは音色に精神的な衝撃を与え、
その反応で自分に残された可能性を見たかったという嘘だった。
だが、それこそが嘘で留学は本当。
これはまた後の話。
深が居なくなる可能性に、音色の心は想像以上に揺さぶられた。
動揺した音色は錯乱し倒れる。
その介抱にホテルの一室に入っていく深。
それをタイミングよく目撃してしまうトキオ。
三角関係も いよいよ大詰め。
ホテルの一室で、深は強引に音色を求めるが…。
これはキャラ崩壊な感じがするなぁ。
深の必死さの表現なのだろうけど、暴行に見えちゃうなぁ。
戦闘能力としては音色の方が強いから、彼女に拒否権があるという見方もできるけど、
渡辺あゆ さんの『L♥DK』の暴行シーンぐらい、謎と不快感を残す場面となりました。
少女漫画あるある としては、
「やべー マジで理性とびそうだったわ」という謎の定型句があるが、
こういうのは本当に理性が飛んでしまった状態なのでしょうか。
今回の深は上述した通り、捨て身の行動だったのかな、と理解しておきます。
そんなこんなの騒動で夏休みを呆然と過ごしていた音色は2学期を迎える。
新学期に学校に赴任してきたのは影虎。
なんと教師である。しかも特進科の物理を担当する。
何気にインテリヤンキーだったらしい。
トップの十吾も庭師として学校に入り込む。
トキオはどうやら行方不明。
夏休み中、山奥で修行をしていたらしいが…。
そして もう一人の男・深は音色に拒絶されたことで感情を失っていた。
この人は華弥の時といい、失恋する度に感情が歪んでしまうのか…？
深は本当に留学しようとしている。
音色を巡る2人の男性に起きる急激な変化。
まずはトキオの問題から対処しようとする音色だが…。
修行を経たトキオは音色に勝負を挑む。
彼女を守れなかったという無力感に苛まれることは男の沽券にかかわることらしい。
音色最強を維持する限り、いつかは出る議題ではあったが、
深に彼女を取られそうになることで、議題が噴出した。
ここは華弥の問題でトキオの全てを呪うことにした深とは違う、
トキオの恋愛の対処法が読み取れますね。
自分に打ち勝とうとしているトキオの方が健全である。
でもキャラクタも得意分野も同じ音色とトキオだからこそ衝突が起こってしまう。
そう考えると得意分野が重なっていない深の方が、互いにマイペースに暮らせそうな気もする。
さて…、音色の決断は最終『7巻』で明らかに！
