《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

高校にて上位組織を作るのが白泉社。普通科の下位組織を舞台とするのが集英社。

おバカちゃん、恋語りき 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
佐藤 ざくり(さとう ざくり)
おバカちゃん、恋語りき(おばかちゃん、こいかたりき)
第01巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★★(6点)
 

幼少の頃から格闘技の英才教育を受け、うっかり不良も恐れる「関西最強の女」になった音色。恋がしたい!と関東の高校に転校するも、待ち構えていたのは、問題児ばかりが集う「特殊科」クラスで…。

簡潔完結感想文

  • 転校 早々 問題を起こし 入れられたのは特殊科。蔑称・バ科の生徒の格差ラブ!
  • 白泉社漫画なら上流階級にいく所だが、集英社漫画は底辺から頂点を射止める。
  • 読み返してみると深くんの言動は最初から優しい。矛盾点もあるが これが本質⁉

闘する者に○(まる・©三浦しをん)の 1巻。

初読の感想は「逆・白泉社」。
生徒会や お金持ち など、読者に選ばれた側を追体験させてくれるのが白泉社漫画。
一般市民である主人公が、なぜか特殊な環境に溶け込むことになった日常を
ラブ + コメディ風味でお送りするのが、私の中での白泉社漫画の位置づけ。
大ベストセラー、葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』がその典型だろう。

本書の場合、生徒会役員に恋をするのは学校における最底辺の人間。
主人公・園田 音色(そのだ ねいろ)が転校した学校は、
「特進科」「普通科」「特殊科」の3階層に分かれた身分社会が明確な学校であった。
最下層の「特殊科」は「バ科(ばか)」と蔑称が付けられるほどの問題児クラス。

普通科に入る予定であった音色は入学早々、義侠心から問題を起こし、
特殊科へと島流しにあってしまう。

生徒数と学費の確保の問題に直面している学校側の事情もあり、
どんな問題を起こしても退学には させられない校風となっている。
さて、音色は どんな問題を巻き起こすのか…。

彼女の特徴と言えば、うっかり「西日本最強の女」になってしまったこと。
男性を投げ飛ばすことの出来るヒロイン。
守られる立場ではないほど自立しているのも白泉社漫画っぽいなぁ。

でも白泉社っぽい漫画なのに白泉社では絶対にやれないのが本書の内容。

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2ページで分かる園田音色 最強伝説。彼女も ある意味でエリート。だから主人公なのだ。

1話の段階では、音色が勉学に励み、特進科へと昇進(?)する下剋上物語の可能性もあった。

が、2話の普通科、そして その先の特進科への足掛かりとなる「常識テスト」の開催で、
その展開の可能性は大いに断たれた。

バ科は本当にバカだったのだ。

そして、この回で この作品の方向性が明示されたと言ってよい。
ドタバタギャグラブコメディ。
読者も真剣に読んだらいけないことを承知しただろう。
気楽に読めば読むほど本書は楽しい。

まぁ、書名にも「おバカちゃん」とあるぐらいだから、
音色の学力向上は初めから望めなかったが…。


して登場人物が無限に増えていくのも白泉社感を覚えるところである。

次々とキャラを投入して、読者の受けが良かった登場人物たちが勝ち残る
弱肉強食の世界が展開されていく。

ただし、この新キャラ祭りの打率が非常に芳しくない。
やはり後発キャラが既存のキャラたちを凌駕することは少なく、
バ科の初期メンバーだけで下らないことをやり続けて欲しかったという思いが残る。

物語がどんどん学校外へ展開していってしまったのも残念なところ。
マンネリであろうとも学校という舞台の固定は大事だったかもしれない。


なので私の中で全体的な印象として、面白さグラフが綺麗な山型を描いている。
面白い鉱脈を見つけたと思ったら、持続せずにピークアウトしていった印象。

どんどんと登場人物を増やしていったは良いけど、
当たりのキャラが少なく、迷走を深める結果になってしまった。

それは恋愛の行き詰まりとも関連しているかもしれない。

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「バ科」のメンバー紹介。きっと普通科・特進科の皆さんは各人に蔑称を付けているだろう…。

愛問題を後回しにしないのも白泉社とは違うところだ。

白泉社漫画では主人公とヒーローが、
それぞれに片想いをしている「両片想い」状態を保持しながら物語が進むことが多いが、
本書の場合は、動物の本能に従い、好意は即座に伝えられる。

この『1巻』でも主人公は人を好きと思ったら、
身分の差など考えずに想いを伝えている。

それは同じバ科のクラスメイトも同じで、
『1巻』だけで主人公カップルが成立し、その後に主人公に横恋慕する男子生徒が参戦し、
三角関係が出来上がった。

恋愛問題の形状が目まぐるしく変わるのが本書の長所ではあるが、
早めに結論が出てしまったことが、作品の首を絞めたように思う。

けど ほのかなラブを10巻以上 温める白泉社方式も本書には似合わないから、
体力が尽きるまで、太く短く生きた方が良かっただろう。
惜しまれつつ終わる、という感じは全く無かったが…。

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学園の王子様・深くんの紹介。眠り姫ならぬ眠り王子を捕獲して恋に落ちた音色。

者自身が面白そうな人ですね。
この作品の連載当時はは まだ若いこともあり(多分)、
バイタリティに溢れていて、私生活の半径が随分と広い。

出歩かない漫画家さんは本当に半径5メートルの世界の出来事で あとがきを埋めてます。

作者も顔出ししている漫画家さんのように前に出て欲しいなぁ。
作者自身にもファンが付くと思われる。


は遅くなりましたが『1巻』の感想を。

1話で音色の家庭の事情が語られる時、
音色にに弟たちがいるような設定だったけど、最後までガン無視でしたね。

バ科の主人公以外の唯一の女子生徒・虹花(にじか)がクラスの説明をする時の
「他にも何人かいるけど ほとんで来てない」というのは、新キャラの余地を残したのだろうか。

音色は、うっかり西日本最強の人間になったから、
東日本で自分をリセットして、これまでは叶わなかった恋をしたいと思っているという設定。
いわゆる恋に恋い焦がれる少女なのです。

そんな彼女の目に留まったのが、生徒会役員の相澤 深(あいざわ しん)。
成績トップ・品行方正・キラキラフェイスと三拍子そろった逸材。

あぁ白泉社だったら この人と最初に出会って、
生徒会や変な部活に入らされて コメディするんだろうな…、と思わざるを得ない。

しかし白泉社漫画なら主人公が巻き込まれていくところだが、
音色は周囲を巻き込んでいくタイプである。

きっと音色以外だったら、特殊科の人と こんなに仲よく出来なかっただろう。

もしかしたら登校してこない特殊科生徒は、特殊な環境に適応できなかったのではないか。
それは決してイジメとかではなく、他のマイペースな特殊科生徒たちに合わせることが出来なくて、
学校に居場所を失ってしまったのではないか。
だから生徒数の減少を嫌い、退学を阻止したい学校側との妥協点として不登校扱いなのかな。

前述の通り、1話のラストは、音色が特進科への移籍を目指すことを宣言して終わる。
彼女の巻き込み力で、全生徒の意識が変わる変革の物語になったかもしれない。


2話目から登場の理事長は、跳ねそうで跳ねなかったキャラですね。
跳ねなかったからなのか(違うと思うが)、3話目からは理事長の双子の弟が登場。

そんな3話目は初の学校イベント・学内合宿。

山に入ったら遭難すると思え、が少女漫画。
崖から落ちて、雨も降ってきて山小屋へ避難。
そこへ熊が出現してさぁ大変。

でも深くんが熊と会話できたから助かったよ☆
ツッコむ気も起きない 怒涛の展開。
もう真面目に少女漫画する気がないですね。

この回でバ科のトキオと特進科の深くんが顔なじみだということが判明する。
1話の何も始まっていない頃から深くんはナチュラルに優しい。
これは深くんが音色に少なからず興味があるという証拠なのかな。

ちなみに この遭難回で、音色は生理になっている。
これは彼女が女性であることと、
身体的不調によって、彼女が初めて守られる側に回ることを意図しているのだろうか。

脅威の肉体と運動神経を持っているであろう音色は、
トキオと違って足を挫いたりしないだろうから、
彼女でも抗えない不調として生理を持ち出したのだろう。

そこへ不調の彼女を どちらが運ぶかというヒーロー争いが勃発。
今後しばらく続く2人の対決の、初めての争いですね。


角関係の構図が見え隠れしていても、とんとん拍子に恋愛は進行中。
深とデートの約束までして上手くいきかけたところに、同性の嫉妬が介入する。
だが、そんなものには屈しないのが音色。

彼女たちのせいで髪型がボブになってしまったが、デートの約束のために走りぬく。
この髪型は快活な彼女らしいですね。

でも、この回のラストの音色の涙が彼女の悲しみを静かに物語っている。

友達に巻いてもらった髪。
好きな人のために色づいた自分。
そうして出来上がった最高の自分を断ち切らなければ会えないロミジュリ状態。

最強だけど乙女、このギャップに彼女を応援したくなります。


この回で深くんのファンたちが言う
「特進の人間には特進の人しか近づいちゃいけない」暗黙のルール。

これは白泉社漫画のヒロインが あまりイジメられないことに繋がるルールですね。
一般生徒とは住む世界が違うことにして、彼らを殿上人のように扱う。
身分社会は、登場人物が負の感情に巻き込まれない清浄な世界のための装置です。


しかし事態を察した深は、生徒会役員として音色に嫌がらせをした
自分のファンたちの活動停止を命じる。

この回で他の生徒会メンバーも顔出しがあるが、
この後、中盤で本格的に顔出しする時と顔は変わらない。
序盤から設定を用意していたことが分かる。


順風満帆に恋愛が上手くいっているので、
王道の元カノ問題を匂わせて終了する1巻。

多少、絵に違和感を覚えるところはあるが、
グイグイと読ませられる漫画となっている。
この作品以降の活躍も納得の内容でした。