佐藤 ざくり(さとう ざくり)
おバカちゃん、恋語りき(おばかちゃん、こいかたりき)
第04巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
筋肉バカ少女・音色が恋愛の道を進む究極のラブストーリー(嘘)も4巻に突入!! 修学旅行で京都へ! …ちょっと待て。関西といえば音色が名をはせた古巣では!? 案の定、音色に恨みを持つ凶悪軍団(でも、影虎は女子に人気!)に深がさらわれた!? 恋愛の行方やいかに!?
簡潔完結感想文
- 西日本。バトルも恋も、足を洗ったはずの世界に戻ってきてしまう音色。
- 喧嘩を停止させるには水を掛けるか、恋の炎に火を灯すかの二択です。
- 深にはマスクで唇を隠し喋らない意思を、トキオには唇を差し出す意思を。
三角関係のその先を描いていく、3+1の 4巻。
京都・大阪が目的地の修学旅行編の後編。
修旅の前編で一度はヒロイン・音色(ねいろ)を こっ酷く振った深(しん)が、
音色への止められない想いを告げ、改めて三角関係が成立した。
この『4巻』で描かれる修旅後半では、
掲載誌の表紙を飾るほどの人気を獲得し始めた本書の、
ちょっと変わった恋愛の構図を改めて示しているように思えた。
西日本最強の女と噂された音色の、バトルと恋の立ち位置がハッキリする。
噂から逃れるように東日本に転校したはずの音色が、
修学旅行で西日本の地を うっかり踏んでしまったことから始まる騒動。
どこから嗅ぎ付けたのか音色の襲来は彼女と過去に因縁を持つ者たちに察知され、
復讐の為に、音色を恋愛から抗争の日々に立ち戻そうとする。
だが、今の音色は一人ではない。
自分のことを好いてくれる男性が2人もいる。
彼らが音色のナイトになると思いきや…。
本書では誰が一番強いのか、どのくらい強いのか見せつけられる内容であった。
本人の意思とは裏腹に周囲が放っておいてくれない音色を守ろうとトキオ・深の2人が、
それぞれに身体を張って音色に対する熱意を見せた。
音色を戦いの中に戻さないよう、足を洗える環境を整えようと、
落とし前を付けようとするトキオは、まるで任侠の世界の者であった。
彼女に向けられた銃口(といっても改造銃だお☆)から身を挺して守った深はヒーローだったが、
同時に敵対勢力に攫われるヒロインでもあった。
音色は彼らが傷つく様子をただ黙って見ていることは出来なかった。
彼女の我慢を越える出来事が起きた時、彼女は戦いの中に舞い戻る。
仲間たちが次々と倒れ、最後に主人公が登場するのは少年漫画そのものである。
男性たちは主人公の登場をお膳立てする前座であった。
今回、明確な敵対勢力がいることで、音色の圧倒的強さが初めて示された。
そして改めて本書においては性差がないのだと思わされた。
もしかしたら日本で一番強い人間かもしれない音色。
人としての器も大きく、腕力もある彼女が、恋に恋しているギャップが際立つ。
性差がないことは、修旅から帰ってきてからのキス事件でも見られる。
クラスメイトの虹花(にじか)からキスに関する入れ知恵をされて、
頭がキスでいっぱいになる音色。
彼との交際も5か月なのだから キスぐらい、という
虹花のアドバイスを鵜呑みしてマニュアルくんと化す。
かつて音色が恋をすることを目的としたように、
今回はキスをする目標に向かって全身全霊を傾けてしまう。
音色は さながら欲望に動かされる男子のような有様であった。
そんな欲望丸出しの音色に対して、トキオが拒否するのも従来の性別とは逆転の現象を見せている。
トキオの拒否の理由が分からない音色。
もちろん その理由は、そこに心がないから。
なんだか心を持たないAIが、人の心の機微を知る物語と似ているなぁ…。
これが『4巻』の前半で、男性たちをなぎ倒した人の姿なのか。
世間の情報を鵜呑みにし、ただ「する」という達成だけを目的にしていることがトキオには悲しい。
これ男女が逆転していたら、絶対に少女漫画の本命には なれないパターンですね。
○○くんは私が好きなんじゃない、私の身体が目的なんだ…と思う場面。
この問題は男女関係なく、トキオも深く傷ついた事だろう。
多分、それは深に対しても同じで、男女逆転するならば、
音色くんは学校一の美少女・深子ちゃんというステータスに惹かれただけ。
男性化させると割と薄っぺらい人間ですね、音色は。
そんなだから『5巻』登場のあの人に全てを奪われそうになるのだろうか。
おバカちゃんが恋を語れるようになるのは まだまだ先のようです…。
また、キスの実行の前に、深に対する頑なな態度も気になるところ。
マスクをして深とは話さない意思を全身で表現する音色。
でも深に対する不自然な態度がかえって、
音色が「トキオの彼女」という立場を守ろうとしているだけに見えてしまう。
深と話さないと決めることで、揺らぎそうになる自分の心を自制しているのではないか。
そしてトキオとのキスさえも、既成事実を作り、
もう戻れない場所まで自分を追い込むためのようにも見える。
でも そんな本人も無意識の行動が、深をより音色に夢中にさせているのかもしれない。
逃げようとする者を追ってしまうのは男性の本能なのかも。
恋愛に関しては、どっちに転べるようになっている状態を維持しているのが凄い。
だからこそ ここまで新キャラを投入しなくても、本書は十分 面白く出来たのではないか。
怒涛の新キャラ祭りが『3巻』以降、続きます。
ずっと本書と白泉社漫画の類似点を列挙していますが、
この新キャラ祭りも白泉社漫画でお馴染みの手法である。
新キャラを投入し続ければ、物語に もう一波乱起こせるかもしれない、という人気作品の延命策でもある。
多くの白泉社漫画の場合は、恋愛相手が早めに固定化されているが、
恋愛の決着という点では、本書はまだ付いていないので先の読めない楽しさがある。
しかし学校内では収まり切れない音色のスケールが故に、事件が大きくなっていくのが気になる。
そのために用意された修旅と新キャラだったが、
これが私の読みたかった内容かと言われたら肯定できない。
修旅の目的地が西日本だから、この展開が起きるのは必然だったのだろうが、
高校生活での大事なイベントである修旅がこうやって消化されていくのは残念だった。
ずっと、修旅前半のような、旅先での恋愛イベントを期待している自分がいた。
折角、恋愛模様が面白くなってきたところなのに、水を差した気がする。
なのでトキオの願いではないが、音色には足を洗わせてあげたくなった。
こういう展開をやるにしても最後の最後で良かったのではないか。
一大騒動は起きたものの、何事もなく学園生活がリスタートしている。
今回登場の新キャラの影虎(かげとら)は音色の第3の男として活躍するのでしょうか、
それとも ただ単に乗りの軽い人なだけなのか。
お祭り騒ぎの似合う漫画ではあるが、
新キャラ祭りで落ち着きが失われているのも事実。
バランスが難しいところである。
虹花と生徒会長は、それぞれトキオ派と深派に分かれている。
これは それぞれのファンの声の代弁者なのだろうか。
彼女たちが交互に、おバカな音色に色々吹き込んで音色の恋心を混乱させていくのも楽しいかも。
(修旅の生徒会長のように権力行使は楽しいものではないが…)