池山田 剛（いけやまだ ごう）
うわさの翠くん!!（うわさのみどりくん!!）
第02巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
初ゴ－ル。初勝利。翠（みどり）の男子高ライフ絶好調！！
サッカー部のみんなともなじんできたけど、翠のヒミツを知っているのは隣部屋のカズマだけ。
翠とカズマ、今日は渋谷にお買い物。プチ変装で女の子の姿に戻った翠にカズマはドキドキがとまらない！
翠の無防備な寝顔に、思わずキスを！？
簡潔完結感想文
- 買い物。平時はずっと変身して、ここぞという時に女性に戻る。逆・美少女戦士・翠。
- バイト。カズマが女の私を見てドギマギするのが楽しいからヒラヒラ制服でバイト（嘘）
- 練習試合。敵チームを助けた数分後 故意に怪我をさせる司。ヤツには恋がないでしょう。
一進一退の攻防で、終盤に同点となるための試合運びの 2巻。
物語の大きな核となるのは、やはり三角関係だろう。
『2巻』ではその核を成すための布石が打たれている。
まずは女性でありながら男性として高校サッカーに参戦する翠（みどり）。
翠を参戦へと導いた高校生NO.1プレイヤーで、乙女の敵・司（つかさ）。
そして翠のチームメイトで、翠が女性だということを知っているカズマ。
本書ではこの三人が形成する三角形が ずっと描かれ、
そして、最終盤に彼らを結ぶ線が等しくなるように調整されていく。
性別を行き来し、好きと嫌いを行き来する先の見えない試合展開が続いていく…。
『2巻』で人を結ぶ線が大きく変わるのはカズマだろう。
これまでは翠が女性であることにドギマギしていたが、
今回、翠と2人っきりで出掛けることで彼女自身に惹かれていく。
そして その帰り道では眠る彼女の顔にキスをしてしまう…。
カズマの純情が、倫理観のおかしい本書での一服の清涼剤です。
といっても、カズマの司に対するビハインドはまだまだ大きい。
なぜなら司は既に翠と肉体関係を結んでいるからである。
肉体的接触においては勝ち目が無さそうなカズマだが、
チームメイトとして一番近くにいる者としてのメリットを最大限に生かせば逆転の勝機はある、はず。
カズマがキスをしたのなら、司もまたキスをするのが
読者に息をつかせないゲーム展開の面白さ。
2人に接触の機会が訪れるのは、翠と司の高校の練習試合。
その試合のハーフタイム、ロッカールームで唇を重ねる2人の姿があった…。
司を憎むことを原動力にサッカーに打ち込む翠だが、
やはり翠にとってサッカーは司との縁を切れさせない道具でもあるのかもしれない。
唇は彼を受け入れ、頬は赤く染まっていくのであった…。
この翠と司にあるアンビバレントな感情が本書の読みどころであります。
カズマと違い司は肉体的接触で行けば大きなアドバンテージがある。
ただそれは、翠に好かれるという問題においては大きなビハインドでもある。
司は翠に冷淡に接しながらも、他の男（カズマ）を見ることも許さない。
再会までの3年間で獲得した俺様キャラを崩さないまま翠への優しさを見せなければならない。
そんな かなり難しい役作りの上で「司くん」ではなく「司」を演じ続ける。
そんな彼自身の葛藤も少しずつ見え隠れしてきた。
そして翠にとっても、司は自己矛盾の象徴のような存在。
「司」は憎いはずなのに、彼の中に「司くん」を垣間見る度、
そして氷野司という連続性において、翠はどうしても彼に胸を焦がす。
翠にも司にも思い入れのない私のようなものからすると、
彼らはダメ男と その彼を捨てきれない女性にも見えてくる。
（妄想開始）
20年後、かつて高校サッカーを騒がせたスター選手であった司は、
そこを頂点として さしたる実績を残せないまま選手生活を終えた。
昼間から飲んだくれている彼を支えるのは、
在りし日の彼を知っている1人の女性。
時に酷い扱いを受けながらも、かつて自分が愛した人だからと甲斐甲斐しく世話をするのだが…。
（妄想終了）
といった感じだ。
ダメ男だと分かっても信じてしまうのが、義理堅い女性の心理なのでしょうか。
にしても今の翠にとって、最大の目標としている、
司にサッカーで勝つ、とは具体的には何を意味するのだろうか。
学校として高校サッカーの大きなタイトルを獲得するという意味でもなさそうだ。
なら、今回のような練習試合中でも、
司にサッカーの技術などで上回れば勝ったことになるのだろうか。
そして技術での勝利が、乙女の純情を奪われた心の穴を埋めるのだろうか…。
そんな根本的な疑問もあるが、
翠の勝利の意味は、作者が自由にゴールポストを動かして、
後でどうとでも理屈がつけられるようになっているのでしょう。
普通の男装漫画ならば、他生徒に翠が女性であることがバレそうになる場面や、
翠の性別を怪しむ人からの追及をかわす展開が用意されるところだが、
本書の場合は、それがほとんどない。
あくまでも主役は3人。それ以外の人の参戦は認めないのでしょう。
省略されているといえば、サッカーと下宿以外での翠の高校生活も無いに等しい。
サッカー部以外の生徒たちはほぼ登場しないし、
そして授業や勉学のことも無視されている。
高校生活を描いた少女漫画で よく見られる試験勉強を一緒にする場面などもない。
徹頭徹尾サッカー漬けの漫画である。
その割には翠はバイトをしたり、物語の後半では外泊や無断欠席をしたりと、
サッカー部の規律など無きに等しいものとなっている。
あとは着替えとかお風呂とか（これは後の巻でちょっと出てきた）
翠が気を配らなければならない場面は多いはずだが、なぜかバレない。
まぁ、リアリティよりも小中学生の憧れを全部 詰め込んで描くことにしたのだろう。
ただ、そうするならばサッカーに関することは もう少しリアリティが欲しかった。
折角、スタメンメンバーは顔の名前も設定しているのだから、
試合中の彼らの活躍を描いても良かったのではないか。
シュートもディフェンスも翠やカズマがやっていてはポジションの意味がない。
『2巻』でも明らかに司の頬を叩いた翠が受けた退場処分を、
司の一言で取り下げさせてしまうなど、ルールや審判をないがしろにする場面が気になった。
きっと作者が好きなのはサッカーという競技ではなく、サッカーをしている登場人物たち、
そしてそれを描いている漫画家の自分という気がする。
