池山田 剛(いけやまだ ごう)
うわさの翠くん!!(うわさのみどりくん!!)
第07巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
開鳴高校のエース・神保(じんぼ)の卑怯なプレーでカズマが負傷。肩を狙われた翠(みどり)も倒れこんでしまって…。しかし、試合会場に来た司(つかさ)の姿に翠が奮起。逆転で青葉三高がベスト4に!悔しさを抑えきれない神保は翠に襲いかかり…!?
簡潔完結感想文
- 悪役退散。乱暴狼藉を働く卑劣漢も手を捻り上げれば逃亡。「覚えてろー」スタコラサッサー。
- 両手に大輪の花。自分を守るため 自己犠牲と自己研鑽してくれたレベルの高い男性2人。
- 救済の光。自分が守りたかったものを失った司。崩れかける司の精神を翠が支える。
過去のトラウマも 美形男子にとっては自分を着飾る宝飾品なのさ☆ の 7巻。
『7巻』で ようやく司(つかさ)を束縛していた鎖の正体が明らかになります。
それによって、これまでの司の行動の裏にあった心理に
説明はつきますが、納得は出来ない、というのが正直な感想。
作者が お話として持っていきたい方向性や、
考えているプロットは しっかりした構造なのですが、
どうにも登場人物たちの思考に疑問が出てくる。
以前から言っている、司不良説に沿うならば、
家庭環境が悪化した子ならば、グレることが正当化されるかの内容は首をかしげます。
読了すると それもまた作者のラストへの伏線という見方もできますが、
だからといって司の行動全てがトラウマ一つで説明できるわけではない。
私なら絶対に司に同情しないと思う。
まるで最終巻のように、2つの試合で勝負が決まる『7巻』。
1つは本書最大の卑劣漢・神保(じんぼ)と、翠の高校の試合の決着。
そしてもう1つが、カズマと司の翠(みどり)を巡る恋のバトルである。
まず神保。
卑劣な男は負け犬でもあった。
独りで着替えようとする翠に訪問客。
それが復讐鬼と化した神保。
彼が翠が開いた扉から顔を出す場面は、
さながら童話の狼か、映画の「シャイニング」の様相である。
またもやロッカールームでの猥褻である。
サッカー場を舞台にすると密室になるのが ここしかないのだろうか。
神保に くみしだかれながら、翠は司が黙秘していた敗北の理由も知る。
その事実を知らないまま司を責めたことを悔やむ翠。
ここのところの翠は本当に女性ですね。
怪我もあってフィールドの上でも守られているし、
力では敵わず、男性の乱暴の対象にもなっている。
もっと強い女性像を描いて欲しかったなぁ。
神保に凌辱されそうになった翠を助けたのは司。
少々痛い目を見ると逃げ出す神保は、時代劇の小悪党そのものである。
でも婦女暴行未遂の現行犯の証拠写真があっても、
神保が匿名の電話などで翠の性別を密告する可能性などもあるのではないか。
まぁ そこも勧善懲悪の時代劇のように、彼の退場後は何も起きないだろう。
今回は、司が翠の窮地を救った良い場面ですが、
またもや司は上半身裸の翠を抱擁している。
この場面を誰かに見られたら、翠と司の選手生命が一気に終わっちゃう。
しかし司は証拠写真を ちゃんと消したかな。
司の愛は変態的だから、役得だと消さずに眺めては翠の裸にニヤニヤしてそうだ…。
逃げ出した神保とカズマの間で交わされる会話は、カズマの強さを際立たせる。
サッカーのセンスも才能も司に及ばないことでラフプレーをするようになった神保。
そして今回、翠を神保から守るための特訓中に同じことを痛いほど自覚したカズマ。
人の弱みを的確に突くことに優れた神保は、
恋愛でもサッカーでも司に及ばないカズマを揺さぶりにかかるが、カズマの心は揺るがない。
それでもなお、カズマはサッカーに対して 翠に対して愚直なほどの愛を貫こうとする。
この場面、神保とカズマの共通点と相違を鮮明に描き出しているが、
実は、司との相違も描いているように思う。
この後に明かされる司の過去。
もし司の立場にカズマが立たされたとしても、
カズマは司とは違う選択をしたのではないか、という2人の性質の違いがある。
司もまた神保と同じく堕ちていく自分を抑制できていないのだ…。
司と気持ちが通じたと思われた場面で、翠の頭に浮かぶのは
試合中、途中退場して不在でも 確かに存在を感じたカズマの声。
自分を守るために敗北した司の気持ちも、
自分の未熟さを痛感してもなお前進するカズマの気持ちも
痛いほど理解した翠は困惑して涙を流す…。
カズマの急速な成長もあって、翠の中の2人の男性は同点になった。
そんな試合があった夜、司が行方不明に。
そして明かされる彼の過去。
んーー、ここまで随分引っ張ってきましたが、
重い内容には違いありませんが、これは性格が激変することなのだろうか?
トラウマ設定をほのめかしすぎて、悪行とのバランスが崩れている気がする。
天才の名をほしいままにする彼が卑怯な手を使う動機としては弱い。
命令を出す理事長の背景が全く描かれてないから、よく分からない。
29歳の設定だったかな?
理事長としては若いが、彼も実績を作りたかったのか。
ここは誤魔化さずに ちゃんと理由を描くべきだった。
そして「負けることの許されないサッカー」をしてきた割には、
司なしでは負けるチーム作りをしていたのも疑問。
サッカーは個人競技ではないのだ。
特に全ての事情を知る、司の友人・明(あきら)は、
もっとチームを鍛え上げなければならなかったのでは?
司を囲む登場人物たちの行動に納得がいかない。
ただし、司が卑怯な手を使うことは父親を守ることでもあった。
だが、その父も失い、彼のこれまでの不良行為は司を苦しめる黒歴史になった。
そうして今度は絶望へ堕ちそうになる司を守ったのが翠だった…。
翠の中で均衡を守っていた、司とカズマの天秤。
だが ここにきて、司の全てを理解したことで、
彼の孤独に共感したことで司へと大きく傾く。
少女漫画の鉄則からいくと身も心も一つになった翠と司は完璧なカップルなのだが…。
司自身も、例えトラウマがあったとしても、
ヤり捨てることの正当化にはなっていない。
いくら重い過去が明らかになったからって、
翠もここで情にほだされて、司に なびくんじゃないよ…。
正々堂々と勝負してから、司との関係に決着を付ければいいのに、
壊れそうな彼の心を守るために身を捧げちゃうんじゃ、努力の意味がない。
これでは1年前、故郷の南の島で司に愛を囁かれて簡単に身体を許した日と何も変わらない。
男装して男子校に入ってまで叶えたい目的を忘れて、
再び一人の女性として司の心の叫びに応じてしまっている。
(それもまた作者の狙いではあるんだろうけど)
初回はともかく、2回目である今回は身持ちを固くしてほしかった。
カズマと違って、流されるままで未成熟な翠の心は あんまり成長してないのかな??
最初から鉄則を破って肉体関係から始まりましたが、
当初の動機を忘れてなだれ込むように一夜を共にする展開は、
物語の根幹を揺るがす、というか(主に読者の翠への心証には)悪手だった気がする。
ツッコミどころとしては、今回もシュートシーン。
キーパーが翠の足元のボールめがけて飛び込んできたところを避けて、
ボールを浮かしてオーバーヘッドキック。
作者はこういう派手なゴールシーンを描きたいんでしょうね。
それで試合が劇的になると思っているのでしょうね。
『6巻』のカズマの謎の単独ジャンピングボレーシュートもですが、
せめて仲間がパスを浮かした場面で描くべきなのではないか。
サッカー知識のない私でもそう思うのですが…。