《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

外泊しても特に咎められない 寛容な男子校の寮は 女子高生が暮らすにはパラダイス。

うわさの翠くん!!(8) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
うわさの翠くん!!(うわさのみどりくん!!)
第08巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

私の心とからだすべて使ってあなたを守る…!!
唯一の肉親である父親を亡くし、司(つかさ)が行方不明に!必死になって捜しだした翠(みどり)は、司を受け止め、2人で生きていこうと決める。ようやく気持ちが通じ合った翠と司。そんな時、翠の母親が倒れて…!?
●収録作品/うわさの翠くん!!/少年Xシンデレラ

簡潔完結感想文

  • 事後連絡。全てが終わってから連絡を入れる翠。狡猾さに心身ともにダメージを受けるカズマ。
  • 緊急連絡。翠の母 倒れる。帰省した娘から聞いた話は卒倒するような事実。でも許しちゃう。
  • 籠絡完了。復讐とは絶望、絶望とは絶頂からの転落。悪女・翠の遠大な計画の全体像が見える。

しかして、これが翠の復讐の形なんじゃないか、の 8巻。

まるで最終回のような『7巻』のラストシーン。

ヤり捨てから始まった物語だが、2人の間にあった誤解や桎梏(しっこく)は解消され、
相手を思い遣る心で一つに結ばれた主人公・翠(みどり)と司(つかさ)。

では この『8巻』では何が描かれているのかというと、
恋の絶頂期に達した翠と司のラブラブっぷり、
そして三角関係が一つの結論に達し、ボッチの点となったカズマとの関係の清算である。

『8巻』の中盤をもって本書は完結することも可能だったろう。
1つのルートとしては司の再生と、幼い恋が成就するハッピーエンドだ。


だが、どうやら作者は ここから別のルートの創出を試みているようだ。
『8巻』のラストページは不穏な空気を醸し出して終わる。

もしかして これは絶頂からの絶望を導くために、仕組んだ翠の罠なのか…⁉


えば翠は ずっと あざとい。

男装して男子校に潜入しているが、胸の膨らみも隠さない。
何かといえば裸になり、男子を翻弄している。

男性にも女性にも見えるよう比率を5:5にキープし続ける演技は女優である。

そして今回、一番 翠のスキャンダラス女優っぷりが発揮されるのが、
行方不明となった司の捜索シーン。

司との思い出の場所で彼を発見するが、
同じく捜索していた司の友人・明(あきら)とカズマに連絡するのは明け方。
彼ら2人は骨折り損のくたびれ儲けである。

そして その連絡内容は、「昨夜から2人で司の実家に」いるからというもの。

連絡までの空白の数時間に自分たちが何をしていたのかを ほのめかす匂わせ連絡である。
カズマに直接 連絡したわけではないが、彼の焦燥を煽る効果は絶大だ。

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男性の精神を徹底的に痛めつけるにはどうしたらいいか熟知している うわさの翠ちゃん!!

そして愛する男に抱かれた その身体でカズマからの想いを断る翠。

死者に鞭打つような仕打ちに涙が止まりません。

せめて ちゃんと事前連絡してくれればいいものの、
理性を吹き飛ばすほど情欲に溺れた証拠があるので、いい場面が台無しです。

こうして翠は1人目の男性を絶望の底に落とした。
そして2人目は…。


の無断外泊は続く。
もちろん司と同じ時を過ごすために。

ってか、司はどこから宿泊費を捻出しているのでしょうか。
経済的に苦しいから理事長の意のままだったのに、贅沢でんなー。

…と思ったら特待生の奨学金を断ってきた司。
最後の豪遊だったのでしょうか。

司は、これまでの援助金も返却していくつもりで、
今後はバイトとサッカーの両立を目指すことを宣言する。
そして司もまた翠と対戦するためにサッカーを続けることを決意した。

これにて司の更生は完了ですかね。

これで彼の しがらみが全部とれた状態になった。

そういえば司は明と寮で同じ部屋らしいが、
翠たちの下宿が個室で、司たちの学校が2人部屋なのは違和感。

しかも理事長の秘蔵っ子、特待生の司なら色々と便宜を図れそうだ。


子供の頃以来の晴れやかな気持ちでサッカーに臨む司とは違い、
この時点で翠には もうサッカーを続ける動機がないのではないか。

ヤり捨ての復讐という動機も弱かったが、
翠にも司との再戦を望む新しい動機が欲しかった。
輝く司を見て、負けてられないというサッカー好きの純粋な感情でいいから。

翠は司を思いっきり殴ったことで全てが清算されたのかな??

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この海は故郷の海に似ているけど違う海。そして貴方という存在も…。

ちなみに翠の学校は、勝ち進んだインターハイ予選の準決勝は、
前の試合、卑怯な神保(じんぼ)との戦いに全力を出し切ったため敗退したらしい。
スラムダソクだったら最終回ですね。

この試合、翠は怪我のためにベンチ。
ここにきて怪我を持ち出しますか…。
何だか ご都合主義ですね。

翠にとっては司と対決、もしくは彼の敵(かたき)がいなければ強行出場する意味もないってか。
戦いの女神である翠が出場して負けたらダメなんでしょうね。


の後の意外な展開に続くのが、「友達」カズマとの友情。

『8巻』ではカズマの弟が初登場。
ここにきて初出しの設定が盛りだくさん。

カズマの両親が離婚している設定なのは、司と条件を近づけるためか。
父親が原因で一家離散というのも同じ。

司と同じような境遇だが、カズマの取った行動に彼の強さと優しさが出ている。
彼の行動が父親の未来を救ったともいえる。

やはり精神力では司よりカズマの方が優れているということなのだろう。
人に寄り添い、そして決して道を外れない。

そんな後付け感満載のカズマの家庭環境を話させたら、弟くんは即退場。
兄弟は再会後、弟を すぐに帰宅させてしまいます。
一晩ぐらい寮で面倒を見る話でも良かった気がするが…。

翠・カズマ・司、この3人はシングルマザーや離婚など両親の欠落が共通点なのか。
これは彼らの不幸を演出しているだけなのか、
この隠れた共通点が男女が惹かれ始める一因だったりするのだろうか。


んな人に寄り添うカズマは、翠の苦境の時も傍に居続ける。

離島で一人で暮らす翠の母が倒れたという連絡があった。
運悪く、司がドイツに海外遠征している隙に、翠が里帰りしたのだ。

ここで司が翠の傍にいることが出来たら、物語の結末は大きく違っていただろう。
翠の故郷の島、それは司との出会いの場所だから。


※ 結末までのネタバレになりますが、私が常々 提唱している、
「少女漫画のカップルが両親に会うと、そのカップルは結婚する説」は本書にも当てはまりますね。

島に一緒に行く人の選択が、翠の人生最大の選択だったのかもしれない。


島へ帰ったことで、翠の男子校ライフが母にバレる。
高校側に謝罪をしようとする常識的な母。

だが、カズマは翠の司と戦いたいという願いを優先させようとする。
カズマが言った「もう少しの間」というのは、
司との再戦が果たせるまでの間という意味かと思いきや、ちゃんと卒業してます、この娘…。

カズマは自分も連帯責任者になることで思い止めようとする。
まぁ、大人からすれば交換条件でも何でもない気がするが…。

そんなカズマの姿に、一層の友情と尊敬を感じる翠。
司を選んだために自分はカズマを避けていたが、カズマは痛みから逃げなかった。
どんな時でも彼の信念はブレない。

にしても数日間も休みを貰えるなんて、強豪校として寛大な部活&高校だなぁ…。


そんな日々を過ごした後、司と再会した翠が無意識に(だと思われる)、ある行動を取ってしまう。

そうして翠の乙女の復讐は果たされるのであった。

怖い、怖いよ、翠。
サッカーじゃなく私生活からボロボロにするんだね…。


「少年×シンデレラ」…
平凡な男子中学生がメイクをすると新人美少女モデル⁉
ドラマに初挑戦すると、なぜか自分に厳しい視線を送る子がいて…。

本編・翠くんの逆パターンですね。
そして福山リョウコさんの『悩殺ジャンキー』と同じパターン。

モデルとしてビジュアルだけならともかく、現実的には声の問題は大きいと思う。

恋愛モノとしては好きになる動機が少し弱いか。
2人とも慣れないことをしている「吊り橋効果」がありそうだ。

私としては このぐらいの甘酸っぱい感じの方が好み。