池山田 剛(いけやまだ ごう)
うわさの翠くん!!(うわさのみどりくん!!)
第09巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
翠……オマエが愛しているのは 本当は――…。
司(つかさ)の温かな腕の中で「カズマ…」と寝言をもらした翠(みどり)。その不安を打ち消すように司が翠にプロポーズ。もう司を独りにしないと決めていた翠は「結婚する!」と即答。そんなとき、カズマが暴漢に足を刺されて…!?
●収録作品/うわさの翠くん!!/少年×シンデレラⅡ
簡潔完結感想文
- 不幸もまた同点。翠を想う強さも同点、そして突然の不運も…。決着は心の強さで決まる⁉
- 疾風に勁草を知る。作者からの理不尽な仕打ちにも めげないカズマ。そこに聖女が降臨す。
- 計画通り。ニヤリ。甘美な夢を見た男が絶望に打ちひしがれる姿を悪女は見たいものなのさ。
稀代の悪女か、奇跡の聖女か、それが問題の 9巻。
ここにきて翠(みどり)が男性を破滅させる女性、ファム ファタルなのではないかという疑惑が出てくる。
そして翠が女性だと知っていった順に不幸になっている。
次の標的は品川(しながわ)先輩か、敵チームの明(あきら)や久里浜(くりはま)か。
みんな逃げてー、と言いたくなるほど、
翠と知り合ってから数か月後に自分の周囲に不幸が起きる。
恵まれた素質を持った司(つかさ)に続き、あの人に不幸が起きる…。
語弊があることは重々承知だが、
『9巻』では翠は司への復讐を果たしている。
自分に全身全霊で愛を注ぎ、そして家庭を築くことすら見据えている司へ、
その展望を打ち壊すような仕打ちを し続ける。
『8巻』でも唱えた、翠が司への復讐を忘れていなかった説が現実味を帯びてきます。
その手始めが、男性と愛を交わした翌朝に寝言で違う男の名前を呼ぶというもの。
これは男性側にとっては最も屈辱的な場面かもしれない。
かつて翠の故郷の島で乙女の純情を奪った司。
その彼を愛憎なかばの気持ちで追ってきた翠。
この時の翠は復讐という言葉を使っているけれど、結局、自分は追う立場。
それを今回、立場を逆転して司に追いすがらせようとするのが翠の計画なんじゃないか(妄想)。
ということは寝言を言った時、翠は もちろん覚醒している。
司が起きていることを知覚しながら、ダメージの大きい言葉を発した。
そして彼の衝撃の一呼吸後に目をあけてみる。
寝ぼけたふりをしながらも司が少なからぬショックを受けていることに満足する翠。
でも起きてからは司のことが大好きな女性を演じる翠。
だが、だからこそ無意識に呼んだ、本能で求める男の名が司の胸に棘となって残るのだ(ニヤリ)
早すぎる司からのプロポーズは翠にとって想定外のことだったかもしれないが、これも彼への復讐の手段となる。
積み上げたものが大きければ大きいほど、轟音と共に崩れ去るものだから。
…と、このような一つの解釈もできるのが感想文や考察の面白さではないか。
(ファンの方々などから お怒りの声が来ないようにする予防線)
冗談はさておき、翠は確かに司を一途に想っていた。
司の父親が他界した夜、翠は自分の心身を賭けて司の心を守ることを決意した。
司が翠に望むままに生きることがその証。
ここでは貯金で母が倒れた一報を受けた翠が、
司の心情を真の意味で理解するというエピソードの重ね方が好きです。
トンデモ展開が続く本書だけど、結構、というか かなり論理的に作られています。
三角関係の結末に納得がいかない人もいるだろうけど、
そこへと至る道筋は作者がちゃんとつけてくれているのを読み逃さないように。
まぁ、翠悪女説に従うなら、司の父親が他界した夜、
翠が司に身も心も捧げたのは、司が自壊することを防ぐ目的があったのでは、と邪推できる。
司を壊すのは敢えて翠自身でならなくてはならない。
だから、一度は精神の崩壊を食い止め、その後に翠が息を止める、という寸法だ。
本書最大のトンデモ展開が、カズマの怪我。
うーん、これは練習中の怪我じゃダメだったのかなぁ?
司だけじゃなく、カズマにも同等の不幸を与えたのだろう。
こうしないと話が動かないのは分かるが、
私は三角関係の結末よりも この展開を設けたことが一番嫌だ。
当事者にとっては何の救いにもならない言葉だが、
これは「神様はその人が乗り越えられる試練しか与えない」という言葉の通りかもしれない。
もしこれが本書最大の卑劣な男・神保(じんぼ)の身に起きたら確実に自暴自棄になるだろう。
また司であっても同様だ。
なぜなら彼は一度 不良化したことがあるから。
本書の中ではカズマにしか乗り越えられない試練なのだろう。
彼のリハビリを陰から見つめていた司も、それを痛いほど感じただろう。
これはサッカーではなく、男として 人としての敗北。
これもまたラストの司の選択の一つの要因となる。
司がその選択を出来たこと自体が彼の成長の証でもある。
以前の独善的な彼ならカズマの精神力の強さを正しく計れなかっただろう。
だが、自分の過去の過ちを素直に認められる彼だからこそ、カズマの正しさを理解するのだ。
そんなカズマの性格形成には、弟の存在が大きく関わっているみたい。
両親の離婚で幼いながらも傷ついた心、そして離れ離れになった兄弟。
でも弟に自分の背中を見せるという信念がカズマを支える。
もし司に庇護すべき弟妹がいたら、彼の人生もまた変わったかもしれません。
そんな苦しい状況の中、翠悪女説に続いて提唱したいのは、翠聖女説。
少女漫画のヒロインは、かなりの確率でヒーローにとっての母的存在、
またはそれを超えて聖女的な紙に近しい存在になっていくというのが私の説ですが、
本書の翠はまさにそんな存在。
傷ついた男性に寄り添うために彼女はいる。
でも恐ろしいのが、その男性が不幸になる前に出会っていること。
翠の司との初対面の際は、彼は世界から寵愛を受けたような存在だった。
だが翠と会って暫くした後には彼の家族は崩壊し、彼は不良化してしまう。
そして彼の父親がなくなり最も不幸な夜、聖女として翠は彼の前に現れた。
そして、カズマだ。
彼もまた翠と出会った頃には不幸な気配すらなかったが、
過去の両親の離婚が明らかになり、今回、足の大怪我に見舞われる。
そんな彼のもとに舞い降りるのが聖女化した翠であった。
この世で一番不幸な人の前に現れ、献身的な愛を捧げる、それが翠なのかもしれない。
作品としては司と結ばれる結末もあったとは思いますが、
やはり少女漫画として、身勝手に乙女の純潔を奪ったことの責は負ってもらいたい。
そして『9巻』を通して描かれていた通り、
本当の強さを持っていた人こそがヒーローに相応しい。
司に罰を与える意味でも、この結末は納得です。
(どちらかと言えばカズマ派だからも理由だと思いますが)
そういえば翠の母は、かつて司と対面したことがあるみたいですね。
ということは、「少女漫画 親に紹介したら結婚する説」からすると
司も結婚する可能性を秘めていたということなのか。
あの時の海外遠征がなければ運命はまた違ったかもしれません。
「少年×シンデレラ Ⅱ」…
『8巻』にも収録された、平凡な中学生男子・遊馬(あすま)が人気「美少女」モデルとなる話の続編。
「翠くん」で視覚による性別判断より本物の性別を見る習性が身についたからか疑問にも感じなかったが、
彼女が遊馬の男性姿を見たのは1回きりなのか。
ドラマの現場で彼女が恋する過程は視覚的には かなり倒錯的なものだったのか。
このシリーズは好きだが、これ以上の展開は望めないかも。
繰り返しになりますが、続きは類似作『悩殺ジャンキー』でお楽しみ下さい。