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少女漫画と小説の感想ブログです

別れてみたら きっと楽だよ すりへらす日々 君はいらない『コスモスに君と』

コスプレ☆アニマル(13) (デザートコミックス)
栄羽 弥(さこう わたり)
コスプレ★アニマル
第13巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★(4点)
 

入院中の元(ハジメ)の父が行方不明に。みんなで捜索中、なぜか亡き妻のウェディングドレスを燃やそうとしているのをリカが発見。必死で止めたリカは、重いやけどを負い、手に傷も残ってしまった。責任を感じた元は、リカに「別れよう」と言い残し、父の治療に付き添って再びアメリカへ。唐突な別離の言葉の裏には、元が幼い頃から抱えてきた心の傷があった。元と触れあえない時間、リカの心に芽生えたものは……。感動の最終章!

簡潔完結感想文

  • 現役高校生には抱えきれない現実。別れることが彼女の幸せを守ることなんだ。青臭い若さ。
  • 『1巻』収録の読切短編の内容をリメイク。13巻の長期連載の最後に頼るのは過去の自分?
  • 本書で最大の悪人発見。人の死期にも自分の欲望を優先させ、罰せられることなく去る悪女。

化の終着地点は自滅、死、そのものだ。 の本編最終 13巻。

ヒーロー・元(はじめ)にとっては、
恋人・リカと結婚しようと思うことも、別れようと思おうことも同価値らしい。
彼のリカへの愛が深化するほど、彼にリカを全てから守れない苦しみ苛(さいな)まれる。

そのどちらも自分の本心で、彼女を大切に想う心の表れなのだ。


『13巻』のラストで亡き妻に囚われた元の父親が、
妻の想いが詰まったウェディングドレスを燃やす現場に立ち会い、怪我をした リカ。

その事故とリカの怪我を受けて本人以上に動揺したのは元。

元の父親にとってドレスが零れ落ちてしまった幸せの象徴のように、
元にとっても父との確執と、母の不幸を象徴するものになっていた。

そして今回、リカが そのドレスにまつわる事故に巻き込まれたことで元は思い詰める。

自分の家族を呪縛するものからリカを守るにはどうすればいいか。

元が出した結論は、別れであった…。

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オレの決断は君の身体を守るため。でもそれが 君の心を壊すかもしれないことをオレは思い当たらない。

てが一度 作中や読切短編に描いたこと、という残念な部分はあるものの、
何度も描いたからこそ説得力を増す部分もあった。

1つは これまでリカが何度も怪我をしてきたこと。

てっきり怪我をするとリカが一躍ヒロインになれて、
物語が盛り上がる安易な手法だと思っていたが、
これが元を苦しめる痛みの素になるのだと分かって合点がいった。

まぁ、元から別れを切り出すのが2度目なのは残念だが。

1度目が伏線として活きてくる部分もあるが、
どうせなら本当のクライマックスで伝家の宝刀を抜いて欲しかった。

理由も1度目と同じなのでデジャブを覚える。

ただ、今回は年長の人々(初登場のリカの実母やオーナー)が、
元の独り善がりな考えを喝破してくれる部分が違います。

リカを怪我させた責任を痛感している元だが、
別れを切り出すのは電話であった。

これもまた「しっぽを巻いて逃げ出した負け犬」の行動の一環か。

今回の別れと、その原因はリカと元に2人で生きていく意味を改めて考えさせる。


にしても、元の父親はアメリカを拠点にしてるんですかね。

今回、作中で「国内線ばかりを選んで飛びました」と言っているが、
妻の死後1年経った頃は、という意味だろうか。

元の父が倒れた時もアメリカにいたみたいだし、
心療内科のカウンセリングを受けるために またアメリカにいるし。

いまいち状況が分からない。
そして、別れに続き、遠距離も2度目なのでインパクトが薄い。

ホント、怪我が重い以外は全部2度目なんですよね…。


(はじめ)一家の過去の核となる話も2度目。

『1巻』に同時収録されていた読切短編「寸止め」とほぼ同じ状況なのです。

母の死期が迫っている中、夫は他の女性と抱き合っていた、って設定が被りまくり。

なぜ同じタイトル内の『1巻』に収録した話を流用するのか疑問。
(私の場合、同時進行で読んでいた『別の漫画』でも同じような状況があったのでトリプルデジャブだった)


そして、この結末だと元の父親をずっと想い続けた深咲(みさき)が非常に性質(たち)が悪い。

自分の気持ちを押し付けようとするあまり、
元(はじめ)父子を何年にも亘って分断していたのに、
何の罰もなく次の恋を見つけようとしている点が腹立たしい。

考えてみれば彼女が愚かな行動をしなければ、
元の母親も幸せな最期になったかもしれず、
元一家は壊れずに、元のトラウマも生まれなかったのか。

どうしよう とても許せない。

物分かりの良いセクシーお姉さんみたいな立ち位置でいながら、
実は粘着質な父親のストーカーでしかなかったのか。

作者も元も、彼女を断罪しなさいよ。

男も女も、本書における横恋慕キャラは諦めが悪く、何年も何巻も想い続けるのか…?

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このままオレを頼って、全体重を、身も心も俺に預けてしまえばいいのに…。

と、疑問に思う箇所も多々ありますが、
良いな、と思う場面も沢山あったのが最終巻。

最終巻もコスプレを徹底していた作者の情熱は凄い。

リカの入院中に一足早く全員集合の同窓会が行われ、
彼らがコスプレ命のリカのために、衣装を持ち寄り、
お祭り騒ぎを始める様子は、何よりもリカの励みになったのではと ちょっと感動。

リカも作者も男性に比べて、女性の友達の扱いが雑なのが気になるが…(笑)


そして最終回も、原点に立ち返ったのが良かった。
雑誌掲載3月号に合わせて、ラストを卒業式のシーンにしたのも良い。

2人がであるキッカケになった制服で最後のシーンが行われると、
これまでの長い道程に思いを馳せずにはいられない。


ただねぇ、やっぱり深化しようが愛が弱い!

特段、愛が深まるエピソードもなく、
信じるとか「心をつないでてくれた」とか言われても…。

それに元の高校3年生(この年の)は ほぼ別れてたでしょ、この2人。

最初に父親が倒れてからが4か月(と書いてあったはず)、
そしてリカの怪我の入院から卒業式までの数か月(事故時には半袖来てたから半年ぐらい?)、
交際期間2年弱のうち10ヵ月一緒にいなかった2人に変わらない気持があると言われてもねぇ…。

作者は13巻の中で、この恋を本物にすべく研磨する努力を怠ったかな。
三角関係や格好つけた言葉やシリアスさばかりが先行して、恋に共感できなかった。


そして最初に元がアメリカから帰国して以降(『11巻』を最後に)、
エロシーンが封印され続けているのは疑問。

これだけシリアスなシーンが続いた後で、
性描写を入れると、喉元過ぎれば熱さを忘れる、ではないが、
シリアスが全部 押し流されてしまう気になるのも分かるが、
こちらも原点に立ち返って欲しかった。

そもそも読者の8割以上はシリアスなんて望んでいないのだ。

『1巻』の感想文でも書いたが、
もしかしたらこれは、連載開始時の2004年と連載終了時の2010年の、
少女漫画を取り巻く環境や、風潮の変化が原因かもしれない。

過激な性描写を各社が採り入れていた2004年に連載が開始され、
綺麗な線の絵と過激な性描写で人気となった本書だったが、
連載期間中に『君に届け』『なみだうさぎ』などの純愛が少女漫画界を席巻した。

少女漫画の性描写は有害図書と見做される恐れがあって、
編集者側も及び腰になったのかもしれない。

性に正直な女性を主人公にしたのに、路線変更しなければならなくなった。
だから純愛路線になったのだろうか。

カップルがイチャイチャするだけの漫画が、
真面目ぶって愛だの恋だの結婚だの言いだしたから、違和感が生じたのだろう。
後半に中身がないと感じられるのも それらが原因か。

たった3巻で100万部を売るという講談社の少女漫画における時代の寵児のような漫画だったのに、
いつの間にかに時代は変わっていたのである。