《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

一強多弱のイケメン戦国時代。ヒーロー 追放のために作者が起こした本能寺の変。

コスプレ☆アニマル(7) (デザートコミックス)
栄羽 弥(さこう わたり)
コスプレ★アニマル
第07巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★(4点)
 

「オレの名前呼んでよ。」元(ハジメ)不在でアラタの反撃開始! ――元がアメリカへ行ってしまい、寂しくってしょーがないリカにアラタが猛烈アタック開始! 「このままオレのこと好きになってよ。」元とアラタ、二人のあいだで揺れるリカのココロの行方は……!?

簡潔完結感想文

  • 物理的距離は心理的距離。たった5日間 恋人に会えない寂しさで出会いを求める出会い系 女。
  • 機能しない新キャラたち。人でなしアピールの男性と、なぜか一緒に帰国した意味不明な女性。
  • 空港に向かう貴方に思いの丈をぶつける、最終回っぽい展開。説得力のないヒロインの絶叫。

やぁ 良い最終回だった。えっ、まだ折り返し地点なの⁉ の 7巻。

前巻『6巻』において、漫画の新展開のために、
ヒーロー・元(はじめ)は、親が倒れたためアメリカに旅立ってしまった。

彼の父親を重病にさせてまで果たしたかったことは、
主人公・リカ と元の物理的・心理的距離を置くことだろう。

傍にいると、あっという間に問題を解決してしまう男子高校生のヒーロー。

お話が1話完結の場合は非常に助かる存在だったが、
長期連載を視野に入れた作者や編集側にとって元は一番の邪魔者になったのだろう。

作者がヒーローを追放するという前代未聞の革命。

が、この非情な決断によって本書が何を描けたのかは非常に疑問が残る。
もう どんなカンフル剤も効かないぐらい、本書の命は消えかかっているのではないか。

この『7巻』のラストが最終回で良かったじゃないか。
少なくとも、この約2倍も続けられる体力は本書には残っていない。

だってヒーローが強すぎるんだもの。
彼に勝てる人はどこにもいない。

でも今回のラストで根拠のない「半年間」の追放が決定されます…。


たった5日、たった5日間 元と離れただけでリカは人恋しくなり、合コンに参加する。

そういう女ですよ、リカは。

『3巻』では2週間ぶりに会う お祭りの日の話があるが、
その1/3の長さで、寂しさは限界を迎えたらしい。

今回は物理的距離があるし、次に会う約束もないから、という言い訳はできるだろう。

更に言えば、この合コンこそ作者の狙いだろう。

元が日本にいないからこそ、リカを想うアラタや、
『6巻』から登場した古賀(こが)が リカとの距離を縮める機会に恵まれる。

…というのは分かる。
リカが軽薄な行動に出なくては、何のドラマも生まれない。

それは分かるのだが、
リカの行動は、元との関係性を一層 薄弱にするものである。

ただでさえ、出会い系サイトで出会って、
コスプレを肯定してくれた、という弱い繋がりなのに、
リカがフラフラしていたら、純愛としても読めなくなる。

これまでも作者は仲直りや、仲を深めるシーンでは、
コスプレの肯定だけじゃない、元だから好きなんだと繰り返して、
この恋愛に少しでも重みをもたせようとしていたが、
ドラマを創作するためには、その逆の行動もさせるという矛盾が露呈した。

リカが肉体的にも精神的にも痛い目を見るから罰は受けているのだが、
色々な都合で海外まで飛ばされて、傷つけられるだけの元が不憫でならない。

今回起きたことが逆の立場ならリカは別れていただろう。

自分のいない間に 合コン、自分の親友と何かがあったという確信、
そして自分の家の前で その人とキスをしている場面を目撃。

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少し前に誕生日だった君と、誕生日を迎えたばかりの私のキス。それを彼氏に見られるサプライズ!

これだけの行動をして許されようという厚顔無恥さが腹立たしい。
元、若いんだから別の人を、と言いたくなるのも必至だ。


ラタは、今回のラストで本当に諦めてくれたのでしょうか。

本書のもう一つの問題は、一度出した結論がひっくり返されることだろう。

どんなにリカがアラタに諦めるように水を向けても、
アラタが諦めない限り、三角関係は継続し続ける。

毎度毎度、アラタの攻めの姿勢はリカの元に対する想いを補強するだけに終わる。

だが、どんなことにも「ワンチャン」はあるようで、
リカは元と遠距離になったら たった5日で人肌恋しくなった。

今回は最大のチャンスなのに、攻め切らないアラタ。
そして繰り返される再放送。

このラストで、今度こそ諦めた、と私は思うが、
必要に応じてアラタの気持ちは解凍されるだろう。

ツンデレでヘタレで純情という便利なキャラですもの、アラタは。
漫画としては元より使い勝手は数倍いいだろう。


載も長期化したからか、『7巻』の途中から、
これまで拘泥といっていいほど こだわってきたコスプレ縛りがなくなった。

まぁ、書名にもなっているので、重要な要素ではあるが、
今回のように合コン会場で いちいち着替えてコスプレをする、という
強引な展開を持ち出すぐらいなら、きっぱりと止めるのも良いかと。

ただ、コスプレがなくなると、残るのは安い恋愛描写ばかりである。
コスプレという最大の個性を奪われたリカなぞ、頭の弱い子でしかなくなっている。

嫉妬したり、人恋しくなったり、
等身大の女性といえばそうなのだが、
漫画の主人公としては核となるような性格や信念が見られない。

これも後半における この漫画の欠点となりかねない。


本書のあるあるとしては、
恋愛に不安の影が差すと リカが怪我をする という法則があると思います。

いつぞやも高校の文化祭で怪我をしてましたね(正確には元が。『4巻』)。
そして最終回の前でも…。

怪我をすることでリカが罰せられる意味があったり、
逆に庇護される対象となったりしている。

今回の怪我はどれも浮ついたリカが招いた自業自得の怪我である。

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(左下)間違い探しかな? 目が少し違う、髪型と髪の色も違う。他は同じ!

そういえば元の父親の病気は なんなのだろうか。

なぜ容態が安定していないうちから「半年間」という具体的な数字が出てくるのか。
そして高校生である元がずっと付き添わなければならない必要性は果たしてあるのか。

しかも『7巻』から登場した謎の女・深咲(みさき)がいるのに。
というか、深咲はなぜ元と一緒に一時帰国しているのか。

取ってつけたような病気だからディテールが甘い。
こんなに結末が分かりきっていて、経過が気にならない恋愛も珍しい。