《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

歴然とあるはずの 家の格式の差も経済格差も まるでないことのように振舞う恋の盲目。

/ReReハロ 8 (マーガレットコミックス)
南 塔子(みなみ とうこ)
ReReハロ(りりはろ)
第08巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★★(6点)
 

キミとならどこまででもいける! 体育祭の練習でリリコが湊の家に来れなかった時期に湊の実家の家政婦・エツコが湊の元をたびたび訪れるようになった。リリコが毎日家事や便利屋の手伝いで大変なのでは、と指摘するエツコに、湊はなにやら考えこんでいる様子で…?

簡潔完結感想文

  • 反対勢力その1。家政婦の無駄な色気と美貌は理解不能。『9巻』の話があるなら要らない設定。
  • 反対勢力その2。忘れられた設定。最初から予知能力など無かったと言い出しそうな作者の健忘。
  • 経済観念の喪失。負の感情を一切 排除することにしたら 思考力まで奪われた。ユートピア恋愛。

の日常を家政婦が見た、というので お返しに その家政婦の姿が見たい!の 8巻。

『8巻』の『7巻』に続いて両想いの事後処理編が大半を占めています。

というか、『7巻』に続いて 2人の構成を良く思わない反対勢力のお話 2連発です。

なんで恋の邪魔者を配置し続けるんでしょうね。
あんまり祝福されていない恋愛に思えてきちゃうような…。

これは2人で(というか主にリリコ)周囲の人に交際を理解してもらう流れでもあるのだろう。
そして湊の、リリコのことを過剰に心配しながらフォローする紳士で真摯な態度を見せたいのだろう。

ちなみに本格的な梅雨にはまだ突入していないみたいです。
『8巻』では一度も雨のシーンはありませんでした。
梅雨は前線とともに恋愛も停滞するのが、南作品だと私は思っている。


『7巻』から続く、リリコと お金持ちの恋人・湊(みなと)の家の お抱え家政婦のエツコとの対決は、
もしかして湊の家・周防(すおう)家との代理戦争になるかと思いきや…。


本書は親の経済的格差のある2人が知り合い、恋仲になる設定でありながら、
湊が お金に糸目をつけない性格である以外は特に格差による障害はない。

作者としては金銭的格差から生じる劣等感など惨めな感情を排除した、
爽やかな物語に仕立て上げたいのだろう。
その意図は分かる。

客観的に見れば、主人公たち2人は優れた容貌の持ち主だと推測されるが、
本人自身も、そして お互いも その点に触れることはない。
彼らが触れ合うのは心で、そこに惹かれ合ったのだ。

だが長所も短所も何も問題にしないことで、かえって違和感を生じる点もある。

たとえば、主人公・リリコが湊の すねかじりを諫めずに湊の生活態度を是としている。

彼女もスマホを拝借したり、湊の手配したタクシーを使用したりと、
何だか厚顔無恥の経済観念のない人みたいになっている。
これについては、また後述するが、何もかもスルーすればいいというものでもない。


リリコと湊の交際についても、旧来の漫画のように親によって反対されることもない。

そんな中で唯一、リリコを湊の部屋から遠ざけようとしたのが、家政婦のエツコだった。
彼女の言動の裏には、湊の周防家の意向が混入しているのか…⁉


果的に言えば、エツコの反発はプロの矜持だったのかもしれない。

あと分析するとすれば、湊への親心に似た感情と、人の親としてのリリコへの配慮か。
エツコは湊より大きな子がいる母親でもあったのだ。

湊の父親からの許諾が出て、再び湊の家事を担うことになった エツコ。
そんな彼女が知ったのは、自分の不在時に湊の家に入り込んでいた若造・リリコ。

今回、リリコ は 元 恋のライバル・星梨奈(せりな)に、エツコは湊の元カノだと騙されるが、
実はエツコからすれば リリコこそが、単身赴任中の夫の部屋に上がり込む不倫相手のように思えたのではないだろうか。

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湊と謎の美女が マンションに入っていく密会現場を目撃。湊は彼女と過去に不倫関係にあり…。

だからエツコはリリコの存在と、その甲斐甲斐しい働きが面白くなく、
家事と学業とバイトの3つをこなす リリコの生活がどれだけ大変か、
理をもって湊を説得して、彼女を自分の職場から遠ざけようとしたのだろう。

考えてみれば、幼い頃から育ててきたエツコにとって、
湊の体調と家の手入れを、湊と同じ年の女子高生に任せるのは、心もとなく思うのも仕方がない。

この後の周防家の家庭事情からすると、
エツコはやっぱり湊にとって母のような存在に近いひとなのかもしれない。

そうなると エツコ VS. リリコは嫁姑戦争の縮小版だったかも。

しかし気になって仕方がないのが、エツコの造形。
なぜ、こんなに無意味にセクシーな人にしたのか。
年齢不詳の美女で、湊と交際疑惑が出るギリギリのラインというのは分かる。

だが、エツコがいることで、この後の話がブレる(『9巻』)。

湊の家庭の事情を あのように設定するのならば、
エツコからは性的な雰囲気や、華美な容姿を排除するべきだったのではないか。

当初から『9巻』の内容を考えているのならば、気づいて然るべき問題だと思う。


う一人の反対勢力は、リリコの友人・永遠(とわ)。

彼女の狭量な精神が招く問題は、一度『3巻』でやったことなので感想文は大幅割愛。
(エツコのことを熱心に書き過ぎたし)。

永遠は相変わらず面倒臭い。
そして、永遠の予知能力設定は作者にも忘れ去られているくさい。

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作者は 私の設定なんて どーでもいいって思ってるんでしょ! だから そんな風に適当に話を作るんだ!

ここで永遠のエピソードをもう一度 登場させるのならば、
湊に起こる災厄を予知して、その回避のために永遠が奮闘するという話を描けばいいのに。

助けるまでの葛藤が永遠なりのリリコと湊の交際を受け入れる契機になるし、
身を挺して湊を助けようとする永遠の姿にリリコが感動する話にもなる。

私が夢想する話が面白い保証はないが、
作者が設定を活かせずにいることに苛立ちを覚える。

もうちょっとだけ丁寧に話を作ってくれれば…。


半は湊とのデート2連発。
最初は永遠との和解がメインなので、デートじゃないらしいが。

デートに はしゃぐリリコと、彼女のことを包むように見守る湊の姿が垣間見られる1話。
初デートあるある を目一杯つぎ込んで、背伸びして失敗しつつも幸福な1日の記憶となる。

が、気になるのは上述の通り、経済格差のスルー度合い。

初デートの移動は湊の手配した車。
昼食は湊の予約したレストランの個室。

レストランは湊側の背伸びによる失敗の一例ではあるのだが、
私が疑問に思うのは、このデートプランにリリコが格差や疑問を感じないこと。

リリコはレストラン代を払おうとはするのだが、それでバイト代が吹っ飛ぶことを考えない。
高校生のデートを車で移動するような人と交際を続けることが大変なのか思いを巡らせない。

上述の通り、格差による負の感情を排除した作品なのだろうが、
それによって価値観も排除されており、
当初はあったはずのリリコと湊の育ちの差までも消失してしまった。

描かれて当然の問題も排除した結果、2人に現実感まで失われて、
ただの恋をするだけの思念体のような存在に成り果てた気がする。

恋は リリコから思考力を奪ってしまったのだろうか。


今回、初デートに関する相談を、便利屋の大学生バイトの久保(くぼ)の彼女・柚佳(ゆずか)に乗ってもらったリリコ。

以前、久保とリリコが親し気に会話する様子を複雑な顔で見ていた柚佳でしたが(『4巻』)、
リリコに彼氏が出来たことで、心配は吹き飛んだ様子。

いかにも後の伏線のような柚佳の表情でしたけどねぇ…。
こういう意味あり気で結局なにもない肩透かしも、作者に散見される悪癖。


あと、今更 ツッコんでもしょうがないけど、
料理はともかく、家の片付けのバイトを制服で やるなよ(リリコ)。

汚れるし信用度も落ちると思うのだけど。
そして女子高生をアピールするから、男性に好奇の目で見られるのだ。

しかも湊の部屋に初めて訪れた時、制服で挨拶をしたから信用されなかったエピソードがあっただろうに。

本当に作者のすることは いい加減だ。ハァ…。

ReReハロ 8 (マーガレットコミックス)

ReReハロ 8 (マーガレットコミックス)

  • 作者:南 塔子
  • 発売日: 2015/10/23
  • メディア: コミック