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少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画において 生活の困窮から女性を救うセーフティネットはイケメンである。

斎王寺兄弟に困らされるのも悪くない 1 (花とゆめコミックス)
晴海 ひつじ(はるみ ひつじ)
斎王寺兄弟に困らされるのも悪くない(さいおうじきょうだいにこまらされるのもわるくない)
第01巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

訳あって住み込み家政婦をすることになった風香。だけどそこは意地悪なクラスメイト・浬の家だった!!しかも斎王寺家は似てない4兄弟だけで生活していて…!? 穏やかで大人な長男・宰、スキンシップ多めの次男・燈、天才だけど王様気質な三男・浬、無口で可愛い四男・湊。個性的なイケメン4兄弟とひとつ屋根の下、始まる!!

簡潔完結感想文

  • 男だらけの一軒家に行く当てのない女子高生を住まわせるのも悪くない。犯罪臭が…。
  • 同級生は同居人にして雇用主⁉ 解雇を回避するには恋愛関係になるのが手っ取り早い⁉
  • 4兄弟の謎を残しつつ短期連載を終える作者は計算高いのか。好評につき長編化で解決。

は収入の多さで恋の相手を決めた 1巻。

嘘です。
でも、ヒーロー役が既に収入を得ているのは本当です。

本書のヒーロー・斎王寺 浬(さいおうじ かいり)は高校1年生の15歳(1話時点)。
だが、彼はフリーのSE(システムエンジニア)として商品を作り、
上下にいる3人の兄弟たちと住む一家の経済的支柱という設定。

そして ある日 突然、保護者も住む家も失った同じく15歳の主人公・佐藤 風香(さとう ふうか)は、
紆余曲折あって潜り込んで、同級生の浬の実家・斎王寺家の住み込みの家事手伝いとなった。
彼女は4兄弟の中から、誰が一番 将来性が高いかを見極め、虎視眈々と この一家を掌握することを狙う…。

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あんまり似てない4兄弟という設定だが、似ているといえば似てる。画力の問題か?

…というのも嘘だが、本書はイケメン同級生が既に手に職を持ち、少なくない収入を得ており、
それ故に自分の雇用主になるというのが最大の特徴である。

単なる親切心からの同居ではなく、契約が2人を結んでいると言える。
両親を亡くしたヒロインに社会的立場や収入を与える点においては、
同じ白泉社漫画で、教師と生徒が結婚して同居する田中メカさん『キスよりも早く』と近いものがある。

実際に浬(かいり)は『1巻』のラストで「俺が面倒を見てやるから」と、
高校生にしてプロポーズのような言葉を吐いている。
これは生活を成立させるだけの経済力があるから言える台詞。
ただの虚勢を張った俺様ヒーローとは一味違うのです。


白泉社らしい作品。

主人公の風香は事故で両親を失い、親戚に預けられていたが その親戚も養育を放棄、
行く当てのなくなった彼女は住み込みで働ける仕事を探す。
そこで目にしたのが、斎王寺家での家事手伝いの仕事だった。

にしても白泉社は いったいヒロインの親を何人 亡き者にすれば気が済むのでしょうか。
ヘタなミステリよりも作中の死者数が多いのではないか…(苦笑)

もはや両親との死別、そして どうしようもない身内という設定だけで、
我々 読者は反射的に主人公が健気で、可哀想と同情するように躾けられている。

ただ風香に関して思うのは、彼女は少し見栄っ張りなのではないか、ということ。

例えば、曲がりなりにも これまで5年間育ててくれた叔母が夜逃げして、
これからの生活が見通せなくなった日の学校でも、
彼女は学級長として しっかり者を演じている。

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過酷な状況も先生や友人に相談することなく、学校内ではいつも通りの自分を演じる風香。

これは他人(ひと)から弱者と見なされることが彼女のプライドが許さないという気位の高さが原因ではないか。
他にも、気難しい雇い主・浬が決定権を持つこの斎王寺家から追い出されないように、
家政婦として有能なところを見せようと必死に働く(そして空回る)。

いわゆる天才で、意地悪な浬がいるから目立たないが、
彼女も相当、意固地に自分の力だけで生きていこうとしている。

完読してから考えると「優秀な自分」に囚われて、背伸びをして生きていたのは風香も浬も同様なのかもしれない。
仕事をこなす自分に存在意義を見出すことで生きてきたから、
そうでない自分を自分自身が許せないのだろうか。
浬は、自分の経験もあって そこに囚われ続ける風香を見ていられないのかも。
ずっと背伸びを続けていると、いつか疲れてバランスを崩してしまうものだ。
風香が階段から落ちたり、梯子を踏み外すのは そのバランスの崩壊の象徴であろう。

連載当初の2人はどちらも気を張ってカリカリしていて、言葉使いが荒いのかな。
もし、作者がこの辺りをしっかり意識して描いているのならば、実に丁寧な作品だと思う。

本書における風香の役割は危うげなバランスの上に成立している斎王寺4兄弟の仲を取り持つことだが、
同時に彼女の気を張り詰めすぎて擦り切れそうな精神を斎王寺家の人々が優しく包んでくれている。
この相互扶助が作品の温かさとなって、全体を支えていることが分かる。


一、白泉社漫画らしくないのは、浬が俺様ヒーローだという点。
こういう ほのぼのアットホームな雰囲気の漫画は全員が優しくヒロインを ちやほやするのがお約束かと思いきや、
彼だけはヒロインに対して突き放すような言動を繰り返す。
まぁ、浬の場合はこうした態度でしか人と関わり合えないのだろうが…。

そんな浬の性格形成を説明できるのが私が提唱する、
「俺様ヒーロー、母親の愛情を十分に浴びていない説」で、本書でも適用される。

浬が俺様ヒーローということもあり、主人公への接触が過激である。
白泉社らしくない「性」の匂いが漂う場面もあったり、
スキンシップ担当の次男・燈(あかり)よりも、主人公の肌に直に触れる機会が多い。

私が読んだ白泉社の作品で、イケメン4兄弟の同居というと 時計野はり さん『お兄ちゃんと一緒』を連想した。
共通点は1つだけでなく、あちらも4兄弟の内 2人だけがヒロインに恋愛感情を持つが、
こちらも4人全員が彼女を好きになる訳ではない。
ネタバレになるがハッキリとした好意を見せるのは、浬と燈の2人だけ。

イケメンとの同居だけでも夢物語なのだから、
主人公の総モテでも障害はないはずだが、
4つ巴の争いになると家庭内問題の大団円も難しくなるから回避されるのだろうか。


書は全5回の短期連載を予定していたものが、全26話まで長編化した作品。
なので5回分の連載が収録されている『1巻』で一度 話は完結している。

『2巻』以降の長編化に、あまり違和感がないのは、作者が4兄弟に謎を残しているからだろうか。
この4兄弟は初対面でもあまりに似てないと感じる設定で、
特に四男の湊(みんと)は、他の兄弟と違い確実に外国人の遺伝子が入っている。

この謎をはじめ、兄弟に残る遺恨や親の不在など伏線を張るだけで回収しないまま『1巻』は終わる。
これは 短期連載の後半には連載化が決まっていたから謎のまま残したのだろうか。
もし 読者人気が全く無かったら この設定の謎が どう処理されるものだったのか気になる。
もしかしたら作者は残された謎を人質にして、その解決までの連載期間を確保したのだろうか。
そうだとしたら作者は なかなかに しっかり者である。

斎王寺の4兄弟は、社会人の長男・宰(つかさ)、大学生の次男・燈、
高校の同級生である三男・浬、中学生の四男・湊という設定。
性格は順に、温和・チャラ男・俺様・無口となっている。

年上から同級生、そして年下まで用意する盤石な布陣。

ただし 前述の通り、ヒーロー・浬は稼ぎ頭で、長男は彼の商品を売る営業担当で、
この家の経済は 浬が仕事を達成しなければ回らないのが特徴的。

ヒーローに天才設定を付与するのも白泉社らしいと言える。
学業では全国模試一位で、放課後はSEとして夜遅くまで働いている。
高校生にして主役カップルのどちらも収入を得ているのは実に珍しい気がする。


々が短期連載ということもあってか、男性たちが主人公に好意を持つ描写は飛ばされている。
本題は男性側からの好意に、どう返答するかだから割愛されたのだろう。
特に燈の好意はキッカケがないから、どれだけ本気なのか最後まで分からなかった。
宰と湊は4兄弟の内、仲が悪い浬と燈を取り持つキャラだから恋愛に参戦出来なかったのだろうか。

宰が自制できずに、風香に好意を漏らしちゃうとかも見たかったなぁ。
湊は、何気に一番 兄弟間の衝突を回避させているキャラである。
プレーリードッグの「にっぽりとねりライナー(通称・にっぽり)」といい、おいしい立ち位置である。
最年少で、そして恐らく血の繋がりが最も薄い(全くない?)湊がいるから、
いい意味で遠慮して、衝突の多い男兄弟だけの暮らしが家族として成立していたのだろう。
そして そこに完全なる異分子で異性の風香が入ることによって、彼らは一層 家族であろうと努力するはずだ。


『1巻』では特に風香が斎王寺兄弟にどう関わり、どう優しさをもらうかは丁寧に描かれている。
それぞれの言動に彼女を気遣う心が含まれていて、それを発見する度に温かい気持ちになれる。

特に好きなのは、男だらけの斎王寺家における危険を浬が身をもって分からせる場面。
浬は風香を押し倒し、自分の下に組み敷くことで、
彼女の非力さを実感させ、過ちが起きないうちに、彼女を辞めさせ、家から出そうとした。

口で言えばいいのに とは思うが、この後、風香が浬の親切を見抜く場面が好きです。

「浬君の親切は ひねくれてるんだよ」
「浬君 私を低能って言いましたけど 浬君の本質が見えない程 私 バカじゃないです」

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ただドSなだけのバカな作品とは違う、という宣言にも聞こえる。主人公も作者も地に足がついている。

これが2話目の出来事。
他作品においては俺様ヒーローの本質が見破られるのは、物語が中盤に差し掛かってからが多いですが、
本書は、早くも2話で それが起きる。
振り回されるヒロインを見続けるのは しんどいので、この早送りは助かります。

浬の虚勢がバレて、2人が対等になってくれるから この後の浬の多少 過激な言動も許せるようになる。
そして浬が恋に落ちたとすれば ここでしょう。


ちなみに後半で固有キャラとなる星(ほし)さんらしき人も『1巻』から ちゃんといる。

そして丸山先生は風香に教材を運ばせすぎである。
最後まで登場はしないが、風香への言いつけが先生の好意とかだったらキモい…。