南 塔子(みなみ とうこ)
ReReハロ(りりはろ)
第11巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
いつまでもキミに恋してる。 湊のさりげない優しさに惹かれていく後輩の葵。その存在に気づいたとき、リリコがとった行動は!? そして、思いがけない一泊二日の旅行に招かれた湊とリリコたち。大事な思い出は作れるの!? 別マの大人気ラブストーリー、堂々完結!
簡潔完結感想文
- 静かなる危機その1。三角関係の成立を自覚したのは女性たちだけ。湊はただの親切な人 設定。
- 静かなる危機その2。家柄を巡る戦いを認知したのは男性たちだけ。リリコは知らなくていい。
- 知り合って4か月、交際2か月で私たちコトに及んで、幸せに暮らしましたとさ。後半、駆け足!
夜逃げのように荷物を撤収して 完了の花火を何回も打ち上げる 大団円の最終11巻。
南作品の最終巻は、お片付け2倍速って感じです。
便利屋の娘を主人公とした本書も、張ったまま放置していた伏線を、
次々に段ボールに詰め込んで終了していった気がしてならない。
前作『360°マテリアル』は、最終回で主人公が逆ギレしてましたけど、本書の場合は最終回前後を花火と星で夜空を彩っとけば幸せでしょう、みたいな投げやりな感じを受けた。
3年半の連載の締めくくりなのだから もっと丁寧に描いて欲しいと思う点が幾つもあった。
作者は連載が終了すると決定した時点で、もう物語に飽きちゃってるのかな。
特に再読してみると、両想いまでの前半に比べて、
後半の構成と内容が明らかに粗雑な点も目につく。
本書の場合は、両想いになった時点で終了でも良かったかなぁ。
ただ 今回の私の以下の考察通りのことを作者が狙っていたとしたら、
結構、綿密に構成を考えていたのかもしれない。
最終巻でやっと気づいたダメな読み手です…。
大山鳴動して鼠一匹、というのが表層上の結末。
ただし、今 初めて気が付きましたが、
『9巻』から急に持ち出された湊のセレブな一面が端緒となった2つの問題、下級生・葵(あおい)の湊への横恋慕問題、そして彼女との結婚を策略する湊の祖父の存在、これらはどちらも問題の当事者は蚊帳の外、という共通点があるみたいだ。
静かなる危機、とでも題しましょうか。
例えば、ヒロインと見間違うほどの葵の恋情。
『10巻』で湊とリリコの思い出の品を懐に隠してしまった葵だが、この品は葵が あっさりと湊に返却して問題解決。
更には湊の彼女が、最近 顔見知りになった親切なリリコだと知った葵は、彼女には湊を私に下さいと訴えるが、リリコの正論によって却下され、自分の敗戦を思い知った。
この場面、葵の理論は自己本位的なワガママで唖然としたが、リリコが彼女らしく一喝してくれて、少女漫画的なジメッとした展開を回避してくれていて良かった。
そして重要なのは、当事者である湊が何も知らないまま、だということ。
葵はモノローグとして湊への好意を漏らしているが、直接は湊に好意を伝えないまま失恋していく。
リリコだけが葵の行動や表情を見て、彼女の好意を察していた。
湊は、葵の家庭の事情もあって彼女に出来るだけのことをしていたが、そこにまさか恋愛感情があるとは思っていない。
気づいていれば、彼女・リリコのためにも適切な距離を取っていただろう。
むしろ湊は、リリコの存在があるから、葵との お見合いや結婚が進まないことに少し罪悪感があって、せめてもの罪滅ぼしに彼女の要望(勉強の手伝いなど)を聞き入れていたのではないか。
それは葵の家との結婚を望む祖父の期待に応えない代わりの彼女への施しだったのかも。
まぁ、葵と喋っていながら、リリコが現れたら話の途中で彼女に抱きつく湊も人として結構ヒドいと思うが…。
また葵の湊への思いも、世界に居場所が欲しかった彼女の気持ちが変質したもの、とも読めますね。
家の事業の失敗で転校を余儀なくされ独りでいたところに出現したのが湊。
他の人には打ち明けられない秘密を湊は知っているから安心できた。
寂しさを救ってくれるから湊への依存を強くしていったのではないだろうか。
愛や恋よりも、依存という言葉が、ちょっと偏執的な葵の思いには似つかわしいと思う。
そして、湊の将来に口を出し始めた祖父の干渉問題。
ここで蚊帳の外になるのは、当然リリコである。
本書の中で唯一、リリコとの関係に格差を持ち出した湊と祖父。
祖父の画策した葵とのお見合いから始まった、湊のセレブリティな生活描写。
私は物語に突然 持ち出された家柄の問題に当惑し、疑問に思っていましたが、もしかしたら最終回から考察すると、この祖父と湊の争いこそが、将来的な妨害の代理戦争だったのだろう。
庶民が上流階級の人と付き合うとこういう問題も起きるよ、と暗に示したのが、この水面下の争い。
湊はリリコに家柄の違いなどを気取らせることないように常に配慮していた。
だから葵との実質的なお見合いも、その後の彼女との交流も、リリコに黙っていることにした。
黙っていたのは、そこに恋愛感情がないからもあるが、葵のことを話すと、リリコの意識に家柄のことを意識させてしまう恐れがあったからではないか。
これは常に同じ目線に立っていたい湊のリリコへの思い遣りだろう。
そして湊は父の誕生日パーティーにリリコを招待し、祖父に彼女を紹介することで、自分の意思を祖父に明確に示した。
リリコに勘づかれるような言葉は使わないが、祖父を視線と強い言葉で圧した。
これにて、祖父の介入は阻止され、湊との将来への展望は拓けたのだった。
また祖父は祖父でリリコを独自に調査しており、彼女の快活な性格を認めていた。
まぁ、リリコが良い子なことと、自分の家を守ることは別問題な気がするが…。
こうして本人の知らないところで、静かなる危機は回避された。
そして その裏で動いていたのが恋人であった。
恋人の行動理由はただ一つ。
自分は彼と(彼女と)別れたくないという強い意志だった。
2人は示し合わせたかのように同じ気持ちを持っていたのだった。
そうして重なる2つの心は、最終回での行動理由にもなる。
ネタバレを前提にしますが、最終回では予想外の性行為がありました。
これは最終回のクライマックスとして用意したのかな。
心情的には、上述の気持ちの重なりもあるので、不自然さはないかな。
ただ、冷静に考えてみると、4月の高校の入学直後に出会って(『1巻』)、
5月中旬(推定)に好きになって(『4巻』前後)、
6月中旬(推定)に両想いになって交際して(『6巻』中盤)、
夏休み中の8月(推定)には性行為に及んでいる。
連載の巻数としては ゆっくりと丁寧に好きを紡いでいった感じはあるが、実際の時間軸で見ると、結構 駆け足な恋愛なんですよね。
私としては、性行為に及ぼうとするもリリコが倒れちゃう、みたいな少女漫画の お決まりの展開でも 良かったかなぁと思います。
高校1年生だし、交際2か月だし、作風にも少しあっていない気がする。
前半は、もっとスローラブを描いていたような気がするんですが…。
しかし避妊はしてんのかね、と下世話な心配をしてしまいます。
まさか、最後に出てきた子供は、この時に授かった命だったりして…。
だって祖父の別荘だよ。
避妊具があっても嫌だし、なくってもことに及ぼうとする湊は嫌だし。
作者としては前作で描けなかったとこまで描く、という挑戦だったのでしょうか。
にしても、最後のチャンスでも友人・永遠(とわ)の予知能力は出てきませんでしたね。
本当に、何のための設定だったのでしょうか。
恋愛の顛末も雑に畳まれたし、南作品の友人は扱いが不遇な感じですね。