宇佐美 真紀(うさみ まき)
ココロ・ボタン
第01巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
高校の入学式の日に、気分が悪くなった私を助けてくれた古閑君。『キミに好きになってもらいたい』…そんな想いで告白した私は「お試し」でつきあってもらえることになったけど、ちょっぴりSな古閑君に振り回されっぱなしの毎日で…?
簡潔完結感想文
- キスの拒絶。「お試し」の交際中の彼にキスをお願いしたら まさかの拒否。信じられない のS。
- 告白の拒絶。1話中に2回告白して譲歩を引き出した お試し交際。彼の性格をまだ 知らない のS。
- お試しの終了。押してダメなら引いてみたら うんともすんともいわない彼。試合終了ですよ のS。
古閑君の性格を表す「ちょっぴりS」は先回りのSの 1巻。
もはや記号化されて何を指しているか分からなくなっている少女漫画におけるSやMの概念。
安直に、ヒーローをドS設定にしていれば人気が出ると思っている作品も多い。
そんな中、本書におけるSは私好みの味付けであった。
丸みのあるほんわかとした絵柄に合った塩梅のSなのだ。
そして前述の通り、本作のヒーロー・古閑 衛人(こが えいと)君におけるS的要素は先回りの性格を持っている。
自分のことが好きなようである同級生の春日 新奈(かすが にいな)の直接的な発言、
そして分かりやすい思考を少し先回りするところに古閑君のSは存在する。
本書にあるのは理不尽な行動・セクハラや、意味のない毒舌ではない。
彼女の思考を先回りできる聡明な彼氏のちょっとした悪戯心なのである。
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私は、少女漫画のいかにも創作されたドSキャラが ちっとも好きではない。
自信過剰で、女性に罵詈雑言を放つ男性に熱を上げる人が世の中にいることが不思議だ。
しかも少女漫画における そいつら は(誰とは言わないが)、
漫画が人気を得て、長編化すると、いつしか自分のキャラを忘れて善人化する始末。
そして「あの時は俺も若かった」などと1,2年前の過去の態度を反省したりするのだ。
いつも言っているが、これはテレビなどメディアにおける芸能人の無理なキャラ付けと同じだ。
即効性のある人気が欲しい芸能人、そして少女漫画は いつも過激なことしかやらない.
が、最初は受けてた過激なキャラも やがて飽きられ、キャラを封印していく運命にある。
そして少女漫画の場合、ある程度 人気が出て露出が安定してくると、
今度は長く、多くの人から愛されるため、その愛の形は どこにでもある平凡さに落ち着く。
こうして過去の言動とは大きく違う普遍的だが個性の失われた元・S男子たちが量産されていくのだ。
恐らく連載が長期にわたると、作者自身も年齢を重ね、SだのMだのに興味を失うことも理由の一つだろう。
そういう人に比べて、古閑君は、自然体だ。
古閑君は童顔だが、前述のような最初だけ尖ったヒーローよりも精神的に大人と言える。
Sとは誰かを故意に傷つけることではない。
単純な女性の反応や行動を予測して、そうなるように未来を仕組む。
古閑君が感じているとすれば、予想と同じ行動を取る彼女への爽快感だろう。
古閑君には不自然なキャラ付けがない。いつも自然体だ。
例えば主人公・新奈とは高校こそ一緒だが、古閑君は特進クラスのエリート。
だが、他の生徒と違って彼には人を見下すような気持ちは無い。
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自分の容姿が優れていることも多少 自覚はあるだろうが、自慢をしない。
人情的なSなのだ。
そして2人の出会いも、高校の入学式当日に発熱して うずくまっていた新奈を
古閑が助けたことから始まっている。
ここもまた先回りである。
困っている人を見たら、何をして欲しいか、何が出来るのか、それを考えるのが親切だと思う。
人より少し先が見える、周りが見える古閑君は親切のSの持ち主でもある。
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こういう飴と鞭の使い分けが聡明な人ならではの人の操作法かもしれない(笑)
好きという気持ち > 意地悪された記憶 となるように常時コントロールされている。
意地悪く言えば、新奈は古閑君に洗脳・操作されていると言っていい状態だ。
それでも自分に純粋な行為をぶつけてくるから、古閑君も新奈に惹かれるのだろう。
また、古閑君は自制の人でもあると思う。
憎からず思っている相手からキスを要求されても、キスしない誠実さがある。
それは本書についても同じかもしれない。
1話でキスをすれば読者は盛り上がるだろう。
だが、作者は安易な道を選ばなかった。
そんな1話は構成が面白いですね。
時系列的には2話目の話を1話にしている。
自称ドS様がやるような、勝手に女性の唇を奪ったりはしない。
むしろキスをしないことが物語のメインである。
頼まれても女性にキスをしないことで、ドS様たちとの格の違いを見せつけた古閑君。
赤っ恥をかいてまで、古閑君の先回りに利用された新奈。
この関係性をしっかりと提示した1話は本当に印象深い。
この出来を受け、次号からも「お試し」に本書の連載を読んでみようと思った人は結構多いのではないだろうか。
本書はいきなり過激なことをやらない。
キスも万全の準備が整ってからゴーサインが出る、はずだ。
その丁寧さが高校生2人の、そして読者と作品を繋げていく。
古閑のビジュアルがとがり過ぎていないのも良い。
むしろ時々、爬虫類っぽいなと思う時もあるぐらい。
良い意味で意地の悪いトカゲみたいな顔をしている。いい意味で(笑)
交際は、お互いのことを何も知らない状態の、お試し交際として始まった。
新奈には優しくしてもらった過去があり、古閑君も新奈に飽きない要素を見つけている模様。
相手の知らない一面を知っていく楽しさに溢れている。
それは交際以前の、人を好きになっていく喜びに似ている。
例え その間に ちょっと意地悪されても、そんな出来事も綺麗な想い出に すり替わる。
古閑君のことを少しでも知りたい乙女心の新奈が、
ネット上に存在する古閑のプロフィールを見なかったことも偉い。
噂や、出所の分からない情報を幾つ集めても、古閑という実態にならないことを新奈は直感したのかも。
とは言っても新奈との関係はペットと、ちょっと意地悪な飼い主といった感じだが…。
しかも新奈はダメな犬。
そんなダメな犬を愛する男子高校生が登場する漫画を先日読んだなぁ。
(赤瓦もどむ さんの『兄友』)
新奈は先回りではなく、ずっと空回りしている。
けど、私は新奈のことが嫌いになれない。
徹底的にアホだからだろうか。
ずっと一途だからだろうか。
何度も何度も同じ人と恋に落ち続けているからだろうか。
恋をする姿を100%体現しているのが新奈ではないか。
彼女には邪心が無い。
彼女は自分を誰かと比べたりして勝手に落ち込んだりせず、ただただ古閑の方を向いている。
今のところ、泣いて古閑君を困らせるとか、
典型的な少女漫画のヒロイン気質が見られないところが私は心地良い。
派手過ぎないことが本書の最大の長所だと思う。
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ココロ・ボタン 1 (Betsucomiフラワーコミックス)
- 作者:宇佐美 真紀
- 発売日: 2009/10/26
- メディア: コミック