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少女漫画と小説の感想ブログです

西野さん、これからもずっと私のことを宜しくお願いしますね。兄ともども。『兄友』

兄友 10 (花とゆめコミックス)
赤瓦 もとむ(あかがわら もどむ)
兄友(あにとも)
第10巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

「妹さん、かわいいな」壁ごしに始まった恋。ついに西野さんに壁のことが知られてしまう!? 1・2年生合同の修学旅行で、加賀くんがとった行動とは…!? ウブ恋の行方は――…。壁ごし&つつ抜けLOVE、堂々完結!!

簡潔完結感想文

  • 接触事故。自分の居ないところで彼女に何かが起きることに耐えられない彼。遠距離恋愛は無理⁉
  • 最後の攻勢。諦めることを諦めたくないから、眼鏡を捨てて 自分も捨てて、憧れの彼のようになる!
  • 2人の間には もう壁も秘密もない。あなたが与えてくれた好意と、君が応えてくれた勇気があるだけ。

分を見失った男と、帰り道を見失った女、そして自分を見定めた男の 最終10巻。

まず何と言っても全10巻での完結を喜びたい。

ストーリー的には高校3年生の西野(にしの)が卒業するまで、
はたまた一学年下の まい が卒業するまで出来ることは描けることはあったと思うが、
絶妙な長さでの幕引きに、作者の潔さとセンスを感じる。

連載経験が乏しい新人作家の長編化というのは大抵の場合において、
10巻以降にガクンと話の質が落ちる(どの作品とは言わないけど)。

それは長編化すると、恋愛よりも進路など真面目な問題に直面し、
連載開始当初の頃の雰囲気が失われるという問題が出てくるからだ。

なので、本書をラブコメに徹すると決めた作者の強固な意志に本当に感謝したい。
大いに笑って、とても胸が温かくなる 紛うことなき「ラブコメ」をありがとうございました。


春、離れても大丈夫なことを証明するための『10巻』です。

まい が修学旅行に行くことは、西野の進学後のシミュレーションなのだろう。

たった3泊4日の日程ではあるが、
まい のことを好きな従弟の加賀(かが)と同じ時を過ごすという事実、
そして まい の傍には自分が居たくても居られない事実が西野を苦しめる。

更には『9巻』のラストで人と人の接触事故によって、肌の接触が起きた まい と加賀であるし、
西野は、同級生の兄の話として遠距離恋愛の難しさを聞いたため、少し自信を失いかけていた。

そんな時に加賀とのアクシデントがあり、西野は弱音を吐いてしまうが…。
まいが将来を楽観視して、そして見据えて行動しているのとは対照的だ。
起こってもないことに不安になるなんて、ヒロイン気質ですね、西野は(笑)

そんな西野の悩みは、付き合いも長くなって意思疎通も出来るようになった2人なので、
当日の内に解決したようなものなのだが、
物理的な距離が出来、2人の間に割って入る邪魔者(加賀)がいる修学旅行を、
無事に過ごせるか、というのが2人の将来の試金石となるのだった。


方、接触事故というアクシデントに頭が沸騰してしまった加賀が攻勢に出ます。
いつもの彼らしからぬ行動に出て、冷静さを失っている様子。

外見を西野に寄せるために眼鏡を外し、コンタクトにしてみたり、
(客観的に見たら、モテるために修学旅行デビューを試みたのか?ってな感じですが)
当人である まい に対して、名前を秘したまま久しぶりの恋愛相談をしてみたり、
と西野の監視が届かないところで、あの手この手で まい の心に入ろうとする。

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その人になりたい、その人の地位を奪いたい。その気持ちが外見の変化として現れるが…。

そんな時、加賀は まい が落とした西野から贈られたネックレスを見つける。
だが加賀は、そのネックレスを即座に まい に渡すことなくポケットにしまい…。

ドロボー! お巡りさん、恋のドロボーがここにいます!

男性から贈られるネックレスが束縛や独占欲の象徴という話が本当なら、
加賀は西野という彼女を縛るものを消し去りたかったのだろうか。
そして、ネックレスがない状態の まい ならば加賀の告白を受ける可能性が僅かには あったのかな。


ネックレスを紛失したことに気づいた まい は単独行動に出て、
見知らぬ北海道の町の中で迷子になり、途方に暮れてしまう。

繰り返しになりますが、修学旅行中は これからの2人の暗示だろう。
これからは2人の距離が離れていて すぐには助けてあげられない。

そんなもどかしさを抱えながらも、まい が苦手分野のデジタル機器を駆使して
彼女の助けになることを証明する西野という構図がいいですね。

こんなところも2人が それぞれの得意分野で支え合っている感じが出ています。

そして彼女を助けるためならば自分の執着心(加賀への嫉妬や彼への牽制)など
簡単に捨ててしまえる度量を見せる西野の姿が際立ちます。

これは、私欲のためにネックレスを隠した加賀の矮小性と対照的です。
ネックレスを大事に持っている、独占欲にまみれ、束縛を欲していたのは加賀の方だったのだ。


賀の告白も本当に良いタイミングです。
諦めることを諦めた、負け戦だと分かっていながらの告白。

だから自分の悪事の象徴、自分では断ち切れなかった2人の強固な絆の象徴である、
ネックレスは先に まい の手の中に戻すことに。

三角関係の決着(正確には三角関係ではないのだが)がクライマックスになるとは予想外だった。

でも考えてみれば、これ以上の未来のシミュレーションはない。

邪魔者がいても、彼女の力になるならば時には協力を仰ぎ、
恋人との距離が出来ても連絡手段が無くなっても、そしてイケメンに告白されても
揺るがなかった自分の想いが証明された。
この3泊4日を乗り越えた2人ならば、これからも乗り越えられるのだろう。


学旅行から帰ってきた まい が
縁側から落ちて泥まみれになる西野の妹・秋(あき)を目撃するのは、
まい が自宅の玄関を通らずに家に入ったという間接的な説明なのかな。

もしも玄関を通ると西野の靴を発見してしまい(隠したりしてないだろうから)、
西野が七瀬家に居ることが分かってしまうが、
秋を助けるために、いつもと違うルートで家に上がったとすれば説明がつく。

そしてラストシーンは本当に素晴らしいですね。
2人の関係が始まった「薄い壁」を隔てた場所で、
初めて聞かれることを自覚しながら、相手に自分の言葉を届ける。

これまでのありがとうを、そして2人のこれからを見据えて…。

今回は「薄い壁」の秘密を西野が承知していることを まいが知らないという情報の不均衡が、
ドラマ性を一段と増しているように思う。
『1巻』からこれまでの2人とは逆転の現象が起こっていることが面白い。

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次に会う約束をして旅立つ。これは数か月後の2人の遠距離恋愛の予習かもしれない。

そうして、今度こそ秘密も不安もない状態で2人は同じ部屋にいることになった。

修学旅行前の約束、『帰ったら』『思う存分』は、どうなってしまうのでしょうか。

それを想像させる余地があるのも品がありますね。

もしかしたら、この後には白泉社のコミックスでは描けないことが起こるから、
このタイミングで終幕したという可能性もあります。

私は2人が まい の部屋にいる = 性行為のメタファーだと思っているのだけど。
(『9巻』で西野が初めて まい の部屋に入っているが。ただ、あの時は「薄い壁」の秘密が保たれていた)


どうでもいいですが、この漫画、雨に降られ過ぎですよね。
天気予報が当てにならない世界観らしいですが。

もしかして雨雲が、天と地を遮る「薄い壁」だったりするんだろうか。
確かに雨宿りごとに2人の距離が近づいている気がする。

そして、雨に降られての他人の家での入浴が多すぎます。
西野は何回、彼女の風呂上りの姿を見ては のぼせたのだろうか(笑)

とにかく来年も再来年も、お幸せに!

兄友 10 (花とゆめCOMICS)

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