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少女漫画と小説の感想ブログです

最愛の人に トラウマ級の失敗と同じことを無自覚に繰り返す正真正銘のクズ男。

橙くんはひとりで寝られない 5 (マーガレットコミックスDIGITAL)
安理 由香(あんり ゆか)
橙くんはひとりで寝られない(だいくんはひとりでねられない)
第05巻評価:(2点)
 総合評価:★★(4点)
 

色っぽ年上幼なじみ×一途なJKの恋が完結! 憧れの人・橙くんが高校時代を過ごした場所で、莉子は彼が苦しんだ過去を知る。余命宣告を受けた母を拒絶しずっと後悔している橙くんの心を軽くしたのは、莉子の言葉だった。過去に区切りをつけることができた橙くんから「そばにいてほしい」と言われた莉子は…!?

簡潔完結感想文

  • 4巻分ずっと過去を「話す話す詐欺」だったのに、たった8ページ、自分の言葉で救われて終了。
  • 大切な存在の死とショックが重なるとメンタル病むことが分かっていて、それをしたクズ。
  • 毎晩 違う女を呼ぶような男だったのに私と出会ったら彼は変わったんですぅ~、って話なの??

くんの危惧した通り、過去を聞いたら もっと お前を嫌いになったわ★ の 最終5巻。

まず何と言っても許せないのは橙(だい)が同じ失敗を2度繰り返していること。そこに彼の反省・成長の無さがあり、それに気づかない本人は嫌悪の対象となった。

怒り心頭に発するのは2年前の母の死までのプロセスと現在の莉子との別れのプロセスが同じこと。最終巻にして ようやく語られた過去で橙は自分が母を見放したことを自白する。母親は自分の母親の死(橙の祖母)と病気の再発が重なって精神のバランスを崩した。そのことを知りながら無視したことが橙の後悔となった、と彼は言う。

だが莉子に対して橙がしたことは どうか。莉子もまた飼い犬の死を経験したばかりにも関わらず、橙は莉子に一方的に別れを告げた。橙は、この2つのショックで莉子が精神に異常をきたすと考えなかったのだろうか。死に対して誰よりも敏感であるはずの橙は、莉子にとって重要な死を全く考慮しない。そこに彼の自己本位性を見る。莉子がリストカットでもしたら どうするつもりだったのか。そういえば橙は『4巻』の別れた後の莉子の体調不良を知らない。本当に自分の目の届く範囲の人しか救おうとしないダメ人間である。

過去と現在の2年間で全く成長のない男に言われましても、という出来ない約束

1回は許容した存在も、自分のキャパオーバーによって簡単に傷つける存在である。田舎暮らしの高校時代に結衣(ゆい)が生活圏に入ってきたことを一度 黙認したけれど、自分の精神が追い詰められると彼女の存在を根本的に否定した。母に関しても同じ。闘病とメンタルの不調が重なった母を橙は自分の限界で見限った。

その2つは高校時代の取り戻せない失敗として語られることだから受け入れるとしても、結局 橙は20歳を超えても、2年目の失敗を経験しても何も成長することなく同じことを繰り返す。莉子の存在が我慢のキャパをオーバーしたから今度は莉子との関係も簡単に断絶した。表面上は結衣が自分と同じ症状に苦しんでいるから彼女を優先的に守る振りをしているが、橙は莉子に過去のことを話すのが嫌で それから全力で逃亡しただけに見える。

母・結衣・莉子と、橙に本気になってしまった女性、全ての女性を彼は幸せにしたことがない。それどころか全員 一度 不幸にしている。そんな男が莉子を大切にする、というハッピーエンド風を装った結末になっても私は少しも安心できなかった。

トラウマの消失も聖女ヒロインである莉子に救われているようで、結局、過去の自分の言葉に救われているのも橙らしい自己完結だと溜息が出る。自分の言って欲しい言葉を相手に言い、その言葉で救われてるんなら莉子 いらないじゃん!
以前も書いたけど、莉子は橙に対して憧れのお兄さんという幻想の延長線上の気持ちでしかなく、橙は莉子に対して どこで特別だと思ったのかが全く分からないまま。その上、勝手に救われる。最後まで私と呼吸の合わない作品だった。

あと そもそも身近な人の自死を見て、夜が眠らないは分かるけど、そこから性依存症的に異性を求めるという症例が よく分からなかった。2人にとって性行為は一種の自傷行為みたいなものなのだろうか。この作品のことだから あんまり深い考えはないんだろうなぁ、という考えが頭に浮かび、それが一番 納得できる答えとなった。


なみに橙は作中で一度も お金を稼いだことがない。最終『5巻』で彼の家庭の背景や経済状況が少し見えてきた。どうやら橙は、大企業に勤めるという母と未婚のままの実父から金銭的な援助を受けているらしい。

つまり莉子に買ってあげた服も花も、住んでいる家も2度の引っ越しの費用も大学の学費も全部 父のポケットから お金が出ている。特に前の2つ、莉子のプレゼントも父親の小遣いからというのが橙の情けなさに拍車をかけている。そういえば大学には復学できたのだろうか。そこは描かれていない。まさか父からの援助を当てにするニートなクズに堕落した、というオチではあるまい…。

作中では当て馬の秀一(しゅういち)を生活力のない人間のように描いているけど、橙も まぁまぁ酷い。過去作の宣伝ページを見ると作者の中では料理が出来る男が至宝!みたいな価値観があり、橙は その才能だけで作者から愛されているのだろう。

そして橙の家庭の背景が見えてきたところで実父は何してるんだ、と思った。橙の母親が未婚の母となったのは相手が既婚者という理由なのだろうか。そして実父は橙を認知して養育費は払っているが、実父の愛情の対象は母親だろう。すると母親の死後は実父は養育費は払う義務があるだろうが、生活費を出す理由が無くなる気がするが橙は恵まれた生活をしている。

では母親の死後も しっかりと面倒を見る実父ならば、母の死後に橙は実父を精神的に頼ることは出来なかったのだろうかと考えた。自分が天涯孤独ではないという意識だけでも救われると思うのだけど、作品は実父について描かない。そういえば莉子の父親は存命だけど1話以外で見た記憶がないし、結衣の父親も いそうにない。少女漫画の作者って時々 父親を上手に排除しようとする。それは きっと自分にとって最も遠い、未知の生物だからだろう。父親という生き物の言動が想像できないから作品から排除するというカラクリなのか。

1mmも格好良くない格好つけたヒーローと これでお別れだと思うと清々する。少女漫画的にもトラウマを消失したヒーローなんて価値がない。これからもインスタ映えする料理を作って JKと幸せに暮らせばいい。いつか そのJKが成長した時に彼の人間性の薄っぺらさに気づきますように…★


の母親は がんによる病死ではなく自死だった。いよいよ真相を語ることを誰よりも恐れているのは橙だと分かっている莉子は彼の手を離さずに歩く。

一方、莉子と橙が乗る電車内からホームに結衣を引っ張り出した秀一は彼女と話す。秀一から見ると橙も莉子を想っていると感じるらしいが、それが どんな場面から思ったことなのか教えて欲しい。そして結衣に自分たちが望む幸せにすることは莉子と橙を不幸にすると諭す。秀一は橙が結衣の そばにいると決めたのは理由があると考えていた。


子が橙と彼の住んだ家に向かう道中、この土地での橙の暮らしが語られる。元々は橙の祖母が住んでいた家に母親の病気療養のために橙たち母子が引っ越してきた。そこに中学生の結衣が転がり込むようになった。結衣と橙は はとこ という続柄。親と不仲の結衣は親戚でのある祖母に懐いていたらしく、家事を手伝うようになった。

橙は田舎で高校時代を過ごすことに鬱憤を抱えていたが、結衣が祖母の家に出入りする頃は母の病状が快方に向かっており平穏だったと言えた。しかし祖母が急病で亡くなり、母は精神に不調を抱えるようになる。
この祖母の葬儀の際の噂話で橙の家庭が語られる。母は大企業に勤めるらしい橙の父と籍を入れていないが、生活費と橙の学費の仕送りがある。それによって生活は成り立っているようだ。

田舎特有の噂話に苛立っていた橙は、我が物顔で自分の家庭の世話を焼く結衣を疎ましく思い始めていた。結衣は結衣で家庭に居場所が無いから、この家で自分の役割があることが嬉しかったのだろう。


母の死から間もなく母の病気が再発し余命宣告を受ける。母は自分の運命を受け止めきれず精神に変調をきたし橙への執着を見せる。ずっと鳴り続ける携帯電話に辟易した橙は やがて大学進学を機に母の側を離れることを考える。ただし それは母が存命であれば、の話であるが。
母の執着は橙の精神を追い詰め、その限界は結衣の前で迎える。結衣が役に立とうとすればするほど橙は苛立ち、親切ぶった結衣の自己陶酔への怒りを ぶつけてしまう。

あの夜の光景より 自分の正体を剥き出しにされるような暴力的な言葉はトラウマ

そして結衣が自分の家庭に帰りたがらないように、橙も母から距離を置き始める。病院の消灯時間を過ぎた夜になっても続く母からの電話、そして結衣からの電話も無視し続けた寒い雨の日、橙が遊びから帰ると自宅の納屋の前で結衣が傘も差さず しゃがみこんでいた。そして橙も納屋で自死した母の姿を目撃する。
橙には死を選んだ母の心境が分からない。罪悪感があるから母が自分を恨んで死んだのではないかと考えてしまう。母のもとから逃亡した自分を後悔しても もう遅い。


去の話を聞いた莉子は、かつて飼い犬が死んだ時に橙が言ってくれた言葉を そのまま返す。その言葉は橙が無意識で自分が救われたかった言葉なのだろう。だから莉子の言葉、自分の理想の言葉で橙は救われる。感動的な場面に水を差して悪いが、どこまでも自己完結な人間に思えてしまう。

そこに結衣と秀一が現れる。集合した4人は橙が これから暮らそうとする家にあがる。橙が電気会社に既に連絡していたため電気は通っている。そこで結衣が買ってきた材料で鍋を囲むことになった。準備の間、秀一は莉子に応援する自分のスタンスを告げる。

そして橙は結衣と話をし、彼女に高校を卒業させるために この地で暮らすことを告げる。しかし それが橙の本当の願いではないことは結衣にも分かっている。そして橙が感じている結衣への責任も、本当は結衣の意思で あの日あの納屋に行ったのだから、彼が負うものではないことも知っている。それでも結衣は橙の罪悪感に乗っかり、彼の中の自分の居場所を作りたかった。そして自分の罪は橙の気持ちを利用するだけで、莉子のように寄り添うことは出来なかったことだと分かっている。
2人は互いに謝罪をして、ようやく あの日から動き出すことが出来たようだ。だから結衣は自分に寄り添おうとしてくれる橙を遠ざける。それが苦しい道でも彼女は橙の幸せのために選ぶことが出来る人なのだ。


の夜、4人は この家で眠る。布団が足りないからか男性たちは毛布を羽織るだけの苦しい体勢で寝ている。橙は ちゃんと眠れて夜を越せたようだ。まぁ今回は人がいっぱいいる状況なので、本当に ひとりで寝られるかは経過観察が必要だろう。

地元への帰り道、最後に3人でファミレスに入る。それは莉子の、自分に寄り添ってくれた秀一への お礼。莉子が席を外した隙に2人は男性同士の秘密の話をする。そこで橙は秀一に迷惑を掛けたことを謝罪し、殴られる覚悟を持っていることを告げる。しかし秀一は殴らない。それは八つ当たりだと、同じ高校生でも橙と違って秀一は理解できる(状況の重さが違うけれど)。そして秀一は橙に莉子の幸せを託して去る。


は莉子の隣の部屋に また戻る予定らしいが、部屋を貸したばかりの友人と要相談のようだ。

全ての過去を清算した橙は、莉子の部屋で自分が正真正銘のクズ男だったことを認める。橙は莉子に一途になることを伝えるが、私は信用ならない。彼女にすぐに性的な関係の動きを見せることも その一因。莉子は望んでいるし、橙も自制しているけど、このタイミングで身体を触ることが信じられない。少女漫画としての次の関係への予感なのかもしれないが、理性より情動が勝つ人だと改めて思う。

最終回、2人は自分たちの交際を母親に伝える。終始 影の薄かった父親は休日出勤という理由で不在。母親は交際は認めるものの、橙に高校生の間は性行為を自重しろと圧を掛ける。

どうやら橙が部屋を貸した友人は、引っ越し費用を負担するという条件で出ていったようだ。そこからは別れる前と何ら変わりのない日常が戻る。一緒の空間で料理をして、一緒に食事をする2人。莉子は その先の関係に進むため、一度は部屋に帰されるが、風呂上がりに もう一度 橙の部屋を訪れて性行為に進みたい意志を示す。しかしキスだけで限界を迎えた莉子を察知して、橙は途中で路線を変更。彼女の髪を乾かし清純な関係を保つ。これは ただれた関係ばかりの橙にとっては特別扱い、という事実が一応のハッピーエンドなのだろう。初読と再読、2度も読めば もう十分です。