《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

あなたの すべてが かたちを失くしても 『冬のはなし』

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小畑 友紀(おばた ゆうき)
僕等がいた(ぼくらがいた)
第14巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

累計910万部突破!ティーンズから大人まで、幅広く夢中にさせている「僕等がいた」最新巻!
運命の再開をした矢野と七美は、別れを選ぶしかなかったが、離れている間に矢野に起こったできごとを知った七美は…!?

簡潔完結感想文

  • 6年の別離を経て再会後は何かと出会う2人。夢に寝言に白昼夢。まさか夢オチ エンド⁉
  • 果たされる全ての情報開示。婚約不成立、性交未経験、同棲、病名、余命が次々に判明。
  • もしかして、もうすぐ矢野が解放される⁉ 人の命と引き換えにね…。気持ち悪い物語。

愛のために人の死があるのか?という疑惑の 14巻。

矢野(やの)の病気をほのめかし、
竹内(たけうち)に殴られて動かなくなった矢野の場面から続く『14巻』。

これはミスリーディングを狙ったのでしょうか。
何だか作者は病気で読者の気を引こうとしてる感じを受けてしまった。
病によって物語に重厚感を出そうとしているのでしょうか。

精神的に病んだ人々は、身体的にも病んでいく。
子供の存在を認めない親は早くにその命を失うらしい。
これ、作者の親子関係への復讐とかじゃありませんよね…?

全体的に病気や死が、恋愛よりも前に出てき過ぎている。


内との殴り合いの本音の語り合いで、
矢野も竹内も七美(ななみ)と一線を越えていないことが明らかに。

竹内は、その情報を事前に知ってたら手を出したのでしょうか。

竹内が七美に手を出さないのが、
彼女を大事にしているとか、時間をかけて待つとかいう優しさではなく、
矢野の顔が浮かぶからという、竹内個人の問題だったことが残念。


そんな竹内との結婚を選ばなかった七美は泥酔。

その七美を介抱するのは、一緒に飲んでいた千見寺(せんげんじ)が竹内と間違って呼び寄せた矢野。
5年も連絡が付かなかった矢野だが、再会するなり、
頻繁に会うことになるのが運命のイタズラか。

この場面、七美が「矢野より先に死なない」と思っているのは勝手だが、
そう思うなら、酒量を控えた方がいいのではないか。

また、もし予定通り竹内がきたらどんな展開を見せるのか。
もしかしたら七美が矢野と致していないことをやっと知った竹内が、
七美が酔っていることをいいことに、不埒な行動に出たかもしれません。
飲酒はほどほどに。


『13巻』でも本書における夢の多さを指摘しましたが、
今回は七美の白昼夢まで登場する。

七美が社内でトリップする夢の再現に出てくる涙を流す矢野の表情、
これは、この場面で出さないで、
この回のラストの七美の言葉に対して涙する場面で初出し すればいいのにと思わざるを得ない。

七美と矢野は会話する機会が増えるほど、
最初の再会の時のような他人行儀の一線を引いた会話ではなく、
高校生の あの頃のような自然な会話が増えていく…。


方、七美との関係の引き時を考える竹内。

七美は竹内に何かしてあげられたのでしょうか。

身体を求めてこなかったのは彼側の問題だとして、
(七美が拒否したような描写はない、むしろ不思議がっていたような)
彼女が竹内を受け入れた描写は特に見当たらない。

時間をかけて1人の寂しさを紛らわしてくれる保険に仕立て上げたとしか思えない。


思い返せば、この漫画において七美を叱ってくれる人がいませんよね。

母親との仲も良好だし、
高校時代の友達も矢野とつき合おうが別れようが七美に厳しい言葉は かけない。
大学生時代の友達(二度と出てきませんね)も、
竹内をキープしつつも過去の恋を忘れられない七美に対して何かと気を遣っていた。

更に、千見寺も矢野・七美 両者の経緯(いきさつ)を知っているだけに何も言わない。

千見寺は七美と会社の内定以降、仲良くなってはいるものの、
想像以上にヒロイン気質の七美に困惑することも多かったのではないか。

千見寺あたりに いっぺん、七美の頬を叩いてくれないかと願ってしまう。

物語の悲劇性でプラスマイナスを調整しているものの、
七美自体はかなり典型的な自己中心的少女漫画のヒロインである。


そして七美は有能な結婚詐欺師になれそうですね。

過去に痛手を負った恋愛を忘れさせてほしいと男に弱みを わざと見せ、
彼が支えてくれることをいいことに定期的に飲食をし、指輪を購入させる。

そして土壇場で断る。
数件の余罪があっても不思議ではない…。


く矢野との3回目の再会。

この日、七美は矢野の現在抱えていることを大体知る。

矢野と会う前に、千見寺から矢野が、かつてのクラスメイト山本(やまもと)と
同棲していることを知らされる七美。

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矢野が秘匿する情報を既に知っている七美。ここから全ての情報が開示される。

そして、過去にこだわった亡き恋人・奈々(なな)さんのことも、
遠距離恋愛になっても母親についていったことも、
今は尊敬できる点になったと矢野に告げる七美。

そして七美は現在の矢野の選択を間違っていないと信じている。

この気持ちの変化は七美の矢野への信頼が高まったということでしょうか。
彼への想いが 恋から愛に変わったのかな。

そう言い切って、別れを告げ背を向ける七美に矢野がたまらずに声を掛ける…。


同棲に関して「違う」と言い訳をするような矢野に、感情を露わにする七美。

バッグで人を殴る七美も久々ですね。
七美が思っている以上に痛いから止めた方がいいと思うが。
でも竹内には絶対やらないだろうから、もしや七美なりの愛情表現なのか?

そんな素直に感情を表す七美に、矢野も応えるように告白をする。
ここからは初出しの情報が満載です。

どうやら矢野が抱える病は「パニック障害」だったらしい。

時期としては札幌行って2年目の夏に発症。
そのせいで乗り物に乗れなくなったり、仕事に行けなくなったり様々な問題が起きていた矢野。

しかも同じ頃、山本の母が脳梗塞で倒れた。
『12巻』の回想で山本の母が山本を連れ戻そうとした少し後ですね。

しかし そのお陰で矢野は助かった。
色々あって、色々 頼られて、ホント大変だったけれど、助かったのだ。

これは自分よりパニックになっている人を見ると冷静になるのと同じでしょうか。
単純なパニックと病気のパニックは違うかな。

生まれてこのかた、ずっと母 → 奈々 → (離婚後の)母、と共依存(誤用かな?)してきた矢野が、
支える人を見失って生き苦しくなった時に、見つけたのが山本母子。

自分に「見過ごせないこと」が出来たことが矢野を安定させる。

そして彼らを放っておいて七美に会いに行くと
自分が一生の罪悪感を苛まれると考えたことから、七美に一切の連絡を取らなかった。


これで矢野が七美に会いに行かなかった理由が揃ったのでしょうか。

18歳、  自分が引き金となった母の死で全てを”捨てる”矢野、
19歳、  過去と正しく別れていないことがパニック障害を引き起こす
20歳以降 「支えるという行為が 自分を支えている」ようになり安定。

矢野が過去2回 かつて働いていた札幌のマスターの家で上手く眠れなかったのは、
パニック障害と診断される前後と、
そして支えるべき人(=山本)と離れているからかもしれない。
それとも思い出が多い北海道の地というのがそうさせるのか。


山本と(というか母を看病する山本)一緒にいることは
矢野の母への贖罪でもあるのでしょうか。

母一人・子一人の親子が助けを必要とする時、
かつて自分が欲していたような手助けをする。
そして少しも目を離さず、介護者を見守る。

後悔のない日々を過ごしてもらうために。


…が、ここで大きな問題点と疑問点が噴出する。

つまり、矢野が七美を最優先に出来なかった理由は上述の通りだ。
しかしそれは逆に言えば、七美と矢野の恋の最大の障害は、山本の母親という図式になってしまうのではないか。

2人の恋愛の成就を願うこと、
それは間接的に山本の母親の死を願うってことじゃない?

そして、その通りに、母の命が消えかけていく。

うーーーーん、人の命を恋の障害にしてはいけない。

山本の母親の死をもって、2人の恋に光明が見えてくる。
この図式が私はとっても気持ち悪い。

矢野の母親の病気が、七美との関係に影を差し、
そして その死によって、七美との関係が一切断たれた。

山本の母親の病気が、七美への復縁の障害となり、
(高校時代に山本母が倒れた時も七美と一悶着あった)
山本の母の死をもって、七美との復縁が可能になる。

人の死に彩られた恋愛を読者が読んで楽しいと思うのか。
私が「少女漫画」として本書を好きになれない理由は、この辺りにあります。

病気に関して やけにリアルな描写で描き込んでいる一方で、
それを恋の障害にしてしまう姿勢は本当に疑問です。


山本が母を見舞う場面で、札幌時代に知り合った舞花(まいか)さん再登場。
ただ舞花さんが「舞香」になっていた(初版)。
誰も彼も本書に対しての集中力が途切れているのだろうか。

また、七美が、わずか2日で矢野と竹内 2人の男に「行け」と言われたのは事実だが、
それを文字で説明するのは、いい場面の後だっただけに興ざめ。

彼らの放ったそれぞれの「行け」の意味を読者が噛みしめている時に、
作者が これ見よがしに説明してるのは いかがなものか。
雑誌連載だと回が分かれているから補足説明のつもりだったのかな。

もうちょっと読者を信頼しても よかったのではないか。


して新しい年が明け、里帰りした七美は水ちんとタカちゃん(影が薄い)と会う。
タカちゃんの結婚は今後の伏線ですね。


同じく新年を迎えた竹内くんは婚約指輪を釣り船から捨てる。

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七美への想いが詰まった婚約指輪なんて、海へ ポーイ!

竹内くんが指輪を海に捨てたかったのは、
七美との一応の恋人関係が始まったのが海辺の砂浜だったからかな?

それを海に返すことで、気持ちに けりをつけたかったのか。

ただ、なぜ矢野という観客が必要だったのか。

一度 矢野に指輪を買い取らせようとしたように、
矢野に頼まれた、七美のことを、頼みごと と一緒に返そうとしたのか。

いよいよ、七美と矢野の恋愛再開の下地は整っていく。
でも、本当にこんな展開でいいのか、つくづく疑問である。