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離れた誰かと 誰かがいたこと 『冬のはなし』

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小畑 友紀(おばた ゆうき)
僕等がいた(ぼくらがいた)
第12巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

母が自ら命を絶ち、ほどなく矢野(やの)は消息を絶った。それから数年、出版社で働きながら、七美(ななみ)は矢野を忘れられずにいた。そんな彼女を見守ってきた竹内(たけうち)がついにプロポーズを決意。だが、七美の同期で矢野を知る千見寺(せんげんじ)が、仕事を通じて手にした名刺に矢野の名前である「元晴(もとはる)」の文字を見つけて――!?

簡潔完結感想文

  • 四角関係の片想い担当・竹内と山本。本来 竹内が主役と思われた『12巻』の主役は山本⁉
  • 23歳の矢野 発見。けれど矢野も七美もお互いに会わないというドライな選択をする。話進まず!
  • 本物の猟師は山本。相手を狩るまで時間と労力を惜しまないこと。それが恋のハンターの掟。

2歩進んで3歩下がる エンドレス9月26日状態の 12巻。

または竹内(たけうち)のプロポーズ大作戦かと思いきや、
過去の山本(やまもと)が大暗躍するだけの12巻。

『11巻』では高校生の矢野(やの)が消息を絶ったところで過去パートが終わり、
社会人となった七美(ななみ)たちが新しい展開を見せる現在パートとなった。

空白の矢野の過去に後ろ髪をひかれながらも、現在パートも目が離せない展開に。
さぁいよいよプロポーズという大イベントが始まるぞ、と思ったら時間は進まず、1日前で足踏み状態。
七美の誕生日で、竹内のプロポーズ予定日の9月27日は『12巻』ではやって来ません…。


在パートで描かれるのは、9月26日の一日の出来事のみ。

その日は、七美の同僚で、東京での矢野の高校の同級生だった千見寺(せんげんじ)が、
23歳の現在の矢野に再会し、
そして彼女から情報を知らされた七美が矢野の消息を5年ぶりに掴んだ。

千見寺によると、矢野は1年位前から東京に住んでいる、
デザイン事務所で設計の仕事に就いている、
現在の苗字は矢野ではなく「長倉」、
これは実父の籍に入ったためらしい。

これは『11巻』に登場した実父の妻・美智子の籍でもあるんでしょうか。
もし美智子の願いそのままに縁組をしたのであれば、
それだけは回避したいと切望していた母への復讐だったりするんでしょうか。

高校編入の時は母が離婚しても義父の籍に入ったままの矢野でしたが、
それを抜けたのは確かみたいですね。

なので義父の籍を抜けた結果、実父の籍に自動的に入っただけなのか。
ここは詳しくは分かりませんね。

名前を変えるのも矢野(正確には矢野ではないが)の言う全部 "捨てる” 作業なんですかね。


そうして矢野の消息を知った七美は倒れる。

だが目を覚ました七美は、矢野に会おうと誘う千見寺に対し、きっぱりと会わないと告げる。
矢野が七美に会いに来ないのなら、それが彼の意思であると割り切る七美。

竹内が明日プロポーズをすることを知っている千見寺は再度、矢野に会わないのか念を押す。
だが、やはり矢野に会わず明日は竹内に会うという七美。
これが二者択一で選ぶ今の七美の答えなのだろう。

にしても、明日はいつ来るのだろうか…。


方で矢野は東京の高校時代の同級生から七美の現状を入手しており、
そして七美が今、竹内とつき合っていることも知っていた。
それを納得している様子の矢野。

にしても、この同級生・功太郎(こうたろう)は どうやって情報を入手しているのだろうか。
七美も竹内も面識がないというのに。

七美の周辺では矢野の情報を知りたくても何も入手できなかったのに、
(気を遣った友人たちが差し止めている部分も多少はあっただろうが)
七美以外では情報が だだ洩れているんだよなぁ…。


なぜ矢野は七美に会わないのか。
その答えの一つが、現在の東京の住まいにいる同居人の存在だろう。
その同居人は山本だった…。

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(左)の顔が23歳の矢野の顔が初めて見える場面。薬物やってませんよね?と聞きたくなる顔だ。

矢野は七美が自分のことを憎んで葬ってくれればいいと思っている。
それが今の矢野の願いで、会わないことが七美にしてやれる最善のことなのだろう。

彼と山本の間に何があったのか…。


こで視点は山本に移る。
そして時間は高校を卒業してすぐの春まで巻き戻る。

今回は山本が矢野の同居人となったという結果から示し、その過程を見せていく。

きっと多くの読者から毛嫌いされている彼女だが、
矢野に深く関わるんなら読んでやろーじゃないの、という気にさせられる。

彼から避けられていた自分が、
どうして愛され女性に生まれ変われたか。
その執念と怨念の記録である。

また、これは矢野の亡き母のかつての姿かもしれない。
少なくとも同居人という しっかりとした関係を築いている様子の山本。
矢野の母が果たせなかったことを果たしてみせる山本の策が実った理由は何だったのか。

不断の努力と邪魔者の排除、それが成功の秘訣かもしれない。


さて、上でも書きましたが、
七美以外は情報を簡単に入手できる この世界。

矢野の義父から、母の死や祖母の住所や連絡先をを得ている山本。
彼らに一体どんな繋がりがあるんだろうか…?

さらに山本は、おばあさんからも情報を聞き出している。

想像するに、こういう時、普段の言葉足らずな感じと違って、
口から出まかせがペラペラ出そうな人である、山本って女性は。

山本は推薦で東京の大学に進学が決まっていたはずだが、
親に黙って通わないまま中退。
卒業後は札幌で仕事を見つけることに。

なぜ、札幌なのか。
それは矢野がいるからに決まっている。

ここもまた思い立ったら少しも我慢が出来ず、
恵まれた環境から飛び出してしまう矢野の母と同じですね。

高校の推薦枠を無駄にし、母校に傷をつけた山本。
でも構わないんでしょうね、そんなこと。

もっといえば、自分が大学に通える機会を得たこと、
関係性は良好ではないかもしれないが、親が学費などを用意してくれるという、
矢野が出来なかったことを出来ているという意識もないんでしょうね。

山本には矢野か、自分のコンプレックスしか見えていない。
だから自分が恵まれている面には一顧だにしない。

彼女は いつも被害者面しているが、
こういう傲慢さを持っていることを自覚していないのだろう。


本は週に何回か駅のホームで長時間、矢野が通り過ぎるまでひたすら待つ。
それ以外にも何度か彼の部屋を訪れ、インターホンを押す(矢野は拒絶)。
ポストに手紙を入れて帰る(連絡先を明記して3回ほど)。

完全なるストーカーですね。
矢野も経済的余裕がないから逃げられないのだろう。

山本の人生は「あの人」との繋がりを切らさないことが最優先事項。
風向きが変わるまで、どんな仕打ちにだって耐える。
そして結果的に、ある程度の願いが叶っているのだから凄い。
まぁ、恋愛の参考には しない方がいいと思います。


そんな中、バイト仲間の舞花(まいか)からメイクを教えてもらう山本。
そしてメイクアップした顔の時、駅の構内で矢野に見つめられる。
そのことが山本を舞い上がらせ、優れた容姿こそ正義と思い込む。

ある意味で彼女は本当に頭が悪くなってしまったのだ。
容姿を重視するあまり 整形にまで手を出す前に収穫があってよかったですね。
身も心も姉になろうとして壊れていく未来もあったかもしれない。


しかしきっと、矢野が視線を避けなかったのは、
そこに山本の姉の奈々(なな)さんの面影をみたからだろう。
決して山本自身を見ていた訳じゃない。

だが、珍しく舞い上がってしまってそんなネガティブな事実に思い当たらない山本は、
矢野の誕生日に、最大限に自分を演出して彼に会いに行く。
その際には、高校時代に矢野と買い物に行った時のバッグ(『10巻』)を持って…。


しかし矢野は そんな山本を一蹴する。
批判のスイッチを入れたのは、山本の持つバッグだろう。
あの日、まだ幸せだったあの頃、七美に渡したかったバッグを山本が持っている、その事実が怒りを引き出した。

そして辛辣ではあるが、本質を突いている矢野の言葉。
まるで善意のように、今更 姉を隠れ蓑にして近づいてくる、
身も心も装った山本を彼は見抜いていた。
なぜなら飾らない彼女のことを知っているから。

何だかんだ昔から山本のことを ちゃんと見ているんです、矢野は。

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獲物が好みそうな あの人の姿のように擬態して、疑似餌を撒いて、釣りの準備は万全だったが…。

矢野と山本、2人の共通点としては、
親から自分の存在を丸ごと否定されていることだろうか。

そんな親でも落ち込んでいる時には元気づけようと出来る限りのことをしてきた2人、
そしてそれが結局 届かずに無力感だけが残った2人なのだ。

手の届かない人、この世にはいない人と、ずっと比べられて生きてきた2人。
そんな共通点が2人の精神が呼応する一因なのだろうか。


感心したのは、レジ打ちが完璧な山本が、親のバイト先の突然の到来で、指が震えてレジが打てないという心理描写。
そしてその時、交代してくれるのが本来レジ打ちが苦手な舞花。
しかも舞花はその直前で山本に逆恨みのように酷い言葉を投げかけられているにもかかわらず。

舞花には、七美にとっての千見寺のように、山本をずっと見守って欲しいものである。


本書の最後に収録されている48話がめちゃめちゃ短い(20ページ)。
しかも半分は回想だし。
『13巻』の発売は『12巻』の発売から2年2か月後。
何だか作者が大変そうな時期だと うかがわれる。
無事に完結して何より。


「『僕等がいた』ハートフル番外編 赤ずきんちゃん気をつけて!!」…
配役:赤ずきんちゃん・七美 狼・矢野 猟師・竹内

この配役で「赤ずきん」の話をなぞっているだけなんですが、
何とも後味の悪い作品になっております。

竹内が銃で狼を撃ち殺害。
しかし狼だと思っていたのは、竹内の幼なじみのモッチー(矢野)。

彼は、母が病死して天涯孤独になり、愛犬・ララと旅へ出た。
彼が身につけていた着ぐるみは、ララが逝った後に その皮で作った物という嫌悪感満載の設定。

何これ? 作者の意図が全く分かりません。
無理矢理 解釈するとしたら作者の願望でしょうか。

矢野という奇行ばっかりする男を、いっそ亡き者にすれば、
もっとシンプルな恋愛物語になるのに!
という八方塞がりの現状への困惑が込められているのだろうか。
作者のメンタルが心配になります。

矢野の不在という物語の転換期にこんな物語を読ませられた読者の気持ちを一切考えてませんね。
しかも現在消息不明のララ美まで犠牲にするなんて。

僕等がいた (12) (フラワーコミックス)

僕等がいた (12) (フラワーコミックス)

  • 作者:小畑 友紀
  • 発売日: 2007/08/24
  • メディア: コミック