《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

ただ それだけの はなし 『冬のはなし』

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小畑 友紀(おばた ゆうき)
僕等がいた(ぼくらがいた)
第13巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

竹内(たけうち)が七美(ななみ)へのプロポーズを決意した矢先、千見寺(せんげんじ)は消息不明だった矢野(やの)と、仕事を通じて再会していた。千見寺から矢野の所在を聞かされた七美だが「会わない」と拒否する。誕生日当日、矢野への想いをかかえたまま、竹内との待ち合わせ場所へと向かう七美。このままプロポーズを受けるのか……!?

簡潔完結感想文

  • 運命の9月27日はじまる。噛ませ犬の中でも特に優良物件の竹内。読者人気は高いぞ(慰め)。
  • 七美と矢野の再会。一つ一つ丁寧にお別れをすることで新しい日が始まる。それが核心。
  • 矢野重病説。「失われて初めて永遠になる」。謎の病に倒れる人々。バッドエンドフラグ?

美と矢野の再会、1年半ぶりの連載の再開、竹内の星占いは最下位 の13巻。

「時間がのろく感じる」の一文から始まる『13巻』。
ようやく9月26日地獄から抜け出して、七美(ななみ)の誕生日、
そして交際相手の竹内(たけうち)のプロポーズ決行日である9月27日がやってきた。

『11巻』以来ずっと26日でしたから、雑誌読者には1年ちょっと、
単行本派の人にとっては3年ぶりに日付が変わりました。

リアルタイム読者にとっての現実時間の3年という月日、
この間にも ずっと変わらずに本書を好きだった人も
もしくは気持ちが移り変わり違う漫画を一番好きになった人もいるでしょう。

やはり人にとって数年は、
それだけ長く、自分も世界も変化していく可能性を秘めた時間なのだ。
奇しくも超長期連載や休載が読者に時間の経過を実感させるのであった…。


んな中、変わらずに高校時代の恋人・矢野(やの)に語り掛ける七美。
たとえそれが、今の彼からのプロポーズの瞬間であっても…。

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女性が生涯で一番 嬉しい瞬間の一つ。でも なんで七美の顔には影が差しているの?

竹内のプロポーズを お断りする七美。
そしてプロポーズをもって一層 明確になる矢野への想い。

社会人として着実に成長していく七美とは違い、
彼女の恋愛観は 矢野と過ごした高校生のまま。

七美が担当する作家さんの言葉
「一瞬の気の迷いで 今まで積み上げてきたものを壊しちゃダメですよ」
これは前者が矢野、後者が竹内と考えるのが普通だろう。

しかし七美にとっては逆だったのかもしれない。

努力すれば この先「好き」になれるかもしれない竹内と、
この約6年間 不変の想いを持ち続けていた矢野。

自分の想いに蓋をして、自分をも騙したら幸せになれるのではないか、という気の迷い。

竹内はもちろん、矢野さえも失う可能性があっても、
今まで積み上げてきた、自分という人生の時間を壊さない選択をしたのではないか。

この場面、七美が矢野に会う前にこの決断をしているのは、
竹内に何を求めていたのかいまいち分からない七美の中で唯一 褒められる点ですね。
会ってからでは、完全に矢野が本命で、竹内は保険という図式になってしまっただろう。

まぁ、矢野が現世にいて、東京にいるという安心感を得てから断っているので、
完全に 七美が矢野の存在を度外視しているわけではなさそうですが。


…などと、無理矢理に七美の気持ちを考察してみたが、
割と冷ややかな読者である私は、
別離が長くなればなるほど、物語が壮大になっていけばいくほど、
果たして この2人を結ぶものってそんなに強いものなのか?
という根本的な疑問が消えない。

物語が後半に進むに従い、
どんどん七美と矢野の気持ちを追えなくなっている。

どうにも彼らが時間の経過とともに思い出を美化して、
良い場面だけをリピート再生するから一層 甘美になるのではないかと思ってしまう。

今回の竹内のプロポーズを断る七美の回想の中の矢野もそう。


でも、1巻1巻点検しながら再読し感想文をしたためていると、
短期間で2回も別れているし、遠距離恋愛になる際も、その間際になって復縁している。
それも 別離の前だから2人とも綺麗な自分でいようと努めていたからだと思ってしまう。

交際におけるプラスとマイナスの周期の、
マイナスから反転する時の上り調子の時に別れたから、良い思い出として保存されている。

そして それは数年という時間が経過しても、
子供の頃に欲しかった おもちゃのように、
今の価値基準からすれば必要ではないものの、
ずっと心 惹かれてしまう物のようにも思えるのではないか。


それもこれも、しっかりと「お別れ」が出来てないからなんですよね。
矢野という何でも器用に上手くこなすが、唯一 別れ方が下手な男が絡んでいるから仕方ない。

七美が今回、竹内のプロポーズの後に、
前言を撤回して矢野に会いに行くのも自然の流れかもしれない。

矢野にも、これまでの積み重ねた自分の想いにも ちゃんと お別れしないと前へ進めない。
別れるために再会することも必要な儀式なのだ。


にしても、今回は いつにも増して七美の前言撤回が多すぎますよね。

「…どうして(略)…あたしが(矢野に)会いに行くの…?」 → 矢野に会いたい、と追いかける。
「誓います 私は二度と泣かない」→ すぐに泣きます。

確かに七美は「ひとりで泳げる」人かもしれませんが、
その内面は、結構 悲劇のヒロインを気取っているところがある。

2人の絆と同じように、大仰な言葉で自分を演出している感じが あんまり好きではない。


うして矢野に会いに行く決意を固めた七美。
一方で行われるのが竹内と山本(やまもと)、四角関係で線対称の2人の会談。

竹内と山本の会話は本妻と不倫相手との会話のようですね。
普段はジェントルマンの竹内が単刀直入に、小刀を振り回している感じだ。

さて、この場面で一番 大事なのはララ美の生存確認。

これまで語られた矢野が各地を転々としていた過去や、
『12巻』赤ずきんちゃんの話もあり、
私の妄想の中では、ララ美を手放さなけばならなくなった矢野が、
これがララ美のためだ、とララ美に手をかける場面まで浮かんでいたのですが(作者ならやりかねない)、
どういう経緯でなのかは不明ですが、今は一緒にいるみたいです。

でも、矢野の高校時代の最後にはララ美は千見寺の家に居たわけで、
そこから移す時に千見寺を通さないと話が進まないと思うが…。


そして、もう一方が遂に果たされる七美と矢野の再会場面。
現実時間でも数年ぶりの再会になったのでしょうね。

矢野はその日、休暇を貰い、札幌へと旅立つという情報を聞き七美は空港へ。
ここぞという大事な場面は空港が似合いますね。

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七美と矢野、約6年ぶりの再会。その第一声は想像の1/100 の軽さだった。

表面上は快活に、ただ世話話をしただけで、素早く会話を切り上げてしまった矢野。
しかし一人になった途端に瞳孔が開いて驚きを隠せない矢野(この時の顔が恐い)であった。

この矢野の素っ気なさや、高橋に寄り添う言葉を掛けながらも
本心を見せていないような感じを受ける。

これは動揺などの自分の感情の抑制もあるんでしょうが、
もしかしたら直近で七美が竹内と婚約したと思い込んでいるから、
自分の気持ちを少しも出したりして
彼女に迷いを生じさせないためでもあるのかな。
これもまた矢野の優しさか。

ただ 矢野がくれた お別れのための言葉は、
七美を一層あの頃に縛り付けるものだった…。


そうして札幌の地に降り立った矢野の向かった先は墓地。

これは実父のですかね。
母や祖母は札幌にお墓を立てる理由がないですもんね。

そして実父の妻である美智子(みちこ)さんの家へ。

どうやら矢野は美智子さんに借金をしていたらしい。
それを今回で返済し終えたみたい。

これは母の死去後に大変だった頃に借りたお金でしょうか。
車の免許を取得したり色々と物入りだったと思われるが、
借金の時期や金額などハッキリとしたことは描かれていません。

結局、美智子さんとは戸籍上はどういう関係なんでしょうか。
養子には入ったのか、
籍や名前だけではなく、美智子がいる長倉家の人間として生きていくのでしょうか。

ってことは、七美は結婚しても矢野姓にはなれない のかな?
もし子供が生まれた後に、彼のことを矢野と読んだら子供が混乱しそうだ(妄想)。


いては札幌時代にお世話になったマスターの家へ。
マスターの髪は薄くなり、数年前は矢野に懐いていた その家の娘は小学4年生で矢野を遠巻きに見るだけ。

そんなマスターの家では矢野は上手く眠れない(2回目)。
マスターの家が風水的に良くないとかそういう訳ではない、はずだ。
ただ単に北海道や札幌という場所がそうさせるみたい(『14巻』)。

ましてや、札幌に来る前に七美に数年ぶりに再会できたのだから。

そしてラストは不吉な予感を匂わせる。
荒い呼吸でズキン ズキンと痛む頭部を抱える矢野。

もしや今度は矢野の闘病生活…??


私は本書を一種の勧善懲悪の漫画だと思っている。

本書には子供に対して彼らの尊厳を踏みにじってきた毒親が2人登場するが、2人とも大病を患うことになる。
事故死した奈々(なな)は例外だが、本書における死は懲罰的な意味を感じる。

さて、人に対して裏切るな と再三 言っていた人が大事な人を裏切ったら、
その人は罰を与えられてしかるべきなのではないか。

なんだかバッドエンドに向かっている気がしてならない。

(以下、最終巻までのネタバレ込みの感想・妄想です)

結局、この頭痛は深刻な病気ではなかったのですが、
この時点で作者の頭の中で、矢野が大病を患う可能性はどのぐらいあったのでしょうか。

矢野は深刻な病気を抱えており、
七美と再会して、もう一度 恋愛関係になったとしても矢野には七美を生涯 幸せにすることは出来ない。

ならば自分の本心とは裏腹に、
七美を竹内に任せて幸せを与えてやってほしいと願う、それが矢野の愛のカタチ。

矢野が七美についた「嘘」は病気であり、冷めた態度であり、
その裏の七美への変わらぬ愛だった…。END。

という結末も用意していたんでしょうか。
悲劇が大好きな作者なら、そうしかねない。

担当さんや読者の声で思い留まったところもあるのかな、などと妄想する。
(すっかり忘れてましたが『14巻』に病名書いてありましたね、的外れもいいい妄想でした…)


気になるのは、各話の最初が夢である頻度が高いこと。
夢は個人の願望や心配事をその人に見させるんだろうけど、
ただでさえ進まない話の最初に人の夢を何度も見させられても困る。
いいから早く本編いって、と思ってしまう。


そういえば私が読んだ初版では竹内の姉・文香(あやか)が「彩香」になっていた。
実の弟・竹内も誤変換で会話してるし。
あとで2人まとめて文香に締め上げられているでしょうね。

後の版では訂正されているだろうか。
こんなところにも1年半の休載のブランクの影響が…⁉

そういえば矢野と竹内が2人で飲んでいる場面の、
大学生時代の竹内の逆ナン話と顛末、
あれ、必要ですか?
なんで下ネタに品がないんでしょうね、この漫画。

竹内の一途さを打ち壊すような話で好きじゃないです。[

僕等がいた 13 (フラワーコミックス)

僕等がいた 13 (フラワーコミックス)

  • 作者:小畑 友紀
  • 発売日: 2009/10/26
  • メディア: コミック