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少女漫画と小説の感想ブログです

帰る場所を みつけたくて 躊躇わずに ただあなたと『「ただいま」』

たいようのいえ(4) (デザートコミックス)
タアモ
たいようのいえ
第04巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

この家にいるかぎり家族。でも本物の妹にはなれない。彼女でもない。わかってる……バカなのは何も言わない私のほうなんだって……。でも、ひょっとして――。夏休み中だけ帰ってきた、基(ひろ)の弟・大樹(だいき)と、基に内緒で居酒屋アルバイトをはじめた真魚(まお)。そこへ偶然、基が「ラジカル」さんと一緒に飲みに来て……!? 不安と嫉妬で、ぐるぐる回る真魚の思考。そしてついに、3人がはち合わせする瞬間が……!!

簡潔完結感想文

  • 大樹の帰還で一層 賑やかになる中村家。同じ年、同じバイトで大樹は真魚の良き相談相手役に。
  • 好きな人が同じことをラジカル杉本さんに伝える真魚。そんな折、3人が鉢合わせしてしまい…。
  • 真魚の両親の馴れ初め。ずっと友達だったが彼女が困っている時に手を差し伸べた彼。しかし…。

しくて悲しくて切なくて涙を流す 4巻。

好きな人がそばにいること、頭の片隅にいつも家族のことを考える その幸福で、
そして その反対の、好きな人をただ想うだけの日々、家庭が壊れる音を聞いた時に人は泣く。


んてポエム調で感想文を初めて見ましたが、笑いも絶えない『4巻』です。

その笑いに大いに貢献してくれるのが、中村(なかむら)家の次男・大樹(だいき)。

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照れも衒(てら)いもなく等身大の優しさを見せる次男・大樹。彼の加入で物語は一層 楽しくなる。

長男・基(ひろ)の弟にして、主人公・真魚(まお)と同学年の彼は、
両親を亡くして引き取られた親戚の家から夏休み期間中だけ帰ってきた。

目つきが悪く、いつも不機嫌そうな彼だが、その実、優しい。
そしてツッコミ役でありながら、天然で大いにボケるキャラクタで読者から大いに愛される(予想)。

ツッコミ役・進行役の彼の加入で、中村家内での会話のテンポが速く、そして円滑になった。
頭が良いから物事の問題を目ざとく察知するし、
良い意味で空気を読まないで自分を貫き通すから疑問や不満も解消しやすい。
互いを意識し始めて沈黙がちだった同居人2人にとってはありがたい存在だろう。

そして大樹は真魚と同じ年ということもあり、彼女への接し方が なんでも寛容な基とは違う。

真魚が親友・ちーちゃん(千尋ちひろ)から謎レシピを学んで作ったシュークリームを、
「毒」とか「ゴミ」とか ちゃんと否定する。
甘やかしが原因で子供が成長しないことだってあるのだ。

ただツッコミ役でも愛嬌と愛情があるのが大樹。
彼もまた、一見 不機嫌そうだけど人を否定したりしない。

真魚を家から追い出そうという継子(ままこ)イジメみたいなことは決してしなかった。
兄と真魚との微妙な関係も時には包み込み、時には突き放すバランス感覚の持ち主。

もしかしたら色恋が絡んで息詰まる中村家の空気清浄機かもしれない。
損な役回りとも言えますが…。


方で、良好とは言えない関係性も出てくる。

それがネット上の関係からリアルな知人へと移行した真魚とラジカル杉本(すぎもと)さんとの関係だ。

ハンドルネーム・ラジカルさんが実は基(ひろ)の同僚の杉本さんで、
彼女もまた基のことが好きだと知ってしまった真魚
彼らが2人きりで食事に行けば居ても立っても居られなくなるほど不安になる自分を自覚し、
真魚はラジカルさんに自分の正体と、基への好意を正直に伝える決意をする…。

ここは真魚は失敗に学ぶ子という彼女の賢さが表れている場面。
好きな人が同じという誤情報などから 唯一無二の親友のちーちゃんと少しだけ険悪になった経験があるため、
今回は更に一歩前で事態に対処している。

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同じ轍を踏まないよう、傷つけても傷ついてもラジカル杉本さんに真実を伝える真魚

基との関係上、バイト先の居酒屋で遭遇したくないと伝え、
ラジカルさんと基が2人で一緒にいるたびに「こわかった」と吐露する真魚

本書で人に対して「xxしないで(言葉はもっと婉曲だが)」というのは、この場面の真魚が初めてではないだろうか。

一見、自己中心的な行動にも思えるが、それも真魚のフェア精神からだろう。
そして良い人を演じる労力や、基とラジカルさんの進展をつぶさに報告する煩わしさと痛みをしっかりと計算した結果の行動だろう。

黙って上辺だけ良好な関係を続けて、相手を騙し続けるよりも、
自分の気持ちを正直に伝えるのは勇気が必要なこと。
父親や家庭のことと同様に、真魚には物事に向き合う力があるから読者も応援できるのだ。

メタ目線では、ちーちゃん の時と同様に、本格的に険悪になる前に手を打ってくれる作者が好きだ。
以前の感想でも書いたが、物語の進行が読者の予想よりもほんの少し早い。
引っ張れるだけ引っ張るとか、劇的にドラマチックにするなどの手法を採らないし、人を必要以上に傷つけたりしない。
作者も含めて合理的な人間がこの作品には多い。
作品内の湿度が、いつも一定に保たれている気がする。

真魚とラジカルさん、そして基、この3人の中では、まだ少しだけ嘘が成立している。

基はラジカル杉本さんに真魚を妹だと欺瞞し続け、
ラジカル杉本さんは基が愛読するケータイ小説の作者だと半分人助け、半分利己的な理由で嘘をつく。
そして真魚は基にケータイ小説の作者だと言わないままで、ラジカル杉本さんと知り合った経緯を誤魔化している。

この嘘が3人の関係で しこりのように わだかまり続ける。
こうやって列挙すると、基の嘘がラジカルさんの心をえぐるように傷つける、一番罪深い気がする。


してもう一つ予想より、早かったのは真魚の父と母の過去。
真魚の父親が見ていた夢として明かされる2人の馴れ初めと別れ。

中学生の時からの腐れ縁だった2人が、彼女が泣いてる所を見てしまって(見られて)から距離が近づいた。
当時、悪い男に騙されていると知りながらも、進んで騙され続けた彼女。
その縁を断ち切ることで、2人は結婚へと歩みを進める。

しかしクリスマスの夜、帰宅した旦那は妻の浮気現場に遭遇する。
しかも相手は、彼女を騙していた、あの悪い男。
離婚しないまま、旦那もまた他所に女を作った。
そして放置されるのは真魚という名の娘…。

この悪い男というのは、『1巻』で出てきた あの男ですよね。

真魚の母親に対して誤解していたことが2つ。
1つは浮気相手が、夫よりも高スペックだと思っていたところ。
髪型や雰囲気がエリートっぽかったので、当てつけや将来の安定を見越して男を選んだのかと思っていた。

そして、もう1つは意外な一途さ。
もっと複数の男を渡り歩いているイメージだったが、
一番好きな人とずっと付き合っていて、二番目に好きな男と結婚したのか。

これまでは一緒に暮らしていた父親の悪い面ばかり見えていたが、これは母親の方が悪女ですね。

そして、父親は見かけや態度よりもずっと弱く、そして優しい人なのかもしれない。
ラスボスのようでありながら、実は精神的に最弱なのかもしれません。
虚勢を張らず、本当の彼の姿が見られる日は来るのでしょうか。


父親が決して難攻不落な人物ではなく、こじらせたタイプだと先に知らせることで物語がまた少し明るくなった気がする。
本当に作者が丁寧に作品全体をコントロールしていることが伝わってくる。
それが読者として実に嬉しい。