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いつだって おいで おいで する あなたの優しさ『「ただいま」』

たいようのいえ(7) (デザートコミックス)
タアモ
たいようのいえ
第07巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

忘れてるわけじゃない。彼の目指すこの家の未来には私の姿はない……。私は私の未来へ行こう。でも。うまく言葉がでない……。「こんな気持ちにさせてたなんて……ごめん。」大樹(だいき)が帰ってきて基(ひろ)の願いは前進した。妹の誕生会への誘いを受けて2度目の一時帰宅することを決意した真魚(まお)は? 誰かを想って進めなかったみんなが新しい想いを知って、それぞれついに……!!?

簡潔完結感想文

  • 真魚の長期計画。2回目の一時帰宅。義母に続き妹とも交流。将を射んとする者はまず馬を射よ。
  • 大樹の長期計画。同居していれば恋の花咲くこともある。弱虫や当て馬なんかじゃない、はずだ。
  • 杉本の恋の長患い。片想いの喜びも悲しみも知って、もう一歩前に進もうと決意した彼との夜…。

の汚い心に打ち勝とうとする葛藤の 7巻。

『7巻』から表紙が真魚(まお)と基(ひろ)に大樹(だいき)を加えた3人になりましたね。
家族が増えた実感が湧いて温かな気持ちになりますね。

しかし、本編はそれとは真逆の剣呑な雰囲気。
なぜなら兄弟間で恋の鞘当てが本格的に始まったから。
いざ尋常に勝負!


うべきか、言わざるべきか、それが問題だ。

自分の兄のことを好きな女性に恋をしている弟・大樹。
彼は長年お世話になった親戚の家から、そんな2人が暮らす自分の実家に移り住むようになった。

大樹は2人の関係に嫉妬して積極的な破壊工作などを行ったりはしないが、
監察官として行き過ぎた行為を見逃さないよう目を光らせる。

そして兄とは違い、年齢も家も学校もバイト先も同じという自分の利を大いに活かし、
長期戦で相手を陥落しようという老獪な策士の面も持ち合わせる。

そして本人以外には自分の気持ちが露呈しても構わないという豪胆さもある。
三者に聞かれれば素直に答えるし、
恋のライバルである兄には牽制するために匂わせた発言だってする。

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好きになることは なにも問題はない。しかし、それが真魚に伝わらないのが大いに問題だ。

実は、真魚に対しても匂わせ発言は幾度もしている。
ただ彼女は恋に対して鼻が詰まっているのか、匂いにとても鈍感である。

大樹も大樹で、物事を冷淡に見通すドライアイの持ち主なので、発言に湿度が足りない。
もっと目を潤ませながら、意味あり気に言葉を発さないと。
多分、棒読みの大根役者並みに何も伝わらないのだろう。

また大樹は長期戦を想定しているからなのか、計画の柔軟性に欠けるからなのか、
はたまた勇気がないからなのか、直接的な言葉は一切使わない。

今は我慢の時、という葛藤の末なのかもしれないが、
『7巻』で妹から「おねえちゃん すき」と絵に添えて書いてもらった真魚が、
心の底から震えるほど嬉しかったように、直接的な言葉が人を動かすことがある。

長年お世話になったおばが言うように
「大ちゃん(は)隠れ弱虫」なのかも、しれへん。


そして『7巻』の終わりでは、この家に来てから初めての真魚との2人きりの夜が訪れる。
基が会社の慰安旅行で1泊 家を空けることになったのだ。

基に真魚への恋心を匂わせて以降、
自分が監察官であるように、基もまた自分の監察官であった。

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大樹の挑発で母性ではなく男として真魚に接する基。大樹は優秀な当て馬。

だが、今回お邪魔虫がいないことで、大樹は弱虫を克服できるのか…⁉
というところで、今巻は幕を閉じる。

気になる。そして私の大樹びいきが過ぎる!


愛と人間愛のあいだに起こる葛藤もある。

『7巻』では、真魚と父親との仲を取り持ってくれる真魚の義母が夫に対して、
真魚ちゃんがいたから パパはなかなか一緒になってくれなかった」
「出て行った時は正直ほっとした」と本音を語る部分がある。

だがこの会話の彼女の真意はこの後にある。
人を呪わば穴二つ、ではないけれど、
他人の不幸を望めば自分の不幸になって返ってくる。
ましてや家族ならば。
この世の中、情けは人の為ならず、なのかもしれない。

自分の願いはあるけれど、
他人を押しのけてまで優先するほど知性に欠ける訳じゃないから葛藤がある。

人を好きになったり、人と繋がる喜びを描きながら、
一方で綺麗事で済ませない、この清濁併せ呑む感じが好きですね。


じように、基(ひろ)に恋するラジカル杉本さんが、恋に盲目になっていた自分に気づき、
真魚のバイト先で基と一緒のところを見せていたと自省する場面も同じ。

暴走も嫉妬もするけど、反省もする。

そんなラジカル杉本さんは歴女であり腐女子
最初は怖そうで近寄れなかった基も、彼を登場人物としたBLを想像することで苦手を克服。
まさか、そんなBLの世界の中に自分が入って、好きになるとは思わなかっただろう。
真性の腐女子ならば、自分は観察者たれ、と怒られそうですが(『私がモテてどうすんだ』より)。
杉本さんにもそんな葛藤があったのだろうか。

そして杉本さんからの多少の匂わせ発言では、自分への好意に気づかない鼻の詰まった男がここにも一人いる。
一人暮らしの自室マンションの玄関の前で誘っても、
(基の家で)お菓子作りを教えてほしいと言ってみても、暖簾に腕押し、糠に釘。

そんな現状を打破するために、彼女は慰安旅行中に動くことを決意する。
旅館の一室で基と向き合う杉本さん、という場面で『7巻』終了。

一方で真魚と大樹の2人きりの夜、一方で基と杉本(と同僚)の夜。
続きが気になって仕方ないじゃないか!


そういえば基と杉本さんが向き合う旅館の一室で酔い潰れている基の同僚・藤田(ふじた・男)。
『7巻』から一気に顔が可愛くなりましたね。
まさかドラマCDで声が付いてから作者に愛着が湧いたのか…⁉