《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

あの日 贈った花の名前の意味を僕達はもう知っている。

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青木 琴美(あおき ことみ)
僕は妹に恋をする(ぼくはいもうとにこいをする)
第02巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★(4点)
 

両想いになった頼と郁だったが、頼が郁の友だち・友華と以前エッチした関係だったことが発覚!あてつけに初恋の相手・中村とつき合うと言い出した郁だったが、大ゲンカの末に仲直りする。そして、郁はムリヤリ頼をラブホテルに連れ込み…!?

簡潔完結感想文

  • 両親の結婚式会場の教会で身体を重ねようとする郁に罪悪感が芽生える。天使様が みてる。
  • 頼が以前、同級生とラブホテルに行ったことが判明。絶望した郁も初恋の人と交際開始…⁉
  • 遠ざかる相手の後ろ姿を見て、自分の心が鮮明になる。ライバルに負けないためには実践?

去のあやまちでさえ、僕たちの劣情を引き立たせる燃料 の2巻。

『2巻』で描かれるのは現在と過去の葛藤。
兄妹の愛という許されざる関係の、罪と欲望の間で揺れる心が描かれる。

起承転結で言えば、まず『1巻』が「起」。

本書のテーマは近親相姦。
1話から夜中に寝ている妹に手を出すという内容でインパクトは申し分ない。
衝撃的な展開を見せて1話で読者や視聴者を惹きつけるのは漫画・アニメでよく見られる手法ですね。
嫌悪感を覚えながらも、エロチックな雰囲気に惹かれる。私もその一人です。

そして『2巻』中盤の過去の回想編が「承」。
なぜ兄の頼(より)が妹の郁(いく)に手を出したのか、
そこに至る彼の深い悲しみと葛藤、そして過ちが描かれる。

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異性である妹に欲情する自分を恥じる頼。でも頼の場合、同性でも欲情した気がする…(腐ってる?)

「承」と話が少し前後する「転」。
頼が かつて交際していた同級生とラブホテルまで言っていたことが判明。
その事実にショックを受けた郁は、初恋の男と交際し始める。
頼の心は千々に乱れるのだが…。

『2巻』のラストで物語は早くも「結」を迎える。
近づいた心が遠ざかり、そしてかつてないほど近づく。
揺り戻った心と、そして身体が いよいよ結ばれる時がきた…。

はあ、本当に全3巻で終われば内容の濃い漫画だったのに。
『3巻』で本書の9,10巻の内容をまとめた方が、作品にとって幸せだったのではないか。
あと妹・郁にとっても。
作者に「郁ちぃ」と愛されてしまったために、
バカキャラが暴走し、頼との同等性が失われてしまった。

これによって男性向け雑誌の理想化された女性キャラのように、
思考能力が欠如したロリコンキャラに貶められてしまった。

折角、この『2巻』では郁側の罪悪感も少し描かれたというのに。
ヒーローの頼を際立たせるためか、郁を幼くしてしまい、彼女の心理描写を切り捨てたことが本書の大きな欠点だろう。


一といっていいほど、郁に罪悪感が生まれるのが『2巻』の冒頭。

『1巻』のラストから続く、両親が結婚式を挙げた教会での場面。
昔からよく訪れていた この教会に自生していたシロツメクサで頼は指輪を作る。

シロツメクサは英語で「CLOVER」。
転じて「C-LOVER」「She-Lover(彼女は恋人)」。

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妹ではなく彼女として、一人の女性として頼は郁に生花で作った指輪を贈る。

これまではこの教会には家族で訪れ、妹として見ていた郁は、
初めて頼の最愛の彼女として、その場所に立つ。

幸福感に包まれながら、頼の愛撫を受ける郁。
だが、教会の天使像が彼女を苛(さいな)ます。

そしてシロツメクサで作った指輪は愛撫の最中に、郁の指から外れてしまった。
まるで郁が恋人であることを認めないように…。

郁を見つめていた、この天使像は彼女の倫理観の象徴でしょうか。
幸福や快楽に飲み込まれそうな彼女を推し止める存在。

ただ、天使像がない限り郁が倫理観に支配されることはないようです…。
この場面以降は、彼女はただの恋する一人の女性。

家族の崩壊を防ぐために葛藤したり我慢したり自制することは特になくなってしまう。
典型的な少女漫画のヒロインとなり、ない頭を更に空っぽにして恋愛に一喜一憂する。

本書の後半で、彼女が一線を超えようとするのも頼への独占欲、
そして誰かに先を越されたという敗北感や焦燥感であって、
彼女なりの葛藤を乗り越えたという背景は見えてこない。

なぜなら彼女に思考能力は与えられてないから。
男性をただ一途に愛する、そんな男性目線で理想化されたかのようなキャラクタだから。

もしくは完全に頼というヒーローの引き立て役だ。
この作品にとっては、郁という存在はヒーローが愛した人という象徴に過ぎない。


切な人を誰かに奪われるぐらいなら、喜んで罪人になろう。

2人の関係を加速させるのはライバルの存在。

頼のライバルは、同級生の中村 幸生(なかむら ゆきお)。
郁の初恋の相手という重要なキャラ。

頼が、郁に好意を寄せる中村の声を聞いて、
直感で「僕はこの声の主に いつか妹を奪われる」と思ったのは、
誇大広告、もしくはミスリーディングでしたね。

中村くんは大した役割を果たしません。
噛ませ犬そのものです。
頼にとって単なる焦燥感の象徴でしかありません。


の焦燥の原因となったのが、同級生・楠 友華(くすのき ともか)。

頼がかつて つき合っていた女性で、初めて唇と身体を重ねた人でもある。
彼女との関係と、その経緯は頼の過去編で明らかになる。
そして『1巻』1話に繋がる、頼の心の変遷が描かれる。

これによって頼は あの夜、郁に衝動的に手を出したわけではないことが分かる。
長い苦悩と葛藤、そして過ちを経て、それでもなお彼女しか望まなかったのだ。

身代わり。
自分の頼への想いが届かないことを痛感した友華が、頼にそう言ったように、
頼もまた届かない妹への想いが消滅することを願って、友華と身体を重ねる。

そうして頼の初体験は終わる。
これは肉欲を経ても、郁への純粋な想いは消えなかったという悟りでしょうか。
そして、この経験そのものが妹・郁の越えなくてはいけない壁になる。

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秘密の交際をしている2人が相手にだけ伝わる言葉を密かに投げるのは定番の胸キュン場面ですね。

郁にとっては友華が恨みの対象ではない。
頼が自分以外に知らない顔を見せていたという事実が許せない。
だから、それを上塗りする、自分も体験する。

郁の思考はトレースできるけど、ここに倫理観が顔を出さないのが郁らしいというか、バカらしいというか。
郁側の視点からは兄との行為も、興味本位の性行為とあまり変わらないのが作品の浅さ・弱点になっている。

てっきり、心は一つでも身体は一つになれないという「お預け」状態で2人の葛藤を描くのかと思っていましたが、
それはラストから繋がる場面で簡単に乗り越えてしまうから驚いた。

頼は性行為の前には郁の同意を得ている。
それ自体はパートナーとして真摯な振る舞いだろう。

ただ、やっぱり頼の場合は免罪符にしか思えない。
『1巻』の感想文でも書きましたが、郁の思考を先回りして、じわじわと退路を塞いでいく小狡さが目立つ。

友華を抱きながら郁を想った最低の行為ですら、頼にとって郁の焦燥をかき立てる要素に転じた。
これは頼にとっては計算外の幸運だっただろう。
妹がバカだと物語的にも何かと助かりますね。


には絶対入ってこられない領域、難関高校への入学を決め、彼女と離れる準備をしながらも、
長い苦悩の果てに彼女に手を出してしまう二律背反の頼。

あと数か月我慢すれば何事もなく兄妹でいられたのに、もはや引き返せない禁忌に足を踏み入れてしまった自分。

このタイムリミットとの戦いは余命いくばくも ない人の葛藤にも読めます(それは別の話か)。

決して自分では幸せに出来ない人との幸せを望んでしまう、
ものすごい悲恋のようですが、
頼の場合はやはり自分勝手さが先行してしまうなぁ。

欲望も嫉妬も、全てを燃料にして頼の暴走列車は道なき道を突き進む…。