八田 鮎子(はった あゆこ)
オオカミ少女と黒王子(おおかみしょうじょとくろおうじ)
第14巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
進路を決める時期が近づく中、エリカは未だ自分の進路を決めていなかった。そんな中、京都で親戚のおばさんがガラスの個展を行うというので、家族総出で観にいくことになった。ガラスの綺麗さに魅了されるエリカ達。エリカはガラス作りも体験し、おばさんにも褒められ徐々にガラスに惹かれていく。しかし、たかが一回の経験で自分の進路を決めていいのか思い悩むエリカ。果たして彼女が選ぶ道とは…? その他にも、佐田くんのサプライズ(?)バースデイを行ったり、エリカと佐田くん達がキャンプに行ったりと賑やかな内容です!
簡潔完結感想文
来(きた)る日のために身辺を整理する 14巻。
『14巻』は『15巻』で遂に起こる あの日のために、エリカを等身大の姿に戻す1冊だと思います。
そのために必要なのは、エリカが「オオカミ少女」となるキッカケとなった、
高校1年生で知り合った手塚(てづか)とマリンへの真実の告白。
本来、一緒のグループにならない雰囲気の彼女たちとエリカが隣の席だからと声を掛け仲良くなり、
手塚たちの恋人話にエリカもエア彼氏を仕立てることで共通の話題を確保した。
小市民であるエリカが嘘に嘘を重ねて「オオカミ少女」になった。
逆に言うと、エリカがオオカミ少女だったのは彼女たちの前だけなのである。
夏休み序盤、マリンと、手塚、その彼氏の村井(むらい)さん、そしてエリカと恭也(きょうや)の5人でキャンプに行く。
その日の夜、テントの中でエリカは意を決して手塚たちに懺悔するのだった…。
ちなみにマリンの彼氏・アツム君は祖父の家に滞在中で不参加。
そして当初は手塚たちとのキャンプを嫌がっていた恭也は、長い付き合いになり恭也の性格を知り尽くしてきた神谷(かみや)の巧みな話術で扇動されて参加することに。
髪型が変わって誰だかわからなくなった当の神谷は当日に高熱を出して、こちらも不参加。
それこそ『1巻』で危惧していたように、手塚たちからハブにされることも覚悟しながら頭を下げたエリカだったが、
彼女たちの反応は予想外のものだった。
「なに その話!!」「超オモシロイじゃん!!」
彼女たちは自分が騙されていたことを意に介さず、エリカの爆弾発言を楽しく受け入れる。
これによってエリカが「オオカミ少女」であった過去は全て洗い流されました。
最後はエリカの身も心も綺麗にしてあげようという作者の計らいですかね。
そして下品な言い方をすると、準備万端、オオカミ少女からも処女からも卒業する訳ですね…。
更にはエリカの行き過ぎた暴露によって、手塚たちにも恭也が 元・黒王子であることが周知の事実になる。
これまで手塚たちを面倒くさいと思っていた恭也。
それは彼女たちには自分を繕わなければならないという気負いがあったからではないか。
それが今回、過去の言動をエリカが暴露したことで、彼女たちの前でも自然体で いられるようになった。
これは恭也側の精神の開放だろう。
オオカミ少女出会った自分も、黒王子であった自分も全てさらけ出したことが、次のステップに繋がる。
学校外では珍しいエリカ・手塚・マリンの女子旅・女子トーク。
そもそもが嘘で塗り固められた友情で、
しかも高2のクラス替え からは友達ポジションを 三田(さんだ・通称さんちゃん)さんに取られているし。
今回の友達3人の絵面は、『君に届け』の親友3人組を想起させますね。
外見以外にも、本来は世界が違う人と仲良くなってることが共通点にある。
黒髪のエリカは爽子(さわこ)、ギャルのマリンは あやね、長身で細目の手塚は千鶴(ちづる)ですね。
もし、ずっと この3人組で友情物語やってたら、先行作品の影が気になってしまったかもしれません。
なのでエリカの親友枠を さんちゃん にしたのは賢明だったかもしれませんね。
そうやって作者的にもエリカ的にも様々な思惑があって距離を置いた手塚とマリン。
なので、これまで冷遇していたにもかかわらず、今更、絆とか言われても正直、何の感慨も覚えませんけどね…。
そんなキャラ設定重視で始まった本書ですが、実は純愛漫画でもありますよね。
エリカと恭也は結婚も視野に入れて長期的な交際を見据え始めている。
その他の登場人物たちは交際する人としない人に二分され、
交際組は、どのカップルも2年以上付き合っていて、誰もが真剣で、浮ついた恋をしていない。
唯一 浮ついているのは『1巻』登場の悪役の木村くん だろうか。
彼だけは物語の裏で恋人が出来たり別れたりを繰り返している。
そんな純愛の中で、手塚と その恋人・村井さんは村井の海外赴任を契機に別れの道を選ぼうとしていた。
村井さんは今回が初登場で、その交際が終わるというのは降って湧いたような話のようであるが、
実は『1巻』から ずっと存在だけは語られてきた人だから、微妙な親近感もあります。
ただ、純愛に見えるけど、エリカたちが高校1年生だった頃から社会人だった村井さん。
もし大卒だとすると最低でも22歳で、その人が15歳の子に手を出したわけで…。
何だか別の意味で怖い人に思えてしまう。
手塚の遠距離恋愛の応援は、その後の展開への伏線でしょうか。
後の展開を知りながら読むと、
現時点のエリカの心境と、それが変化していく様子、乗り越えていく様子が見てとれる、はず。
話が前後しましたが、恭也の誕生日回は、
本編最後の誕生日なので(エリカのは1か月前『13巻』で開催済)、同窓会の様相を呈しています。
思い出巡り、思い出散歩ですね。
忘れられて脇に追いやられた、あのキャラ、このキャラが再集結。
これは決して人付き合いが得意ではない恭也が、この2年強で出会ってきた人たちとの再会。
そして自分が変わっていったという確認の儀式なのだと思う。
エリカへの愛を再確認させてくれた人たち、自分の中に愛があることを知った愛犬・ライム。
そして、こんな自分を囲んで祝ってくれる大切な人たち。
伝え方は不器用だけど、自分が喜んでいると素直に言える人たちがいる。
恭也は また新しく生まれる。
しかし、恭也への誕生日プレゼントが それぞれ高価ですね。
恭也を想い続けるエリカの いとこ・レナはブランド物の財布、神谷なんかスマホ本体くれてるし。
愛が重いよ、みんな…。
最後は いよいよ、ずっと脇に置いておいた進路の話。
実はこれも、エリカが初体験を迎えるにあたっての越えなければならない壁。
オオカミ少女も卒業し、自分の進路も自分で決定し、何一つ思い残すことが無くなれば、
恭也とその日を迎えることが出来るのだろう…。