《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

去る者は追わず。お前が犬なら俺は猿。恋愛の猿真似をしていた俺は作者の猿回しだな。

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八田 鮎子(はった あゆこ)
オオカミ少女と黒王子(おおかみしょうじょとくろおうじ)
第15巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

高校卒業が近づく佐田くんとエリカ。エリカはガラスの勉強をすることに決めます。ところがお母さんから「ガラスの勉強をするなら京都の学校にいくこと」を条件に出されてしまいます。そうなると佐田くんとは遠距離恋愛になってしまいます。悩んだエリカは佐田くんに相談をします。京都に行くか、進路を諦めるか…。佐田くんの答えは「京都に行くなら別れる」というまさかの返事。エリカが選んだ答えとは!? そして佐田くんとの関係はどうなるのか!?

簡潔完結感想文

  • 初めて学びたいことが出来たエリカ。親が探してくれた進学先は京都。夢か? 恋愛か?
  • 京都への進学を恭也に伝えると、終わりだと告げられる。恭也なしの人生は考えられないが…。
  • 受験が終わり、手ごたえもあったエリカは恭也の家で一息つく。いよいよ、お預け解禁です。

い犬に手を かまれ、同級生から平手打ちを受ける 15巻。
いよいよラスト2巻。正真正銘のクライマックスです。


休みにガラス職人である叔母の作品に見惚れ、ガラス工芸の書籍を読み漁るようになったエリカ。
両親に自分の希望を伝えると、当初は母に反対される。
父親の説得もあってか、母の態度が軟化したと思ったら、
進学先は叔母も住む京都にある工芸学校にするよう厳命される…。

まず将来の夢へ向けての第一関門はエリカの両親。
父親が一番言って欲しいことを言ってくれたのは、
『13巻』で酒癖の悪さでエリカに嫌われた汚名を返上するためですかね。

一方、これまでエリカと仲良し姉妹のような外見と関係を築いていた母は一転して厳しい姿勢を見せる。
エリカの成績など見向きもしないような放任主義っぽかったのに、彼女もまたキャラ変している。

この展開はモヤモヤが続く。
将来の夢を ようやく自力で見つけたエリカに、放任の母が進学先に口を出すのが不自然。
それを唯々諾々とエリカが呑むのも違和感を覚える。

ここで京都滞在中にエリカがその学校に強く惹かれたなどの自発的な描写がないから、
遠距離恋愛、別れの危機などを演出するための作為しか感じられない。

これまでエリカは(勉強するよりも)学校案内やオープンキャンパスを参照に数多くの学校を見てきたのに、
結局、よく知らない、親に強制された学校を志望校にしたことも残念だ。


都への進学、それはもちろん遠距離恋愛を意味する。

驚くことに、2人の未来に関わる重要な場面で、恭也のマザコンが炸裂。
※ 恭也マザコン説は私が勝手に強く推している説です。『3巻』の感想参照。
このところ影を潜めていた恭也のマザコン属性が、大いに発揮される驚愕の展開が待ち受けていた…。

私は恭也にとってのエリカは飼い犬、そして母親のような存在であったのではないかと推測しています。
幼い頃、父と別居することを選び、自分と離れて暮らすようになった実の母。

そのことが少なからず影響し、特定の恋人を持ったことが無かった恭也。
(あと恭也の恋愛観は、弟を茶化す姉の影響も大きいと思う。)

それはいつか離れていくのなら最初から興味を持たない方が自分へのダメージが少ないという彼なりの処世術でもある。

だが、唯一エリカだけが、恭也がどんなに冷たく あしらっても恭也の傍を離れることはなかった。

長い時間を共に過ごし、どんな時も恭也から離れないと何度も誓ってくれたエリカ。
そんなエリカの包み込むような優しさ・安心感に恭也の心は穏やかになっていった…。

のだが、そのエリカが自分のもとを離れるというから恭也のトラウマが よみがえってしまう。

ずっと一番近くにいるはずの女性が、自分の意思をもって離れていくこと、
それは無条件で愛を与えてくれるはずの存在だった母が自分と別れたことと重なる。

だから恭也はこれまで本書の中で獲得してきた恭也の新しい人格(他者への寛容や感謝)が瓦解して、
絶望からエリカとの関係に終止符を打つことを宣言してしまう。

離れていくエリカに終わりだと一方的に告げること、それが彼なりのダメージを受けない処世術なのだ。

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エリカは恭也に背中を押してもらいたかった。恭也はエリカに寄り添っていて欲しかった。

怖からエリカの行動を縛るような発言しかできなかった恭也。
そしてまたエリカも恭也と離れるぐらいなら、自分の中に生まれた夢を塗りつぶそうとしていた…。

そんな時に さんちゃん こと三田(さんだ)さん が親友として余計なお節介をしてくれる。
恭也の自宅に単身乗り込み、先に謝罪をしてから、平手打ちを一発お見舞いする。

「なんて情けない男なの あなたは!」

エリカが指摘できない、しない方向から恭也を糾弾する。
いつも冷静で、適切な距離間を保ってきた さんちゃん が
こんな衝動的で暴力をも厭わない行動を取ったこと自体に胸が熱くなります。

そして、さんちゃん の叱り方にも母性が滲んでいる気がします。
遠く離れており恭也の行動を間近に見られず、
直接 声を掛けることのできない母に代行するような さんちゃん の言動。

この行動が契機になってマザコン恭也が さんちゃん に心惹かれてしまったりして…(冗談)。


降って地固まる。
頭の整理が出来ないまま感情的になった恭也は冷静になり、
そして自分が手を離さない限りエリカは自分の傍にいてくれることを確信する。

またまたマザコン説の上に推測しますが、
この一連の出来事によって、
恭也にとってのエリカが、自分を甘やかしてくれる人、いつだって傍にいてくれる人、
という庇護してくれる母親のような存在から、
意思を持った別個の人格、一人の女性として扱うようになったのではないか。

それが恭也の最後の精神的な成長で、2人の仲を進展させる最後の関門を突破したのではないか。

そんな描写は一切ないが、母のようなエリカとの交際中は、
恭也は一種の ”不能” 状態だったのではないか。
だから一泊旅行でも手を出さず、その後いくらでもあったチャンスでも致さなかった。

エリカは飼い犬や母を経て、ようやく真の彼女になったのかもしれない。


残念なのは同じく遠距離恋愛仲間になったクラスメイトの手塚(てづか)との話が無かったこと。

『14巻』で、今回の前振りのような話を創出したばかりなのに、励まし合ったり、相談に乗ったりという描写は無し。
やっぱり彼女たちとの友情は かりそめ だったのか、と構成の甘さを感じる。

2年生進級以降も手塚たちとの友情も継続的に、そして立体的に描ければ、物語に厚みが出た気がします。
短期連載から、増築に増築を重ねた建物なので、その辺の長期的な構想が無いのが残念ですね。
恋愛モノであって、学園モノでは決してなかったので卒業式周辺の お話も いまいち盛り上がりません。


2年余りの交際期間を経て、遂にその日を迎えるエリカと恭也。

エリカの受験が終わった翌日。これは意外なタイミングでしたね。

エリカの受験は一段落したけれど、一番浮ついている時期というか、何者でもない空白の時期なのではないか。
エリカの合格発表の後でも、恭也の受験が終わってからでも良かった気がします。

お預け状態が長かった割には描写は淡白。
そう読み取れるだけで直接的な描写は全くありません。

大事なのは、2人が未熟なままではなく、長期間の交際の中で人として一回り成長できたという順序だろう。
何たって、最初こそ強烈なキャラ漫画だったけど、本書は間違いなく純愛漫画なんだから。

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女性の真剣な告白を真摯に断ることが出来るようになった恭也。こちらこそ今まで ありがとうだよ。

この場面は、今後の恭也にも通じる場面でしょうね。
大学など新しい場所、エリカが隣にいない場所で女性に誘われても、
恭也の心の中にはいつもエリカがいる。
揺るぎない関係を築けたことの証明だと思います。

これまでで一番格好いいよ、恭也。